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異世界に転生したら村八分にされた 作者:狐谷まどか

第10章 冬籠りの辺境生活

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353 シャグニコルチン最後の抵抗 中

更新再開、長らくお待たせいたしました。


「予定通り砦の門を破壊する、場所はどこだ?!」
「シューターさん、あっちだよっ」
「よし、マドゥーシャ出番だぞ。思いっきりおちんぎんビームをぶっ放してやれ!」


 防御施設の扉というものは、基本的に外部からの攻撃にいかに耐えうるかという設計構造を持っている。
 住居の洋式ドアが外向きに開く設計の元いた日本での生活をしていれば気付かない事だが、異世界の扉は基本的に内側に門が開く様になっているのだ。
 その日本でも古めかしい城門や寺門といったものは閂を締めるために内向きに扉は開閉するし、ホテルなどの部屋の場合もこれと同様の設計だ。

「て、鉄扉か。これは破壊するのも骨が折れそうだな」
「鉄と木の素材を組み合わせたものですよ閣下。扉の表面は魔法対策もしてあるんでしょうけど、内側はそういう事は想定されていませんよね。それにあの(かんぬき)を見てくださいっ」
「かんぬき……」
「あれさえ破壊してしまえば、どれだけ扉が丈夫でも外から突破できるでしょうっ」

 してみるとイジリー砦の城門もまた、扉が内側に向かって開く設計で巨大な閂によって閉ざされていたのである。
 扉は外部面に金属プレートが多重に配されて、その表面もセメントか何かを塗りたくった魔法対策の様なものが施されていたのを俺も目撃していた。
 容易には破壊する事ができず、魔法を使える修道騎士らや女魔法使いたちの見立てでは、少なくとも女魔法使いクラスの人間を複数人集めて集中攻撃をしない限り、この門の破壊は不可能だろうという結論に至っていたのだが。

「なるほど、裏側からなら破壊可能だと判断したんだな?」

 マシェットを片手に中庭で警戒するニシカさんは、足場が悪い事を逆手にとって接近する敵兵にウィンドカッターとも言うべき魔法でできた風の刃で対抗する。
 攻撃を受ければ間違いなく被害が及ぶし、回避してもその場で足を滑らせるという作戦だ。
 けもみみの方はそういうわけにもいかないのか、短剣を両手に握って確実に腹部を狙う一撃で的確に仕留める作戦で俺や女魔法使いに敵を近づけさせない様に配慮している。

「閣下、背中をお願いします! 衝撃で吹き飛ばされない様に押さえてもらえますでしょうか?!」

 表面上は雪が積もっているのだが、溶けては凍り溶けては凍りを繰り返した地面はツルリとした感触があり、激しい活動には不向きだ。
 そこで女魔法使いは盛大な魔法攻撃をするために自分を支えてくれと言いだしたのである。

「護符を三枚重ねで一撃見舞ってやります! これ以上はわたしの魔力消費が大きいのと、コントロールが不可能になるので限界ですっ」
「よしきた。とびっきりのおちんぎんビームを頼んだぜ」
「ひゃん?! ち、ちょっとどこ触ってるんですか、その先はらめぇひゃん、マジでやめてください!!!」

 意図したわけではないのだが、背後から女魔法使いを抱きかかえる様にガッシリと固定する際に、防寒具の上からどこかをまさぐってしまった様だ。
 もちろん不幸な出来事だったのだが、女魔法使いはてきめんに黄色い声で驚きを表現しながらおちんぎんビームを発射したのである。

「フィフィジカル・マジカル・エクストリームはああン!!」

 特大の紅蓮の塊はおかしな呪文の詠唱とともに堅固な砦門の内側にぶち当たる。
 大の大人が数人がかりでやっと動かせられる様な閂も、この一撃で一本がバキリと破壊されてしまった。
 さすがイグニッション状態の俺は強烈な衝撃で打ち出されるおちんぎんビームであろうとも、女魔法使いをしっかり押さえつけておく事ができた。

「今の衝撃は外のベローチュたちにも聞こえていたはずだ、次の一本も破壊しろ!」
「わっかりました。でも変なところを触らないでくださいよ?! そういうの、おちんぎん払ってからにンはぁ。やめてください閣下!」

 もう一度足をしっかりと開きながら魔法攻撃の構えを取った女魔法使いである。
 するとその背後からすさまじい怒声が聞こえてきて、いったん再度の攻撃を俺たちは見合わせた。

「敵の工作員をこれ以上好きにさせるな! あの一本が破壊されれば敵が雪崩れ込んでくるぞ?!」

 見れば黄色マントの甲冑男が、数名の黄色マントを率いながら倉庫のある付近から飛び出してくるではないか。
 仮面だ。鳥の嘴を模倣した装飾の仮面をつけた騎士と思われる男だ。
 かつて触滅隊を率いた指揮官クラスの人間が身に着けていたものと同じで、違うところはブルカ辺境伯軍の正規の軍隊と同じ甲冑を身にまとっているところだろうか。
 堂々と黄色のマントをなびかせながら、後退するニシカさんとけもみみに向けて兵士を散開させているではないか。

「まずいぞ」
「何がですか閣下?!」
「あれは手練れの騎士で間違いない」

 今まで相手にしてきた連中と違って腰の落とし方がデキる男のそれだ!
 その事に気が付いた俺は女魔法使いを伴いながら、逆手にマシェットを構えてみせたニシカさんの方向へ走り出した。
 ニシカさんはニヤリと口元をさせながら余裕の笑みを浮かべているけれども、それは明らかに彼女の下した致命的なミスだった。
 先ほどと同じ様に、風の刃を紡ぎ出すウィンドカッターの魔法を打ち出そうとニシカさんが手をかざしたところ、それよりも早くに予備動作無しからのウォーターボールが仮面の黄色マントよりぶっ放されたのだ。

「うおっ! あっぶねえええ!」
「ニシカさん下がれ、俺が相手する。マドゥーシャ手伝え!」
「ほいきましたッ」

 余裕の笑みだったニシカさんは、その突然の水弾を回避するために大きく体をのけぞらせた。
 そのままでいれば、仮面の黄色マントがニシカさんを斬り伏せようと接近して来た事だろうね。
 俺はそれを素早く感じ取ったために、即座にニシカさんの前に飛び出して黄色マントの攻撃を受け流そうと試みた。

「おのれ頭のおかしい全裸め! ここで死に晒せッ」

 こんな氷点下の戦場で水弾の魔法をまともに喰らえばどうなるか、想像するだけで恐ろしい。
 にもかかわらずモーション無しから容赦なく仮面の黄色マントは魔法攻撃を二連射してみせると、そのまま刃広の長剣を大振りに回しながら接近してきたのである。
 二発の水弾のうち、はじめの一撃を女魔法使いに狙い定めていた事が功を奏した。
 これは抜群の身体能力を持った彼女が、ヒラリとかわしながらおちんぎんビームで応射したおかげで二発目の水弾を着弾予測する事ができた。
 追撃の撃剣はイグニッション魔法の効果中だった事もあり、短剣でも問題なく押し返してやれる。
 しかし力で叶わないと見れば柳の様に虚脱して離脱してみせる相手は、相当に厄介だ。

「ちいい、面倒な敵ですね閣下ッ」
「ぐおっ! 魔法使いめ」

 そこを俺が仮面の一撃を短剣で受け流しつつすれ違う。
 けもみみはニシカさんを助け起こしながら他の黄色マントたちを相手にし、俺と女魔法使いで仮面野郎を受け持つ格好となったのだ。

「全裸、貴様が噂の辺境腐敗か。女神様の使徒を名乗るという、辺境の女神信徒を腐敗させた男だな。聖少女ガンギマリーを垂らし込み、数々の女貴族に股を開かせた」
「辺境を腐敗させる男とはよく言ったもんだぜ。だがそいつはみんなが勝手に言っている事だ!」
「安心しろ、死ねばそんな事はどうでもよくなるだろう!!」

 ガキンと俺の斬りつけた一撃を仮面騎士は受け太刀する。
 強引に力で圧し斬ろうとしたもののパアンと背後に下がって回避しやがる。
 まるで雪の中で戦う事に慣れている様に、難なく着地してくるりと剣を引き上げてみせるではないか!

「貴様、雪の中で戦うのがはじめての様だが、無様に全裸でへっぴり腰だな!」
「うるさいよっ。全裸は余計だ!!」

 だが、その間にも女魔法使いが両手に火炎を現出させて、近接戦闘を挑んで来ようとするではないか。
 俺も飛び退り、その隙間に女魔法使いがファーストおちんぎんビームを射出しながら懐に飛び込む。

「おのれ猪口才なッ」
「まだまだア!」

 すると今度は仮面騎士が水魔法で一撃を放ちながら距離を取ろうと動いた。
 そこに女魔法使いがセカンドおちんぎんビームをぶっ放し、あべこべに仮面騎士が追い打ちの斬撃を覆い被せて来る。
 どちらの攻撃もギリギリのところで回避されてしまい、女魔法使いはゴロンと雪上を転がりながら回避してみせ、ふたたび両の腕におちんぎん炎を出現させていた。

「マドゥーシャ危ない!」
「え、ちょ閣下こそ危ないですひゃあ?!」

 そこに居館の出窓から痛烈な弓の一撃が撃ち込まれるではないか。
 身体能力が飛躍的に上昇しているおかげで、すぐさま動き出した俺は女魔法使いを引き倒して狙撃を回避したのだが。

「全裸最強と言う割にはふたりがかりなどと笑わせる!」
「そういうお前も、セコく高いところから援護射撃をさせているじゃねえか。ん?」

 居館の出窓から身を乗り出していた敵の狙撃兵は、すぐさま女魔法使いが地上から制圧攻撃のために火の玉を打ち込んでくれた。
 遠慮なく護符を使った一撃で、たぶんもろとも火炎で爆散した事に違いない。

 足場が非常に悪いので、互いに援護を期待しながら戦う形となっている。
 しかもある意味で有利な事に、普段は一般的な刃広の長剣が、動きが大降りになる事から滑りやすくなるらしいね。
 俺はというと短剣を手にしているので、その点相手の懐内に飛び込みやすくモーションも最小限に済ませる事ができる。

「くそっったれ、ちょこまかと!」
「そんな動きじゃ応用が利かないんだよッ」
「黙れ辺境腐敗。偽りの守護聖人を誅殺してくれるわ」
「やれよ、やってみせろよ!!」

 大きく股を開きながら相手を待ちかまえ、重心の移動で攻撃を回避したり前後に体を差し替えながら撃剣を互いに繰り出し合っていた。
 しかし多少の運の差か実力の差か、不用意に振り回しすぎた剣の隙を付いて俺が飛び込み様の突きを顔面に見舞った。
 みなぎる力で放たれた一撃により、パカァんと鳥の嘴を模した仮面が破壊されてその中身が露呈したのである。

「くそったれ、くそったれめ!」

 出てきた顔は傷だらけの男だった。
 大きく額から鼻筋を通って頬に抜ける傷は、歴戦の戦士を思わせる。
 こりゃ俺なんかよりも遥かにたくさんの戦場を渡り歩いてきた事は間違いなしで、道理で俺たちが束になっても苦戦するわけである。
 一対一の試合形式で戦うのならばまだ別の結果があったのかもしれないが、雪の降りしきる極限環境下で全裸と長剣では、明らかに分が悪いのは間違いなかった。

「死ねええええッ」

 吠えた黄色マントの騎士は、怒りに任せて大きく横一閃に剣を薙いだ。
 もはやその一撃を俺が回避するには時間が無かったので、出来るだけ飛び込んで体を入れ替える方法でしか避け様が無い。
 全裸である事が恨めしい気持ちになりながら相手に密着すると、脇腹に熱い接触を感じるのだった。

「ぐおおおッ」
「か、閣下大丈夫ですか?!」
「何ともないぜ!」

 何ともなくは無い!
 恐らくは脇腹に白刃の根本がぶち当たった事は間違いなく、イグニッション魔法が解けた暁には死ぬほど痛いか、本当に死んでしまうかもしれない。
 だが油断できない最強の敵を相手に、そんな事など今は構っていられなかった。

 ぐるんと互いに体を入れ替えたところで、両手をかざすニシカさんの姿が視界の端に飛び込んできた。

「シューター伏せろ!」
「わかったッ」

 ズドンと大きな衝撃が大地に突き刺さる。
 それはニシカさんが渾身の力で打ち放った竜巻の魔法だ。
 周囲の雪や小石までも巻き込みながら、そいつがかつて仮面を付けていた傷だらけの黄色マントめがけて襲いかかったのだ。

 そうして伏せろと言った意味をようやく理解した。
 ニシカさんが嫌がらせのついでとばかりウィンドカッターとも言うべき風の斬撃を竜巻魔法の中に撃ち込んだのである。

「ぐわぁ! 何だこれは」
「今だ女魔法使い、やっちまえッ」

 ニシカさんは叫んだ。
 竜巻の中で次々に防寒具ごと体を斬り刻まれている黄色マント騎士に向けて、容赦なしの特大魔法を撃ち込んでやれとニシカさんが女魔法使いに号令したのだ。

「フィジカル・マジカル・プラズマおちんぎんッ。相手は死ぬ!」

 驚いた黄色マントの騎士めがけて、不思議な呪文を口にした女魔法使いである。
 両手を天にかざしたかと思うと、上空から大きな稲光が竜巻に吸い込まれる様に被雷した。
 ズガンと頭を揺さぶる様な激しい雷鳴の後。
 ニシカさんが竜巻魔法を緩めると黄色マントはドサリと雪中に体を横たえる。

「シューターさん。悪は滅びたよ!」
「「「…………」」」

 すかさずけもみみがどこからか駆け込んで来て、倒れた傷だらけの黄色マントの頸根にズブリと短剣を刺したのである。
 一瞬だけ呆気にとられた俺たちであるけれど、まごまごしている場合ではない。

「……とにかく今のうちに砦の門を破壊しよう。ふたりとも、敵を近づけさせるな」
「わ、わかったぜ。おいけもみみ、あっちを」
「了解だよニシカさん」

 今度は変なところを触らないでくださいね、などと女魔法使いに釘を刺されてしまうが、当然だ……
 あの凶悪スタンガン魔法みたいなのを見せられた後では、不可抗力でも後が怖いので細心の注意が必要だぜ。
 ふたりして砦門の残されたもうひとつの閂を破壊するおちんぎんビームを加えたのであった。

「今度こそこれで破壊しましょう。フィジカル・マジカル・エクストリーム!!」

 こうして破壊された扉門の閂によって、完全武装した修道騎士野牛の兵士たちが雪崩をうって砦の中に流れ込んできた。
 目指すはシャグニコルチンの首ただひとつ。
 倍以上の戦力を有するギムル軍をこの場に貼り付けにしていた敵の残党の首魁を討ち取る事である。

 満面の笑みを浮かべた男装の麗人がソープ嬢とともに姿を現した時、俺もたまらず笑い返そうとしたのだが。

「おお、ベローチュ、ソープさん」
「ご主人さま、ご無事で何よりで……ご主人さま、その脇腹の傷は?!」
「うお痛っでぇ! うわ血がダバダバ出てる」

 そう言えば斬られたんだよね。
 俺はあわててソープ嬢に治療された。

「大丈夫か愛しいひと。だが安心しろ、傷はそれほど深くはない様だ。わたしが責任をもって癒してやるからなっ」
「や、優しく舐めてっ。舌が触れただけで痺れるぅ!」

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