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異世界に転生したら村八分にされた 作者:狐谷まどか

第9章 内政の季節が到来です

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閑話 ニシカ夫人の試練

 教会堂というやつは、どの土地のものも造りが似通っているのが面白いぜ。だからオレの足取りは礼拝所まで一直線だ。
 その礼拝所のある大きな扉の前にいるドワーフ兵どもは、オレの顔を見ると貴人に対する礼をイチイチとってみせて、気分が良くなった。
 何しろオレ様は、どこからどう見ても高貴な身の上のお貴族夫人だ。
 ベストレ染めのチュニックに山刀をさした姿は、故郷(サルワタ)の森で生活をしていた猟師臭い雰囲気は微塵も感じさせないはずだ、きっとそうだ。

「スルーヌ騎士爵夫人、ニシカ卿に敬礼ッ」
「おう、お勤めご苦労だぜ。ここの現場責任者は中にいるのか?」
「ただいま休憩時間中につき、昼食タイムであります」
「サルワタのニシカが来たと報告しておくれよ。土産もあるぜ、だがその前に仕事だけは済ませておきたい」
「かしこまりました。おい、隊長を呼んできてくれッ」

 鷹揚にうなずいてみせながら開け放たれた扉の中に入っていくドワーフ兵を見送った。
 事前に用意させていた酒はリンドルの酒精だ。
 何とかというぶどう酒の焼酎はカサンドラの大好物というので評判だったから、こいつをベルベボロンに用意させておいた。
 近くに各領の軍隊が駐留しているおかげで、ご当地自慢の酒を手に入れやすいのが嬉しいね。

「これはニシカ夫人からのささやかな心づけだ」
「ありがてぇ。ここはとんでもない田舎だもんで、呑める酒がおかしなものばかりだったんだ。羊の乳酒とか馬の乳酒とか、蛇の玉子酒というのもあってこいつは美味かったがラミア族の王女様がいなくなったんで、もうこれからは作られないらしいぜ。あんたは知らないか」
「蛇の玉子酒はたいへん美味だ。俺も村長のところのじじい騎士からちょっぴり下賜された事があるが、オホオでも貴重なものだった。あれはラミアの王女さまが作っていたものなのか……」

 黄色い同胞と残った警備のドワーフ兵が、酒精のやり取りををしながらぬか喜びしてやがった。
 気になるのは蛇の玉子酒というやつで、オレはそんな酒を聞いたこともなかった。

「ラミア族の王女様だと? そいつはクリスティーソープランジェリーナの事か」

 たまらず酒の話題に食いついてしまったが、気になったのはラミア族の話だ。
 ソープ以外にラミア族がいるなんて話をオレは聞いたことがないし、あいつは一族の末裔を統べる者というじゃねえか。

「そのソープランド姉ちゃんがラミア族の王女さまですぜ。俺たちがここで守っている金銀財宝がソープランド姉ちゃんのものらしいからなぁ」
「ソープランドじゃねえ、ソープランジェリーナだ。ちなみにオレの義妹だから、適当に名前をでっちあげたらぶち殺すぞ」
「ヒッ」

 ちょいと片眼で睨みつけてやると、ドワーフ兵は首を引っ込めて丸くなった。
 まったく、名前は適当につけるんじゃねえぞ!
 そうしているうちに、さっき隊長を呼びに行った兵士が戻ってくる。

「隊長まもなく来られます。備品はあっちの教化部屋に収納されているので、まずはそちらに」
「おう、検品目録を持ってきやがれ!」
「へいっ」

 案内されながら礼拝堂の内部に入ると祈りのための椅子というのが片づけられて、細い寝台がいくつも並んでいた。
 戸棚や武器棚が壁一面を占拠していて、教会堂というよりはゴルゴライに近頃できた軍隊の兵営みたいだぜ。

「何名詰めてるんだ?」
「バンダーレンタイン陛下のご命令で、三〇名ってところですな。占領統治下の無人集落を警備する名目なので、そんなに多くてもいけませんや」
「あまり軍勢が詰めているとかえって怪しまれるからな」
「そういうこって。いざという時はアントワームの補給処か、フクランダー寺院からの援軍が飛んでくる事になっています。今回はアントワーム経由ですか、フクランダー寺院経由ですか?」

 移送ルートの確認をしているのだろう。オレは短く「南だ」とだけ答えておいた。

「了解です。おい、裏手から荷馬車の搬入があるぞ、それから南方向の街道に警備を手配しろ!」
「ああ大丈夫だぜ、今オレの同胞どもが森の周辺で警戒に当たっているから、おかしな連中がいたらすぐにも知らせが来るだろうぜ?」
「同胞? ああ、黄色エルフのみなさんですか。この辺りには黄色いお仲間、セレスタという領地には黒いお仲間がたくさんおられるんですな」
「黒いのは王都から引っ越してきたよそ者だ。まあオレの義妹にも黒いのはいるんだがな、ベローチュといって愛人奴隷の騎士気取りだがよ……」

 そんな他愛もない話をしながら教化部屋の前にやってきたところで、ドワーフ隊長とご挨拶だ。
 適当にシューターのヤツが発行した書簡を手渡して内容を確認させる。
 文末には領主さまとシューター、それからソープとカサンドラの連盟によるサインが書かれていた。
 文字は読めねえが誰の名前かぐらいは最近理解できるようになった。この神経質そうなのが領主さまで、角ばったヤツが相棒の、ソープのはヘビののたうち回った様なので、カサンドラのは丸くて気の小さそうなものってことだな。
 最後にサルワタの村長屋敷で見た事のある領主の紋章が捺印されていて、ついでにツンデレのマリアのものまで添えられている。

「内容確認いたしましたニシカ夫人」
「まったく面倒くさいやり取りだが、オレ様は貴族だから当然だ。こっちが品目目録だ、ああこれがオレの名前だ」
「スルーヌ騎士爵夫人ニシカ卿、確かに確認いたしました。この◎◎の印鑑は何ですか」
「オレの旦那が作ったオレ様の紋章の印だそうだ。よくわかんねんだが、お前さんには何に見える?」
「おっぱいかな……」

 ふざけやがって旦那の野郎!

     ◆

「いいかお前ぇたち。オレ様はシューターの命令で金貨一〇〇〇〇枚相当の大金をゴルゴライに持ち帰るという、とてつもねえ大役を請け負ったわけだ。シューターと言えばオレの旦那だ。わかるか?」
「「「へい、ニシカ夫人!!」」

 部下どもを前にオレは演説する。

「お前たちが大切なお宝のひとつでも破損すれば、オレ様のガラスよりも透き通るように純真無垢なハートと信頼が汚され、破壊されてしまう事になるってもんだ。そこでお前ぇたちは細心の注意を払って、お宝の運び出しをしてもらいたい。金貨銀貨の数はもちろん、高価な壺が欠片でも破損したら、八つ裂きにされるものだと思って心得るんだ」
「「わかりました、ニシカ夫人」」
「オレ様は何れ盟主連合軍の将軍さまになる予定だからな、当然部下のお前たちは、将軍の家臣だ!」
「「やったぜニシカ将軍、ありがとうございます!!」」

 満足したので、さあやっておくれよと指示をした。

 さっそくにも、オレの持参した検品目録に記載されていた内容と、実際に教化部屋に所蔵されていた資産の全てを逐一確認する。
 とてつもなく面倒な内容だが、これをドワーフ兵たちはマスかき野郎たちと手分けしてくまなく実施した。
 要するに自分たちはこれを盗んでいませんよと自己申告するためにも熱心にやったんだろうぜ。

 そうしてラミア族の財宝に問題がない事が確認できたところで、周辺に散っていた黄色い同胞から報告が返ってくる。

「ニシカ夫人、問題なしだ」
「そうかい。じゃあ半分は周辺警戒に当たらせて、残り半分は戻って荷物の運び出しを手伝わせておくれよ」
「了解だ。ニシカ夫人はどうされるんだ?」
「ん。ちょっと気になるものがあったのでな、そっちを確認してくるぜ」
「わかった。何かあれば矢笛で連絡をする」

 ヒラヒラと手を振って命令を送り出したところで、マスかき野郎のセイマスがのしのしと近づいてきて、大きな酒壺を運びながら通り過ぎる。
 こいつがラミア族に伝わる蛇の玉子酒と呼ばれている特別な酒精だった。
 聞けば実際に玉子を使っているわけではなくて、よくわかんねえが溶き玉子みたいな色合いの酒だからそう呼ぶらしいが、気になるぜ。

「……やいマスかき野郎」
「ど、どうしたニシカ夫人。酒壺が重いんで、わしに用事があるなら後にしてくれないか」
「そいつは残念だったな。お前ぇは疲れからか、オレ様に衝突してしまう。大切なラミアの資産の一部を床に落としたイブ=セイマス=ズィに言い渡された、処罰の内容とは……」
「縁起でもない事を言わないでくれっ。さっさと行くからな!」

 激高した豚面は、そそくさとオレ様の前を過ぎ去っていった。
 味が気になって眼がしばしばしてきやがった。
 落ち着かないので眼帯を外して教化部屋の外へ出る。
 あまり見ていると気分が蛇の玉子酒に支配されてしまうので、そのまま礼拝所の方へ移動した。

 オレ様はこれからシューターの期待に応えて将軍になるんだからな。
 何てったって独眼龍殺しの鱗裂き将軍ニシカ様だ。
 しばしばする眼を隠す様に眼帯の位置を左右変更してみた。
 くそう、こんな事なら昨晩のうちに豚面野郎の酒盛りに参加しておけばよかった……

「そんなところでウロウロしていると邪魔なんで、どいてくれませんかねニシカさん」

 礼拝所で不貞腐れた気分になっていたところ、どこかで見た様なゴブリンがチョロチョロしていやがった。
 ッワクワクゴロの出来の悪い三兄弟のひとりで間違いない。ただし見た目では見分けがつかないのでしばしオレ様は考えた。
 確かッジャジャマは旦那のところに付いていったし、ッピコロはギムルの旦那と出征だ。

「するとお前はッボロリというわけだな。お前は疲れからか、オレ様に衝突してしまう。大切ならラミアの資産の一部を床に落としたッボロリに言い渡される賠償の条件とは」
「大切なって、これニシカさんが指示したドワーフのみなさん用の酒ですよ。落としたらニシカさんのポケットマネーが大損じゃないですか?」
「やめろ落とすな、ラミアの玉子酒を落とせ!」
「嫌ですよ、だいたいあんたが落としたら八つ裂きにするって言ったんだ」

 これだから酒飲みの酔っ払い発言はわけがわからないよ。
 そんな事を言いながらッボロリは立ち去って行った。
 そうかッボロリは、豚面野郎どもと一緒に秘密の工作任務に参加していたんだな。知らなかったぜ……

 あいつも猟師見習いだったのをついやっと思い出した。

「ニシカ夫人、荷物の護送終わりました。いつでも出発できますぜ!」

 拝殿の前に胡坐をかいて作業の様子を眺めていたところで、作業完了の報告がやって来た。
 よ、よし。何事も無く終了したみたいだから、昼間のうちに次の村まで移動する様にしなくちゃいけねえな。 
 ソープならラミア族の秘伝、蛇の玉子酒の作り方がわかるよな?
 こ、今度作ってもらわなくちゃいけねえぜ……
 荷台に並んだ四つの壺を見ながら、胃袋がぎゅうッと握りつぶされる様な気分になった。
 ひとつぐらい無くなったところでバレやしねえんじゃねえかと脳裏を過ったが、旦那の期待に応えられないと俺はシューターから離縁されてしまうかもしれねえ。

 それだけは駄目だ!
 誰か壺にぶつからねえかな。そしたら、割れて漏れ出したらもったいないから責任もってオレが呑んだと言い張るぜ。

「何やってるんですかニシカ夫人、出発するぞ!」
「待っておくれセイマスッ。ああくそっ、何で酒が呑めねぇんだ!」
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