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異世界に転生したら村八分にされた 作者:狐谷まどか

第9章 内政の季節が到来です

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閑話 ニシカ夫人の逆襲

更新お待たせしました!
 ブッシュの中に隠れている黄色マントの三人組は、どうやら荷物の中身に興味があるらしい。
 こちらの様子をうかがいながら少しずつ、荷馬車の近くへと前進しているのが気配で感じる事ができた。
 すでにオレたちが三人組に気付いているという事実は把握していないらしく、慎重に幌馬車の方へと接近している。

「ヤツらが気にしているのは馬車の積み荷か……」

 オレの率いてきたラミア資産を運ぶ荷馬車は全部で六台だ。
 そのうち幌付きのものは五台で、幌馬車の方はいくつかが仮眠をとっている人間が丸まっているはずだから、接近するのは容易じゃねえはず。
 そうなると連中は中身を確認しやすい露天の荷台に近づくことになるな。

 マスかき野郎のセイマスは、気配を消してわざと連中が近づいて来やすいように油断を誘っている。
 上手いやり方だが、おかげでその釣り出された黄色マントどもは、まんまとブッシュの中から姿をぬっと現して、荷馬車の影から影へと接近してくるのだ。
 形ばかりの不寝番をしている見張り連中は、焚火の前で素知らぬ顔をしているからな。
 向こうから近づいてくるのなら弓の出番はねえ。
 ひとまず幌馬車に長弓を立てかけておいて、山刀を引き抜いた。

「どうだ、気づかれてないか」
「問題ないみたいだ。見張り番をしているのはゴブリン族とオーク族だな、オークがどうしてこんなところに?」
「今はそんな事はどうでもいい。積み荷は補給品か」

 そうしてボロボロの服を着た黄色マントどもをしっかりと視認したぜ。
 小声でやり取りをしているつもりなんだろうが、オレの耳にはしっかりと内容が聞こえていた。
 黄色マントどもをどう料理してやるか考えたところで、連中のひとりが姿勢を低くしながらさらに前進した。

「待ってろ、中身を確認してくる……」
「おい、気を付けろよ」
「わかっている。俺を誰だと思っているんだッ」

 招かれざる客に決まっているだろうが。
 ひとりとふたり組に分離したのを確認して、ふたり組の方へ背後から忍び寄った。
 そのまま襟首を掴んで相手の膝を折りながら喉を掻き切る。
 ガサリと少々の音を立てたところで、もうひとりが驚いてこちらを振り向いたが後の祭りだ。
 顔面を掴んでそのまま強引に首の角度を変えてやったら無抵抗になった。

「畜生、食い物なんてひとつもありはしねえ。お、これは酒樽か。よしよし」

 荷台の中身を拝見しようとした招かれざる客の方に視線を向けると、無警戒に中身を物色して小声で不満を溢しているのが聞こえた。
 野盗に成り下がった様な黄色マントの最後のひとりが、嬉しそうに酒樽を抱えながらこちらに戻ってきたところで、オレ様とご対面だ。

「げっエルフ!」
「よう兄弟。その酒はオレの義妹がこさえた自慢の銘酒なんだが、まだオレも味見をしちゃいねえんだ」

 残念だがそいつは返してもらうぜ。
 相手が逃げ出すよりも早く飛び込んだオレは、そのままスパリと首の血脈を斬って、取り落としそうになった酒樽を回収だ。
 あぶねえあぶねえ、こいつを破損すれば旦那の折檻が待っている。

「ニシカ夫人、見事なお手並みで」
「よし、山狩りをするぞ。黄色い同胞を集めて、セイマスの手下を連れてこい」
「了解だ。数の少ないこちらが山狩りとは、おかしな表現だがな」

 どうも連中は完全に飢餓状態なんじゃねえかとオレは思いはじめていた。
 放逐された農家から食料を簒奪するだけでは、敗残兵どもも食べていくのが限界なのかもね。
 それに街道周辺で賊の被害が頻出しているという報告も聞いてねえ。
 食うに困って出てきたのなら、何をしでかすのかわからねえついでに、まともな敵ではない可能性がある。

「地元猟師ならいざ知らず、ここで自活するには限界もあるし、近くにはホラアナライオンの大きくて立派な雄の縄張り主張の跡もあった事だ。八方ふさがりになって森に潜んではいたものの、いよいよ切羽詰まったというのが実情かもしれねえな」
「不用意に馬車の二台まで接近したという事は、ニシカ夫人の言う通り栄養不足で夜眼が効かない状態だったのかも知れない」
「だがそのまま放置していれば、リンドル領の弱兵が護衛についていたら餌食になる可能性もある。そっちはオレの管轄じゃねえが、ついでに一掃できるならそうしたほうがいい」

 オレとベルベボロンとセイマス、それからセイマスの一族数名をつれて森の中に入りながら、そんなやり取りをした。
 二〇数人という数は厄介だが、鳥目になっているというのならばやり様はいくらでもある。

「敵も最初から全員で襲いかかっていれば、こっちも苦戦した可能性があるが、そこは戦士の性というやつだぜニシカ夫人。まずは斥候を出して安全を確認後、本隊を引き入れる。その際は本隊の隠蔽がばれない様に少し距離を置いた場所に主力は伏せるのがセオリーだ」
「しかし、どのみち黄色い同胞が網を張っている中で伏せていたのだから、無意味ってもんだよな」

 頭上の大樹を見上げると、ひょいとほとんど音もたてずに落葉に着地したのが黄色長耳の同胞だ。
 三人組を監視していた同胞は、連中が辿って来た道もしっかり覚えていたので道案内を買ってくれた。
 道中で他の長耳同胞も合流して、最終的には九人まで人数が膨らんだ。

「これで相手との差は三倍程度に収まった。どう布陣するかだな」

 木々の切れ目から賊と化した連中を監視していると、確かにボロっちくなった装備をまとった連中がガヤガヤとやっている。
 山野の中で焚火をすれば、生焼けの臭いが広がってアッサリと位置暴露するとは思わなかったんだろうか。

「軍隊崩れというのに注意力が散漫だぜ。触滅隊はもっと組織だった行動をしていたもんだがな」
「まあ敗軍の雑兵というのはこんなもんだろうぜ。ブルカ領軍の正規兵であればツジンの野郎に殴り飛ばされていただろうが、今は統率者もいないわけだからな。どうする?」
「風の魔法であの焚火を吹き消して、狙撃で数を減らす。近くの樹上に何人か猟師たちが伏せているんだろ? 取りこぼしたヤツをセイマスの部下でやってもらえるか。ベルベボロンも木に上がっておくれよ」
「了解した、火が掻き消えたら斬り込んでひと暴れしてやる。ニシカ夫人に勝利を」
「わかった任せてくれ。ニシカ夫人に勝利を」

 よしいけ。
 部下どもに命令を飛ばしながら意識を眼前に集中した。
 焚火の数は全部でみっつだが、同時にかき消すのはなかなか厄介だぜ。
 風の向きを感じ取りながら一方向から重たい強風を叩きつけるよりは、風の弾丸で薪ごと蹴散らした方がいいとオレは判断する。
 全員が配置につくのを静かに待ちながら気配でそれが完了したのを悟って、立て続けに風の弾丸を打ち出した。
 ガシャンと火元に風の弾丸がぶつかると、それが合図の様に連中は騒ぎ始めた。

「何事だ、どうした強風か?!」
「ぎゃーやめてくれぇ」
「敵襲、敵襲、逆賊の軍隊が攻めてきたぞ!!」

 上手い具合に勝手に騒ぎ始めた残党どもは、あわてて白刃を引き抜いて月光にそれを反射させていた。
 オレはアイパッチを外しながらそれを観察して、それから長弓を構えた。
 いい的だぜ、素早く矢を放って次の矢を構えていると、豚面のマスかき野郎どもが暴れてくれたおかげで連中が同士討ちをはじめているのを確認したぜ。

「敵はどこだ。見えない、見えないぞ!」
「ちきしょうどうなってんだ。助けてくれギャー」

 頭上からの狙撃と斬り込みした連中、それにオレ様がバンバン矢を放っているうちにあっという間に全滅だぜ。
 取りこぼして逃げた連中に向かってオレが竜巻の魔法をぶつけてやれば、ズッコケる姿が見えた。
 呆気ないもので、人間が息を止めていられるうちに大方の連中は片付けられてしまったのだ。

     ◆

 朝になると三〇を超える首級が集められて、残りの遺体は焼却処分になった。
 大きな穴に放り込まれた黄色マントの成れの果てを見たところで、誰もそれを哀れと思う者はいない。
 無感情な人間どもだと言いたいわけではなく、むしろ自分たちがああなる立場じゃなくてよかったと安堵していたぐらいだぜ。

「ニシカ夫人は歴戦の貴族軍人さまだと聞いたが、それでも怖いという感情があるのかい」
「ナイト・オブ・サラマンダーとかいう称号持ちのヤツにそんな風に言われても、ひとつもありがたみがねぇんだが。それとオレは歴戦は歴戦でも、貴族軍人じゃなくて猟師だぜ」
「ワイバーンやバジリスクを討伐したには違いないだろう。普通は単独や少人数でそんな事ができるはずないし、わしにも無理な相談だ。そこをいくと、ニシカ夫人や全裸卿、ガンギマリー卿というのがいかに当代の英雄であるか知れるというものだ」

 その英雄さまでも恐怖や安堵があるのが、わしには信じられんというわけだ。
 などとぬかしやがるから、オレは顔をしかめて返事をした。

「オレの旦那はあまりそういう感情はねぇみたいだな。下男の扱いでも奴隷の扱いでも、わりと平気な顔をしてあっけらかんとしてやがった。ワイバーンを前にしても確かに怖いとは思っていたみたいだが、それでも前に出る気持ちの方が大きいヤツだよな、相棒って男はよ」
「さすが全裸卿だ。恐れるものは何もない、だから全裸で戦場を駆け抜けられるのか。それは事実上、まさに怖いものなしだといえるだろう」

 じゃあオレがどうなのかというと、怖いという気持ちは当然ある。
 猟師は臆病じゃなければ務まらないという言葉を、さんざんマイサンドラから教えられたからな。
 無理に前に出る事は無謀だが、しつこく食い下がってチャンスを狙う事は別だと教わった。
 目の前の獲物に囚われるとそれしか見えなくなることがある。
 シューターの野郎はその点でいけば飄々としているところがあり、そういう無理はしないが、いざコレと決めた時には迷わずに攻めの姿勢を貫くんだ。
 オレはそれが出来ているという自負心もあるが、相棒ほどじゃないのも確かだ。

「怖いものは怖いからな。当然だ」

 ビビってんじゃねえぞオレは鱗裂きだろう。そんな言葉をいつも自分自身に言い聞かせている程度にはビビリ屋なんだ、本当はな。

「だが臆病であることは悪い事じゃねえ、自分を見失っていない証拠だ。昨夜は酒で自分を見失っちまったがな……」
「違いねぇな」

 アッハッハ。
 互いに顔を見合わせて、オレたちは笑う事ができた。
 そのまま何事も無く二日ばかりの任務を終えて、アントワームの村までラミア資産を護送する事ができてひと安心だぜ。
 ここから先はセイマスに託して、オレはラメエのところに戻る事になる。

「酒の事は、くれぐれも旦那には黙っていておくれよ」
「もちろんだ。辺境不敗の全裸卿の折檻と言えば、責めもさぞ恐ろしいのだろう……」
「そっちじゃねえ! シューターは優しくしてくれるんだ。そうじゃなくて、この報告はオレの口からちゃんとするから、それまでは黙っていてくれ」

 マスかき野郎の一族たちと別れ際にそんな話をして、アントワームから出航するオッペンハーゲンの貨客船を見送った。
 口の軽いッワクワクゴロの弟ッボロリはしっかり脅しつけていたから安心だぜ。

「さて、オホオの村に戻ったら黄色長耳の同胞たちには感謝の宴をしなくちゃなんねえな」
「そうだな。これで晴れて酒宴で酒を呑む事ができるぞニシカ夫人」
「ば、馬鹿野郎。オレ様はしばらく酒を呑まねえって決めたんだからなっ! 本当だからな」

 またまたご冗談をとベルベボロンに笑われたので、オレさまは不愉快な気分になった。
 酒でも呑んで忘れたい気分だぜ!!
12月10日に発売される異世界全裸の諸作業のため、更新が不定期になり申し訳ございません。
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