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異世界に転生したら村八分にされた 作者:狐谷まどか

第10章 冬籠りの辺境生活

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332 飛龍を狩る妻たち 2

いったん投降後、後半を加筆修正しました!
 真新しい雪上を、ズポズポとやりながら必死の形相で駆け抜ける。
 俺はそうしておきながら手槍の握りを確かめつつ、ワイバーンの墜落したであろう場所に視線を定めた。
 手負いの獣を相手にするのに、無理に接近して戦うのは愚の骨頂だ。

「力攻めは無用だ、隙を見てトドメをさせばいい。それでいいですね、ニシカさん?!」
「ああいいぜ、今回は獲物の状態なんて気にする必要はねぇ。何なら女魔法使いの魔法で焼き殺したっていいぐらいだ!」
「そりゃいくらなんでもやりすぎだニシカさん!」

 ただそれをすると無駄に悪目立ちするので、遠く平原地帯の敵味方にも事態を気付かれる恐れがある。
 俺の背後を身体能力に無駄に優れている女魔法使いが走っていた「おちんぎんビームの出番ですね?!」と一瞬だけ勇んだ様だが、すぐに意気消沈したみたいだぜ。

 しかし何故ここまで女魔法使いが平静でいられるかと俺は驚いたけれど。
 そうか、この女は以前にサラマンダーを調伏させる際に立ち会った経験があったのか!
 恐らくはワイバーンのサイズもそれぐらいだと推測を立てているのだろう。

「わたしの魔法より、ニシカさんの風魔法の方が爆発しないからいいですよ! とっておきのわたしの魔法は、近くで発射したら大変なことになるのでッ」
「一体どうなるってんだおい?!」

 アンタッチャブルの魔法の事を言ったのだろうか。
 あれは確かに近場にいる人間の服を身ぐるみ?がしてしまう、危険な魔法である。
 こんな冬場にそれを使えばどうなるか結果が想像できたので、俺はやはりニシカさんに魔法を使ってもらおうと決意したのだった。

「見えたぞ! 栗林の中にいるらしいぜッ」

 足場の悪い雪上を走り抜けながらマシェットを引き抜いたニシカさん。
 俺が先頭になって近づくと、後ろから続いていた女魔法使いやけもみみたちが左右に散開し、遅れて全力疾走の苦手な蛸足麗人と、二本足で最近生活する事を覚えたばかりのソープ嬢が合流した。

 ギャオス! と悲鳴を漏らしながらのたうち回っている手負いの若い飛龍は、明らかに両翼をズタボロにした状態で顔をこちらに向けている。
 唸り声をあげる程度にはまだ体力が残っているらしく、駆けながら言い合っていた様に無理に力推しをすれば手痛い結果になりそうだ。

 だがこのファンタジー世界の野生動物であるところの若き飛龍は、俺たちの思惑などそっちのけに襲い掛かって来るのである。

「げ、来やがった!」

 栗林の綺麗な雪の中に血痕をまき散らしていたワイバーンは、壊れた傘みたいになった両翼の事などはお構いなしに、太い足で強引に立ち上がって突進をしてくる。
 俺とニシカさんのどちらを目標にしているのか一瞬わからなかったけれど、どうやら一歩前に踏み出ていた俺に狙いを定めたらしい。

「ギュオオオオン!」

 若さからだろうか、ワイバーンは俺の耳に記憶されているそれよりも若干甲高い悲鳴に似た叫びを漏らした。
 あわてて手槍を構えていた俺はそれを解いて、タックルをかましてくるそれを避けるべくニシカさんとともに左右に散る。

「避けろシューター!」
「大丈夫だっ」

 足場が悪いこともあってギリギリまで引き付けるなんて事はできない。
 そのかわりに避け際に手槍を脇腹あたり目掛けて、差し込んでやる。
 手応えは確実にあって、俺は雪の中に体を転がしながらもその感触に満足しながら抜剣した。

「おらよ!」
「ギャルルルッ」

 抜き様の一撃は壊れた傘の様な片翼の付け根を斬りつけた。
 やはり若い飛龍というのは思った以上に体のつくりが柔らかいらしい。
 以前にサルワタの開拓村で対峙したヤツは、恐ろしく鱗の硬い感触に攻撃を阻まれたものだった。

 それでも抵抗してみせた若きワイバーンに俺は弾き飛ばされる。
 ふたたび回転しながら地面に転がったところで、急いで相手がどうなったのかを追いかける。

「どうなった?!」

 立ち上がれば栗の木か何かに突撃した若い飛龍が、無理やり体を引きずり起こそうとしているのが飛び込んでくる。
 片翼を斬りつけた程度では、まるでその暴れ様を押さえつける事はできなかったみたいだぜ。
 ちきしょうめ!

「しぶてえな! やはり近接戦闘は不利だぜシューター」
「そんなわかりきった事を言ってる場合じゃないでしょうがッ」
「けど弓は近場で使うには不利だ。おい女、やっぱり手前ぇの出番だぞッ」
「おちんぎんビームですね?!」

 視界の端にいつでも魔法攻撃が可能な様に護符を構えている女魔法使いがいた。
 その他にも身構えたソープ嬢やカラメルネーゼさん。ただしおふたりは完全に恐怖で足がすくんでいるのか、それ以上前に出るのが出来ない様子だ。
 アクティブに動き回る空の若き暴君は、やはり大きさ以上に威圧感が存在しているのだろう。

「いつでも攻撃できますよっ!」
「待て、そいつはシューターを下がらせてからだ」

 女魔法使いやニシカさんの怒声が飛び交う中で、恐怖を感じながらもけもみみが俺の側に駆け寄って起きるのを手伝おうとしてくれる。
 それを制しながら長剣を構えたところに、またワイバーンが突進してこようと身構えるが。
 けもみみとふたり同時に飛び退ったところに、女魔法使いが魔法攻撃をぶちかます!

「顔を狙えッ」
「フィジカル・マジカル・エクストリーム!」

 女魔法使いは紅蓮の大火球を現出させ、それを惜しげもなくワイバーンの顔面に叩きつける。
 それも左右ふたつを同時に出現させてやってのけるのだから、女魔法使いがかなりの腕であることを再確認させてくれた。
 ズドン、ズドンと突進態勢になろうとしていたそこにブチこまれたものだから、若き手負いのワイバーンはのけぞる様にして腹を見せる格好になった。

「ギャロロロ!」

 むしろこれだけの攻撃を受けても、まだ平気でいられる事の方が恐ろしい。
 咆哮にまではいかないが、地鳴りのような呻きを漏らしたワイバーンは、やはり空の暴君だけあってしぶとかった。
 けれども、

「シューター、オレがトドメをもらうぜ!」

 覚醒モードのニシカさんがそう叫ぶと手元に竜巻を出現させる。
 何をはじめるのかと奥さんたち全員が注目している中で、その竜巻が一気に中央へ収束して鋭い風のドリルみたいになったのだ。
 それをニシカさんが若きワイバーンのどてっぱらにぶつけた!

「ドギャアアアア!」

 これまでに無い様な激しい悲鳴を上げたワイバーンは、懐に細く鋭い竜巻ドリルをぶつけられて(はらわた)をえぐられる。
 見てるのも残酷な様に、けもみみを除く奥さんたちはみんな揃って顔を背けた。
 断末魔の咆哮はそれでも俺たちに恐怖を与える魔法の力を刻んでいるのか、その雄叫びが弱々しいものになるまで背筋を凍らせる様な感覚を持続させていたのだ。

「やったか?!」
「だがまだ生きている! 治癒魔法を使われたらまた暴れるぜッ。やるぞ!」

 確かにワイバーンは回復魔法を使う事ができるとニシカさんから聞かされていたことがある。
 被害が大きければそれだけ治癒に時間がかかるはずだが、少しでも延命されればそれだけ面倒なのは間違いない。
 気が付けば声をかけあって飛び出してた俺とニシカさんは、揃って今度こそトドメをさすべく体を動かしていたのだ。
 ニシカさんは迷わず頸根の血脈をマシェットで断ち斬り、俺は弱々しく開いていた口に向けて長剣を差し込んでいた。

 最後まであんぐりと口を開け傍観者に徹していた他の奥さんたちは、ようやく恐怖をもたらす咆哮マジックが途絶えた事で我に返ったみたいだったね。
 けもみみは一瞬だけ俺とワイバーンどちらに意識を向けるか逡巡した後、万が一に備えてお揃いの長剣を構えながらワイバーンの方に残身を取って近づく。

「こ、これど今度こそ終わりですわね……?」
「その様だ。い、愛しいひと、血まみれになっているが大丈夫か?!」

 駆け出した蛸足麗人と蛇足麗人のおふたりに振り替えって、俺は笑顔で返事した。

「大丈夫だ。たぶんこれは返り血かな?」
「しかし激しく叩き飛ばされていたではないか。骨にヒビが入っていたり、どこかあばらが折れている可能性もあるぞっ」
「そうですわ。ソープさん急いで治療を!!」

 元気アピールに血振りして長剣を鞘に納めてみせたけれど、そんなポーズは奥さんたちには通用しなかったらしい。

「ほら、ここんは擦り傷があるではないか。破傷風になってはいけない、さっそく処置をするぞ。まず服を脱いでもらおうか」
「いやここで脱ぐんですこと?! いくらなんでも寒空では主人がお風邪を……」
「そうだ、触診しなければ骨を痛めた場所がわからないだろう?」
「……そうですけれども。婿殿! やむ負えませんのでお脱ぎになって」

 いや、ちょ。
 戦闘が終わった事を確認したからと言って、雪の積もった森の中で服を脱ぐのはめちゃくちゃだ。
 ようやく死んだ事を確認して安心したエルパコが、ぴこぴことけもみみを動かしながらこちらにやって来たところで呆れた顔をして俺に視線を向けていた。
 ニシカさんも死んだ若いワイバーンから逆鱗を切り落としたところで、こっちにやって来てジト眼を向けている。

「奥さま方、お取込み中のところもうしわけないんですけど。先輩の姿が見当たらないんですけど?」

 そんな俺たちの一瞬の油断に、水を差す様に重大な事実を告げたのが女魔法使いである。
 えっ、先輩っていうのはベローチュの事だよね?
 そう言えば褐色麗人は確かにいつの間にか戦闘の場から姿を消している?!

「そう言えば黒いのの姿が見えねえな。何やってるんだアイツは」
「いやもう少し心配しましょうよニシカさんっ。先輩どこにいったんですかー! 先輩、敵前逃亡とかしたら、おちんぎんもらえませんよ?!」
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