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異世界に転生したら村八分にされた 作者:狐谷まどか

第2章 ダンジョン・アンド・スレイブ

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45 フリーター家に帰る 5

「えーっ、どれぇはドロシアねえさまと知り合いだったのですか?!」

 ようじょは自宅で驚いた。
 俺が渡したギムルの紹介状を見て曇りなき眼をくりくりさせている。

「そうなんですよ、俺もびっくりしました。うちの村長さまとはどういったご関係で……」
「ドロシアねえさまは、ッヨイのおばさまなのです。でもおばさまと言ったら怒るので、ねえさまなのです」
「おばさま、なるほど」

 どうやら詳しく聞いてみると、サルワタの森の開拓村の女村長は、もともと隣の村の出身らしい。
 で、女村長の母方が街に住む魔法使いゴブリンのコミュニティー出身だったというのである。
 つまり、ようじょと女村長はおばと姪の関係。ようじょとギムルは従兄妹の関係だというのだ。

「ギムルさんとッヨイさまは従兄妹だったのですか。ぜんぜん似てないからわかりませんでした」
「ばっかお前、村長とギムルは義理の親子だから当然だろう」
「あ、そうでしたね。ギムルさんがゴブリンと共通してるところって筋骨隆々なところだけだったわ」

 俺とニシカさんが馬鹿な話を間に挟んでいると、

「それにしてもドロシアねえさまが辺境の村で村長さんをやっているなんて、知りませんでした」
「ん。おいようじょ、ちょっと待て?」

 確か女村長が俺たちの村に嫁いできたのは一〇年前という事だったはずだ。
 するともしかして、このようじょはロリのふりをしてけっこうお齢を召しておられるのか……?
 俺とニシカさんが顔を見合わせた。

「失礼ですがッヨイさま」
「何ですかどれぇ?」
「ッヨイさまはいまお幾つなのでしょうか」
「ッヨイはいま九さいです!」

 よかった。ようじょはありのままのようじょでした。
 という事はいつようじょはあの女村長と会った事があるんだ。
 そこが疑問だ。


「村長さまとッヨイさまがお会いした事があるのですよね?」
「そうです、五年前ですどれぇ! ドロシアねえさまが、街の偉いひととお話し合いに来た時に、会いました!」
「へえ。その時がはじめて?」
「そうですどれぇ。ドロシアねえさまは大きな子供がいたので、その時におばさまと言っちゃって」

 思い出すのも恐ろしいのか、ようじょがぶるぶる身震いした。
 大きな息子というのはギムルの事だろうし、まああれだけ大きな子供がいればおばさんだわな。
 だが、あの女村長はそんな発言を許さなかったわけだ。
 今から五年前なら二五歳過ぎか、ちょうど微妙なお年頃だからわからんでもない。

「……それで、ドロシアねえさま宛てにお手紙を書けばいいのですか?」
「そうですね。三日後に開拓移民の一部を連れて村に帰る旨をしたためていただけると助かります。それから冒険者は護衛が一時残留、猟師は一名」
「わかりました。三日後に開拓いみんですね、それと護衛の冒険者が残留、猟師はひとり」

 ふんふん頷いたようじょが、屋敷の棚にある壺に差してあったサラの巻き麻紙を取り出して、手文庫と一緒に持ってきた。
 手文庫から羽根ペンとインクを取り出すと、身を縮めて手紙をしたためていく。

「三日後に開拓いみん出発、護衛の冒険者が残留、猟師はひとり。どれぇとおっぱいは元気……」
「おいようじょ、お前今オレ様の事をおっぱいって言ったな?」
「気のせいですニシカさん!」

 麻紙をたたんで俺にようじょが差し出してくれる。
 つとめて俺に明るく振る舞ってくれているのはわかっていた。

「マリはどうしたんですか?」
「今日は聖堂のお仕事で礼拝所をまわっています。ッヨイだけお家でお留守番だよ」
「ッヨイさまは偉いですね」
「えへへ」

 ようじょの頭を撫でてやると、元ご主人さまは嬉しそうな顔をしたけれど、一瞬だけ寂しそうな顔を見せた。

「どれぇは、ッヨイの事をわすちゃいませんか?」
「忘れるなんてあるわけないじゃないですか。ご主人さまはかわっても、心の中ではッヨイさまがずっとご主人さまですよ」

 俺はいったい何を言っているんだろう。
 隣のニシカさんも呆れた顔をしていたが、それでも何も言わなかった。

「ッヨイはお仕事があるので、どれぇと一緒にサルワタの森の開拓村に行くことが出来ません。でも、ちゃんと予約のクエストが終わって時期が来たら、向かうのです」
「ありがとうございます。マリにはくれぐれも、前向きに村の常駐冒険者になってくれる様に、言っておいてください」
「わかりましたなのです」

 そうやって俺たちは手を取り合った後に、ようじょの邸宅を後にした。

「あれでよかったのか。案外あっさり出て来たけどよ」
「まあ、あまり引っ張ってもこう悲しい気持ちが一杯になるでしょう。それに今生の別れというわけでもないですしね」
「そうかい。だがオレは心配だったぜ」
「いったい何をですか」

 繁華街に繰り出す途上、ニシカさんが珍しく真面目な顔をしていた。
 俺たちは帰郷を前にいろいろと買い物をしていくつもりだった。

「いや、ようじょがよう。ッヨイが大人になったらどれぇのお嫁さんにしてください! とか言い出すんじゃねえかと」
「それはないでしょ。ッヨイさま九歳だし、大人になるまで待ってたら俺だいぶおっさんですよ」
「お前はだいぶ若作りだから、見た目はその頃にゃちょうどいいぐらいになってるんじゃねえか。あっはっは」
「悪い冗談です。俺は村に新妻を残しているんですよ」
「ま、新婚のうちから新しい嫁なんて話をしたら、カサンドラに怒られるよな」
「当然です!」

 そんな事にはならなくてよかったね。
 いやまて新しい嫁。もしかして重婚出来ちゃう世の中なのだろうかこの世界は。

「質問です。重婚はアリなんですね?」
「そのぶん税が厳しいだけだが、アリなんじゃねえか? おう、村長と結婚しろよお前。そしたら税金がタダになるぜ!」

 税金が厳しくなるのなら、普通はやらないんだろうね。
 俺もやらない。大人しく新婚生活をしよう。

     ◆

 街で過ごす残りわずかの時間で、俺とニシカさんは色々な買い物をした。
 とりあえず村に戻って着るものが無い生活を続けるのはまずい。
 何せ、一張羅では破けてしまうと以後全裸になってしまうからな。
 かつての腰巻きと同じ失敗は繰り返さない様に、古着屋をまわって適当に服を買いあさった。
 ニシカさんも例によってブラウスを買い集めていたが、こちらは新品のもを購入したらしいので黄ばんでいない。
 それからカサンドラのために布を購入した。ついでに料理に使うりんご酢やはちみつも購入してみた。
 果たして新妻は喜んでくれるだろうかね。

 そしていよいよ三日目の朝、俺たちは冒険者ギルドの宿場町前にある出張所に集まった。
 開拓移民のみなさんのところへ行く前に、先日お話をした受付嬢さんと顔を合わせる。

「こちらがサルワタの森の開拓村にギルドから派遣されるカムラさんです」
「カムラだ。よろしく」
「シューターです。道中、それから村でもお世話になります」
「鱗裂きのニシカだ。よろしく頼むぜ」

 そうそう、ちゃんとバジルの事も紹介しておかないとな。
 足元をちょろちょろ走り回っていたバジルをニシカさんが抱き上げてくれた、ふたりに向き直った。

「キュイ!」
「ああこの子は、バジリスクのあかちゃん、バジルです。大人しい子なので安心してください」
「ば、バジリスクのか?」
「そうです。あの、バジリスクです」
「ギイイイ!」
「よ、よろしくバジルくん」

 彫りの深い顔に紺碧の瞳、茶色い髪。
 定番の鎖帷子を着こなしたその男カムラはイケメンの中年男性だった。
 ちょっとハリウッド俳優をやってそうな貫禄もある。
 握手をした瞬間に、俺はこいつがかなりデキる男であるのは薄々理解出来た。
 挨拶をする時も常にわずかに体を開いて半身を心がけているのは、いついかなる時も事態に対処できる様に準備しているのだ。

 むかし俺はお笑い劇場の大道具のバイトをしていた事がある。
 雇われた人間の大半は俺みたいなフリーターか、何かの夢を目指して頑張っている若者たちだった。
 その中にボクシング選手をやっている青年がいた。彼はバイトをしながらジムに通い、日々精進して東洋チャンピオンか何かのタイトルを狙っていたのをよく覚えている。
 その青年、横断歩道前で信号待ちをしている時も、自然と足を軽く広げて半身になっていた。
 何でも以前、交通事故に巻き込まれそうになった事があったらしく、いつでも対処出来る様に心がけていたのだとか。
 ちなみに彼は後日、平台という舞台の下に引く木製の台を脚に落としてしまい、あわや骨折するという瞬間もいつも心がけていた注意力のたまものか、無傷だった。
 けどまあ、彼は出来ちゃった婚をして、東洋チャンプにはなれなかったんだけどな。

 このカムラという美中年、腕のたつ冒険者だ。
 いい男が村に来てくれるものだと俺は素直に喜んだわけである。

「では開拓移民のみなさまを紹介しますよ。冒険者ギルドの方で、ギムルさんから依頼されていた移動中の食糧その他も用意出来ています」

 受付嬢を先頭に美中年、ニシカさん、俺の順番で続いた。
 移動の際に俺がニシカさんに小さく声をかけると、ニシカさんは意外な反応をする。

「彼、どう思いますかね」
「お前とどっちが腕が立つ。ん?」
「そうきましたか。たぶん相当腕がたつでしょうね、実戦経験の差でカムラさんの勝ちだろうなぁ」
「うーん、なるほどな……」

 俺の質問には答えず、ニシカさんは巨乳を抱き寄せる様に腕を組んで考え込んでいた。

     ◆

 護衛の冒険者四人とともに、俺たちはブルカの街を出発する。
 最初の開拓移民に参加したのは、反応のあった一〇〇人あまりのうち八家族三〇人程度と、若い男たち数名、それから犯罪奴隷である。
 かつてきた道を村に引き返しながら、俺たちはゆっくりとした足取りで移動した。
 都合五日の行程となるが、来た時より時間をかけるのは荷車に馬を使わないからだ。

 五〇人あまりの旅人集団はその五日間、つつがなく行程を消化した。
 そして予定より遅れた六日目の朝、

「おい遠くを見ろよ、あそこにワイバーンの営巣地がある山々が見えるぜ」

 誰よりも早く故郷が近づいた事に気が付いたニシカさんが、遠くを差してそう言った。
 確かに、見覚えのある山々が向こうに見えた。
 その山から徐々に空のずっと天井を見上げると、黒い胡麻がゆっくりと動いている姿が見えた。
 雲と雲の間を抜ける様に飛んでいる事から、あれは鳥なんかじゃない。

「……ニシカさん、空に」
「ドラゴンだな、ドラゴン。ああ、故郷に帰って来たんだって実感するなおい」
「え、ドラゴンってどういう事ですか?」
「ドラゴンつったらドラゴンだろうぜ、ワイバーンの親戚だ。あいつらはああしてこの時期になると山の向こうから渡りをしてくるんだ」
「キュウ!」

 あいつら。という言葉に驚いてふたたび空を見上げると、黒い胡麻粒は無数に雲の狭間から見え隠れするのだった。
 マジかよワイバーン一頭で村は大騒ぎしたというのに、あんな数どうするんだ。

「ばっか安心しろ」
「ドラゴンに安心なんて出来るんですかね」
「あいつらはあまり人里には降りてこないし、どちらかというと草食性の強い雑食だ。さ、そんな事よりも村の物見の塔が見えて来たぜ!」
「本当だ。カムラさん、もうすぐ村に到着です!」

 石塔の先端が林の上に飛びだしているのを認めて、俺は集団を束ねているカムラさんに声をかけた。
 俺たちはやっとサルワタの森の開拓村へと到着したのである。

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