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異世界に転生したら村八分にされた 作者:狐谷まどか

第10章 冬籠りの辺境生活

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370 デルテ騎士爵の処世術

前回パートはいったん投稿後、後半に加筆修正を加えました。
すでにお読みになっておられる方にはご不便をおかけいたしますorz

 ご褒美は欲しいけれども、見合ったものじゃなければ納得が行かない。

 盟主連合軍に参加した諸侯たちは、名目の上では台頭するブルカ伯の打倒を謳っていても、実際のところ最終的には利益分配を期待して軍事力という投資を行ったというのが現実だ。
 そうなれば、わけのわからない戦災で痩せた土地を与えられるのは誰もが嫌で、少しでも利益になる領地や戦争奴隷を貰い受けたいと考えるのが当然だ。

 有力諸侯ならば、例えばブルカ街道沿いの開けた土地を再開拓するという先行投資もあり得るかも知れない。リンドル川流域と交通の接点さえあれば、さらに有用な土地として別の領主に土地を売る事もあるらしいからね。

 ちなみに俺たちサルワタ貴族の取り分は、ギムルと騎士修道会が地力で切り崩したゴルゴライ街道口からアナホールの村、シャブリン修道院に至るまでの北側という事で落ち着いた。その一部は騎士修道会領という宗教関係者たちの直轄地になるらしい。
 南側は諸侯たちの抽選でそれぞれ分割統治される事になったのだが、ここは軽輩領主のみなさんたちの草刈り場になっていた。

「では続いて、オッペンハーゲン男爵領は戦争奴隷による現金収入で、ベストレ男爵領は南部二村とナワメの森の入会権を得るという事でよろしいですのね? オコネイル卿につきましては、モッコの村を新たに獲得という事で、一同よろしいかしら。意義が無ければこちらも決定という事で覚書に載せますのよ」

 しかし軽輩の貧乏貴族の場合、領地の権利書を誰かに売って新しい占領地に移封となった場合は大変だ。
 戦争被害の少ない土地ならまだいい。
 再開拓が必要な占領地など分配された日には、統治が安定するまでのしばらくの間は税金を減じるのが一般的らしいし、数年に一度は不作で大飢饉になる事もある。
 だからデルテ騎士爵は、ミミソングとかいう聞いた事も無い村を転封先に提案されて激怒した。

「売り払った領地の権利書だけを頼みに、家中の部下たちと無収入でしばらくやりくりするというのは、いくらなんでも我がマタンギ家中には不可能な事である!」

 言語道断とばかり、デルテ騎士爵が会議の席上で声を荒げたのも当然だろう。
 ただでさえ借金を抱えている部下を食わせているし、ミミソングがいったいどこにある村なのか、デルテ騎士爵は他の領主のみなさんとあわてて地図で場所を確認したぐらいだ。

 飛び地の所領は移動だけで時間もコストもかさむし現実的ではない。
 痩せた土地で一から出直しはさらに問題外。
 辺ぴな土地をあてがわれるぐらいなら、いっそ戦争奴隷を分配してもって現金化した方がいくらかましだ。
 会議がはじまる前から想像していた通りの不満が噴出したわけだが、まあそれがたぶん、軽輩領主のみなさんの総意なんだろうね。

「あなた。あまり諸侯のみなさまにご無理を言われては、あなたの立場が悪くなってしまいます」
「何を言うか、親子二代にわたって開拓した村を離れてよその土地に引越しをするなどご先祖さまに申し訳が立たん。お前だって実家を離れて新しい領地に行く事になるのだぞ。それともこの際は俺と離縁するつもりか?!」
「いえ、そんなつもりはありませんが……」
「だったらお前は黙っていろ。女が政治に口出しをするとロクな事にならん。テールオン妃を見ろ!」

 口下手のデルテ卿が男尊女卑丸出しの暴言を吐いたものだから、これには会議に参加していた女貴族のみさなんからひんしゅくを買う。
 戦場で一番槍をデルテ卿と競っていたカラメルネーゼさんなど、蛸足をワキワキさせながら憤っていた。

「それはわたくしに対する当てつけですこと? その様な言葉は許しませんわ!!」
「いやこれは言葉のあやで。決してそう言うわけではないですぞ……」

 こうなってしまえば諸侯会議どころではない。
 あの土地を俺に寄こせ、戦争奴隷の数が足りないと諸侯は好き放題を言いはじめて会議は大紛糾してしまったのである。
 どうすんだよコレという流れになったところで、いったん休憩をしますのと議長役のマリアツンデレジアが宣言した。

「マタンギは場所が悪い。北はアレクサンドロシア卿で南はオコネイル卿の領地だ。どちらも有力貴族に挟まれて、俺の家中は隣接地に領土獲得する事もままならん」

 休憩時間中にデルテ騎士爵がそんな愚痴を持ちこんできたものだから、困ったものだ。
 警備責任者のモエキーおねえさんは、厄介事に巻き込まれると思ったのかいち早く俺の側から脱走している。カラメルネーゼさんは先ほどから不機嫌で、アレクサンドロシアちゃんはそもそも産休を理由に本日は欠席だ。
 頼りになるはずのッヨイさまは、他の領地分割の件でマリアちゃんとミーティング中と見えて、助けを求める事ができない!
 そうなるとサルワタ代表として領主奥さんの代理で出席していた大正義カサンドラが、俺と顔を見合わせて対応する他ない。
 ちなみに俺は連合軍の軍監としてこの場に参加していたので、領土獲得争いの代表権は無かった。

「そのう。デルテさまは、どうしても故郷のマタンギを離れるのがお嫌なのですか?」
「それはもう。妻はマタンギの分限者だからな、出来ればあの土地を離れない方がこの女のためにもなるだろう。それに、」
「それに?」
「ミミソングという村をあわてて地図で調べてみれば、これはリンドル川西地域の山奥ではないか」

 その村はブルカ領と分水嶺を挟んで領境を接する痩せっぽちな田舎の土地だった。
 あるのはナワメの森に面した豊か過ぎる大自然で、大自然故に耕作に適した場所は限られている。
 しかも戦禍にまみれて畑はボロボロ。マタンギよりは土地が勲功に合わせて加増ぶんだけ広いと言っても、領地の権利を売り払って新たに入封するには気が引けるところなのだそうだ。

「俺はあんな寒村を与えられるために、命を賭して一番槍を働いたわけではない! それならば領地獲得は諦めて、戦争奴隷で手を打つ方がよいではないかっ」
「デルテ騎士爵さまは、奥さまのために命懸けで槍働きをされておられたのですね。ご立派です」
「そうなのですか、あなた?」
「ち、違うそうではない。いやそれもある、がそれだけではない!」

 ツンデレなのか気恥ずかしいのか知らないが、大正義カサンドラの言葉にご夫人が反応したものだからデルテ騎士爵は顔を真っ赤にしている。
 ちなみに戦争奴隷は何故か大人気なので、軽輩領主のデルテ卿はなかなかそれを獲得できなかったのもある。

「しかし俺も義のために立ち上がったのであるから、何も損得勘定を丸出しにして閣下を困らせるのは忍びない。いや実に遺憾である。イカンイカンっ」

 だがなるほど……
 チラっチラっと俺を見やるデルテ卿が、何を考えているのかが少し見えてきた。
 不満だ不満だとゴネているのは、どうやらパフォーマンスなのだろう。
 実際の問題、稲妻作戦の終盤では雨散らしの魔法とかいう秋雨の天候を操作していたブルカの大魔法使いを捕まえたり、勲功一番とばかりうちの蛸足奥さんと槍をふるって抜け駆けを競っていたのは事実だ。
 盟主連合軍のみなさんも彼の戦働きはしっかりと眼に焼き付いていたので、ここで多少ゴネておけば少しでも有利な条件を引き出せるのではないかと考えているんじゃないか。

「……この男、案外たぬきだな」
「ど、どうしましたかシューターさん?」
「いやデルテさんも部下の騎士が借金を抱えているから、家計のやりくりも大変なんだよ」

 デルテ騎士爵は実際のところ、奥さんに気を使えるいい人ぶっているだけの可能性はある。
 しかも彼は盟主連合軍の中では事実上、俺の寄騎みたいな立場になっているのは間違いないのだ。
 普段から何かあるとすぐに俺のところに相談を持ち掛けて来るのも間違いないし、ゴルゴライ新市街にある幕舎の並びもサルワタ隊の直ぐ隣に陣取っている。
 今だってこうして休憩時間中は俺のすぐ側に腰を落ち着けて、奥さんまで連れて「大変なんです!」アピールもしっかりやっている。

 俺が誰かに媚びを売るなら領主奥さんだと決めている様に、デルテ卿もたぶん俺に尻尾を振ると決めているのかも知れない。
 もし仮にそれが事実であるとするならば、多少は意を汲んで気を利かせるのもお仕事かもしれない。

「じゃあデルテさん。こういうのはどうですかねえ……」

 ふと見れば、こちらの方に賢くもようじょがモエキーおねえさんを伴ってやって来るのが見える。
 せっかくだからちょっと考え付いたアイデアを、ッヨイさまたちにも聞こえる様にお披露目しようじゃないか。

「何か良案がありますかな?」
「いや現時点では良案かどうかわかりませんが、売りに出されるマタンギ村と、新たな領地ミミソングの村。どちらもうちの奥さんに買い取ってもらえないか相談してみましょうか?」

 俺がそんな提案をしたものだから、デルテ夫妻ばかりかカサンドラまで「え?」という顔をするではないか。別におかしな事を口走ったつもりはないんだけど!
 しかしすぐ側まで近づいて来たところで、ピタリと足を止めたようじょは真剣な顔をしている。その表情を伺う限りは、俺のアイデアは悪くないという感触だ。

「い、今のアレクサンドロシアちゃんなら獲得領地の中から村をひとつ融通するぐらいは可能だと思うから、要は後は相談次第だと思うんですよ。戦場で馬を並べた盟友ともあればね」
「確かにそうではあるが、ミミソングですぞ? 転売するとしてもあんな辺ぴな土地を誰が欲しがるというのだ……」
「ブルカ南部の領境に接しているというから、春を迎えて戦争が本格的に再開したら使い道があるかも知れないし。将来的にはオッペンハーゲン領のドラコフさん辺りに売り飛ばすなんて事もできるかも知れない」
「その時はデルテさまのご事情を、わたしからもアレクサンドロシアさまにご報告しますね」
「おおおっ、カサンドラ卿もお口添えして下さるか。それならばありがたい限りだ。ぜひアレクサンドロシア卿に相談させて欲しいですぞ!」

 適当な事をつらつらと俺は並べているけれど、この際は武功を重ねてきたデルテ騎士爵をアレクサンドロシアちゃんの手駒として上手く取り込む事が本音だ。
 本当にこんな事を勝手に決めて大丈夫なのですか、とカサンドラは恐る恐る俺を見やっていたけれども。
 俺に対して忠実に尻尾を振ってくれるお貴族さまを利用して、ゴルゴライ街道口に当たる領地に張り付けておくのであれば、それは決して悪い事ではないだろう。
 彼なりの処世術と、俺なりの家族を守るための打算だ。
 まあその事は言わないがね……。

「どれぇ」
「ッヨイちゃん?」
「たぶんドロシアねえさまは、どれぇの考えている提案を受け入れると思うのです。デルテおじさんを捨て石にするプランを思いつくなんて、どれぇは賢いのです……」

 諸侯会議が再開する直前。
 声につられてカサンドラが振り返ったところ、俺たちにそんな言葉を小声で投げかけた。
 あまり褒められた手口ではないですがね、彼の部下の奴隷騎士の事もある。取り込んでしまうのなら今がチャンスだと思いますッヨイさま。
 そんな俺の悪い考えを理解しているのだろうか、久しぶりに俺の頭をようじょがよしよししてくれた。

 デルテ騎士爵がたぬきなら、俺もとんだ食わせ物だな。
 たぬきときつねの化かし合いだぜ。
デルテ騎士爵の作者イメージは、戦国武将の中川清秀だったりします。
+注意+
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