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異世界に転生したら村八分にされた 作者:狐谷まどか

第10章 冬籠りの辺境生活

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366 パパの言う事を聞いてください(懇願) 後

いったん投降後、後半パートに加筆を加えました。

 ただの伯爵には興味ありません。この中に城伯、宮廷伯、辺境伯がいたら俺のところに来なさい。以上!

 出てきました宮廷伯さま!!
 ただ単純に高貴な身の上の爵位と言っても、この国には王族やそれと同格の地位を与えられている公爵から俺の様な王都中央の政治に何ら関係を持たない田舎貴族の騎士爵まで階級と序列は様々だ。
 そのうち伯爵ともなれば、このオルヴィアンヌ王国の政権における重要な役割を担う有力諸侯の代表格だ。
 侯爵以上が建国以前から存在し、その歴史の中で臣従を余儀なくされた大身の外様貴族が名を連ねているのに対して、伯爵以下は王国譜代のお貴族さま方が大半を占めているという。
 中でも城伯、宮廷伯、辺境伯の称号を持つ伯爵家は特別で、王国の重要なポストを預かっているのだと領主奥さんや王国の歴史を勉強していたタンヌダルクちゃんから聞かされていた。

 そしてアウグスブルゴ宮廷伯家というのは、マリアツンデレジアのご実家である。
 宮廷伯はオルヴィアンヌ王国の主権者たる国王の代理人として、宮廷政権を運営する宰相さまを輩出するお家柄なのである。
 日本政府で言えば総理大臣、江戸時代であれば老中を輩出する名門中の名門のお家柄と言ったところだろうか……

「父は、父はシューターさまに何と言ってきたんですの?」
「ちょ、ちょっと待ってくれ。まだ動揺していて中身が読めていない」

 不安の表情をその顔に濃厚に浮かべたツンデレのマリアちゃんが、対面のソファから身を乗り出す様に急かしてきた。
 不思議そうにして酒をチビチビやっているニシカさんはともかく、同様に雁木マリも緊張の様子でこちらに視線を向けて来る。
 それも当然だ。
 一国の首相から手紙が届きましたと言えば誰だって驚くのが普通の反応だし、それが義理のお父さんともなれば腰を抜かす。

「とっとにかく俺だとお手紙の内容に齟齬があるとまずいから、みなさんに読み上げて頂ければですね」
「そ、そうね。文言の解釈違いで共通認識にズレがあったら不味いわね。この国の言葉は難しいところがあるから」
「父がシューターさまに書いた文をお読みになってもよろしいんですの?」
「そんな事を言っている場合じゃないからな……」

 俺は急いでテーブルの食器を片側に寄せて、みんなに見える様に羊皮紙の巻物を広げた。
 文盲の俺やニシカさんは片言程度にしか難しい政治用語は理解できないが、マリは勉強熱心で問題なくこの土地の文章を読み書きできるし、ツンデレのマリアちゃんはネイティブだ。
 政治に関わる言い回しは特に独特なのでふたりに協力を仰いだ。


 オルヴィアンヌ宮廷伯より、サルワタ貴族たるシューター卿に告ぐ。

 貴公の活躍はわが娘マリアツンデレジア並びに辺境諸侯らの信書によって聞き及んでいるところである。
 近頃、目に余る振舞いのあったブルカ辺境伯どのの専横を挫き兵を起こしたという事実を聞き及び、辺境伯どのの動きを憂いていた陛下も内心で溜飲が下がる思いであった事は間違いない。
 だが現状の宮廷では権力闘争がはじまっている。
 正妃さまを慕う者と、ご懐妊を成したテールオン妃さまを担ぐ二派にわかれて激しく主導権争いをしているのが悲しい事実であるのだ。

 誠に遺憾ながら、現在の宮廷ではテールオン妃さまの派閥が優勢な状態にあり、このまま行けば時期こそ未定であるが、宮廷諸侯らによる貴公の細君たる獅子姫アレクサンドロシア=ジュメェ卿どのの召喚命令が出される事は間違いない。
 また、それが出された時は宮中において国王陛下への大逆罪に問責されるものと覚悟されたい。
 大逆の罪に問われた時点で獅子姫どのの領地返還命令は間違いなく行われ、当然殿上された際にお命も危ぶまれるだろう。
 最大限これを回避すべく宮廷工作をやってはいるものの、先行きは不透明だ。
 正妃さまそのものが後宮をご退席された今、陛下の御子をご懐妊したテールオン妃さまは、日を追うごとに宮廷に重きをなしつつあると言える。

 政争のありさまがこの様な次第であるから、陛下の臣たる諸侯の対応は今後ますます流動的になるものと考えられる。
 これらにより当家もまた立場表明に非常に苦しい選択を迫られているため、顔も知らぬ貴公に大変失礼ながら、わが娘マリアツンデレジアとの結婚を父親として認めるわけにはいかない。
 ただちに娘を王都へと送り返す事を約束して下されば、以後宮廷における工作に尽力するものである。

 国王陛下の忠臣たるアウグスブルゴ宮廷伯領ピモシー。


「じょ、冗談ではありませんのよ?! これではまるで、王都の政争を見て日和見を決め込んだ父の醜態を晒しているだけではありませんの。ジョーンさまがお亡くなりになった時は何ひとつしてくださらなかった癖に、今となってこの様なものを送り付けるなんて!」

 手紙を読み終わったツンデレのマリアちゃんは、顔を真っ赤にしてその場で荒々しく立ち上がった。
 宮廷貴族の箱入り娘とはとても思えない様な振る舞いをしたのにはわけがある。そりゃもう手紙の文末に火に油を注ぐ様な一言が添えられていたのだから。

 追伸、わが娘マリアツンデレジアに伝えてくれないだろうか。
 いい加減、パパの言う事を聞いてくださいと……

「厄介な事になったわね、シューター」
「……王国本土のお貴族さまたちはどのてい俺たちの戦争の状態を把握しているんだ。ブルカ同盟軍と戦争は拮抗状態で、少なくとも俺たちの側にオレンジハゲの身柄が人質として拘束されている事実を知っているのか?」
「知っていて、だからこそこの様な態度に出たという事だったら、ブルカ伯の娘であるテールオン妃がその様に求めて動こうとしているのかも知れないわね……」

 ひとまず激高して鬼の形相をしているマリアちゃんの事はそっとしておく事にして、俺と雁木マリは目配せをしながら深くため息をついた。

「獅子姫ってアレクサンドロシアちゃんの事だよな。宮廷のお貴族さまとは余り交流が無かったと言ってたけど、ちゃんと二つ名まで持ってるじゃないか」
「きっと貴族軍人だった時代にご活躍なされて、そういう呼称が付いたのかも知れないわね」

 だとすれば、その過去に戦場でご活躍したひとが反ブルカで挙兵したと知って、中央のお貴族連中は戦々恐々としているのかも知れない。
 領主奥さん自身はその二つ名を知っているのかね……

「領主さまの召喚命令とやらが出されたとしてだぜ、これそのままノコノコと顔を出せば、王様の手下が領主さまを首チョンパするって事だよな相棒?」
「何かの理由にかこつけて、そういう事をしようと動くことはあり得るよな。王様に対する反逆罪だか大逆罪だかに問われえたら、問答無用で領地没収で一族郎党皆殺しだぜ」
「どうすんだよシューター?!」

 それをどうすればいいのか考えるために、俺たちは呆然としているんだよ!
 突然この手紙が知らせる内容に理解が及んだらしいニシカさんが、空になった酒杯を放り出して俺の胸倉を掴んでくるではないか。

「く、苦しいやめて下さいニシカさん……」
「おっ落ち着きなさいよ。少なくともまだそうだと決まったわけではないし、むしろ王国に対する独立を画策しているのはミゲルシャールの方だったのよ」
「つまりどういう事なんだよ?!
「アレクサンドロシア卿が大逆罪に問われるという流れになる時は、あたしたち盟主連合軍の諸卿が連名で血判した書状の吟味を無視された時に起きる事だわ」

 荒れるニシカさんを宥める様に雁木マリが相手をしていたけれども、この様な手紙がマリアちゃんの父親から送られてきたという事は、せっかくの連判状があまり有効に活躍できていなかったという事だろう。
 テールオン妃が国王陛下のあかちゃんを懐妊したというのが、もともと俺たちの想定外の出来事だったのもある。

「ま、マリアちゃんはどうするんだ……」
「どうする、ですって? あなた、それは父がわたしが実家に帰ってこいと手紙に書いていた事をおっしゃっておりますの? そんなものはパパの身勝手ですのよ。無視しておけばよろしいんですの!!」

 ケイシータチバック、ケイシータチバックはおりませんの?!
 ドンと酒杯をテーブルに叩きつけたマリアツンデレジアは、そのまま怒りの収まらない姿で俺の執務室を飛び出していくと、リンドル宮殿の料理人の名前を叫びながら姿を消してしまった。

「わたしの手文庫をお持ちなさいな。これよりパパへ信書をしたためますのよ!」
「御台さまこちらに」
「すでに他家の人間になったわたしが誰と結婚しようと、パパには関係ない事ですの。肝心な時には何も助けて下さらなかった癖に、今更わたしとシューターさまを馬鹿にする様な態度はゆるせませんのっ」
「イエス・マイ・ロード」

 食堂辺りから激しく唾を飛ばしているらしいマリアちゃんと、ケイシーさんの言葉が聞こえてくる。
 マリアちゃん、実家では父親の宮廷伯をパパと呼んでいたのか。まあいいところのお嬢さんだしな……
 残された俺と奥さんたちは顔を見合わせながらそんな会話に耳を傾けていた。

「……シューター、まさかマリアツンデレジアさんを実家に送り返すつもりじゃないでしょうね?」
「そんなまさか、奥さんひとりも守れないで何が亭主かという話もありますからねえ。俺がここで同意したらマリアちゃんに恨み殺される様な」
「確かにそうね。あたしもあなたが家族を裏切る様な行為をしないと知って安心だわ。けど、いい対策が思いつかないわね……」

 あの手紙の内容やツンデレのマリアちゃんの態度を見ている限り、リンドルへ嫁いで来てからも頻繁に実家とは信書のやり取りをしていたのは間違いない。
 問題は政治によって結婚させられた彼女は、前の旦那さんが無くなった時に実家が何もしてくれなかった事を根に持っている様な節がある。
 親子の関係なので余り深入りは出来ないが、高貴な身の上のご家族は闇が深いぜ。

「しかし相棒、それより領主さまがこの手紙の内容を知ったら、こんなどころじゃ済まないんじゃねえのか」

 ニシカさんの言葉通り、内容が内容だけにこの問題は後回しにしておくというわけにもいかない。
 誰がこの事を領主奥さんに報告に行くのかという事になるわけだが、眼帯奥さんと聖女奥さんは当然俺でしょ、という無慈悲な顔をしてこちらを向いた。

「とにかく根回しと段取りは必要だ。ッヨイさまの他に、主だった諸侯のみなさんにはこの事を伝えておいた方がいいでしょうね。マリはすぐに、カサンドラとタンヌダルクちゃんたちにもこの事を耳打ちしておいてくれないか」
「わ、わかったわ。任せてちょうだい」
「おう。じゃあオレたちで呑み友達の諸侯連中のおっさんどもをかき集めておくから、お前ぇは家族に知らせてくれや」

 何と言って説明すればいいんだ?! 
 アレクサンドロシアちゃんにこの内容を告げるのは、ッヨイさまの知恵を借りてからの方がいいだろうか。
 政治向きの話に限れば、家族の中で面と向かって領主奥さんに意見が言えるのは、マリアツンデレジアかカラメルネーゼさんか。御台さまのマリアちゃんは今あの状態だし、カラメルネーゼさんはお商売で不在だし……
 となれば、今は俺ぐらいしかいないだろう。
 だからと言って癇癪どろこで済まないのは間違ので、今から戦々恐々とした気分になっていた。

「しまったマリがいるじゃないか。雁木マリさん、代わってくれませんかね?」
「い、嫌よ。自分の奥さんの説得でしょ?! わたしは仮にも義妹だから、お兄ちゃんのお前がするべきだわっ」
「普段から普通に政治向きの話をしているじゃないか?!」

 こんな時に限って聖女さまは謎の兄妹理論を持ち出して逃げにかかる。

 アレクサンドロシアちゃんもベイビーが産まれててママになった事だし、少しは耳を貸してお兄ちゃんパパの言う事を聞いてくれるかな……
 懇願でも平伏でもして、短慮な行動だけは慎んでもらわなくてはいけない。
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