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異世界に転生したら村八分にされた 作者:狐谷まどか

第10章 冬籠りの辺境生活

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351 決死隊のみなさんで砦に侵入します 4

感想お返事が遅れておりますが、落ち着きましたら必ずさせていただきます!

 がらんどうの炊事場は床も石畳なら壁面も石組みだ。
 寒さは体の芯までじわじわと届いて、時間の経過とともに俺たち潜んでいる人間の体力を容赦なく奪っていく。
 修道騎士スウィンドウからは疲労がポンと飛ぶポーションの支給を提案されたけれど、俺たちはそれを拒否してしまった。
 最大の理由は直前に山小屋で、男装の麗人が誤った処方でおかしな強気になってしまったからだろう。

「あんなモノをキめると、間違いなく人間ダメになるからな」
「しかし寒さの中でじっとしているだけでも、体力消費は激しいものですねニシカ奥さま」
「交代でできるだけ休憩をして、時々体を動かしておけば疲労がマシになるよ」

 奥さんたちは口々にそんな言葉を言い合いながら、炊事場の隅にあった火種にするためのものと思われる藁を床に敷き詰めて固まっていた。
 黄色い蛮族はもしかすると体温が普通の人間よりも高いのだろうか。ニシカさんは案外平気な顔をして眼をつむって、じっと瞑想をしているように見えた。
 けもみみは耳だけが戦闘待機モードにして周囲の情報をかき集めているみたいだけれど、俺の体に背中を預けて見た目は寝ている様な有様だ。
 女魔法使いはというと、じっとしているのが性分に合わないのかせわしなく周囲を見回したり、時折は跳ね窓の外の様子をうかがったりしながら、炊事場をウロウロとしている。

 そんな女魔法使いを、落ち着きの無い人間だと断じるのは早計だろう。
 彼女はエルフでもハイエナ獣人でもない癖に、その身体能力は俺と雁木マリ、それからカラメルネーゼさんが束になっても圧倒してみせた様な身体能力の持ち主だ。
 辺境不敗で全裸最強とかもてはやされている俺だけれど、たぶん単純な戦闘力だけならこのマドゥーシャの方が最強と言っても過言ではないのだ。

「でもあの時は、身体操法を強化するイグニッション魔法を自分にかけていただけですよ」
「え、そうだったの?」
「はい閣下。敵がアジトに迫っていると同僚の仮面隊長さんがあわてて飛び込んで来たんですよ。だから即座に例の魔法を使って、いつでも大暴れできる様に準備しておいたんです」

 触滅隊がアジトにしていた廃村を攻略した時の事である。
 それだとマドゥーシャの体が筋肉ムキムキのマッチョレディーになっていなければおかしかったはずだけど、当時の彼女と相対した限りは、俺が山小屋付近でワイバーンと戦った時みたいにマッスルボディーには見えなかったんだけれども……

「それはあれです。その魔法をかけた対象者の潜在能力的なものを引きだすのが効能だからですよ。閣下は肉弾戦マスターだからムキムキになったんですよ」
「じゃ、じゃあ例えばカサンドラにあの魔法をたとえば使ったら、別の魔法効果が発露するのかな?」
「そうですね。たぶんいつもの百倍ぐらいお小言が恐ろしいことになりますよ。閣下なんてその状態で新しい奥さんを紹介するよとか言えば、お尻叩き百回の計ですね。ついでにお説教のワードが武器に具現化して、心にグサグサと刺さる事間違いないですよ!」

 それは恐ろしい限りだ。
 俺がブルリと身震いしてしまったのは、きっと寒さからだけではないだろう。
 嬉しそうに女魔法使いが言うものだからつい信じかけていたのだけれど、

「そんな便利な魔法が存在していたのなら、今頃はいにしえの魔法使いたちの文明が滅びたりなんてしないよ。安心しなよシューターさん、ニシカさんに同じ魔法をかけたらきっと無尽蔵にお酒を呑み続ける酒呑蛮族になるだけだから」
「うるせえぞ、外の様子が聞こえないから黙っていやがれ!」

 ニシカさんに注意された俺たちである。
 するとけもみみは酒呑蛮族に見えない角度で舌を出してみせるし、それにつられて女魔法使いも舌を出した。
 何だきみたちは、家族としてしっかり溶け込んでいる様で何よりだね。
 それにしてもニシカさんが無尽蔵にお酒を呑み続ける黄色い鬼になるというのは、さもありなんである。

「と、とにかくイグニッション魔法とやらを全員にかけてくれ」
「わかりました。本当はちゃんと身体能力が飛躍的に向上するだけの魔法ですから、ご安心を。ただひとによって効力の差は出ますので、閣下ほどにムキムキになるのは珍しいですよ?」

 俺はショックを受けた。

 しばらくそんな雑談を時折交えながら外に出るタイミングを計っていると、時刻はどうやら丑三つ時を超えてまもなく朝を迎える時間帯に差し掛かったらしい。

「おい相棒。風が収まって雪がゆったりと降りしきるだけになったみたいだぜ。もうすぐ夜明けだ」
「昨日、砦の軍勢が奇襲に出た時間帯ですね。居館の様子は?」
「静まり返っているから、昨日の今日でまた夜襲を仕掛けるつもりはねぇみたいだな」

 予定では、敵に動きが無い場合はこちらから男装の麗人が指揮する軍勢で、砦の門前を賑やかすという事になっている。
 宴会を開いてどうこうするというのではなく、力攻めを装って修道騎士らによる魔法の集中攻撃を行い、城攻めっぽく押し込むという作戦だ。

「旧日本軍のドクトリンといえば夜襲、こいつは太平洋戦争の最中でもあちこちの戦線でかなり多用したって話なんだよな」

 馬鹿のひとつ覚えと言うと非常に聞こえが悪いけれども、当初は米英の軍隊もジャングルの夜に突如として奇襲をかけてくる日本軍の白兵戦闘に、かなりの被害を強いられたなんて事をモノの本で読んだ記憶がある。
 その出展が戦記小説だったのか歴史的資料だったのかは定かではない。
 だが被害を受けた米英軍側では、一度成功したこの夜襲に固執した日本軍の行いに徐々に対抗策を見出して、あべこべに夜襲攻撃を撃退したなんて事も目にした覚えがある。

「旧日本軍出身のツジンが絡んでいるものだから、ブルカ同盟軍の戦争ドクトリンももしかしたらそれに倣ったものかも知れないと思ったが、そういうわけでもないらしいね」
「夜中に行動するというのは装備が揃っていなけりゃかなりの無理を強いるもンだからな、馬鹿でもない限りは何度も強行する手段じゃねえ。実際に猟に出た時は、極力夜中の活動をしない様にするのが利口なやり方だぜ」

 ニシカさんによればそういうものらしい。
 もしかしたらツジンもそういうファンタジー世界の環境を見て、こちらで夜襲作戦の多用は控えていたのかも知れない。

「だがそれが好都合に働いたな。今度は俺たちが敵側に朝一番の攻撃をしかけるとは思っていなかったはずだ。完全に砦の連中は寝静まっているんだろ?」
「そうだねシューターさん」

 よし。では作戦開始の合図を待とうではないか。
 俺たちは寒さで縮まってしまった体を軽く動かしていつでも戦闘に入れる準備をしはじめる。
 ニシカさんは防寒具をいつでも脱げる様に羽織るだけにし、いつか触滅隊の宝物蔵から掠め取って来た魔法発動体のナイフをフィールドバッグから引っ張り出しているではないか。黄色い蛮族は本気だぜ。
 エルパコは深い深呼吸を何度もした後に、俺の元へ来て頭を撫でてほしいとせがんでくる。自分が自分らしくあるための確認作業らしいのがら、俺からするとかわいらしい奥さんの要求にしか見えない。いいね!
 女魔法使いも三枚重ねの護符を用意したりして、いざという時の一発集中攻撃を発揮できる様に工夫を凝らしていた。どうやら少しでも魔法陣がズレていると効果が薄れる可能性があるとかないとか。
 ちなみに俺も彼女たちと同じ様に戦う準備のために屈伸をしたり体をねじったりしていたのだが、

「閣下は服を脱がないんですか? 全裸にならないと最強になれないじゃないですか」
「違うよマドゥーシャ。シューターさんは戦っている最中に服が脱げるから強くなるんだよ」
「なるほど、じゃあ脱げたり破けたりしやすい様に、最初から服に切れ目を入れていたらいいんですよ。すぐに全裸になればいきなり最強モードで叩けるじゃないですか」

 馬鹿を言っちゃいけないよ。
 カンフー映画のスタントじゃあるまいし、最初から服が裂けやすい様に切れ目を入れたりなんかするわけがない。
 すると視界の端にニシカさんがニヤニヤしているのが映り込んだではないか。
 今回は黙ってニヤついているだけではなく、余計なことまで口にする。

「相棒は夜だけ全裸になりたい人間だからな。まあ最強とか言っているが二回も戦えば音を上げるぜ。ん?」

 家族間と言えど最低限のプライバシーは守られるべきだ。
 基本的に激しい攻防が大好きなニシカさんを相手にすると、俺はいつでもボロボロになってしまうんだ!
 そういう事は他の奥さんたちに言うべきではない。けもみみまで薄っすらと笑いを浮かべているし、女魔法使いに至ってはおちんぎん以外の何かを連想して赤面しているじゃないか。

「そうか女魔法使いは生娘かよ。ニシシ、覚悟しておくんだな」
「か、閣下。どういう事ですかこれは?!」

 ばるんぼよんと豊かな胸を揺さぶって下品な笑いを飛ばしたニシカさんに、俺は腹を立てた。
 腹いせに豊穣をつかさどる山脈のてっぺんをつまんで、捻ってやろうと思ったところで、とてつもなく激しい衝撃音が砦全体に響き渡ったのである。

「……おっと、はじまったぜ。今のは魔法の攻撃開始だな」
「…………」
「ギムル軍にはマドゥーシャ級の魔法使いは何人いたかな、マドゥーシャ?」
「いえ、わたしの腕に並ぶかそれ以上の魔法使いは盟主連合軍にはアレクサンドロシアさまとッヨイさま以外は数えるほどですよ。今のはたぶん魔法攻撃を一点に集中させて、破壊力をアップさせたんでしょう」

 俺の怒りは怒張天を衝く勢いだったが、一気に萎れた。
 ふたたび魔法の集中攻撃が砦のどこかに行われたのか、パラパラと石組みの居館が誇りや屑を頭上から落下させる。
 すぐにも居館全体で騒然とした兵士たちの喧騒が広がって、跳ね窓の外からも怒声が遠く聞こえてくるではないか。
 奥さんたちがすぐにも戦闘モードに切り替わって、女魔法使いがペラい護符を一枚取り出す。

「ではいきます。フィジカル・マジカル・イグニッション!」

 俺の着衣は弾け飛んだ。
弾ける着衣、ほとばしる汗!
木曜洋画劇場みたいなキャッチコピーが作者は大好きです。
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