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異世界に転生したら村八分にされた 作者:狐谷まどか

第10章 冬籠りの辺境生活

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祝クリスマス記念SS 夫への手紙 前


 夫はとても忙しいひとです。
 領主さまの命令で凶悪なワイバーンの討伐に向かったり、都会へ護衛のお役目のために赴いたり。
 時にはわたしたち夫婦揃って外交使節団に送り出された事もありました。
 戦争が始まってからは軍監というお役目を頂戴して、毎日を今まで以上に過ごされる様になりました。
 西へ東へ走り回り、わたしもある時は従軍しました。
 シューターさんはサルワタを経ってから、ほとんど休みなくそうして過ごされていたのです。

 サルワタの村で過ごしていた頃には信じられないほど、気が付けばたくさんの女がシューターさんの妻となったのです。
 そうして信じられない事にその第一夫人がわたしだというのだから、人生は何があるのかわからないですね。

「あらあ、義姉さん。何を見ているのですかあ?」
「ギュイ!」

 その日わたしが真新しい邸宅の居間で手鏡を見ていたら、第二夫人のダルクちゃんが背中に言葉を投げかけてきたのでした。
 見ればバジリスクのあかちゃんを抱いた彼女が、ソファに座って私物整理をしていたわたしを興味深げに覗き込んでくるではありませんか。

「お引越しの片づけが終わりましたので、手荷物を改めていたんですよ」
「このところは戦争やお役目で、ひとところに落ち着く機会がありませんでしたからねえ。真冬になれば今度はお城にお引越しをするのでしょう?」
「そしてまた春が来れば、ゴルゴライに戻ることになると領主さまは言っておられましたね」

 その時わたしの握っている手鏡は、夫がはじめてわたしに贈り物をしてくれたものでした。
 ブルカの街にお出かけになった際のお土産は、夫とわたしがまだふたりきりの夫婦だった頃の短い間の思い出です。
 たった半年前には自前の鏡を持つ事もむつかしいほど貧しい生活をしていたというのに、今では居間の端には全裸にへそピアスをした使用人が控えている生活なのだから、驚きですね。

「ここも本当は迎賓館という、蛮族の偉いお客さんをお迎えするためのゲストハウスですもんねえ。早いところ旦那さま方には戦争を終わらせてもらって、落ち着いた生活をしてもらいたいものですよう」
「そうですね。そのためにも旦那は今も雪の降る中、ご視察のお役目に出ているのですから」
「はい、義姉さん。わたしたちの旦那さまの無事をお祈りしなければいけませんっ!」

 ニッコリ笑ってわたしにそう言ったダルクちゃんは、ソファに腰を落ち着けながらパンパンと手を叩きました。
 ティーセットを運び込む様に全裸の使用人へ命令を出したのです。

「ギュイギュイ!」
「冬は空気が乾燥するので喉が渇きますからねえ。暖かいものを飲めば体も落ち着きますよ!」

 お茶を淹れるのは高貴な身の上のみなさんたちの中では、女の嗜みだと決まっています。
 領主さまですら、むかしはただの村娘だった頃のわたしに手ずからお茶を淹れてくださった事があったぐらいですからね。
 だから今でもお茶を淹れるのはわたしかダルクちゃん、あるいは妻たちの誰かが役割分担をしています。
 これもシューターさんに美味しいお茶を淹れるための大事な練習なのです。
 でもバジルちゃんはまだあかちゃんなので、冷ましてから薄めて飲ませる様に注意しないといけません。

「キュッキュッベー」
「おや、ところで義姉さんが持っておられるのは、旦那さまからのプレゼントですよね?」
「そうですダルクちゃん。まだ貧しかったころに無理をしてシューターさんが購入してくださったものですよ。猟師小屋でダルクちゃんやエルパコちゃんと、まだ生活していたころには唯一の鏡でしたね」

 今では居室のあちことに姿見を持つ贅沢を許される身分になりましたけれども。
 結婚するずっと以前、猟師の娘だった頃には鏡を持っている自分なんて想像もできませんでした。

「ですよね! 懐かしいなぁ」
「うふふ、そうですねえ」
「わたしが最初に旦那さまにプレゼントして貰ったものと言えば、これでしょうか。義姉さんにもし何かがあれば、わたしがこれでわたしがお守りをするのが役目です。フンス、フンス!!」」

 メイス、メイスです!
 そんな風にダルクちゃんはフンスと興奮気味になり、腰に吊った鈍器に視線を落とします。
 これもわたしたちが猟師小屋で身を寄せ合っていた頃に、護身用として夫がダルクちゃんに与えたモノでした。

「エルパコちゃんは確か、シューターさんに貰った手拭いを今でも持ち歩いているそうですよ。わたしも知らなかったのですが、お城の作業現場で手渡されたものだそうです」
「そこをいくとニシカさんは、形に残らないお酒をせびってその場で呑んでしまったそうですから!」
「ニシカさんらしいと言えばニシカさんらしいですね。結納の品にシューターさんから貰ったお酒も、」
「貰ったその日に呑み干してしまったので、空っぽになった中身にサルワタ産の安いぶどう酒を代わりに入れているんですよう」

 わたしとダルクちゃんは顔を合わせて、クスクスと笑ってしまいました。
 そんなわたしたちを見てバジルちゃんは不思議そうな顔をして見上げていましたけれども、こうしていられるのも夫が毎日忙しくされているからですね。

 今では何不自由なくとても贅沢にモノを手に入れられる様な立場になりました。
 お召し物を仕立ててくださったり、布や食器も上等なものばかり。

「そういう風に考えると、わたしたちから旦那さまにプレゼントをしたことがありませんでしたねえ」

 言われてみれば確かにそうです。
 お立場の違うアレクサンドロシアさまは特別にしても、夫からお土産に頂いた様な手鏡みたいなものを、わたしはシューターさんにお渡しした事はありませんでした。
 さすがに下着をプレゼントというのもおかしな話ですし……

「何事も順番が大切なのですから、今度はわたしたち妻から何かお返しのプレゼントをするのがいいんじゃないでしょうかっ」」
「確かに何事も順番が大切です。それでは何をお送りすればいいのでしょうか……?」

 シューターさんに何をお送りすれば喜ばれるでしょうか?
 こうしてみるとダルクちゃんとわたしはなかなかよい知恵が浮かびませんでした。
 わかりやすく、ニシカさんの様にお酒が大好きというものが夫にはあまりなかったのです。

 強いて言えば、夫は全裸を貴ぶ部族のご出身ですから、家族が共に裸で過ごしていることをお喜びになる事でしょうか?
 わたしやダルクちゃんが夜に服を着ずに過ごしていると、とても満足げな顔をする事がわかってからはそうしていたのですけれども。
 それだって、夫がお貴族さまとして立派なお立場になられたから許される事。
 村で過ごしているうちは誰が訪ねてくるとも限らないので、いつも心苦しいながら注意を促していたものでした。

 そんな風に考えていたわたしたち義姉妹ですが、やはりそこは他の妻の方にも知恵をお借りしようとダルクちゃんと結論に至ったのです。
 旦那さまは生憎とギムルさまがご出征されているゴルゴライ戦線に視察に向かわれている事ですし、帰って来た時に驚かせるというわたしたちのアイデアを実行するためにも、

「時間がありませんものね」
「はい義姉さん。この場にエルパコちゃんやニシカさんがいないのは残念ですけれど、他の奥さんたちに早いところお知恵を貰いましょう! ガンギマリーさまなら何かアイデアをお持ちになっているかもしれません!」
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