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異世界に転生したら村八分にされた 作者:狐谷まどか

第10章 冬籠りの辺境生活

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339 イジリーの砦 中

 秋にゴルゴライ攻略とブルカ街道の支配権を巡る攻防から戦火を免れたのが、イジリーの村だった。
 この村は最大の激戦となったシャブリン修道院包囲作戦の時も、ブルカ同盟軍側の後方連絡線のひとつとして機能していた。
 ただし、俺たちの軍勢に余力がなかったために反撃の対象に含まれていなかったのだ。

 してみるとイジリー領内の集落はどれも健在だったが、大切な収穫期を戦争のシーズンに費やしてしまったために、この冬は食糧難に見舞われていた様である。

「村長のオディランという男は、その事についてブルカ側に支援を要請して糧食を村に運び込む手配をしていた様ですな。実はその頼みの綱の糧食が村内に運び込まれるタイミングで、ギムル卿がイジリーの村に侵攻したというわけです」

 扉の破壊された煤だらけの倉庫から運び出される酒樽の類を見ながら、俺はスウィンドウ卿からそんな説明を受けた。
 修道院包囲戦の折、ここに収められていた石鹸の在庫がゴルゴライに持ち去られたらしく、この倉庫は酒の匂いと石鹸の香りが混じり合って不思議な気分にさせてくれる。

「という事は、イジリーの村では現在も食糧難に見舞われているという事でしょうか?」
「そういう事になるな、ベローチュ夫人。オディラン卿はその段階で領民の一部を連れてイジリーの砦に入城したのだが、とてもまともな食料を確保できたとは考えにくい」

 しかるに、われわれが挑発の酒宴を開く事には実際問題として大いに意味があるのです。
 そんな風にスウィンド卿は言って、酒樽を運び出す従士のひとりに注文を付けた。

「おい、そのうちのひとつを院の応接セットに運び込んでおけ」
「いいんですか、全部イジリーに持ち込まなくても?」
「構わない。それはゴルゴライのハチミツ酒だからな、シューター閣下のご家族を持て成すのに都合がよい。残りは予定通りイジリー方面に運び出し、指示があれば酒宴に使う様に通達しろ。勝手に酒樽の栓を抜く者があれば処罰するのだ」
「ハハッ」

 見ていればその酒樽の行先は俺たちの胃袋だとスウィンドウ氏が説明するじゃないか。
 俺はとても苦い顔をして、傍らにいたニシカさんが血色よろしく揉み手をするのであった。

「そういう事なら遠慮なく運んでおくれよ。おいシューター、オレは単身で任務をお前ぇから預けられた時は酒を遠慮すると決めているんだ。だが今回は特別だ、シューターの監視も行き届いているし、家族と一緒に任務中だから問題ねぇ。そうだよな、ん?」
「ほどほど呑む程度なら問題ないでしょうけど、呑むのがハチミツ酒じゃ気が滅入るな……」

 俺はビールが大好きだ。
 しかし俺が好きなビールはこのファンタジー世界には存在しない。
 ブルカ産のビールは粕が浮いているし何故かサクランボが付け込まれていて渋くて不味い。
 ついでにハチミツ酒も異世界ビールの親戚みたいな味がして、俺はこっちも好きになれなかった。
 一番呑みやすくて親しんでいる異世界酒がサルワタの皮粕タップリのぶどう酒というのも不思議な話だ。ちなみにサルワタのぶどう酒は赤ワインである。

「ご主人さま。防寒具を着ていればニシカ奥さまも自分も、さほど目立つ事はないでしょう。予定通り運び出される酒樽の輸送チームに潜り込んで、イジリーの砦周辺の地形を観察してまいります」
「おう、そういう事だから酒樽は大事に確保しておいておくれよ」
「わかりました。ギムルさんに出来るだけ見つからない様におふたりは注意してください」
「そこのところは了解だぜ、自分で手柄を立てようと躍起になっている時に、俺たちが裏でアレコレと暗躍していたと後で知ったら、旦那が拗ねてしまうかも知れねぇからな!」
「ニシカさんじゃないんだから、露骨に拗ねるなんて事はしないでしょう。しかし自分もできるだけ目立たない様に様子を探ってきますご主人さま」
「うるさいぜ!」

 貴人に対する礼を取って見せた男装の麗人に釣られて、上機嫌のニシカさんもその真似事を俺にして見せるではないか。
 そのまま倉庫から運び出されてソリ付きの荷台とともに、黄色長耳と褐色長耳の奥さんたちは任務に出かけて行った。

     ◆

 さて、一方残された俺たちはというとこちらは別の任務がある。
 ブルカ領の周辺に点在する寄騎の在郷領主たちは、言わばブルカの街の出城的な機能を有していると思われたのだ。
 来るべき王国からの独立を見据えていたのか、それら周辺各地のブルカ同盟軍に与する領主たちは方々に砦を築き、防衛対策を備えていたというわけなのだ。

「右手に持った剣にばかり意識を囚われていると、左手の短剣を見落としてしまう可能性がありますわ。本命は実のところこちらで、カウンターを狙っている可能性もありますものね」

 そんな指摘をしてきたのはカラメルネーゼさんである。
 蛸足麗人は貴族軍人上がりらしくその辺りの事が気になって、ギムルの軍勢の後詰を担当していたスウィンドウ卿にその所を質問したのだ。

「つまりイジリーだけに俺たちが意識を囚われていると、まだ未占領の他の村が連携して、背後から破壊工作などを行う可能性があると。そういうわけですなカラメルネーゼ夫人?」
「ええ、そういう事は大いにあるんじゃありませんこと?」
「確かにイジリーに限らずとも、斥候に動き回っているサルワタ猟兵のみなさんから砦の情報を上がっていますね。いざという時に備えて相互に連携ができる様な設計になっているのは間違いない。砦から魔法の伝書鳩がしきりに飛び立っている事は確認できておりますし、どの村にもある物見の塔にしたところで村の中心にあるというわけではなく、砦と一体化して少し離れた場所に存在している」
「そのいざという時、というのが現状ですわよ。考えたものですわね……」

 サルワタの開拓村にも俺の新し領地スルーヌにも存在したのが、物見の役割をする石塔だ。
 これがサルワタならば村の中心広場にほど近い小高い丘の上に作られていたし、スルーヌにしたところで領主館の近くに造られていた。
 それがブルカ近郊にある領地では、砦と一体化した本格的な防御施設として機能しているというのだから驚きだ。

「そこまで将来を見据え、ブルカ伯が計算していたという事でしょうか。どう思われますか婿殿は?」
「ツジンの入れ知恵という事ならばそういう可能性もあるんだろうね。だからこその身内と呼んでも差し支えない人間を、入り婿として周辺の領地に配置していたんだろうし」
「先日この近くの村で保護されたアップルスター卿というブルカ伯の身内にしても、その様な理由で王国本土方面に近い領地へ養子として入ったようでしたわ」

 アナホールの村落でお尻の貞操を奪われた姫騎士アップルスター卿は、俺たちに保護されてからは随分と大人しく捕虜収容施設で過ごしていた。
 オレンジハゲがあの性格だったし、あれの親戚筋という俺たちの村の助祭だったマテルドなども、声高にオレンジハゲに忠節を誓う様な口ぶりだったものだ。
 それに比べるとアップルスター卿は恭順というか従順な性格が災いしたのか、ゴルゴライでは求められる情報をつらつらと雁木マリや領主奥さんに述べていたらしいからな。
 今ではすっかり囚われの姫よろしく、お尻をさすりながら戦争奴隷として売られるその日を待っているご身分だ。

「またぞろツジンの如き人間の横やりが入る事は警戒しなければなりませんわ。婿殿、視察を実行するのであれば、周辺領地の付近も地理情報を仕入れておく必要がありませんこと?」
「カラメルネーゼさんのご意見はもっともだ。手分けして見て回るのがいいだろうね」

 ニシカさんと男装の麗人がギムルの囲むイジリー砦周辺を探っている間に、俺たちも他方面に探りを入れようと衆議が一致した。

 残っているメンバーはけもみみと女魔法使い、それに蛸足麗人とソープ嬢である。
 おみ足が元通りになったソープ嬢に遠出をさせるのは夫として気が引けるので、カラメルネーゼさんとともにイジリー村周辺を見て回ることにしてもらう。
 逆に元気なエルパコとマドゥーシャは問題なく斥候任務に当たれるはずだ。

 しかし、マドゥーシャを単独で野に放つのは逃げてくださいとお願いするのも同然である。
 するとけもみみだけ家族とわかれて行動か。ふむ……

「けもみみ奥さんも水先案内人と一緒にイジリー領内を見回る事になるけど、エルパコは寒いのは苦手な方か?」
「ブルカはあまり雪が積もる場所じゃなかったからね。でも、冬場に猟へ出たことはあるから平気だよ。少し寒いけど、慣れればへっちゃら」

 健気にそんな事を言うもんだから、俺はけもみみ奥さんの頭を撫でてやった。

「そうかエルパコ、男は黙っておしくらまんじゅうだぞ」
「エヘヘ。……シューターさんにくっついてたら暖かいもんね」

 ハイエナ獣人の本来の故郷がどこにあるのか知らないが、辺境のブルカ近郊で育ったエルパコは寒さもへっちゃららしい。
 尻尾をふりっと震わせながら俺の様子を上目遣いに伺ってくる。

「シューターさんこそムキムキ魔法の体はもう大丈夫?」

 イグニッション魔法の効果はどうにか収まり膨張感は失われている。
 けれども代わりにどことなしか倦怠感が体にまとわりついているのは事実で、やはり筋肉を爆ぜさせると、ひとは体が筋肉痛に見舞われるのである。

「無理をしなければ大丈夫さ。けど、いざという時は俺のところに駆けつけて守ってくれるかな?」
「もちろんだよシューターさん。何があっても離さないんだからっ」

 ひしっと俺の腕に抱き着いたけもみみが、嬉しそうにそう宣言をした。
 いや、けもみみ奥さん。
 あなたはこれから水先案内人と一緒に隣村との領境に出かけるんだからねっ?!

     ◆

「それでどうして、わたしが閣下とふたりきりでお出かけなんですかぁ……」

 とても嫌そうな顔をした女魔法使いが、俺を見上げてそんな言葉を口にした。
 仮にもこの女魔法使いマドゥーシャは俺の愛人奴隷という風に世間では認識されているのだから、そういう顔をするのはマジでやめてほしいところである。
 などと思っていたら、修道騎士のひとりにこんなことを言われた。

「閣下、閣下はマドゥーシャ夫人とは不仲なのですか?」
「不仲に決まってるじゃないですか! 自分から求めるものばかり求めて、わたしの求めているものは何ひとつ与えて下さらないんだから当然ですっ」
「こ、こら。おかしな言い回しで誤解を与える発言をするのはやめなさい!」

 いつもの魔法使いローブは自らの魔法で散逸してしまったので、女魔法使いは補給物資の中にあったタイツを拝借してきて、後は修道院に残っていた鼠色のローブを身に着けている。
 おかげで見た目は似非修道士に見えなくはないが、実際は顔が小賢しいので宗教関係者と言うのは悪相すぎるな。

「装備の方は大丈夫か」
「飛び散った護符は、回収できるだけ回収はしましたよ。けど、何枚か護符が張り付いちゃって取れなくなったんです。ほら」
「おお、水気を吸って安っぽい護符が張り合わせになってしまったんだな。このまま利用するとどうなるんだ?」
「無駄になるんですよ! 一度に二枚使ったらもったいない精霊が出てきますよっ。節約する意味がないじゃないですかもー」

 あんまりプリプリ不満を口にするものだから、見ていて腹の立った俺は女魔法使いの尻をピシャリと叩いてやった。

「ひゃん、何するんですか閣下!」
「お仕置きだよ、お仕置き。約束通りご褒美が欲しいのなら、大人しくいう事を聞きなさいっ」
「ふぁ、ふぁい。おちんぎん好きぃ……」

 俺はおちんぎんの力で女魔法使いの口を塞いでやった。
 騒がしいノリで斥候に出るのは論外だぜ。
 だがおちんぎんをくれてやるとはひと言も言っていないぜクックック。

 俺も村人みたいな服装を支給してもらい、その上からミノムシみたいな防寒具を身に着けて周辺視察に出かける事になる。
 軍馬は自分たちの連れてきたそれの中で、一番屈強そうなやつを一頭選んでふたり乗りだ。

「ニシカさんが言っていた通りに、雪が溶けだしてシャーベットみたいにドロドロの有様だな」
「この辺りは穀倉地帯の平原だから、日当たり良好で雪解けが早いんですよ。昼過ぎになれば小川に流れ出して地面が見えてくるかもしれませんね」

 ブルカにほど近いこの辺りの地形では、ゴルゴライや北に位置する森ほど積雪量も多くはなかったらしい。
 そんな事実を馬を進めつつ確認しながら村の集落をいくつか通過した。

 戦闘地域から避けていたおかげで、これら集落では今も農村生活が普通に営まれているので、農民小屋から顔を出した地元領民たちが、雪かきをしたり畑からその日のぶんの作物を収穫したりしている姿もチラホラと見える。
 こんな冬場に何が収穫できるんだと首をかしげたものだが、大根の親戚みたいな根菜をザルに入れて運んでいるところを見れば、食糧難の厳冬でもまだ食べるものは多少は残っているらしい。

「大根ですね大根。閣下はアレを食べたことがありますか?」
「ああ、大根みたいだと思ったらやっぱり大根か。食べた事はあるよ、冬場に煮物にして食べると美味いんだよな」
「そうなんですよ。秋の終わりに潰した豚と一緒に煮て食べると別格です。わたしも好きですよ、おちんぎんの次かその次の次ぐらいに」

 どれぐらい好きなのかわからないが、そこそこ好物であるらしいね。
 そうして防風林の向こう側から頭を出した石塔か何かを見やれば、あれがイジリーの砦という事が理解できた。
 確かに物見の塔と違って、その石塔がニョキニョキと複数連立しているじゃないか。

「ギムルがイジリーの砦にかかりきりになっている間に、マドゥーシャはツジンが手を打ってくる可能性があると思うか」
「思いますね。あのインチキ臭い修道士さまのツジン卿でしょう? わたしはお会いした事があるから、あのひとが悪人なのは存じておりますよ。チラリと見た限りあれは悪党の顔でした」
「それに手を貸していたきみがそういう事を言うかね……」
「いいんですわたしは。おちんぎんに忠実に生きていたら、そういう結果になったというだけですし。今ではこうして忠実なおちんぎん奴隷になって、贖罪しているじゃないですか?」

 俺の後ろに跨っている女魔法使いが、ブツブツと不満を口にしながら俺の腹に腕を回して抱き着いた。
 別に愛情表現でそんな事をやったというよりも、ただ馬から振り落とされないためなのはわかっているので嬉しくもなんともない。
 だがマドゥーシャの胸が押し付けられたのは悪くない。いいね!

「マドゥーシャ、きみならあの砦をどんな風に攻略しようと考えるかな?」
「わたしは軍学書に精通しているわけではないので、詳しいことはわかりませんけれど」

 背中でそんな前置きをしたところで、女魔法使いは言葉を続ける。

「堅固な砦に立て籠もっているのなら大火力魔法で強引に城門をこじ開けてしまいますかね。もちろんわたしだけでは無理です。けれども領主さまやッヨイさまみたいな、いにしえの魔法使いの禁呪を使えるのならば話は別です。わたしとッヨイさま、この場にふたり揃ったのなら、手っ取り早くそうした方が後腐れなくていいですね」

 非常に女魔法使いらしい回答をありがとうございます、ありがとうございます。
 難攻不落とまでは言わないが、そうする事が可能ならギムルは早い段階でッヨイさまを援軍に呼び寄せた方が、次の攻略対象にスムーズに取りかかれるのは確かだ。

「それに、」
「うん?」
「この冬を何とか乗り切れば勝てると踏んでいるのか、味方の援軍がかけつける事を期待できるから立て籠もりを選択したんじゃないですかね閣下」

 なるほどな、やはりツジンが駆けつける事を前提に知恵を授けていたという事は考えられないだろうか。
 だとするとツジンが大軍を率いてこの冬に駆けつける?
 連中は散々に叩き潰されて、軍勢は散り散りになって再建もままならない軍事情勢だという事は、ニシカさんの潜伏任務でもわかっていた事だ。
 その後の情報は途絶えて久しいが、恐らく一朝一夕に軍隊を再建できるなんて事は無いだろう。

「今から兵隊を徴募したところで戦士たちは農民あがりばかりです。魔法が使えるわけでもないし、行軍だっておぼつかないんじゃないですか?」
「という事は、触滅隊の時みたいに少数精鋭の工作員を率いて戦いを仕掛けてくるという可能性もあるわけだな。いやむしろツジンなら、そっちの方がありえるんじゃないか」

 もうひとつ俺なら考える事だが。
 自分たちの領主さまであるブルカ辺境伯ミゲルシャールは、盟主連合軍側に虜囚となって連れ去られている。
 ツジンが非情な人間なら切り捨てるだろうが、嫡男のフレディーマンソンとかいう男が父親の救出を考えていた場合はどうか。

「ゴルゴライまで工作員を前進させて、救出作戦を実施するんですか?」
「可能性としてはあるか」
「こんな雪の中でブルカからゴルゴライまで移動しようと思えば、リンドル川を使うか森の中を移動するしかないですねえ。しかも、ブルカさまがどこに囚われているのかの情報もないから、サルワタのお城かそれともゴルゴライかリンドルの宮殿か、それを探り出すのは骨が折れますよ。おちんぎんが足りませんダメー!」
「そうか駄目か」

 だとすると別の方法はどうだろう。

「ギムルを拉致して、人質交換をするとか。これなら少人数でもギムルの隙をついて襲撃する事はできるかも知れない」
「いかにもツジンさまが考えそうな作戦ですねえ。いやツジンさまとお話しした事は特にないんですけど」

 ないんかい!
 あれだけ知った様な口を利いていた女魔法使いでしたが、ツジンの事はよく知りませんでした。

 こうして隣の村の領境まで移動をしている最中に、何度かタンクロード隊と思われる野牛兵士たちの監視所らしいものをチラチラと見かけた。
 彼らは隣村の敵方がいつ攻めてきてもいい様に、兵力を分散して相互連携できる様に配置しているらしかった。
 どのみち雪原の中で移動するのならば、北の平原を故郷としていたミノタウロスたちの方が機動力もあるのかも知れない。
 事実、俺たちが跨っている馬だって野牛産の良馬だからね。

「ここまで離れるとまるでイジリーの村にある砦は確認する事ができないな」
「街道から外れたところに砦を作ったのは、そういう目的もあったのかも知れませんね閣下」

 背中で地図を広げながら、ひどくどうでもいい様に女魔法使いがそんな言葉を口にした。
 俺はと言うと野牛の兵士に発見されるのを避ける様に、監視所の隙間を潜る様に林の中に馬足を進めたのである。
 野牛の兵士たちは、どうやら外にばかり注意を払っていて、その背後を移動する俺たちの存在は気にも留めなかったようだね。
 タンクロードにバレたら叱責されやしないだろうか。

 チョロいもんだぜ、などと思っていたら林の中で誰何の声を投げつけられたのである。

「馬を止めて手綱を放しな」
「…………」
「おっと後ろの女魔法使いは下手に護符を取り出そうなんてしない事だ、手を懐内に入れた途端に、呪文が使えない様に鏃が頸根を貫通するよ?」
「ひえっ」

 林の中で響く声の主はマイサンドラのものだった。
 脅かすんじゃないよ?!

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