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異世界に転生したら村八分にされた 作者:狐谷まどか

第10章 冬籠りの辺境生活

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祝クリスマス記念SS 夫への手紙 後

「シューターが好きなもの? そうね、夜になるとあたしのお尻ばかり見ているから、アイツはお尻が好きなんじゃないかしら……」

 執務の合間に休憩するため居間へやって来たガンギマリーさんは、いたって真面目な顔をなさってそんな言葉を漏らしたのでした。

「プレゼントがお尻ではいつもと変わらないじゃないですかあ。モノですよモノ、例えば手鏡とかメイスとか手ぬぐいとか! マリアツンデレジアさんは絵画をプレゼントされたそうですねえっ」
「そ、それはわたしたちが頂いたものですよダルクちゃん。何かシューターさんに妻として日頃の感謝を込めてお渡ししようと、ダルクちゃんと話し合っていたのです」
「なるほど、プレゼントをアイツに渡そうって話になっていたのね、ふむ……」

 アゴに手を当てて考え込むガンギマリーさんですが、同じ女神様の聖使徒としてこの世界にやってきた彼女の事ですから、何かアイデアがあるかもしれないと思ったのですが……

「アイツが欲しがるもの、アイツが欲しがるもの。そうして考えてみると何がいいのか思いつかないわね」
「シューターさんはモノを収集する様なご趣味もありませんし」
「強いて言うなら旦那さまは、時々ゴブリン人形にご興味を示されておいででしたねえ」
「ギュウウン」

 三人顔を突き合わせたところで、何もいいアイデアが浮かびませんでした。
 確かにシューターさんは、時々サルワタ名産のゴブリン人形の様な木彫りの細工をしていたことがありましたけれど、ッヨイちゃんやバジルちゃんの木彫りに挑戦した程度です。
 この街でゴブリン人形に興味を示されたのは、サルワタ以外で珍しくお土産として売られていたからでしょう。

「あたしも生まれた土地が同じだってだけで、アッチで一緒に生活していたわけでもないしね。そもそもあたしたち妻は、アイツと夫婦になって日も浅いし……」
「これでは他の奥さんに相談しても、似たような結果になってしまうかもしれませんね」
「困りましたねぇ義姉さん。ガンギマリーさま、旦那さまがお帰りになるのは、どれぐらい先でしたっけ……?」
「街道を逸れて森を進むとなれば、通常の倍以上の行路になるはずだから四、五日といったところかしら。何もなければだけれど。三人いれば文殊の知恵と言うけれど、このままじゃだめね」
「何とか旦那さまが返ってくるまでに、知恵を絞ってプレゼントを考えましょう」
「はい義姉さん!」
「わかったわ」

 ゴルゴライに残っている夫の他の妻たち家族のみなさん。
 それはこの場にいる三人を除くと領主さま、マリアツンデレジアさま、それにラメエちゃんの三人です。
 次の順番を考えればモエキーさんやクレメンスさん、それにエレクトラさんも加わることになるのですが、生憎それらのみなさんのうち、何人かはお勤めがあるので迎賓館を不在にしていました。
 とは言え、

「やはりいくら妻として過ごした時間が短いとは言っても、家族が集まれば見落としているシューターさんの喜ぶものがあるかもしれません」

 そんなお話になったところで、それぞれの私室でくつろいでおられた領主さまやマリアツンデレジアさまをお呼びして、今いるメンバーで家族会議を開こうという流れになったのです。 
 ちなみにラメエちゃんはジイさんを相手に、歴史書のお勉強をなさっていた様なので好都合です。

「それでしたら。すっかりお茶が冷めてしまいましたから、義姉さんガンギマリーさん、淹れ直しましょうか?」
「そうしてくださるとありがたいわね。外は相変わらず曇り空で、時折雪が降っているのかしら……」
「その様ですね。せっかくなので他のご家族もお呼びするのだから、お茶菓子も用意しましょうか」

 わたしがその様な提案をすると、ガンギマリーさんもダルクちゃんも同意してくださりました。
 こうして領主さまや御台さまとシェーンさま、そしてラメエちゃんと騎士ジイさんを加えて、ささやかな家族会議となりました。
 居心地悪そうにシェーンさまはしておられましたが、彼もまたサルワタ貴族の一員になるのですから、サルワタ貴族の在り様を見ていただくいい機会です。

 そうして居間に集まってみると、開口一番にアレクサンドロシアさまがこの様な事を口にしたのです。

「そう言えばお兄ちゃんは、意外にも筆まめなところがあるのう」
「筆まめ、と言うとお手紙でしょうかドロシアさまぁ?」

 ダルクちゃんの質問にコクリと頷いてから柑橘の切り身を口にした領主さまは、そのままティーカップを口元に運んで舌を湿らせます。
 そうしてニッコリ笑ったところでこう言葉を続けるのでした。

「外交使節に出ている時や、この前の徴税官の任務に赴いている時もそうだったが、読み書きを覚えはじめてからは何かある毎に文をよこしてくるのだ。やれ村の様子はどうですかとか、他の妻はどう過ごしているかとか。仕舞には文を領内の何処からでも自由に飛ばせる様に、魔法の伝書鳩を養殖して増やすのはどうかと手紙をよこしてきたこともある」

 その話は夜伽にも聞かされたそうで、何かある度にわたしたちにも同意を求めておいででしたので存じています。
 渋い顔をなさったアレクサンドロシアさまは、そのままマタニティドレスの胸元に手を入れて懐内から何かの紙片を幾つも取り出して見せるのです。

「こっちはダルクによろしくと書いたもので、そちらはマリアツンデレジア卿に愛していると伝えてくれと書かれたものだ。不愉快な事にお兄ちゃんは、わらわの事はそっちのけで他の家族ばかり気にしているのだから腹立たしい!」
「そう言えばわたしも、ブルカの街で旦那さまがお出かけになった際、ギムルさまに文を託してくださったことがありました」

 あの時は夫もわたしも読み書きができませんでしたから、代筆なさり代読してくださったのはギムルさまです。


「それはいい提案だわ! わたしも全裸卿に日頃の感謝を込めて手紙を書く事にするわ。ひ、日頃の感謝……何があるかしら。命を助けて下さりありがとう、本領安堵の口利きをしてくださりありがとう、違うわね……」
「ラメエお嬢さま、こういう場合は妻としてこれからも幾久(いくひさ)しく愛を紡ぎましょうと書き添えるのがよろしいですぞ」
「じいは冴えているわね。それがいいわっ」

 ラメエちゃんは奥さんになって日も浅いので、まだまだこれからが思い出作りの毎日ですもんね。
 老騎士のジイさんにアドバイスを受けて元気にオレンジ髪を揺らしているラメエちゃんを、わたしやガンギマリーさんは微笑ましく眺めているのでした。

「それではみなで、プレゼントに添える手紙を書くとするか。お前たちもその様にいたせ、筆まめのお兄ちゃんならば何かしら気の利いた返書をしたためるやもしれぬ」
「そうですねえ。わたしもドロシアさまに賛成です! ねえ義姉さん?」
「お手紙ですかちょっと恥ずかしいですね……」

 それでは妻たちみんなでシューターさんにお手紙を書きましょうという空気になったのでした。
 ひとまずは今いるわたしたちで書いておき、不在の家族からはお帰りになられてからコッソリと集めるのがいいでしょうか。

「けれども、それでしたら確かニシカ卿は読み書きができないという事ではありませんの。その点はいかがいたしますの?」

 言われてみれば、マリアツンデレジアさまのお言葉はもっともです。
 わたしは近頃になってようやく読み書きを最低限不自由しない程度になりましたが、ニシカさんはまだ自分の名前を書くのも苦労されていたはずです。すると、

「カサンドラよ、そなたが正妻としてあの者の代筆を引き受けてくれるかの」
「それは構いませんけれども、そのう。ニシカさんの性格ですから、そういうのを気恥ずかしがってやりたがらない気がするのですが……」
「その時はいつも酒をありがとうとか、適当に見繕っておけばよい」

 不機嫌に鼻を鳴らしてみせた領主さまが、投げやりにその様な事を言うのでした。

「それでしたら、わたしが代筆しても構いませんのよ。これでも宮廷伯の娘として、方々のお貴族方に信書をお送りするのが日常でしたもの」

 全裸で部屋の脇に控えている使用人のひとを呼びつけたマリアツンデレジアさまは、家族のみんさんのために筆記用具と紙を持ってきなさいとお命じになりました。
 ついつい自分で立ち上がろうとしたものの、そこは正妻なのだからとみなさんにわたしは押しとどめられてしまいます。

「こういう事は慣れているわたしが一番に、みなさんにお手本をみせますのよ。さて、この様な感じでみなさんお書きになりなさいな……」


 永遠の伴侶ニシカより、最愛の夫シューターさまへ。

 離れてみればわかる事ですが、あなたとの絆はわたしの全てでした。
 夜毎、逢瀬を重ねる度にこの想いは強まり、任地へ赴きあなたの存在が遠く離れて初めて、わたしの中でそれはますます強まり、それは確信へと繋がったのです。
 この気持ちは例え魂が女神様の祝福を受け異世界に旅立とうとも、その先で来世もまたあなたと添い遂げたいと切に感じる事でしょう。
 願わくば妻として子を授かり、やがては母としてあなたの分身を後の世に残す幸せを授かりたいものですが、今はこの様なご時世。
 断腸の思いでその気持ち胸に秘め置き、来るべき平和な世のため共に手を携えてこれを成しましょう。

 スルーヌ騎士にして独眼龍殺し、鱗裂きのニシカ。


「ざっとこんな感じですの。なかなかの力作、きっとこれを受け取ったシューターさまは感涙する事まちがいなしですのよ!」
「義母さま。こ、これは読んでいる義息子の僕まで恥ずかしくなってしまいます……」
「何を仰いますかシェーンさまっ。このくらいの信書を書けずして貴族とは申しませんのよ?!」
「そもそもニシカ義母さまはわたしなんて綺麗な言葉は使わないよ。オレですよ義母さま」
「そういう問題ではありませんのよ!」

 田舎の村娘に過ぎなかったわたしには、とても思い至らない様な文面をスラスラと書き連ねた御台さまです。
 不平を口になされたシェーンさまを、御台さまは羽根ペンを弄びながらお叱りになったのでした。

「それで肝心のプレゼントをどうするか決まってないのだけれど、まさか自分にリボンを付けてプレゼント、などという事はおかしいわよ?」
「女神様のおわす世界では、その様な風習があるんですか聖女さま?!」
「な、ないわよそんなの。でもシューターならちょっと好きそうかなとか思ったけれど……も、もっと別のモノがいいわ。そう、例えばサルワタらしいものとか!」

 ガンギマリーさんとラメエちゃんは手文庫から筆記用具を持ち出しながら思案に暮れています。
 サルワタらしいものと言ってわたしが脳裏に浮かべたものと言えば、ワイバーンにサルワタマス、後はやっぱりゴブリン人形ぐらいのものです。

「わらわはお腹にわが子がおるので、これがお兄ちゃんへの最大のプレゼントだ。アッハッハ」
「それではわたしたちがプレゼント出来ないですようドロシアさま!」
「そうですのよ、今から授かっても早くて一年近く先ですの。そもそも家族のルールを無視したアレクサンドロシア卿が――」
「その事はもう話が付いたはずではないか! 今さら蒸し返すとはマリアツンデレジア卿、そなた貴族の風上にも置けぬわ。何ならシェーン子爵を人身御供に差し出せばいいのではないか。ん?」
「ぼ、僕が人身御供?! 冗談じゃないっ」

 ワイバーンをプレゼントするなんてもっての他ですし、サルワタマスは食べ物ですから形として残るものではありません。
 かと言ってゴブリン人形では旦那さまはきっと喜ばないでしょう。
 ありふれた民芸品を、家族でいくつもプレゼントしても仕方がありませんし……

「それなら旦那さまの木彫りであるとか、あの方の信仰しているという全裸を貴ぶ女神様の像をプレゼントするというのはどうかしら!」
「なるほど、さすがラメエお嬢さまです!」

 ラメエちゃんとジイさんの主従がそんな提案をすると、ふむふむ確かにという賛同の意見があちこちから飛び出します。

「全裸を貴ぶというのはカッシーマの女神様の事ですね、義姉さん?」
「なるほど! サルワタの珍しくもない民芸品も、妻らが手ずから作るというのは悪くないかもしれんな。カサンドラなどは内職をしていた経験もあるし、そなたひとつこの者たちに手ほどきをせよ」

 とても名案の様に思えた木彫りのプレゼントでしたけれど、女神様を彫るのは騎士修道会の新しいリーダーとしてガンギマリーさんは許せないものだったみたいですね。

「え、あたしこれでも図画工作の成績は悪かったんですケド……。それに一応は宗教関係者として、いもしない神様を崇拝するのはよくないと思うわ!」
「まあそれならお兄ちゃんの木彫り胸像でも作るか。手作りというのが重要やもしれぬ」
「それではまるで芸術性がありませんのよ! 素人が簡単に作れるものではありませんし、カサンドラさんだけが出来たのでは意味がありませんッ」
「義母さま落ち着て」
「じゃあどうすればいいのだ! お兄ちゃんはわりと物欲は無い男だから、欲しがるのは女ぐらいのものだろうッ」
「ドロシアさまぁ。これ以上奥さんが増えたら順番がまわってこなくなりますぅ」
「そうだわ、わたしの順番がいつになっても来なくなるじゃない!!」

 いよいよ家族会議が紛糾したところで、わたしははたと気が付いたのでした。
 シューターさんがいつも使っているもので、きっと喜ばれそうなものを。

「……あのう、みなさん。ひとつ提案があるのですがいいですか?」
「何だカサンドラよ申してみよ」
「丈夫な天秤棒をプレゼントするというのはどうでしょう。いつも戦場で使っておられますし、そのわりにすぐに壊れてしまうので窮地に陥っているのを見ていたので……」

 なるほど、とみなさんわたしの言葉に耳を傾けてくれました。

「木の天秤棒であれば折れてしまいますけれど、金属の天秤棒ならば耐久力があるので早々壊れるものではありませんし」

 近頃は盟主連合軍との交易も活発なので、商人さんの出入りも多くて丈夫な天秤棒が造れるかもしれないのです。
 こうして特別な天秤棒を用意するために、マリアツンデレジアさまがリンドルから高価な金属棒を取り寄せる手配をしてくださったのです。
 ちなみにわたしはお手紙に、できるだけ丁寧に書いて次の様に言葉を添えました。


 シューターさんと過ごす毎日はとても幸せです。
 これからもそんな毎日が続きます様にお祈りしています。


 夫は喜んでくださるでしょうか。
 マリアツンデレジアさまの様に日頃から信書をしたためる事のないわたしです。
 読み書きも覚えたてで言葉はつたなかったもかも知れません。
 けれど大切なのは気持ちを込める事ですよね。わたしはシューターさんに頂いた手鏡と手紙は、いつも手文庫に入れて保管していますもの。

 それに……
 いつも戦場で身に着ける、命を預けるものですから丈夫な天秤棒は役に立つはず。
 みなさん口々に顔を合わして「名案だわ」と賛同してくれたのだけれども。
 ところが次の瞬間に冷静な顔をしたガンギマリーさんが、こんな事を言ったのです。

「か、カサンドラさん」
「はい?」
「ふと思ったのだけれど、それはただの鉄棒と、何が違うのかしら?」
「…………」

 あ、あれ?
 わたしの提案はどうやらおかしなものだったのかも知れません。
 けれども、言い返せなくなったわたしは思案に暮れたのちに、おかしな事を口にしてしまったのです。

「そのう、気持ちが入っていればプレゼントは嬉しいものです!」
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