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異世界に転生したら村八分にされた 作者:狐谷まどか

第10章 冬籠りの辺境生活

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327 冬籠りと胎動 3


「シューター、オレをどのように罰してくれても構わないぜ! だからな、許しておくれよッ」

 何故かアイパッチではなく目隠しをした姿で俺の前にやって来たニシカさんは、眼の前で平伏してそんな言葉を口にしたのである。
 まるで鱗裂きの誇りはどこへやら、焦りの表情の上にどういうわけか手が縛られている。
 SMにでも目覚めたのかな?

「いったいこれはどういう事なんですかねえ。誰か説明してくれないか……」
「婿殿。ニシカさんの事情を聴いたところ、ラミア族の護送任務の途中にお酒をお召しになって、それをニシカさんは悔いておられるのですわ」
「お酒を呑んでしまった? そんなの酒好きのニシカさんならいつもの事じゃないか」

 それがどうして自分から誰かに両手を縛らせて、目隠しまでさせられる必要があるのだろうか。
 困惑というより、呆れた気分になってしまった俺は、眼に前のニシカさんに続いて蛸足麗人のカラメルネーゼさんと、蛇足美人のソープ嬢を交互に見比べたのだった。

「そうじゃねえ、そうじゃねえんだッ。オレはやっちまった。任務の最中はあれだけ呑まない様にしていたってのに、ついつい手元が滑って水を飲む要領で酒をあおっちまったのよ。そりゃもうタンマリとな……」
「どれぐらいお酒を呑まれたかというと、それはもう酒樽ひとつを空けてしまう勢いだったそうだぞ、愛しいひと。しかし、賊と化したブルカ領軍の残党をしっかり討伐もしたし、わたしとしては何の問題も無いと考えているのだが……」

 ニシカさんの姿はまるで処刑される前の罪人みたいな姿だ。
 それが何処に姿を消したのかと思っていれば、迎賓館の使用人室で両ヒザをついてこの格好である。
 ソープ嬢が必死になって庇ってくれているけれど、いつもの威勢は見る影もなかった……

「まあ過ぎた事だし、任務もしっかりこなしてオルコス五世金貨一〇〇〇〇枚相当のラミア族の財宝を持ち帰ったわけですわ。気にする事じゃありませんわよ?」
「しかしそれじゃオレの腹が収まらねえ。どうだシューター、何でもいいから罰を与えてくれれば、しばらく酒を呑まないと自分に言い聞かせる事ができるぜっ」

 どうやらラミア族がふるい時代から酒造していたという、蛇の玉子酒というのが気になってしょうがなかったらしい。
 水筒の水替わりの焼酎すら避けていたニシカさんは、それに気を取られている間についつい水筒を呑んでしまったと言うではないか。
 俺からすれば事故程度の事だったんだけれど、鱗裂きを二つ名を自任するニシカさんのプライドの塊は、それでボロボロになってしまったのだろう。

「こんな自分の決めたルールのひとつも守れない様で、軍隊のルールが守れるとも思えねえからな。俺は将来、将軍サマになるんだろう?」
「そうだね、サルワタの軍勢を率いて戦える人間は、アレクサンドロシアちゃんとカラメルネーゼさんを除いてしまえば、後はニシカさんとベローチュぐらいしか残らない」

 しかも領主奥さんとカラメルネーゼさんは、それぞれにサルワタ貴族の中で別の役割も持っている。
 軍隊に常時かかりきりになれるのは、ニシカさんぐらいという事になるだろう。
 何でか知らないけれども、ニシカさんは妙に兵隊さんたちにウケがいいからなあ。キップの良さと豪胆さは、確かに一軍の将に向いていると俺は彼女に言って聞かせたことがある。

「じゃあこうしましょう。アレクサンドロシアちゃんは妊娠しているので、しばらくサルワタのお(うち)に戻る事になったんですよね。だから、ニシカさんはお城の警護役をやってもらうというのはどうでしょうか。産まれてくるあかちゃんは、いわばアレクサンドロシアちゃんの後継者だ。これに万が一の事があったら大変だ」
「よし、任せろ! オレさまは相棒の命令をこの身に代えても守り抜いて見せるぜッ」

 命に代えて守ってもらったらニシカさんが死んでしまうじゃないですか。それは本末転倒だ。
 そんな風に思っていたのだが、とりあえず代わりの命令を出されたのがうれしかったのか、縛られていた腕をマジシャンの様にその場で解いてみせると、目隠しを引きちぎってニヤリとしてみせるではないか。

「そ、それと」
「おう。まだ他に罰を与えるのなら言ってみやがれっ」
「領主奥さんがサルワタの城に旅立つ前に、ちょっとギムルさんの動向を調べてもらうとしましょうか。先日ね、アップルスター卿というオレンジハゲの一族に連なる女貴族を戦争奴隷にしたところだったんですよ」
「ほう……?」
「占領作戦そのものは順調なんだけれど、今年の雪は思ったよりも早くに積もりはじめたとかで、今後の事も心配だ。もしかするとオレンジハゲの一族を取り戻すために、敵の動きが活発化するかもしれないし、あるいは雪の所為で今後の作戦が遅滞する可能性もある」
「まあそうだな。雪が降れば行軍が遅れるという事はあるだろうぜ」
「だから身軽なニシカさんが、ギムルさんの動向をそれとなく探って来てくれれば嬉しいんですけどね」

 罰というのには違うかもしれないが、ニシカさんは隠密行動や別動隊を率いての作戦とか、こういう事を近頃は専門的にこなしてきたところがある。
 戦場では大活躍というのもあるけれど、それ以外でも情報収集なんかで活躍するので、ありがたいかぎりなのだ。

「またオレ様だけが仲間外れかよとは正直思ったぜ。けどま、そうじゃないと罰になんねえもんな」
「別行動にはならないと思います。俺も同行するので、しっかり道中は守ってくださいよ?」
「はっ、手前ぇは辺境随一の全裸男なんだから、護衛なんていらねえじゃねえか。でもま、わかった。道案内ぐらいはやってやるから、遠慮なく付いてきてくれればいいぜっ」

 そんな感じでニシカさんの贖罪については決着がついた。
 ギムルさんの様子については、実際にアレクサンドロシアちゃんも危惧しているところだった。
 雪は降り止む気配すら見せないし、このままでは補給が滞る可能性もある。
 ついでにアップルスターというオレンジハゲの一族に連なる子女を虜囚にした事で、俺たちが思っていた以上にゴルゴライ戦線の占領地拡大任務はむずかしのかもしれないというのもあった。

「しかしギムルさんは気難しいところのある性格だと、ドロシアさんから聞き及んでおりますわ。してみると、あまり大っぴらに戦場視察を主人がやるわけにもいきませんわね」
「そうだな。あちこちに山賊と化した残党が散らばっているというのは聞いているし、別の場所では頑強に抵抗している連中もいるらしいじゃないか」
「十二月にはアレクサンドロシアどのも故郷に戻られるというし、その前の十日余りの猶予があるうちに様子を見るのがよいかもしれないぞ、愛しいひと」

 ようやく拘束から(勝手に)解放されたニシカさんは立ち上がって、俺と蛸足麗人、蛇脚麗人の会話に加わってくる。

「まあギムルの旦那は、いや義息子は母ちゃんにいいところを見せたくて、オレたちが表立って出かけると、手助けはいらねえって考えで血気に逸るかもしれないぜ。だったらコソっと近づいて観察すれば、それでいいんだろうぜ」
「俺たちも少人数で出かけるのがいいという事ですね」
「本当は視察に行きたがっていたドロシアさんの代わりに、ギムルさんの様子をわたくしはこの眼で見ておく義務がございますわ。何しろゴルゴライの代官を買って出たのですから。おーっほっほっほ!」

 連れていく人間の数は最小限にか。
 そうだな、ニシカさんとカラメルネーゼさん、それにけもみみとベローチュ辺りで出かけるのがいいだろうか。
 一番軍馬に不慣れな俺を除けば、奥さんたちはみんな馬術も達者で身を守る術も持っている。
 あとは魔法が使える女魔法使いがいれば安心というところだ。

 一緒に出かけるつもり満々のソープ嬢は、馬に乗れないので除外したいところだが、この分だとあなたはお留守番ですなどと言えばへそを曲げるだろうか。
 などと思っていると先手を打たれてしまう。

「愛しいひと、ッヨイどのが言っていたのだが、いにしえの魔法使いの禁呪を使えば、しばらくの間この足を引っ込めておく事ができるらしい」
「ひっこめるって、そのラミア特有のヘビ足を?」
「そうだ。魔力を大量に使うのであまり頻繁には使えないそうだが、蛇足の代わりに人間っぽい足を手に入れる事ができるのだ。わたしも魔法ならば多少なりと使えるので、今回はッヨイどのの世話になるが何れはこれで自在にシューターさんと一緒に乗馬を楽しめる日が来るかもしれない」

 いにしえの魔法使いの禁呪、何でもありだな……

「やっぱり付いてくるつもりなんですね?」
「当然だ。わたしはクレイブを持たせれば、シューターさんにだって簡単に後れを取らない自信があるぞ愛しいひと」
「乗馬をしたことは?」
「ない」

 じゃあどうするつもりなんですかねぇ。
 呆れた顔を浮かべたところで、ニッコリ笑ったソープ嬢はこう続けるのである。

「もちろんシューターさんの背中を借りるつもりだ。そうすれば夫の背中を守るという大役を果たす事ができる」

 そうですか……
 どうやってもお留守番をするという予定はソープ嬢の中にはないらしい。
 まあ、軍馬に戦闘馬車を引かせるチャリオットみたいなのもアリかなと思ったけれど、道の荒れたブルカ街道を西進するのなら、イマイチか。
 こういう次第で俺たちは少しの間、またゴルゴライからお出かけする事になったのである。
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