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異世界に転生したら村八分にされた 作者:狐谷まどか

第10章 冬籠りの辺境生活

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349 決死隊のみなさんで砦に侵入します 2


 横殴りに叩きつける様な吹雪の中を、俺たちはイジリー砦の壁面まで黙々と移動した。
 後方には俺たち決死隊のメンバーを見守るギムル軍の兵士のみなさんが控えている。
 それからソープ嬢が厳しい顔つきでこちらを見送っているはずだが、視界は完全に眼と鼻の先までしか得る事は出来ないほど失われているからその表情を確認する事はできない。
 この天候で包囲陣のかがり火もいくつかは完全に消え去っていたほどだ。

「だがそれはオレたちにチャンスを与えてくれるという意味でもあるからな、難しく考えるんじゃねえぜ相棒」
「わかっている。ニシカさんが可能だと言うのなら、この高い城壁も登れるんだろうさきっと……」
「できるかできないかじゃねえ、やるんだ」

 いつかワイバーンと戦う直前に口にした言葉と同じ様に、ニシカさんがそう口にした事で俺の中では覚悟が決まったぜ。
 ここからは先頭を歩くエルパコの野性的感覚だけが頼りで、その後ろのニシカさんの女性にしては大きな背中が俺の目印になっている。
 その後ろを、へばりつく様にへっぴり腰の女魔法使いが俺の防寒具を引っ張りながら追従する。

「おちんぎん、おちんぎん……」

 背後で口をパクパクとやっているものだから、振り返って女魔法使いの口元に耳を寄せてみると、そんなわけのわからない繰り言を続けていた。
 心配しなくても、きみの働きは俺が一番評価しているからね!
 これはゴルゴライに帰還した後、最大級のご褒美をあげなければならないだろう。
 そのためにも今回ギムルに代わってこのイジリー砦を何としても陥落させて、女領主の気持ちを安らげてあげる必要があるのだ。

「シューターさん、それじゃあぼくが先行するよ! 上の歩哨も視界不明瞭でこちらに気づいていないみたいだからッ」
「くれぐれも無理をしない様にな。真っ逆さまに落ちたら軽いけがじゃすまないだろうッ」
「大丈夫だよ、ぼくはこれでも猟師出身だから。冬の岩場を移動したりするのは慣れているんだ!」

 あまりに吹きすさぶ雪風が酷いものだから、互いに叫びあって言葉を投げかけても、それで砦の兵士に警戒される事もないという有様だ。
 けもみみは鼠の親戚の毛皮でできた防寒具のフードを目深に被った状態で、コクリと大きく頷いて見せた。
 そのまま手袋の上から砦の石組みに手をかけてみせてから、ひょいひょいと見ている限り余裕をもって上を目指していく。
 これだけ雪で滑りやすくなっている石組みだから、大変かと思ったらそうでもないらしい。

「エルパコは器用に登るな」
「わ、わたしにはあんな風にできそうもありませんよ」
「俺よりは身体能力もあるから、できるできる」
「か、簡単に言わないでください!」

 などと言い合っていると……
 途中で足を引っかけ損ねたのか、けもみみがズルリと滑って転げ落ちそうになっているじゃないか。

「?!」
「まあ見てな、アイツは簡単に落ちはしねえ!」

 ニシカさんが極端に俺に顔を近づけながら叫んで見せた。
 いつもならこの距離で話しかけられれば、甘い彼女の吐息が頬を舐める様に刺激するはずだ。
 ところがこれだけ酷い吹雪だと、そういう嬉恥ずかしサプライズが得られるはずもない。

 返事の代わりにバシバシとニシカさんの背中を叩き返すと、防寒具の上からでもわかるたわわなお胸が激しく揺れた。
 激しい吹雪でも揺れる事が無かった爆乳連峰も、俺によって揺れるんだ大満足。
 隣でうかない顔をしている女魔法使いの背中もバシリと叩いてやったが、景気の悪い顔をフードの中から覗かせてくるだけで無反応に等しいものだった。

 エルパコは、はじめ傾斜のついた砦の壁面を危なげなく登りきったところで、いったん小休止を挟んだ。
 そこから下方を見回して、俺たちに周辺に散っておく様に指示を出してきたらしい。
 どういう事かと不思議そうに思っていると、ニシカさんは状況を理解したらしく俺と女魔法使いに少し下がっている様にとハンドサインを飛ばしてくる。

「それじゃあオレ様が続くぜ!」
「え、まだエルパコは登り切っていないんじゃ……?!」

 俺の返事を待つよりも早く、ズイと顔を近づけたニシカさんは被っていたフードを外してニッコリしてみせた。
 自信満々の顔に戸惑っていると、即座に背中を見せてけもみみの登ったルートを追いかける。
 ニシカさんはけもみみが登ったよりも遥かに手際よく、俺と変わらない体格を感じさせない身軽さで石組みの上へ上へと進んでいくではないか。

「エルパコもニシカさんも、まるで俺とは人種が違うんじゃないかと思う事があるよっ」
「何ですか閣下、大きな声で言ってください! おちんぎんがどうしましたか?!」
「まるで違う人種を見ているみたいだと言ったんだ、俺の奥さんたちは!!」
「何を当たり前の事を言っているんですか閣下は! ニシカ奥さまは黄色い蛮族でエルパコ奥さまはハイエナ獣人さまでしょう! この寒さでお脳がおかしくなったんですか?!!」

 傍らで俺にしがみついている女魔法使いが大変失礼な物言いをしたので、ピシャリと尻を叩いてやった。
 ビクンと反応してみせたかと思うと、抗議の視線を予想したがそれはない。
 代わりに手を差し出して「おさわり代金下さい」とばかり下卑た顔をしてきたので、もう一度尻を叩いて黙らせた。

 そんな事をやっているうちに、ニシカさんがけもみみの側まで到着したらしく、垂直に切り立った石組みあたりで二人が何やら身振り手振り、状況確認をしているらしい姿が見えた。

「こんなに視界が制限されていると、砦に乗り込むのも難儀しますねえ!」
「おかげでこっちが侵入するぶんには付け入る隙もありまくりなんだがなっ。しかし、この石組みはツルツル滑りすぎるぞ!」

 石組みに足をかけて状況を確認してみたところ、凍り付いた石組みはとてもツルツルしていた。
 こんな不安定な足場を利用して、よくもまあ猟師奥さんふたり組はするすると登って行ったものだよな。
 女魔法使いもずば抜けた身体能力の持ち主である事を俺は知っていたけれど、それでもさすがにビビるものなのかね。
 ふたりして吹雪の先に消えてしまった猟師奥さんたちを見上げていたら、突如としてドサリと上から人間が振って来るではないか?!
 すわ奥さんが滑落したのかと肝を冷やしたのだが、どうやら砦で歩哨に就いていた残念な兵士だったらしい。
 一度傾斜のついた石組みにぶつかった後に、俺たちの足元に叩きつけられたのである。


「わわっ。何事ですか?!」
「敵の兵士らしいな、死んでる……」

 見れば首が明後日の方向に向いているし、腹から出血している様子が見て取れる。
 そうしてあわてて頭上を観察すると、そこからするりとロープが降りてくるのがわかった。これを使って登ってこいという合図らしいね。

「か、閣下からどうぞ!」
「よしわかった。その死体を向こうに待機している味方の兵士に渡して、雪に残った血の跡をどうにか処理してもらうんだ!!」

 はいわかりました!
 叫び返した女魔法使いの肩を叩いて了解の旨を伝えると、俺はおっかなびっくりと何度も滑りそうになりながら上を目指した。
 むしろロープで男顔負けの力自慢なニシカさんに、引っ張り上げてもらったと言った方がいいだろうか。
 そうして最後に女魔法使いが、結局危なげなく砦の上方までたどり着いたところで、俺たちは内部に侵入する事になったのである。
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