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異世界に転生したら村八分にされた 作者:狐谷まどか

第9章 内政の季節が到来です

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書籍化謝恩SS 第2弾 続・その頃のニシカさん

感謝の気持ちを込めて番外編その2です!

※ 時系列は第2章の「35 誰が言ったか1匹見たら30匹」直前のニシカさんパートです。

 冒険者ギルドの受付嬢は、文無しのオレ様に飯を奢ってくれるそうだぜ。
 シューターの野郎はどこにいるのかわかりゃしないし、飯を食わなきゃ死んでしまいそうなオレ様は、この受付嬢の姉ちゃんがいったい何を考えているのか疑り深い気分になりながらも、付いていくことにした。

「ニシカさんはワイバーンを単独で狩る腕があるのですから、しばらく街で依頼をこなしていれば直ぐにも一流冒険者の仲間入りを出来ると思いますよ」

 オーガの緊急討伐クエストを案内するという、呼び子の仕事を終えた後の事である。
 即金でささやかな銅貨を受け取りながら連れてこられた酒場は、とても洒落た雰囲気でオレ様にこそ相応しい。
 しかし奢りでなければ、今のオレには絶対に近づけない場所でもある。

「いや、オレは相棒を探していると言っただろう。そっちが優先で、冒険者を続ける予定はねぇんだな」
「そうなんですか? 聞けば風の魔法も使えるし、弓も一流の腕前なんでしょう。まあ冒険者さんや猟師という人種は、直ぐに話を盛って自慢する人種ですから、その言葉が事実なら、という注釈がつきますが。うふふ」
「チッ。オレ様の首にあるものが何だかわかっていて、まだそういう事を言うんだからお前ぇもたいした度胸だぜ」

 胸の谷間を探って飛龍の逆鱗を引っ張り出して、オレは嫌味をひとつ零してやった。

「いや、何と言いますか。ニシカさんはともかくとして、全裸を貴ぶ部族の屈強な戦士ですか? そんなひとが本当にいるなんて信じられませんから。書物の中でしか存在しない部族なんですよ、その全裸のひとたちは」
「フンっ。本物を見ればわかるだろうが、棒切れ一本で相手を倒したぐらいだぜ? ここで雇った冒険者だってボッコボコのギッタギタにしただろう」
「うーん信じられませんね? ただ強いだけを誇張しているようにしか聞こえません」

 冷静な表情を一切崩さない受付嬢に「そうかいわかったよ」とオレは返事をして、酒杯を口に運んだ。
 サクランボを漬け込んだビールという酒はとても美味い。
 田舎では焼酎かぶどう酒ぐらいしか呑むのがないというのに、街にはとても贅沢なものが揃っていやがる。

 もしかするとシューターは、貧乏臭い村の生活やぱっとしない嫁のカサンドラよりも、街の生活に憧れを抱いたもんだから、脱走を図ったのかも知れないぜ。
 だとすれば許しがたい事実だ。
 オレが散々世話を焼いているのに、裏切られた気分だぜ。

「んぐんぐんぐ。プハァ、うまい!」

 腹立たしくなってオレはひと息に酒を煽った。

「当座の金は呼び子とやらを続けていれば問題ねえ。それから宿の金はシューターが先に払っていたからしばらく泊まることもできる。しかし、小銭集めばかりしていてもラチがあかねえ。オレ様は野郎の情報が欲しいんだ」
「シューターさんという方のですか?」
「そうだぜ」

 ドンと飲み干した酒杯をテーブルに置きながら、オレは身を乗り出す。

「でしたら……そうですね、冒険者さんから情報を集めるのであれば、お酒を奢ったりして聞き込みをする必要があるかもしれません。酒場にはこうして多くの冒険者たちが顔を出していますから、特にこの界隈は傭兵や冒険者たちのたまり場になっています」
「ここの酒場は人相の悪い連中ばかりだと思ったら、こいつらが全員冒険者どもだったのか」
「労働者や傭兵もいますけれどね、ああして武器を片手に店の中に入ってくるみなさんは冒険者ですよ。ほら、鎖帷子を着込んでいるからわかりやすいです」

 酒場の名前は《大地の癒し亭》というらしい。
 覚えたぜ、今度金ができた時はここで情報収集するとしよう。
 ダラしない顔をした冒険者の野郎どもがニコニコしながら酒杯を重ねている姿を見て、しかしどれぐらいの金があれば安心して奢って回れるのか心配になる。

「これからわたしがお手本をお見せしますので、同じ様に情報収集をやればいいと思いますよ」

 ニッコリ笑った姉ちゃんは、そう言って酒場の端で豪快に笑っている男をひとり指さした。
 ふむ。酒は強そうだが、腕前の方は見ている限りでは平々凡々だ。
 気配で周囲を威圧する様な感じはまるでないが、周辺に冒険者どもが集まっているところを見ると、リーダーの気質はあるのかも知れない。

「付いてきてください。彼、女の子が大好きなんですよ」
「お、おう。女好きなのはいいが、面倒な事になるのは勘弁なっ」
「根が小心者のひとだから、いつも女のひとに騙されるんですよ。ニシカさんなら大丈夫っ」

 そんな姉ちゃんの言葉に不安を抱きながらも、後に従って冒険者のリーダーに近づいた。

「久しぶりじゃないですか! 最近はあまりギルドにも顔を出していないと思ったら、こんなに景気よくお酒を呑んで。もう冒険者は足を洗って引退ですか?」
「とんでもないっ。俺もお嬢ちゃんに会いたいと思っていたところなんだよ~。ところでこちらのお姉さんはギルドの新しい職員かな?」

 ヒゲ面の太った中年のリーダーは、受付嬢のわざとらしい愛想笑いにデレデレしながらも、やがてオレさまの胸や尻を見て嬉しそうな顔をしはじめた。
 なるほど、こいつはシューターの野郎と同族の助兵衛だ。

「いいええ~。ニシカさんといって最近冒険者になった凄腕の猟師さんなんですよ。お友達を探しているそうだから、ちょっと相談に乗ってくださらないかなって思いまして……」
「ほほう。俺は親切な紳士で通っているから、何でも相談してください」

 尻を触ってこようとしたので、ピシャリとその手を叩いてやった。
 こんな事で野郎の情報を本当に集める事ができるのだろうか。オレは心の中で頭を抱えながらも、作り笑いを浮かべて挨拶だ。
 結局、助兵衛冒険者は何かあれば情報をくれると約束をしてくれ、せっかくだから今度オーガの討伐に参加すればいいと誘ってくれた。
 だがシューターの情報など持っちゃいない。

「次はニシカさんおひとりでやってみましょうか」
「ま、まだやるのかよ……」
「怖いですか?」
「怖かねぇ! オレの名は鱗裂きのニシカだ。人間ごときで恐れをなすほどヤワじゃねえんだよ!」

 こんな調子で受付嬢にレクチャーされながら、オレ様はしばらく夜な夜な酒場通いを続けた。
 三日も続ければ口も滑らかになるもんだ。
 明日になればオーガ討伐のクエストに出かけるという前日になった頃には、流暢に酔漢どもを相手に話を聞き出す事ができる様になていた。

「探している男の特徴か? ああもちろん教えてやるさ。簡単だぜ、全裸だ。全裸を貴ぶという、もうとっくの昔に滅びた部族の出身だと、片田舎のオレの故郷じゃ言われていたな」

 何か心当たりのある情報があれば教えてくれよな、そいつはオレの奢りだから気持ちよく呑んでおくれよ。
 こんな調子で聞いて回る。

「お前さんの仲間にも、鱗裂きのニシカがシューターって全裸を貴ぶ部族の戦士を探してるってな」

 まったく、シューターの野郎はどれだけオレ様に心配をかけさせれば気が済むんだよ!
 見つけたらタダじゃおかねえってものだぜッ。


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