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異世界に転生したら村八分にされた 作者:狐谷まどか

第10章 冬籠りの辺境生活

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347 夜襲、鼠の暗殺者たち


 戦場における駆け引きを何度か経験した事で、俺はひとつ賢くなった事がある。
 一対一のやり取りの時は、間合いの取り方に細心の注意を払っていたものだが、これが大人数になると精神構造に何らかの変化が生まれるのか、妙に大胆な考えになるのだ。

 わかりやすく言えば、一対一の時は敵の間合いに入り込まない様に必死に守りに徹するのだ。
 だからどうしても剣の振り込みがややおざなりになって、致命傷を与えるのが至難となる。
 ところが今眼の前に現れた鼠の親戚みたいな服を着た連中を相手なら、そんな間合いの事を考えている余裕などひとつも存在しないのだ。

「敵の守りが集中している、目標はこの天幕の中ぞ!」

 そう叫んだのは鼠の親戚のうちのひとり、俺に接近するの二番手の男だ。
 俺は特段、目立った格好をしていたわけではないけれども、ベローチュとタンシエルさんに目配せをしているところを観察されたのかも知れない。
 それだけ観察眼が鋭いというところから、コイツらがツジンの差し向けた奇襲工作部隊で間違いない!

「お義父さま、ここはお任せをっ」

 叫んだタンシエルさんは躊躇なくハルバートを引き寄せながら構えてみせると、そのまま俺に飛びかかろうとしたふたりの敵を相手にブンと得物を振り回したのである。
 飛び退るふたりの敵を追いかける様に、タンシエルさんは前に出た。
 するとその隙を埋める様にベローチュが横へ移動して、さらに接近しようと試みている別の鼠野郎の攻撃を受け太刀する。

「ベローチュ、代われ!」
「はいご主人さまッ」

 すぐにも受けた長剣を体の側面に受け流した男装の麗人である。
 勢いが乗っかって重心移動で前のめりになった鼠野郎を、俺は深々と脇腹から斬り上げてやった。
 確かな手ごたえがあり、相手がまともな防具を身につけていない事を感じた。
 脇を斬ればそこならば防具がないと思ったけれど、敵は防御力を重視するよりも防寒具によって損なわれた機動性を少しでも補う工夫をしていたらしいね。

 今度は視界に義息子の新妻が振り下ろしの一撃と払いの一撃で、あっさりと鼠野郎どもを翻弄している姿が見えた。
 仕留めるまでは至らないが、完全に彼女自身に余裕がある事は理解できる。

「敵は他に何人見える?」
「わかりません。しかしまだこれで終わりという事はないでしょう。マドゥーシャ、マドゥーシャはいますか?!」
「はいはい先輩、わたしは裏を守っておりますよ!」

 おちんぎんに忠実な女魔法使いの叫び声が、ギムルの寝所に使われている天幕の裏手から聞こえてきた。
 付近にある別のテントに隠れて待機していた女魔法使いが、この襲撃騒ぎを聞きつけて背後の守りを担当してくれているらしい。
 いいね!
 おちんぎん以上の働きをするところをこの際是非見せてもらいたいものだ。
 お礼はもちろんおちんぎんに似た何か、などと余裕の表情を浮かべてグヘヘとニヤついたのも束の間、

「ぬおおっ」
「き、貴様は全裸!」

 まだ全裸じゃねえっ!
 天幕を遮蔽物にして俺たちの方に接近してきた別手の鼠野郎が、ずいと天幕の入り口に駆けこんできた瞬間にギョっとした顔を浮かべたのだ。
 俺は生憎とまだ防寒具を脱ぎ捨てただけで、太腿の一部が斬り裂かれた程度である。
 もしも俺が軍艦ならば、控えめに言って被害軽微程度だろう。まだ大破じゃない、まだ小破ですらない!

 失礼な反応をした鼠野郎の背後から、別の鼠野郎が続々と姿を現した。
 全部で四人に増えた鼠どもは、それぞれが陣中で振り回しやすい様に剣を装備しているチームだった。
 むかしモノの本で読んだところによれば、西南戦争の時に近接戦闘を試みた西郷軍の抜刀隊は、この近接戦闘武器たる日本刀で肉薄攻撃し、敵である官軍を大混乱に陥れたという。
 彼ら西郷軍はみんな武家の出身で、相手をする官軍は逆に農民中心の招集兵だったわけである。

「接操用意、抜剣肉薄ッ」
「おおおおおっ」
「ちょ、一対多数で肉薄攻撃かよ。ベローチュ下がれ、戦う際に空間を作って隙を潰されるなっ」
「ご主人さましかしっ」

 してみると俺たちが身を寄せていたギムル軍の中核兵力のうち半数が、農民を応召した領軍となる。
 ある意味でその代表格がギムルなのだから、まともにこの斬り込みを受ければ混乱する事は間違いない。

 最初の一撃を体を入れ替えながらやり過ごすと、次に飛び出してきた敵の剣を跳ね上げて蹴り飛ばしてやった。
 今度は側面に回り込んできた敵が視界に見えたが、そいつには足を掬い上げる様に地面を蹴って、残雪を顔に見舞ってやる事にする。
 最後のひとりは脇に剣の柄を押し付けて突貫してくるではないか。
 狂った様に体当たり気味の突きを見舞おうとした男は、接触する直前に男装の麗人が横から真向斬りを見舞って怪我をさせた。
 だが死なない。
 肩を斬られた瞬間にゴロンと回避に移っていたらしく、怪我の程度はまだ浅いものだったらしい。


「どけ全裸。貴様に構っている余裕などないっ」
「嫌だといったらどうなるんだ。ええっ?」
「辺境不敗を売りにしているらしいが、知恵の方は足りなかったらしいな」
「えっ」



「片手なので長剣に一撃の力が入ってない、やり直し!」
「ぐげぇ」
「どうした二刀流のやり方は教わらなかったのか? 脇の締めが甘いやり直し!」
「ほげええ、何だコイツはッ」
「全裸だよ全裸、お前たちが言ったんじゃないか、いい機会だ再教育してやるぜやり直し!」
「おがああ、腕が腕がッ」

 やはりこいつらは暗殺を専門にしているよりは、隙を狙ってギムルを拉致する任務を帯びていたらしいね。
 ツジンの工作員と言えば、これまで俺が見てきた美中年カムラや触滅隊の口の臭い男、仮面の男たちが脳裏をよぎるが、それらよりも遥かに腕に覚えがないので、難敵というほどではない。
 手段と目的を取り違えたばかりに、三人の鼠の親戚たちはあっという間に俺の教育的指導に翻弄された。
 ひとりが腕を斬り飛ばされてその場にうずくまり、もうひとりが足を深々と斬られて雪の中をもがき苦しんでいた。
 最初に二刀流スタイルをした男はと言うと、見事に俺が剣を浅く斬り回したので、鼠の防寒具を裂かれて寒中にお肌をさらけ出す羽目になった。

 ついでに男装の麗人も独力で斬りかかって来た鼠の相手を刺殺し、その場に鮮血のアートを雪の中に鮮やかに描いていたではないか。さすがは頼りになる元妖精剣士奥さんだ。

「おい貴様。ご主人様と貴様、どっちが全裸か行ってみろ。さあ言え!」
「どちらも全裸です。こ、殺してください!」

 悲しそうな顔をして観念した鼠の襲撃者の事は男装の麗人にお任せして、オレは急いでタンシエルさんがどうなったのかを探った。
 駆け出した時にはすでにタンシエルがふたりの襲撃者を仕留めた後だったらしく、荒く肩で息を繰り返していたシエルが振り返り、返り血を浴びた頬を緩めて微笑を浮かべたのである。

「お義父さま、こちらは不埒者を仕留めて御覧に入れました」
「よ、よかったね。これぐらいで済んで」
「しかしご主人さまはおみ足にお怪我をなさっています……」

 こちらに近づいたタンシエルさんと男装の麗人が、俺の血塗れた太腿に気遣いの様子を見せてくれる。
 まあこの程度の傷ならば、ソープ嬢の癒しもあるし修道騎士も近くに控えている。
 夜襲を乗り切れば何という事は無いだろうと笑って返事をしておきながら、他の様子がどうなっているのかをまず優先させた。

「ベローチュ、マドゥーシャの様子を見てきてくれ。ニシカさんやけもみみも、イジリー砦の方に注力しているからな。まだ夜明けまでは時間があるし油断はできない」
「わかりました。タンシエルさま、ご主人さまの事をお任せします」
「謹んでお手当をさせていただきますベローチュお義母さまっ」

 他人の奥さんに気を使われて雪を払われた岩の上に座らされる。
 岩は冷たかったのですぐにも立ち上がってタンシエルさんにたしなめられたが、これはしょうがないよね。
 しかも、いきなり激しい戦闘に突入したものだから、ひもぱんが尻に食い込んで尻がとてもムズ痒かったりする。

「出血はそれほどでもありませんのでご安心ください。そ、その。失礼いたしますッ」

 いっでえ!
 包帯で血止めをやってもらう段になってから、ようやくまともに痛みを感じるようになった。
 刺された傷そのものはたいしたことがないけれど、吹き矢の矢に返しが付いていたので、思ったよりも出血甚だしいらしいね。

「いい子ですから、少しの間だけ大人しくなさってくださいね。ハッ、し、失礼しました。ついギムルさまに接する様な発言をしてしまいました……」
「ハハハ、気にしなくていいからね。ちょっとお尻の具合が悪かっただけだよ」

 普段どんなプレイをギムルとタンシエルさんがしているのか垣間見て、微妙な気分になっちゃったよ。
 そんな羞恥を垣間見ながら周辺に意識を向けたところ、どうやらイジリー砦から打って出た敵兵たちも撤退を開始している様子が伺えた。
 いつの間にか喧騒や怒号も小康状態になって、戦いは終わりつつある様だ。

 そんな折の事。
 足早に女魔法使いを伴った男装の麗人が、こちらに駆けてくる姿が見える。
 どうやら鼠の集団は撃退し終えたと見えて、警戒態勢を解いたらしかったのだ。

「ご主人さま、背後からの動きはこれ以上見当たりません」
「よし、折を見てギムルに報告しよう。タンシエルさんありがとうございます、ありがとうございます」
「い、いえ。お義父さまにご不快な思いをさせてしまい……」

 べ、別に気にしてなんていないからね。
 ちょっと俺もアレクサンドロシアちゃん相手に妹プレイとかするのはよしておこうと考える吉宗であった。
 彼女もそろそろ実子を産む母親になる事だしね。
 次からはあかちゃんプレイがいいかもしれないと考えを改める吉宗で……

「おや、鼻の下を伸ばしておられる様ですが、これはカサンドラ奥さまにご報告する必要がありますねぇ」
「うるさいよっ!」

 馬鹿な顔をしておちんぎん大好き女魔法使いに茶化されたところで、俺は油断からか激高してしまった。
 別にタンシエルさんが優しく俺を介抱してくれたからドキドキしたのではなく、ギムルとのプレイを垣間見たから恥ずかしくなっただけだってのっ。
 しかしそれが気に入らなかったのか、一瞬にしてムっとした表情になった男装の麗人が、プイと明後日の方向に顔をそむけたのだ。

 おいおい、きみは俺を信じてくれないのかい?
 などと思った次の瞬間に、

「ご主人さま、危ない?!」

 男装の麗人が突然素っ頓狂な声を上げて俺に覆いかぶさった。
 こんな衆目の面前に、夜明け前とは言えやめなさい。
 などという状況下ではもちろんない。
 何事かと思えば、その頭上をメラメラと燃える火炎がすれ違って、ギムルの隠れている天幕に吸い込まれたのである。
 大火球はその一撃で天幕のてっぺんに被されていた獣皮のシートを吹き飛ばし、隠れているギムルや蛸足奥さん、それからソープ嬢たちの驚いた顔を露出してくれたのである。

「何事だ、敵襲はまだ撃退されたのではないか」
「魔法攻撃ですわ、これは間違いなく遠距離からの狙撃魔法ッ」
「閣下、あの方角から撃ち込まれました。かなり精度が高いですよこれは!!!」
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