挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
異世界に転生したら村八分にされた 作者:狐谷まどか

第10章 冬籠りの辺境生活

492/544

369 勲功褒賞の行方 

いったん投稿投稿後、後半パートの加筆修正をいたしました。
すでにお読みになられた方にはご迷惑をおかけしますorz

 この国にある幾つかの風習のひとつに、新年は家族と共に迎え過ごすというものがある。
 農民たちもこの日ばかりは内職の休みを取って酒や肴でゆったりと日々の疲れを癒すそうだが、それは高貴な身の上のみなさんであっても同じだ。
 それ故に俺のベイビー、カールブリタニアちゃんの洗礼儀式を終えた事で、盟主連合軍のみなさんたちも領地への帰還準備が本格化した。

 今のゴルゴライはにわかに騒がしくなり始めていた。
 軍隊の移動というのは簡単なものではない。
 大人数による集団行動だから、それだけでも事前準備は大切だ。移動に際して宿泊の手配に駆け回る文官たちもいれば、船舶や馬匹の手配をするために御用商人と掛け合う武官たちの姿も見えた。恐らくは何日も前から幕舎を引き払う計画を、領主や騎士のみなさんたちは策定していた事だろう。
 そんな大移動前夜の活気に満ちたゴルゴライにほど近い、リンドル河岸の船着き場の周辺では、帰郷に当たって土産物を求める兵士のみなさんたちでごった返していた。

 中でもご当地名産のはちみつを使った土産物は兵士たちから大人気の様だ。
 レモンのはちみつ漬けにはじまり、はちみつの櫛、はちみつのブラシ、ハニーワックスや熊脂とはちみつを混ぜた手入れ用オイルなどが、船着き場の目抜き通りにある倉庫群の前に競り出した露店で売られていた。
 あまり人気が無さそうなのは、たぶんサルワタから運び込まれた特産品だろうか。
 毛皮の防寒具はこれから迎える厳冬の季節には必需品であるけれど、こんなものは田舎の村ならどこででも手に入るし、何よりゴブリン人形はすでに供給過多だ。
 ゴルゴライ産のはちみつを利用したサルワタマスや川スズキのはちみつ漬けが辛うじて一部の兵士たちに注目されているぐらいだろうかね。

 そんな往来を行き来する兵士のみなさんを、気色ばんだ表情でモエキーおねえさんが観察する。

「ゴルゴライの進駐軍も、一部の守備部隊を残して本領に帰郷する予定ですからね。新年を迎えるにあたって家族にお土産を買い求めているのかもです」

 本日の警備責任者に指名された彼女は、主計官という立場にありながら珍しく腰に剣を吊るして騎士さまの様な格好をしていた。
 ゆったりとした文官然とした衣服に長剣をさしているその姿はどこかチグハグさがある。
 とはいえ、もはやサルワタ貴族の代名詞とも言うべき野牛染めの紅マントを羽織っていれば、遠目に見ても彼女がお偉いさんというのはわかるだろう。

 まあ、隣に俺も紅マントで並び歩いているからな。
 途中でその事に気づいた連合軍の兵士さんたちは、あわてて貴人に対する礼をして見せたり気さくに声をかけてくれたりする。
 そんなみさんとやり取りをしながらも、エキゾチックな顔を少し興奮気味にさせたモエキーおねえさんが、並んだ俺に向き直って言葉を投げかけるのだ。

「本当はここでもっと兵士のみなさんにお金を落としてもらえると、サルワタの収入に繋がるかもなんですけど……」
「残念ながら売られているモノの大半が酷いからな。戦場からパクってきた甲冑とか刀剣なんて誰が買うんだよ」
「え、疫病やモンスターの跋扈を防ぐためにも、死体処理は重要かもです。戦争被害で生活が苦しい難民のひとたちにとっては、唯一の収入源かもです!」
「けどあれ、絶対死体から剥ぎ取ってきたものだよね……?」
「そ、そうかもです」

 益体も無い土産品というのは観光地にはつきものだろう。
 むかし俺もバイト先の工場で慰安旅行に出かけた時は、意味も無く観光地の饅頭や干物に酒を買い込んで、帰りのバスで先輩方と宴会騒ぎをしたことがあるからな。
 きっと帰路の船便や野営地で、買い込んだ酒や肴を口にする予定なんだとわかる。
 しかし特に使い道が無さそうなのが、その辺の河原で拾ってきたと思われる色のついた石ころとか、何に使うのかもわからないゴブリン人形だ。
 あいかわらずゴブリン人形は、露店の定番商品として並んでいるのを見て、俺は辟易とした気分になった。

 そう言えばサルワタへ買い付けに向かった行商人のタマランチンさんは元気にしているかな?

「へいへい、よってらっしゃい見てらっしゃい。戦争で最後に身を預けられるのは武器だ、武器なら何でもござれだよ」

 中でも酷いと思うのが、先ほど絶対に死体から剥ぎ取って来たに違いないと俺とモエキーさんが顔を見合わせていた商品を扱っている露店のおやじである。
 白刃をしっかりと並べているのはいいが、どれも錆び付いた安いナイフや短剣ばかり。長剣は多少マシなものだと思ってみてみれば、肝心な白刃に大きく欠けた部分があるのはいただけない。
 誰からも相手にされてないらしく、俺たちがその場で足を止めると熱心に声をかけてくるではないか。

「ここに並んでいるのは、どれも名誉の損傷で刃こぼれした刀剣ばかりだよ。敵の騎士さまを仕留めた伝家の宝刀とくれば、ご利益もあるってもんだ!」

 詐欺みたいな口上をツラツラと並べるおじさんを見れば、この男は以前俺に旧市街の朝市でゴブリン人形を俺に売りつけようとしていた露天商じゃないか。
 おや兵隊さん、なんて言うもんだから相手も俺の事を覚えていたらしいね。

「兵隊さんもこれから故郷に戻るのかい」
「見ての通りだ。これから引き上げ計画の事で関係者のみなさんとお話に向かうところだよ」
「そいつは大変だ。でも春が来ればまたゴルゴライに戻って来るんだろう?」
「まあそういう事になるかな……」

 できればアレクサンドロシアちゃんが言うところの血の流さない戦争、外交の分野でカタを着けたいものだが、そうなるかどうかはこれからの政治工作次第である。
 今のところは最新の宮廷情報が手に入りにくいというのもあって、まだ先行きは不透明だがね。

「だったら是非とも武器は実用だ。ここに並んでいるのはどれも戦場を生き抜いてきた銘剣だからなあ。きっとご利益あるよ」
「ご利益って、これ絶対鹵獲品かもですよね?」
「かもじゃないんだなあ、鹵獲品そのものなんですよ貴族軍人の令嬢さま」

 露天商のおっさんは、俺たちが話し相手になったのをこれ幸いに鹵獲品だと暴露しやがった。
 やっぱり死体漁りしてきたんじゃないか?!

「とんでもねえ。ちゃんと業者から買い取って来たのは間違いないぜ。ちなみにこの宝剣なんかは鹵獲品じゃなくて出所確かだ。さる家中の騎士さまが、騎士の首を討ち取った時に刃こぼれしたってんで手放したんだ。ちゃんと家紋だって入っているマジモンだろ?」

 言われて顔を見合わせた俺は、ぱっくり切っ先三寸あたりで刃の欠けた長剣を手に取った。
 このファンタジー世界じゃ剣の腹は肉厚で両刃の仕様だから、少々の欠損だと磨いて長持ちさせる様に使っている。
 普通は売り飛ばさずに修繕して使うものだ。

「あのご主人さま、これは本物かもです?」
「これだけじゃわかんねえなあ。刃こぼれは多分、金属甲冑か何かに思い切りぶつけたんだと思う。いい剣は折れず割れずに曲がるというから、たぶん安物の量産型だな」
「けど家中の紋章が入っていると露天商さんは言っていたかもです」
「どれ、確かに紋章があるね。モエキーさんちょうどいいから、その紋章名簿で調べてくれるかな?」
「わかりましたご主人さまっ」

 モエキーおねえさんは近頃主計官というお仕事柄、紋章名簿一覧を持ち歩いている。
 そいつを調べてもらう様にお願いすると、長剣の柄にある紋章がどれに当たるのか手早く確認してくれた。
 こいつが本物のさるご家中が出所なら、ちゃんと紋章名簿一覧の中に記載されている事だろう。

「おやじ、ちなみにこの剣はおいくらで売っているんですかねえ?」
「ざっとミノタウロス硬貨で二五枚というところだ」
「微妙に高いなおい……」
「剣としては片刃が傷んではいるけれど、その反対側は十分に使えるだろう? それにこの剣を持った騎士さまが、命を落とさずに合戦場から帰還したというジンクス付きだから当然だ」

 どうせ兵隊さんが持っているミノタウロス硬貨なんざ、故郷に帰れば両替できねえだろ?
 などと悪い笑顔を浮かべた露天商が言うもんだから俺は眉間に眉を寄せる。
 俺の隣に今立っている、きみが言うところの貴族軍人の令嬢さんというのはね。両替商人の娘さんなんだよ!
 野牛の銅貨どころか新しい貨幣の発布まで企んでいるカレキーおばさんだぞ?!

「ありましたご主人さま。マタンギ領主家の紋章かもです……」
「デルテ卿の持ち物か、安物で決定だな」

 耳打ちしてくれたモエキーおねえさんの言葉で、俺は欠陥長剣を元あった場所に戻した。
 何だ買わないのか兵隊さんと露天商は渋い顔をしたけれど、たぶんこれは家中の騎士の持ち物か何かだろう。本人の伝家の宝剣は先日も腰にぶら下げていたのを見ているから間違いない。

「どうせ売りつけるなら、もう少しもっともらしいエピソードを付けて売った方がいいよ。例えばこの剣はブルカの精兵を十人斬って刃こぼれした、武勲の長剣とかね」
「わ、わかった。次からそういう風に売り込んでみるよ……」

 うなだれた露天商のおっさんを残して、俺たちは人ごみの猥雑に身を任せた。
 こんなところで油を売っている場合ではなく、露天商のおっさんに言ったように領地帰還を控えて俺たちは忙しいのだ。
 盟主連合軍が撤退をはじめる前に、重要な戦争における獲得領土の再配分が決定されるのだ。
 マリアツンデレジアはこれを辺境仕置と呼んでいた。

「ご主人さまの差し出した意見書はすでに御台さまが吟味の上、養女ッヨイさまと有力諸侯のみなさまとの間で協議が進められているかもです」
「それぞれ誰がどの領地を欲しいのか、戦時賠償金はどれだけ欲しいのか、言いたい放題だったからなあ」
「賠償は戦争奴隷の頭数で引き渡しと取引が行われる予定かもです。新しい領土の振り分けは揉めているんですよねえ。飛び地を分割で引き渡されても、なかなか統治権が及ばないので困ると仰るお貴族さまもおられますし……」

 久方ぶりに天候に恵まれた辺境の冬空だけれども……
 これから行われる勲功褒賞を巡る会議の雲行きは果てしなく不透明であった。
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ