挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
異世界に転生したら村八分にされた 作者:狐谷まどか

第10章 冬籠りの辺境生活

465/560

346 釣れました!

 俺の名は吉田修太、三三歳。
 異世界で夜襲を受けた男である。
 夜襲と言っても奥さんから寝込みを襲われたわけではない。

「総員戦闘用意、接争用意ハジメッ!」

 ところでこの夜襲には、幾つかの仕掛けどころがあるのだと俺は聞いた事がある。
 ひとつは、攻撃対象が完全に来ないだろうと油断しているタイミングをねらう事。
 もうひとつは攻撃対象が疲弊し、消耗しきったタイミングを完全に狙いすまして行う事である。

 では今回の攻撃タイミングはそのどちらに該当するのかと考えれば、自ずとその答えは見えてくるものだ。
 今回は間違いなく前者だろう。
 敵の守将はいかにも忌々しそうに俺たち包囲するギムル軍を睥睨しながら、配下へ八つ当たりをする様に姿を消した。
 こんな安い挑発になど乗ってたまるかとでも放言したのかと思ったが、そうではなく今に見ていろと怒りを吐き出していたのかも知れない。
 俺たちはシャグニコルチンという男の思考を見誤ってしまったのだとある意味で言えるかも知れない。

「敵は俺たちが油断して、今夜は襲われないだろうと踏んで行動に出たはずだ。焦らず味方との連携を密にして、声を掛け合いながら迎え撃つぞ!」
「「「応ッ!!!」」」

 野太い声が薄暗い夜の空気を震わせた。
 叫んだのは、いつの間にか俺たちと合流していた義兄タンクロードバンダムさんで間違いない。
 ミノタウロスの他部族と数々の争いをしてきた経験があるのだろうか、その冷静で頼もしい声音に修道騎士や傭兵らが力強く応えたのだ。

「かがり火を消せ、松明を用意しろ!」
「テントに炎が燃え移らない様に、畳めるものは蹴倒してしまえッ」
「必ず四名一組で動け、合い言葉を忘れるな。合い言葉は?」
「「「全裸、全裸、全裸ッ!」」」

 聞いていると内容が滅茶苦茶だ。
 包囲に加わっていたギムル勢のみなさんは、事前の申し合わせをしていたらしく当初の予定通り機敏に対応はしていた。
 三直の不寝番のうち、残りの兵士さんたちは眠たい顔をしていたけれども、外に飛び出してしまえば頬が張り付く様に寒いので眠気も吹っ飛んだのかも知れない。
 火災対策の為に素早い対応をしつつ、しかし最後に合い言葉の確認を耳にしたところで俺はズッコケそうになってしまったのだ。

「敵影発見! 小集団と思われる斬り込み隊がこちらに向かってくるッ」
「どこだどこだ、寝込みを襲う夜這い野郎は?!」

 誰かと思えば呼応して短弓を片手に飛び出してきたのはッワクワクゴロさんだった。
 サルワタ漁師のリーダーをしている彼は、確か包囲陣の幕舎で姿を見かけなかったはずだ。
 すると夜中のうちにこちらに合流していたらしいね。

「ッワクワクゴロさん!」
「おう、シューターかッ。敵はどこだ、集中攻撃を浴びせかけてやるから誰でもいい、指示をくれ!」
「あちらです、あちらです!」

 木々の狭間を指さしてそう教えたのは、修道騎士のひとりだ。
 すぐさまテニスボールサイズの火炎を掌に現出させると、自分で指さした方向に叩きつけてやる。
 それを見たッワクワクゴロさんは、ただちに率いているサルワタ領兵のみなさんと一緒に、火球のぶち込まれた方向に速射を号令するのだ。

 暗闇にギャアという悲鳴がひとつ飛び出したかと思うと、そこに五月雨の様に矢が吸い込まれて無数の断末魔が連鎖的に響きわたった。

「敵影、こちらにもありますッ。陣屋の内側までいくらか入り込まれている?!」
「待機しているチームを回せ。早い段階で押し返すんだ!」
「当直チームがただちに向かいます。仮眠中の各隊は点呼して、外周を守備しろ」
「後方だ、後方にも兵士を回さないと、尻を掘られるぞ!」

 いくら当初から夜襲を予想して釣り出したとは言っても、エクセル卿が危惧していた通りストレス下の行動を迫られるものらしい。
 ギムル勢の軍隊はサルワタ領兵にゴルゴライで集めたサルワタ傭兵のみなさん、それから従士の支援を受けた修道騎士やらクワズ領兵と多岐にわたる顔ぶれだ。

「ご主人さま、このタイミングを突いてツジンが呼応しないわけがありません。もはやこれは計算された夜襲だったと考える他はありませんね」
「俺たちがシャグニコルチンとかいうエリート騎士をハるつもりだった様に、ツジンの方も同じ事を考えていたというわけか」

 男装の麗人と騒がしい周囲の様子を手早く見回しながら、俺たちは怒鳴る様に会話した。
 そうしなければ、あちこちから聞こえてくる撃剣のぶつかる響きと怒号に声をかき消されてしまうからだ。

「ありえます。そうなると狙う相手はギムルさま……」
「今ギムルさんの護衛に付いている奥さんは誰だっけ?」
「ソープ奥さまとカラメルネーゼ奥さまです。ソープ奥さまはこの季節の夜になると死んだ様に冷たくおなりになるので、実質護衛に付いておられるのはカラメルネーゼ奥さまだけという事になりますねッ」

 ギムルの寝所になっている天幕を目指して、俺たちはそんな会話をしつつ白刃を引き抜いた。
 剣を抜いて構えつつ走るのは移動速度が確実に落ちてしまうのだが、そうしなければいつ敵が暗闇から飛び出してくるかわからない。
 構えまではする余裕が無かったが、それでも刃広の長剣を引き下げて寝所の天幕を目指したのだ。

 怒号と喧噪の繰り広げられる方角と反対側にたどり着くと、状況把握がまだ出来ていないだろうギムルが天幕から顔を出そうとしているところだった。

「し、シューター。敵が夜襲に踏み切ったのか」
「不味い事になりましたね。今回は完全にツジンの方が一枚上手だった、ただまだこちらには奇襲の様子は無いみたいですね。ギムルさんは中で待機していてください。ここは俺たちが守りきってみせますからご安心を」
「黙れ。仮にも義父上に身を守られる子があるものか。この部隊の指揮官は俺だぞ」
「子は親の命令を聞くもんだ。あんたが指揮官なんだから、大将はどっしり構えていればいいんだッ」

 剣をザクリと地面に突き刺すと、俺はズズイと天幕から出てこようとする筋骨隆々のギムルを、軽く足払いをかけて転かす要領で姿勢を崩させた。
 すかさず俺と男装の麗人で腕を取ってやると、背後から連携したカラメルネーゼさんがその蛸足で触手ロックをかけてしまったのだ。

「やめろ、高貴な身の上は常に先頭に立たねば示しが付かない。隠れて天幕で震えていたと知れば、兵士どもに笑われる事になるだろう」
「何を言っておりますの? 親の命令を無視する親不孝者と渦中に知れ渡る方が、ギムルさんにとっては今後不利益に働きますわよっ」

 暴れるギムルはズルズルと天幕の寝所に引き戻されて、入れ違いに彼の新妻タンシエルさんが外に飛び出した。
 すぐにも天幕の前に刺していたハルバートを引き抜いて、入口に誰一人と通さぬ気構えで仁王立ちをするではないか。

「いいか。この際だから言っておくが、ここであんたが死ぬか身代を奪われる様な事になれば、それこそ盟主連合軍の士気はズタボロになるんだからな」
「…………」
「カラメルネーゼさん、一晩ここでツジンの奇襲をやり過ごせば、連中も下手に工作部隊を差し向ける作戦に対して、多少は考えを改めるかも知れない」
「わかりましたわ。婿殿に代わってギムルさんをお守りいたしますわ」

 黙り込んだギムルと、真剣な眼差しで頷きを返す蛸足麗人である。
 すぐにもアイコンタクトを飛ばした俺とベローチュは天幕を飛び出て、入口を門番の様に守るタンシエルさんと合流した。

「……お義父さま、こちらへの奇襲の気配はまだ感じられません」
「ですね、ご主人さま。しかし空が明るくなりはじめれば奇襲効果が半減してしまうから、必ず近く襲いかかるはずです……」
「そうなれば全裸不敗のお義父さまだけが頼りになるかも知れません」
「あなたのお義父さまは脱げば脱ぐほど強くなるので、これだけ防寒具を着込んでいるなら最強という理屈も成り立ちますよ」
「…………」

 なんて言葉を投げかけてこられるものだから、俺はバツの悪い顔を思わずした。
 戦いの度に全裸になるなんてもっての他だし防寒具脱いだら寒いじゃないか?!
 そんな抗議の言葉を俺が口にしようとしたところ……

「ぐわっ、アッチ何だこれ?!」

 突如として太股にチクリと痛みが走り抜けたかと思うと、足がメラメラと燃え出したじゃないか。

「敵襲! 吹き矢ですねご主人さまッ。このままでは防寒具に燃え移ってしまいます!!」
「姿勢を低く、姿勢を低くしてください!! 敵の攻撃はどちらからですか?!!」

 一番取り乱してはいけない俺があわてて火の付いた防寒具を必死に脱ぎ散らかして、その場で雪の中をのたうち回るハメになった。
 ちきしょうめ!

「来ました、敵は鼠の親戚みたいな服を着ていますね。数はそれほど多くないッ」

 太股の痛みに耐えながら放り出した剣を握って立ち上がろうとしたところに、暗闇から暗殺集団の様な連中が踊り出して来たのである。
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ