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異世界に転生したら村八分にされた 作者:狐谷まどか

第10章 冬籠りの辺境生活

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352 シャグニコルチン最後の抵抗 前

 イジリー砦の包囲網の代理指揮官を任せられた男装の麗人は、俺の命令を忠実に実行した。
 このファンタジー世界では、夫婦とはお互いにその代理人としての権力を持っているからな。
 軍監として現場指揮を預かっている俺が砦に潜伏している間、それを代行するのは男装の麗人が行うのは当然で、その彼女に俺が与えた命令は次の通りだ。

「目標、イジリー砦。容赦なく撃ち込んで睡眠を妨害せよッ」

 時機を見て、砦の表で騒ぎを起こす事。
 この役割を俺から告げられて後、ベローチュはすぐにも修道騎士隊を率いているスウィンドウ卿や野牛の族長タンクロードバンダムと協議した上で、魔法による集中攻撃でそれに応えようという結論に至ったのだ。

「攻撃を集中させなさい。無駄に城壁を攻撃しても跳ね飛ばされるか表面を削るだけですよ! それよりも相手の動揺を誘うために、もっと効果的な場所を攻撃しなさい!」

 それも堅牢な砦の門を攻撃するのではなく、居館に直接ダメージを与える事だ。
 この世界には当たり前に魔法というものが存在しているので、分厚い砦の石組みの壁面はそれを想定して防御陣地を構築されている。
 より近代的なトーチカ群みたいな砦はツジンの考案によるものだろうが、例えそれが無かったとしてもセメントを使ったり土塁を気付いたり、あるいは分厚い層の石組みをこさえたりと工夫されていた。

「おお、衝撃で砦に降り積もった雪が爆散しているぞッ」
「敵の立て籠もる居館の天井が崩落しました!」
「ご主人さまが中で動きやすい様に、そのままチーム毎に集中攻撃を続けよ。敵が組織的に反撃に出てくるまで時間があまりないぞ!」

 雄々しくそう指揮下の修道騎士に命じる男装の麗人は、自らも背にした弓矢を番えて、砦の渡し回廊から散発的な反撃をしようと試みる弓兵たちを射抜くのだ。
 いかな堅牢な砦を事前に準備していたところで、立て籠もる居館の天井が崩落すれば騒がない人間はいないだろう。
 ちょうどその頃、俺たちは使われていない炊事場に身を潜めて、砦内部を大混乱に持ち込むべく抜剣して暴れる準備をしているところだった。

     ◆

「どうして魔法をかける前に、ひと声かけてくれなかったんだよ?!」
「え、わたしちゃんと言いましたよッ。いきますって!」
「そんな事を言って、いきなり呪文を唱えたじゃないか!!!」

 俺は全裸で憤慨していた。
 いきなりイグニッションな魔法を使われたものだから、鼠の親戚みたいな防寒具を脱ぐ暇もなく着衣がはじけ飛んでしまったのだ。
 寒いかどうかで言えば、寒くはない。
 むしろ女魔法使いの取っておきな魔法のお陰で体中がドキドキし、体という体が膨張感に見舞われているぐらいである。

「馬鹿野郎、こんなところで騒ぐヤツがあるかッ。廊下の方で騒ぎがはじまっているぜ、今のうちに砦の中で暴れまわって砦の門を開放させる必要がある。グズグズするな」
「は、はいニシカ奥さま。ではエルパコ奥さま扉を開けてください!」
「わかったよ」

 俺の不満など奥さんたちはガン無視である。
 同じ様にイグニッション魔法を使われたはずのニシカさんは、確かに俺ほどではないけれどもいつもよりも筋肉量が増えている外見になっていた。
 もとから女性の中でもずば抜けて長身で筋骨たくましい彼女だったのに、今ではアマチュアレスラーの選手みたいにムキムキだ。
 ついでにけもみみも同じ様にイグニッション中のはずだが、こちらはまるで外見に変わりがない。服なども膨らんだ様子もないと思っていたが、妙に股間の辺りを押さえていた。
 どこが膨張感に見舞われているのかな。ん?

「いくよ、えい!」

 そんな馬鹿な事を一瞬考えていたが、別に俺とお揃いの息子が膨張したから前かがみだったのではなく、単に勢いをつけるために体を折って力をためていただけらしい。
 そのままガツンガツンとケンカキックを炊事場の扉に見舞ってやると、三度目で硬く分厚いその扉が破壊された。
 すぐにもそれに呼応して、ニシカさんと女魔法使いが廊下に飛び出す。

「おお、すげえ……」
「シューターさん、行かないの?」
「閣下、外はオールクリア。人影は見当たりません!」

 一瞬そのイグニッション魔法の便利さに舌を巻いていたけれど、俺はすぐにも我に返って女魔法使いの言葉に反応しながら外に飛び出す。

「どっちにひとの気配がする?」
「あっちだぜ、大人数が固まっている感じがするぜ。活動反応はあまり活発じゃねえッ」
「ならそれは病人か難民のみなさんだな、他に騒がしい場所に向かう方が先決だ」
「一周暴れまわって連中を混乱させてから、外に出た方がいいぜ」

 短剣を油断なく構えながらニシカさんのアドバイスに従って動き出す。
 先頭を行くのはマシェットを逆手に構えたニシカさん、続いて俺がその直後に、そしてけもみみだ。
 女魔法使いは護符を両手に持って、いつでも即応態勢でおちんぎんビームを発射できる姿勢で最後尾から援護の姿勢だった。
 そうして丁字にわかれた廊下の左右に俺とニシカさんが飛び出したところで、

「な、何だ貴様たちは!」
「外の逆賊どもが攻勢をかけきたのだ、持ち場に向かえぎゃあああ」
「ほげええ、こいつら逆賊の工作員か?!」

 哀れ俺とバッタリ遭遇した数名の兵士たちは、出会い頭に俺が懐に短剣を差し込んで回った事で絶命した。
 最後の最後で敵だと悟った兵士のひとりは、ニシカさんが風の弾丸を発射して顔面を潰してしまった。

「す、すごいですねニシカ奥さま。魔法使いのわたしが顔負けです」
「風の魔法だけなら得意だぜ。お前ぇのとっておきは、砦の門を破壊する時に残しておきな」

 そんな言葉をニヤリとしながら口にしたニシカさんは、倒れた敵兵を蹴り飛ばしながらその先に向かった。
 けもみみはというと、俺の側にしっかりと離れない様に付いてきて、いつでも俺がピンチになったら対応できる様に待機している様だ。
 ニシカさんが攻撃で、エルパコが護衛、ふたりの間でいつの間にかそういうフォーメーションのやり取りがあったのだろうか?

「シューターさん、こっちから甲冑のこすれる音が複数聞こえるよ」
「おう、何だか怒号が飛び交っているみたいだな、階段を上る音がするぜッ」

 ピクリと丸いけもみみを立てたエルパコが、今度はニシカさんの前に飛び出して俺たちを先導する。
 するとあべこべにニシカさんが俺の側にピッタリ張り付いて護衛の態勢を取っているみたいだ。

「階段があるよ!」
「何だお前たちは、持ち場に早く向かわないほぎゃあああッ」
「き、貴様たちは敵の潜入部隊だな。敵だ、敵が砦内に侵入してるううううううべちゃ」

 珍しく大股に階段を駆け上っていくけもみみが、ちょうど階上の踊り場から顔を出した敵の黄色マントを強引に掴んだ。
 そのまま引き倒したものだから、十段以上ある階段を重い甲冑のままゴロゴロと転がり落ちるハメになる。
 すぐにももうひとりの黄色マントが反撃すべく剣を抜き放とうとしたが、そこにまたニシカさんの風の弾丸が撃ち込まれて壁面に叩きつけられた。

「ビビビ、ヂビデルルルル。ガク……」

 ちなみに階段から落ちてきた黄色マントにトドメをさしたのは女魔法使いである。
 護符を使って攻撃するのももったいないとばかり、重たい金属甲冑に手を添えて、雷撃系の魔法か何かを最小限で発射したらしいね。
 そうして先々を飛び出していったけもみみとニシカさんを追いかけて、上の階に昇ってみれば。

 そこには弓を持ち出して、砦の回廊から反撃を実施しようとしていた集団に遭遇したのである。
 青い顔をして震えている兵士がいたり、それを見て怒声をまき散らしている上官の様なものもいる。
 震えている兵士は焦点が定まっていないところを見ると、井戸に放り込まれた自白ポーションを口にしていたのかも知れないね。

「何だ貴様たちは。どいつもこいつも持ち場に向かおうとはせず、こんな事で来たるべきブルカさま独立の日を迎えられると思っているのか?!」
「そんな事を言って隊長、俺たちゃ女神様の祝福を受けた聖少女さまの率いる修道会を相手に、戦争をしかけているのですよ?!」
「聖少女などというものはもはや存在しない! あの女は全裸を貴ぶ蛮族に嫁いだというもっぱらの噂ではないか。そう、そこにいる全裸の男の様に……全裸?!」

 敵襲うっ!
 そんな風に弓をだらんとぶら下げていた隊長が絶叫した時にはもう遅い。
 俺は確かに雁木マリと結婚したのだから、かつて聖少女だった彼女はいなくなり、今は聖女だもんね。

「おおおおっ、女神様の守護聖人にして全裸を貴ぶ高貴なお方」
「どうしてこの様な場所に降臨されたのですか?! もしや女神様に仇名すブルカハゲを討伐せよとのお告げかっ」
「きみたちを救いに来たのさ」

 さすがに濃度が薄まって効果てき面とはいかなかったのか、井戸水を口にした複数の兵士たちの怪しい動きと言うか「この戦争にいったい何の意味があるのか」ぐらいの不安感みたいなのに苛まれているらしい。
 そこに俺がタイミングよく姿を現したものだから、彼らは戸惑うよりも何かの幻覚めいたものを見たのかも知れないね。

「な、何をしているんだお前ら、こいつは敵だぞ?!」
「うるせぇ、全裸さまに剣を向けるなんてバチ当たりな事ができるか。成敗してやる!」
「お、やめろ俺たちは味方どうしぎゃああああ」

 俺たちが見ているその前で、十数名の砦に籠った弓兵たちが殺し合いをはじめてしまったではないか。
 これも自白ポーションの見せる幻聴かなにかの効能だとすれば恐ろしいはなしだ。
 細菌兵器や生物兵器を使ったのとある意味同じで危険かもしれない。

「ど、どうなってやがるんだよシューターおい?」
「わかりませんが、閣下ここはひとまず引き下がりましょう」
「放っておけば混乱が広がるよっ」
「わ、わかった……」

 女魔法使いとけもみみに背中を押されて、俺たちは次の場所に移動する。すると、

「ああ待ってください全裸守護聖人さまッ」
「お見捨てにならないでください全裸さま。俺たちは最後まで女神様の信徒であります!」

 などと背後から聞こえてきたものだからバツが悪い思いをしたが、ここで留まっていれば、さすがに砦の軍勢に拘束されてしまう可能性が高い。

「何でお前をひと眼みて、すぐに全裸を貴ぶ部族だとわかったんだ?」
「そりゃニシカ奥さま、閣下が全裸だからですよ」
「たぶんだけど、俺と戦場で邂逅した兵士がいたのか、それとも自白ポーションの効力で女神様に対する贖罪が高まっていたからか」
「どっちにしても、もう自白ポーションを多用するのは止めにした方がいいかもしれないぜ。後ろめたい気持ちでオレ様はいっぱいだぜ」

 ニシカさんはマシェットの持ち手を改めながら、左目を隠した眼帯を外し不満を口にした。

「シューターさん! この先が物見やぐらの回廊になっているから、中庭の敵を狙撃する事ができるよっ」
「よし、ニシカさんとマドゥーシャで中庭の敵を適当に掃討して、そこから砦の門を内側から破壊するぞ」
「「了解!!」」

 回廊に飛び出した俺は、そこから包囲軍を狙撃しようと弓を構えたり魔法発射の態勢に入っていた敵兵を、片っ端から攻撃する事にする。
 ニシカさんと女魔法使いは、反対に中庭方面で反撃の準備を整えようとしていた敵兵の集団に攻撃を加えてもらった。
 けもみみは俺の取りこぼした敵を容赦なく斬る蹴る殴る骨を折るという、システマチックな行動で無力化してみせる。

「うおおお、全裸の頭のおかしな工作員め!」
「わざとじゃないんだよ、やむなくなんだよっ」

 つむじ風の様に走りだした敵の甲冑を着た相手は、たぶん騎士だろう。
 俺めがけて走り出したところで、凍り付いた足元で滑ったのだろうかタックル気味に激突してくるではないか。
 それを体を開きながら剣をやり過ごしつつ、相手の懐に膝を入れる様にして迎え撃った。
 見事に膝蹴りは決まったのだが、相手の勢いに俺までその場に倒されてしまう。

「背中が冷てええええええっ」

 くそったれの敵兵どもは、騎士が倒れたのを見届けると「隊長をお守りしろ」と叫びながら次々に俺の上に山乗りになろうとしてくる。
 だが今の俺はイグニッション発動中なので、力任せに重なり合ってくる兵士どもを蹴散らし飛ばし、けもみみと一緒にトドメをさしてまわった。

「な、何だあの全裸は?!」
「化け物だ。全裸の化け物が出たぞ!!」

 砦の内部で敵襲を告げる鐘が二種類鳴らされていた。
 ひとつは外からの攻勢を意味するもので、もうひとつはたぶん内部に侵入者がいた時のものだろう。
 兵士の死体を何体か、物見やぐらの回廊から砦の外に投げ捨てる。
 俺たちが破壊工作中だという事を、包囲軍を率いている男装の麗人たちに知らせる必要がある。
 ニシカさんは甲冑騎士を外に投げ捨てる時、鼠の親戚防寒具の上からでもわかるぐらい腕がふとましくなっていたけどね、あべこべに、どこにそんな筋肉が備わっているのかという具合のけもみみもそれを手伝ってくれた。

「閣下、これ以上ここに固まっていると敵が回廊に集まって来ますよ?!」
「よし階下に降りて、そろそろ扉を破壊してもらおうかッ。行けますかニシカさん?」
「着地ポイントを作ってやる任せておくれよな!!」

 護符を使わないライトおちんぎんビームを連射していた女魔法使いの言葉で、即座にニシカさんが自慢の竜巻を作り出した。
 その竜巻は空を舞い大地に積もった雪に突き刺さり、人工の吹雪となって中庭に襲いかかるのだ。

「おぎゃあああ」

 あちらこちらからと悲鳴が飛び出す中で、ニシカさんはニヤリと満足そうな顔をして、ヒラリと中庭に飛び降りるではないか。
 続いてさも当たり前の様に女魔法使いが飛び、けもみみは身軽に重さを感じさせない見事な着地を見せてくれる。
 俺はと言うと……

 さすがにイグニッション中で体そのものは自在に動く気がするのだが、こんな高さから飛び降りるのは久しぶりすぎて、足がすくみそうになる。
 むかし俺は斬られ役やスタントをやっていた事があるので、崖の上(ただし安全な)から飛び降りた事はあったが……

「何をしているんだシューターおい、そんなところで決めポーズをしていたら敵に狙撃されるぜ!」

 俺は意を決して中庭に、ダイレクトジャンプをかましたのである。
明日から小説家になろうラジオ出演のため、しばし上京します!
土曜日19:30からニコニコのチャンネルで放送予定なので、お暇な方はぜひご視聴ください^^
またその間、更新不定期になりますがお許しくださいorz
+注意+
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