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異世界に転生したら村八分にされた 作者:狐谷まどか

第9章 内政の季節が到来です

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閑話 ラミア族の隠し財宝 前

 近頃、相棒からオレ様に期待されているのはどうやら隠密行動の類らしい。

「いつもニシカさんにばかり特別なお願いをしてばかりで申し訳ないですねえ。でもこれはニシカさんにしか頼めない内容だからな」
「よせやい、オレ様と相棒の仲じゃねえかシューター。もったいぶってないで話を続けないか」

 昼の日中の事だ。
 徴税官の仕事というのを控えて、食堂で作戦地図を眺めていたオレとラメエと女魔法使いたちのところに、シューターの野郎がやって来た。
 手には酒樽を手に持っていて「ふたりでちょっと一杯やりませんか」などと言いやがるからニコニコしてついてい行ったんだがね。
 そんな事を言いながら野郎は誰も使っていない客間にオレを連れ込みやがった。
 昼間からお盛んな事だし、カサンドラに順番を無視するのか許可を取ったのか問いただすよりも前に寝台で俺を抱きしめると、とんだ命令を口にするってもんだ。

「そうでしたね。じゃあ誰もいない今のうちに話しておきましょうか、ちょっと秘密任務の命令ってやつです」

 特別なお願いは色気もへったくれもない内容だった。ふざけるな!

 こんなやり方をするのが気に食わねえ。そうされればオレが断りもしないという事をよく理解しているやり口だ。
 ふたりきりの客間に誘い込んで、ちょっとばかし上等な酒を振舞ってきやがる。
 お楽しみの時間かと思ったらそうじゃねえ。
 いきなり酒杯を重ねて乾杯とか言ってきやがった後に仕事の話である。
 ふざけがやって! 
 オレ様の期待を返しやがれってんだッ。などとそんな不満は口にせず、ぶう垂れた顔のままで言葉を続ける。

「ンで。オレはいったい何の命令を実行すればいいんだよ。途中からまたブルカの街に出かけろとか言うんじゃねえだろうな?」
「いや違います、徴税官の補佐役としてオホオの村に随行していただくのは予定通りですね。ただしそこから先は別行動をしてもらおうと思っています」
「ほう。やっぱり隠密行動じゃねえか」
「まあそうですねえ。ずばりソープ嬢がフクランダー寺院のダンジョンで守り続けてきた、ラミア族の財宝を護送してきてもらいたいんだな。お願い出来ますかニシカさん?」

 さも簡単な事をお願いする様にシューターは言ってきやがった。
 しかしこれはお願いではなくて命令だ。
 近頃はお貴族さまの暮らしぶりが身について、こういうところでお願いと命令を使い分けてきやがるこの男に悔しい思いが浮かんだので、オレは腹いせに唇を奪ってやる。

「ちょっとは遠慮ってモンを知らねえのか。ん? まずはふたりの時間を楽しもうぜ」
「うっぷ、ニシカさんこら……ちゅぷ」

 こいつはすぐに唇を奪うと無抵抗になるからかわいいね。
 オレはおもむろに上着を脱ぎ散らかした。
 そのまま相棒を押し倒したら、飲み干した相棒の酒杯がコトリと寝台に転がる。
 どう料理してやろうかと馬乗りになって、こいつの上衣を引っぺがしにかかったところで、ふとオレの手が止まる。

 何かの視線を寝室に感じたので、警戒する気持ちが込み上げてきたのだ。

「おい、この部屋に誰か潜ませていやがるのか?」
「いやそんな面倒な事を考え気もしなかったですけど、誰かいましたかね」
「どうもこうもねえ。気配を感じやがる」

 脱ぎ散らかした服をあわてて着込んだところで、その辺に転がしていたナイフを片手にオレ様は居住まいをただした。
 まったく酒とシューターに誘われて気分が良くなっていたところを、とんだ邪魔が入ったぜ。

 気配の場所が上手く掴めねえところをみると、普通の人間ではない様だぜ。
 もしくはいい気になっているうちに何かを見落としたのかも知れねえ。
 探る様に視線を巡らせていたけれども、やはり気配の存在を見つける事は出来なかったぜ……

「気のせいだったんじゃないですかねえ」
「わからねえな。ンだが気分が萎えた。続きを言っておくれよ」

 誰かに監視されながら続ける様な趣味はないので、ナイフを弄びながらドカっと寝台に身を投げる。
 シューターの野郎はあべこべに気分がノって来たのか、心底残念そうな顔をしてオレ様を見返してきやがった。
 そんな顔をするんじゃねえ!
 わざと話題の続きをして、相手を油断させるって寸法がどうしてわからねえんだ?!

「わかりましたよ。早いところ要件は済ませて、続きを。ぐふふ」
「助兵衛な顔しやがるんじゃねえよまったく。んで、ラミアの財宝がどうしたって?」
「それなんですがね、財宝の額がかなりの数字になる事は、ニシカさんは聞いていましたかね」

 ようやく本題を切り出そうと真面目な顔をした相棒によると、話の内容はこういうものだった。

 一族の財宝を守って一〇〇年以上の歳月をフクランダー寺院の地下ダンジョンで過ごしたのが、ラミアの末裔であるクリスティーソープランジェリーナである。
 言わずと知れた女好きのシューターが言葉巧みに嫁にしたわけだが、その嫁入りついでに手に入ったのがラミア族の財宝だった。

「フクランダー寺院から主力がゴルゴライ戦線に移駐する前に、モエキーさんと商人たちが財宝をチェックしていたのを覚えてますか? それで資産価値の検証をしようという事になったんですがね、」

 隠し財宝の類は古い王国時代の金貨にはじまり、宝石や刀剣の類、それに魔法道具の数々。
 それに黄金の馬具といったおおよそ実用よりも王侯貴族の趣向品にこそ相応しい様なモノがザックザックと眠っていたのはオレもシューターも目撃している。
 調べてみればオルコス五世金貨相当で、少なくとも一〇〇〇〇枚を超える価値があるというから驚きだった。
 近頃は意味不明にオルコス金貨の価値が高騰しているから、今はもっと大変なことになっているかもしれねえぜ。

「つまりソープの生活必需品を買けに使ったのは、ほんの小銭というわけか?」
「有り体に言えばそういう事になりますね」
「確か運び出してフクランダー寺院の本陣で守備させていたはずだが、あれは結局どこに運び出されたんだ?」

 その金銀財宝の類は、盟主連合軍の主力が戦線を移動するにあたり警備が手薄になる事を見越して、別の秘密の場所に移管される事になったそうだね。
 オルコス五世一〇〇〇〇枚とはとんだ大金だ。
 わざわざそれを警護させるために、岩窟王爺さんの精鋭部隊が守りに付いているそうだ。
 大仰なこった。

「その財宝をゴルゴライに持ち帰る命令が、ニシカさんに出ています」
「おい待て、お前ぇの命令じゃねえのか?!」
「そんな、俺がニシカさん相手に命令なんてするわけがないじゃないですか。アレクサンドロシアちゃんの命令だからね。むしろ俺はいつだって優しくニシカさんにお願いをする立場ですよ? フヒヒ」
「お前だっていつも布団の中では命令してるじゃねえか!」

 モノ欲しそうな顔をしやがって、俺に体を寄せて来る相棒面の助兵衛である。
 ピシャリと伸びてきた手を叩き落としてやってから、即座にナイフの鞘を抜き放った。

「ちょ、そんなに嫌がらなくてもいいでしょう?!」
「バッカそうじゃねえ嫌じゃねえ」

 だったら続きをと言わなかったところを見ると、相棒もしっかり気配を感じていたらしいね。
 さっきからオレたちの会話に聞き耳を立てていた、犯人の正体は見破ったぜ。
 そいつは窓際の外に潜んでいるらしい事がわかった。

 気配はふたつ。
 押し殺したものと、若干息の乱れたものがある。
 どういうわけだと内心に首を捻っていたが、ようやく合点がいった。
 気配の片方は黒い同胞だったのである。

「お楽しみのところを大変失礼いたしました! 不審人物が領主館の中庭に潜んでおりましたので、ただいま捕縛いたしましたところですッ」

 シューターの野郎が剣を引っ提げて跳ね窓をガシャンと引き上げたところ、腕を捻り上げられて顔を腫らした女がひとりベローチュに羽交い絞めにされている。
 首に短剣を突き付けられて観念はしていたが、女はどうやら使用人の格好をして中庭の草の茂みに隠れていたみたいだね。

「この時間は中庭で過ごす奥さま方もおられませんので、怪しいと思って注視していたのですが。案の定、ご主人さまとニシカさんがおふたりきりになる瞬間を狙って客間の窓辺に近づいたのです」
「そういうきみは、いったいどうして誰も過ごすはずがない時間の中庭に居たのかな……?」

 バツの悪い顔をした相棒が間抜けな質問をした。

「そんなもの。手前ぇが予定にない順番で助兵衛心を出さない様に、カサンドラが監視をさせているにきまっているじゃねえか!」

 言わせるんじゃねえよまったく。
 驚いた顔のシューターの間抜け面は傑作だったぜ。
 だから順番の変更はカサンドラに許可を取ったかオレ様は心配したんだ。
 すると黒い同胞が言葉を受け取って続ける。

「ご主人さまは今や盟主連合軍の重鎮です。ゴルゴライも不足した人手を補充するために多くの人間が出入りしておりますので、その中には少しでもお近づきになろうとする者、あるいはお立場が故に知りえる情報を盗み出そうとする不埒な考えの者が近づいてくる可能性もあるのです」
「な、なるほど。それでこのひとは?」
「これからガンギマリー奥さまの尋問を受けて吐かせますが、おおかた後者で間違いないでしょう。サルワタ貴族のシューター卿と言えば、女好きで知られた貴族ですからね。ハニートラップに引っかかりやすいとでも思われたのです」

 悲しい顔をした相棒は、股間をもぞもぞといじって抗議の言葉を口にする。

「俺だって分別があるよ! 誰でもいいってわけじゃないんだからねっ」
「そう言っていただけると妻のひとりとして大変光栄です。この事は直ちにアレクサンドロシアさまにご報告をし、」
「まあ鼠が一匹捕まったんだから、当然だな」

 観念したシューターの肩を叩いで笑ってやったら、ベローチュのヤツがとんでもない事を言いやがった。

「今日はエルパコ奥さまと過ごすはずでしたが、思いがけずニシカ奥さまに押し倒されたおかげで捕り物ができましたと、カサンドラ奥さまに事の経緯をお話いたしますね」

 何でオレから手を出した事になってるんだよ!
 酒持って誘ってきやがったのは助兵衛野郎の相棒だろ?!
 やべえカサンドラに制裁される……
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