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異世界に転生したら村八分にされた 作者:狐谷まどか

第10章 冬籠りの辺境生活

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338 イジリーの砦 前

いったん投降後、後半パートを加筆いたしました。
 その夜、猛吹雪を受けてギシギシと軋む山小屋の中で俺は眠りについていた。
 雪風がいよいよ厳しくなったところで、不寝番に当たっていたけもみみ奥さんたちが外の柵に入れていた馬たちは中に引き入れたらしい。
 それだけを出来る広さが山小屋にはあった点を考えると、そういう事もはじめから計算されていたのだろう。

「王国の北部国境線沿いには、こうした軍事拠点を兼ねる山荘の様な施設が点在しております。厳冬が見込まれる地域の知恵というやつですね」
「してみると、この山小屋もその軍事拠点を兼ねる監視所のノウハウが流用されているという事になるねベローチュ」

 夢見心地の中で、不寝番をしていた男装の麗人やけもみみのそんな会話を聞いた気がする。
 なるほどなあ。これだけの広さがあれば馬を引き入れるのも問題ない。ついでに馬が山小屋にいるおかげで室内気温もぐっと上がった気がする。
 ムニャムニャと寝返りをうったニシカさんがしがみついてくるので、とても寝苦しい夜を過ごしながら。
 そんな夢うつつの思考を巡らせているうちに、俺は朝を迎えていた。

「すげえ、積雪がすげぇ……」

 只々凄い。
 雪は確かに降りやんでいた。
 山小屋の扉が引き戸(スライド式)になっていた理由もこの時ようやく理解した。
 普通のドアは屋内に引き入れるタイプなので、そんな事をしたら大量の雪が小屋の中に侵入してしまう。
 普通の引き込み式のドアじゃ、開けた途端に積もった雪がそれこそ雪崩れ込んでくるからな。
 引き戸なら恐る恐る扉を開いて、外の様子を観察できるというわけである。
 いや、勘違いかも知れないけれど……

「愛しいひと、一晩で吹雪が止んだようでよかったな。空は見違えるほど晴れ晴れとしている」
「寒さは相変わらずだけど、これでどうにか視察旅行の再開はできそうかな」

 ソープ嬢の言葉に俺は返事をしながらも、けもみみと男装の麗人が外に出て雪の深さがどの程度なのか棒を突っ込んでいるのを見て絶句した。
 ブーツが隠れてしまうほどの深さがあるのはいうに及ばず、下手をすれば太ももあたりまですっかり収まっているではないか。
 不整地のそれであるから、棒をあちこちに突っ込んでみれば、深さがまちまちである事も明々白々だからゲンナリだ。

「昨日の日中に解けた雪が硬く固まった上に、新しい雪が積もっているからな。しかもこれは昼間になると解け始めるから、泥沼ならぬ雪沼に早変わりだ。そうなりゃシャーベット状の雪が防寒具にまとわりついて大変なことになる。ひとも馬も歩くのに難儀する事になるぜ」
「「…………」」

 元いた世界ではこの土地からすれば南国みたいな場所にいた事になる俺と、万年を温かい地下ダンジョンで生活してきたソープ嬢は絶句した。
 ふたりして抱き合いながら外に出るのが嫌な気分になっていたところで、ニシカさんがみんなに号令をかけて出立の準備をさせる。

「おい女魔法使い、遠慮なくそこいらを焼き払え! そうしたらベローチュ、ソリを馬に繋いでクリスティーソープを載せてやってくれ」
「ほい来ましたッ」

 女魔法使いが蛇足奥さんとは違う意味で舌なめずりし、ニコニコ顔で手からおちんぎんビームを発射して、そこいらの雪を吹き飛ばしながらすぐにも溶かしにかかる。
 そうして開けた場所に馬たちが引き出されてくると、さっそくけもみみと男装の麗人が即席の馬ゾリをこさえて出立準備完了だ。

 ついでに山小屋の中に用意されていた毛布や何やらも幾つかのソリに積載させると、ニシカさんの跨った馬を先頭にして駆け出す。

「足場が不安定で馬が驚くかもしれませんわ。みなさんお気を付けになって」

 馬術の巧みなカラメルネーゼさんとニシカさんは単身で馬にまたがっていたけれど、残りの馬にはソリが括り付けられていた。そのうちの一頭はけもみみが御者をやってソープ嬢を乗せて運ぶことになる。
 出来の悪いチャリオットよろしく雪上をソリが駆け出して、陽が高く昇らないうちに少しでも距離を稼ごうと行動を開始した。

     ◆

 森の切れ目を抜け出てみれば、そこはもうシャブリン修道院の門前村にほど近い場所だった。
 平原地帯が広がっていて、小高い丘の場所にある修道院を遠くに臨む事ができる。
 そのすべて一帯が雪景色だったのだ。
 俺は西日本の生まれだから、こういう地平線のずっと向こう側まで雪景色に彩られた銀世界を見たのは、もしかすると初めての経験かも知れない。
 写真や動画で見るそれよりもずっと圧倒的な印象があって、感嘆の声を漏らさずにはいられなかった。

「……どこが元のブルカ街道なのか、これじゃまるでわからんな」
「少し盛り上がっている連なりが場所が街道の通っている場所とみて間違いないですわ。洪水や雪解けなどの際に、道が水没してしまわないための工夫と申しますか」
「言われてみれば確認できるな」

 馬を降りてザクザクと雪の中を歩いていたところ、背後から蛸足麗人がそれを教えてくれる。
 言われてみれば少し高さのある道なりの様なものが伺えた。
 なるほど、すると俺たちが森の縁から出て歩いている辺りは穀倉地帯という事になるのだろうか。まるでわからん。

「ソープ奥さまがこの様なお姿にお戻りになった以上は、無理にご主人さまの視察をギムルさまに隠しておくというおは、かえって不利益になるかと存じます。バレればそれはそれとして、隠し通す事が可能であればそうする程度にとどめ置き、今はゴルゴライより進発している補給部隊と邂逅する方が先決でしょう」
「んだな。バレても構わねえってのなら、すぐ側にあるシャブリン修道院に入場しちまうのが手っ取り早いが、どうする?」
「まあおふたりのご意見はもっともだ」

 何もない場所で補給部隊が来るのをただ待ち続けるのは、ある意味で無駄な事だった。
 俺は男装の麗人とニシカさんの同調を受け入れて、シャブリン修道院に向かう事をすぐに決断した。

「守備隊が入っているはずで、恐らくは野牛の兵士か騎士修道会のみなさんでしょうから、ギムルさんにはこの視察は告知していない旨を伝えれば大丈夫だろうと思われます。おや?」
「シューターさん。騎兵がふたり、野牛と修道騎士だよ」

 口々に男装の麗人とけもみみがそう教えてくれたので、俺は視線の先に顔を向ける。
 見れば確かに雪煙を立てながらこちらに駆けてくる二頭の騎馬が見えた。一方が紅のマントを靡かせているところを見ると確かにミノタウロスの騎兵である事は間違いない。
 もう一方は大きく剣を引き抜いて頭上でグルグルとそれを回しているが、友軍に対して発見したと知らせているのだろう。

「ああ、修道院の鐘の塔から見ていたんだぜ。向こうから眼を剥いて観察している兵士がひとり見える。ありゃ猟師だな……」

 ニシカさんの言葉通り、しきりに背後を気にしながら剣を回していたのは修道騎士が修道院に在陣している友軍に何かを知らせるためだったのだろう。
 近くにやって来ると雪上にも関わらず俺を目視して飛び降りると、その場で平伏して口上を述べたのである。

「シューター閣下とお見受けします。俺は修道騎士隊を預かっている現場指揮官です。以前、サルワタの城内でお会いした事がありました」
「おお、きみはうちの領主奥さんの傘下に加わっていたひとだね。確かハーナディンの同僚だったとか」
「元部下です。ご視察お疲れ様です! この様な天候の時にわざわざお越しいただいたという事は、何かゴルゴライで火急の事態が起きたとか……?」
「いや、そういうわけではなく。ギムル卿の戦況を様子見にね……」

 俺は奥さんたちと顔を見合わせて、言葉を濁す様にそう説明をした。
 まあ何れ俺たちがギムルのまわりをウロチョロしている事は当人にバレてしまうだろうが、それはできるだけ先の方がいいだろう。

「なるほど軍監としての任務でありましたか。ただちにご夫人さまたちの休憩所を手配いたしますので、シャブリン修道院にご入場ください」

 ありがとうございます、ありがとうございます。
 まともな防寒具をアンタッチャブルな魔法で吹き飛ばされてからこっち、ありあわせの猟師装束をしているもんだから暖を取りたかった。
 明らかにソープ嬢は下半身が寒そうにしていたし、俺などは元がゴブリン用だったのか微妙にサイズがちんちくりんで身丈が合っていなかったからな。

 出迎えに来たふたりは互いに顔を見合わせて、一方の野牛の騎兵が大慌てでシャブリン修道院の門前村へと引き上げていった。

「どうですの、そっちの様子は」
「少しは修道院周辺の整理がつきまして、いくつかの倉庫が指揮所として稼働しております。それから修道院そのものにつきましては、天井が戦災で崩れ落ちておりますのでどうにもなりません。宿泊所のいくつかだけは居住に耐える様になりましたが、女神様にお祈りをささげる場所としては不適切としか言いようがありませんな。カラメルネーゼ夫人にはご苦労をおかけするかもしれません」
「女神様へのお祈りはどこででもできるものですわ。信仰は心の持ち様、あなたの心と祈りに女神様はお答えくださるのですよ。おーっほっほっほ!」
「ごもっともであります、カラメルネーゼ夫人」

 夫人と呼ばれたのがよほど嬉しかったのか、蛸足麗人の哄笑がどこまでも白き平原に響き渡ったのである。

     ◆

 さてギムルの攻略状況を聞かせてくれたのは、かつて荘厳な礼拝所であっただろう場所で待ち構えていた修道騎士スウィンドウだった。
 いつもの法衣の上に毛皮の外套をまとっていたものだから、外観はまるで蛮族の戦士である。

「戦況の方は、ハッキリ申して最悪のひと言ですな」
「そんなに悪いのか……」
「はい、いや、その何と申すか。これらいくつかの村や集落に戦力を派遣して接収する事そのものは順調に進みました。もはや在郷の領主単独で一〇〇〇に及ぶ軍勢を背景にした我ら盟主連合軍に歯向かう術はありませんからな」
「すると、その先の村で問題があったと」
「結論から言えばそういう事になります。どうやらブルカ領軍のエリート騎士上がりの男が婿として入った村がひとつありましてな、」

 指揮所のひとつに使われている修道院の礼拝所の床に、直接薪をくべて暖を取っている有様だった。
 雁木マリが目撃すれば激高しかねない話だが、背に腹は代えられないという理由でスウィンドウ卿はこれを黙認したらしい。
 そこに家族は集まって、俺とスウィンドウさんの会話そっちのけで暖を取っている。
 話を聞いているのはベローチュとカラメルネーゼさんだけだ。

「地図をご覧ください。ここが現在地のシャブリン修道院で、こっちが現在ギムル卿が攻略に取りかかっている村です」
「村の名前はイジリーですわね。ブルカ領にほど近い場所で敵軍に潜入している際にこの村を経由したのを覚えておりますわ」
「なるほど、すでに村そのものの攻略は完了しているのですが、問題は例のブルカ騎士上がりの男、村の領内に築城をしておったのです。一部の領民を引き入れて、丘の上に立つ砦に立て籠って春まで抵抗する姿勢をみせておるのですよ……」

 地図の一点を示しながらスウィンドウ卿は弱り切った顔をしていた。
 森の中に囲まれた様な、村のはずれにある何かの施設マークがそれなのだろう。

「カラメルネーゼさん、敵軍に紛れ込んでいた際にその砦を目撃したとかは?」
「ありますわ。森の中からぽっかり砦の塔が出ておりましたから、あれがそうなのだろうと判断したのですけれども。残念ながら王国軍に所属していた頃、攻城戦に参加した事がないので、どういう構造の砦か、どういう対策が出来るのかまでは判断つきかねますわ」
「ベローチュは何か情報を持ってないか?」
「残念ながら自分もモノをこの眼で確認しない事には何とも」

 ふたりの軍人系奥さんは首を横に振った。
 城攻めをする時は三倍の兵士を揃えるのが常道、なんて事は巷に溢れているモノの本にも書かれている事だ。
 その理屈はともかくとして、頑強な城に立て籠もった相手を力づくで攻めるには、どうしても数で包囲してじわじわ攻めるより他に手段がない。

「ギムルさんは包囲するだけは出来ているんですね?」
「はい。これまでが賊徒の撃退だけで占領作戦を行っておりましたので、ここに来てご子息どのも勝手が違うと困っている様子です」
「彼もあれでアレクサンドロシアちゃんに似て激情家なところがあるからな。焦れて無理攻めすると、かえって被害ばかりが出るハメになる」
「まさにご子息どのはその点で手を焼かれております。先日も天候の悪い朝に奇襲攻撃を仕掛けたところ、あべこべに城から打って出た敵の騎兵集団に、さんざん蹴散らされたという次第です」

 スウィンドウ卿は一日も早くシャブリン修道院の再建を雁木マリより命じられているらしく、この場所を動く事ができないのも歯がゆいらしい。
 ついでに現場の指揮権を持っているのがギムルという事もあって、あまり勝手な援護射撃をするのもどうかと手出しの判断もつきかねていたらしいね。

「シューターどのが来られたのであれば、アレクサンドロシア卿に意見具申していただき援軍を期待できるという事でしょうかな?」
「いやあ、どうだろう」

 実際のところ、アレクサンドロシアちゃんにしてもようじょにしても、援軍を差し向けて早い段階でカタを付けたがっているのは事実だ。
 冬季の戦闘はただでさえ疲弊が伴うものだし包囲戦ともなれば時間との勝負になる。

「春になれば態勢を立て直したブルカ同盟軍の援軍が来ることを考えれば、まごまごしている猶予はありません。あるいは逆に、冬季の最中でも軍勢を差し向けてくる可能性すらある」
「自分たちの眼の前の領地を掠め取られようとしているのですから、それも考えられますご主人さま」
「それもあって、武勇を頼みにできるタンクロード卿も、他の手付かずの村に対する備えで別働隊を指揮しておられるのです」

 スウィンドウ卿も男装の麗人も状況判断からそう言葉を連ねた。
 さてどうしたもんかね。
 だいぶ時間のかかる攻略作戦になりそうな気がする。
 俺が困りきって地図を見下ろしていたところに、用を足して帰って来たニシカさんが背後にあらわれたのである。

「ようシューター、あっちでサルワタ出身のゴブリンが木彫りのゴブリン人形を作っていたぜ。ん? 何を難しい顔をしているんだ……」

 地図と睨めっこしている俺の方に肘を乗っけて笑いかけたニシカさんである。
 そのタイミングでバルンバルンとおっぱいが良く揺れた。
 心に揺さぶりをかけられた俺は、たまらず息子を庇うのだった。

「揺さぶり、揺さぶり……」

 見てはだめだ、見てはだめだ……
 考えるんだ、感じるんじゃない。そっちじゃない!

「確かに軍学書に照らし合わせれば、相手に揺さぶりをかけて引っ張り出すのが正しいかと思いますご主人さま。しかし相手も貴族軍人上がりであれば、その辺りの陽動に乗って来るでしょうか?」
「いいえ、やるだけの手段は全て尽くすのがよろしいですわよベローチュさん。わたくしに考えがあります、相手にこちらが舐めきって油断している姿を見せれば、あいても好機と見るのではありませんこと?」
「酒宴を開いて油断を誘うわけですな。さっそくゴルゴライから運び込まれたばかりの酒蔵をギムル卿のところへ送り届ける事にしましょう! エクセル卿であれば意図を説明すれば差配をしてくださるだろうしな……」

 俺が息子と戯れている間に、三人が口々に話題が進展しているものだから、妙な気分になってしまったのである。
 ニシカさんのおっぱいが上機嫌に言った。

「おう、何だいい方向に解決したんじゃねえのか? さすがシューターは学があるぜッ」
「シューターさんなら当然だよ」
「閣下ぁ、約束のご褒美はいつもらえるか教えてくれませんかぁ?」

 いやいや。
 お手柄なのは、ニシカさんのたわわなお胸に違いないと心に思う吉宗であった。
感想お返事が遅延しておりますが、近日中にお返事できればと思います!
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