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異世界に転生したら村八分にされた 作者:狐谷まどか

第10章 冬籠りの辺境生活

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337 全裸の矜持

 山小屋周辺の様子を見に行っていたニシカさんが戻って来たのは、夕刻前の事だ。
 その頃になれば外はまた雪が散らつきはじめていて、寒そうにおっぱいを抱き寄せた黄色い花嫁が、立て付けの悪い扉を開いたけもみみに迎えられて入って来たのである。

「こりゃやべえぞ。今夜は本格的に吹雪く感じじゃねえのか。もうわけがわからねえな」
「例年だとそんなにこの辺りは寒くないのかい?」
「南の方でこの有様だからな、サルワタじゃもう完全に一面の冬景色になってるんじゃねえのか?」

 そんな会話が聞こえてきたところで、全裸で体を温め合っていた俺たちは、もそもそと毛布の中から這い出して来る。

「いいぜ、そのまま楽にしていな。ワイバーンがまだ一頭周辺を飛び回っていたので、最後に仕留めてきてやったぜ。単独でウロついている若ぇのは手がかからないからいいぜ」
「まだ残っていたんですか?!」

 素っ頓狂な俺の声などは相手にもせず、ニシカさんは防寒具の背中に被っていた雪を払い落しながら土窯の側まで進んだ。

「まあこれで仕舞だとは思うけどよ。これで全部で五つの逆鱗を手に入れたことになるから、換金すれば多少の金にはなるはずだ……ってもうオレは猟師だけをやっているわけじゃねえから、そんな事は気にしなくていいんだったな。おい、白湯をくれ白湯を」
「少しお待ちになって下さらないかしら。エルパコさん、そこの木のコップを取って下さらないかしら?」

 それにしても都合五頭もの若い飛龍個体がこの周辺に集まっている原因は何なのかというと、やはりニシカさんの見立てによれば戦争の結果が大きいのではないかという事らしい。

「ひとつは人間の死体目当てという事もあったんだろうが、ゴルゴライ戦線で被害の出た村落はどこも今は無人地帯だ。そうすると夏場は森の深い場所で生活している野生の牛や大型の鹿たちだけじゃなく、毛長マンモスどもも森の外縁まで南下して来ているみたいだぜ。あちこちで真新しい大きな足跡を見たから、あれがワイバーンどもの狙い目だったに違いねぇ」

 ワイバーンも若い個体のうちは体格も小さい。
 大人の個体がマイクロバス並みの大きさなら、若い個体はせいぜい軽トラックだ。
 マンモスなんて、元いた世界じゃ当に絶滅してしまったような毛むくじゃらの象が跋扈しているこのファンタジー世界の事を考えると、大人の個体でもない限りはマンモスの群れを襲う時も集団でおこなう必要があるのかも知れない。

「若い個体が五頭もいたという事は、野生の牛や大型の鹿だけで腹が満たされるわきゃねえ。マンモスの群れ狙いとみて間違いないぜ。それを追いかける頭数が減ったという事は、ケダモノどもの計画も大いに狂ったというわけだ。おお、ありがてぇ。白湯は温まるからな!」

 ニシカさんは嬉しそうに白湯の入った木のマグカップを蛸足麗人から受け取りながら、安っぽい木の椅子へ逆さに座って見せた。
 視線を俺たちに向けながら言葉を続ける。

「季節が冬場でよかったというのはあるかもしれないぜ。これが夏なら、オレたちが戦争をおっぱじめた上空に、巣立ちしたばかりのワイバーンの若い連中が飛び回っていたというわけだ」
「そうなれば阿鼻叫喚になった事は間違いありませんわね。地上にはブルカ同盟軍の大軍勢が、空にはトカゲの王様が飛び回る。周りじゅうが敵だらけではありませんこと?!」
「そういうこった。まあ、そうなりゃブルカの軍勢にも襲いかかるワイバーンだっていただろうけどよ、連中は知恵の足りねぇケダモノだからな。どっちに襲いかかるかは時の運というわけさ」

 ズズズと白湯をすすってアチッチなんてやったところで、俺たち全員がその地獄絵図を想像して嫌な気分になった。
 確かに人数を頼みにすれば一頭当りの若いワイバーンの個体なら怖くはないかも知れない。
 元いた世界にいたような伝説上のワイバーンでもなし、火を噴くわけでもないから数を頼みにタコ殴りをすれば、揉み潰す様に仕留める事は出来ただろう。

「けれども、その場合はあのバインドボイスとかいう魔法の方向で、軍勢がまとまって大混乱になっていた可能性があったわけですわよね、ああ恐ろしや。もう他にワイバーンはいないんですわよね、ニシカさん?!」
「少なくともこの周辺にはな。単独で獲物を狩るなら、もう少し弱くて小さいヤツを狙うだろうぜ連中も」

 触手を縮めて身震いをして見せた蛸足麗人に、ニシカさんが笑って返事をした。

「ぼくの弓では手も足も出なかったよ。今度は、ぼくも長弓を用意した方がいいかなニシカさん。それなら弓の使い方、教えてもらいたいな」
「お前ぇさんは背がちびっこいからな、無理に長弓を使わなくてもいい。アレは使いこなすのもそれなりに大変なんだぜ」

 俺の隣にやって来たけもみみが、耳をしきりに動かしながらも来るべき再戦を想定してそんな言葉を口にした。それにもニシカさんは微笑を浮かべて丁寧に返事をする。

「そもそも。とっておきの特別の魔法は使いどころが難しいんですよね。奥さま方や先輩をお守りするために使ったのに、寒いだの危ないだの二度と使うなだのとご不満ばかり並べられて。わたしがアンタッチャブルな魔法を使わなければ、みなさんいまごろ、女神様の祝福を受けて極楽浄土(おちんぎんランド)に魂が旅立っていたかもしれないんですよ!」
「お前ぇの特異な戦い方は引き付けてぶっ放つタイプだからな。それも悪くはねぇが、つるべ射ちにして相手を寄せ付けないというのも、猟では必要な方法だぜ。相手はデカブツだ、近寄らせればこっちがそれだけ不利になる。無理はしねぇこった」

 ニシカさんに諭されて「な、なるほど」なんて殊勝に背中を丸める女魔法使いである。それほど大きくはない胸が、背中を丸めるのにあわせて垂れた。いいね!

「わたしもこれだけ寒い場所で戦えと言われても、全力を出せる自信がないからな。もうワイバーンは願い下げだぞニシカ義姉さん」
「人間とケダモノの差は知恵の有無だぜ? 無理やり体を張って戦う必要はねえ、全力を出しゃいいのはほんの一瞬だけでいいのよ。後は知恵比べで相手の優位に立てばいい。優位な地形と、優位な立場でな」

 ふむなるほどなどとソープ嬢は言われて関心しているけれど、その前にうなずくたびに反応する尻尾が、何気に俺の背中あたりでクネクネ動いている。こそばゆいやめて……

「やいシューター。不平不満ばかり口にしやがるお前ぇの嫁どもの態度を見ていると、体の方は問題なさそうみたいだな。明日には出られそうなのか?」
「問題はないと思いますよ。防寒具の類も猟師セットが山小屋に常備されていたから何とかなると思いますし、一番の怪我をしていたベローチュも骨までは折れていなかったみたいだし」

 ディープなキスをしないと治療できないソープ嬢の回復魔法で、男装の麗人も今はピンシャンとしている。
 ついでにポーションジャンキーの副作用なのか後遺症なのか、それも一緒に回復していたのでありがたいね。

「ご主人さま、自分の体はもう大丈夫です。明日には山小屋を発って、ギムルさまのおられる戦闘地域まで移動を再開しましょう」
「わかった。ギムル勢の視察を無理に強行する必要はないんだぞ、無理なら引き返したっていい」
「いえ、防寒具の類を失った点は問題かもしれませんが、それ以外は一日予定が遅れただけですので、問題ないでしょう」
「そ、そうか。じゃあ、みんなもそれでいいかな?」

 俺の言葉に注目した奥さんたちも無言でうなずき返した。
 すると、そこで失った防寒具についてですが、と男装の麗人が言葉を口にするではないか。

「この地図をご覧ください。現在地点がここ、この先で南下する様にすれば、森の外縁とブルカ街道がもっとも接近する箇所があります」
「シャブリン修道院の近くに出る場所だね、ベローチュ?」
「はいエルパコ奥さま。先の戦争では、この付近に賢くも養女さまが指揮する部隊が、ここに兵士を伏せて敵を待ち構えていました。ちょうど街道に接近する位置で森の中からも見晴らしがよく、ここを通過する補給部隊を発見するのには最適な場所と言えるでしょう」
「?」

 朗々と俺たち全員を見回しながらそう説明する男装の麗人の言葉に、俺はちょっと意味がわからなくて首を傾げる。
 すると、背中に毛布を引っかけただけのベローチュが、大きく身を乗り出して豊かなお胸をばるんと揺らし説明をするのだ。

「自分の記憶違いでなければ、本日モエキー奥さまのご差配により補給部隊がゴルゴライより、ギムルさまのおられる前線に向けて送り出されます。その中には当然、冬季作戦の継続を意図して戦士たちの防寒具が多数含まれている事を書類で自分は確認もしております」
「なるほどですわ。それをわたくしたちが強奪できれば、いつまでもこの獣臭い、悪趣味な猛獣の毛皮服を身にまとわなくてもよろしいわけですわね!」

 強奪って、それじゃ盗賊じゃないか?!
 都会派の貴族商人からすれば猛獣の毛皮でできたの防寒具はお気に召さなかったのかも知れない。
 彼女が本来身に着けていた防寒具は、全裸奥さんになったソープ嬢の蛇足に巻き付けたので犠牲になったのだ。
 本来お貴族さまが身に着けている様な毛皮はミンクとか兎とかだろうし、しょうがないよね。
 などと俺の中で納得しようとしたのだが……
 案の定、耳ざとくその言葉に反応したのがエルパコとニシカさんだ。

「猟師さんに謝って!」
「ひっ?! 何ですの……」
「義姉さんは猟師の独り娘で、形見にシューターさんが頂いたありがたい毛皮のチョッキだってまだ残ってるんだよ! だから義姉さんに謝って!!」
「えっ。申し訳ありあませんでしたわっ……」

 突如、けもみみにお叱りを受けて萎縮するカラメルネーゼさんである。

「まあ手前ぇの趣味に合わねえかも知れねえが、猟師にとっちゃこいつはシンボルだシンボル、お前さんも猟師のシューターに嫁いだんだから、一家のしきたりには従うもんだぜ。ん?」
「む、婿殿は女神様の聖使徒にしてスルーヌ領主ですわよ?!」
「馬鹿野郎! 使徒だ貴族だと言う前に、こいつはただの全裸だッ」
「…………」

 いやまあ今も全裸ですけど……
 凄んで見せたニシカさんに、触手をクネクネさせながら蛸足麗人は押し黙ってしまった。

「裸一貫猟師から成り上がって今に至るのがこいつの生き様だ。猟師が無ければ今が無かったシューターの事を考えれば、猟師を貴ぶ全裸でも何も問題はねえ。な? とりあえずそいつを着ておけばいいんだ」
「その理屈だとぼくらもみんな全裸でないといけなくなるよニシカさん」
「そんなわきゃあるか馬鹿野郎! こいつは全裸で平気かもしれねえが、オレたちゃ風邪を引いちまうだろうがよ!」

 そんな、ひとを馬鹿だから全裸でも風邪引かないみたいに言うのやめてください!
 全裸の矜持とか、そういうのはないので服を着ましょう服を。

「と、とにかく明日こそはギムルさんの視察を再開するのだから、みんなで早めに就寝しましょう。それと強奪なんかしなくても、話を付ければいいんだからねっ。間違っても味方を襲撃なんて言っちゃ駄目だよ!」
「わ、わかりましたわ。申し訳ありません婿殿……」
「いいってことさ。全裸だもんねっ」

 駄目ですダメーと蛸足麗人を諭しながら慰めたところで、これ以上話がややこしくならない様に会話を打ち切った。
 外は扉や板窓を叩く吹雪がますます激しくなっている。
 さっさと軽めの夕飯を済ませて就寝する事にした。
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