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異世界に転生したら村八分にされた 作者:狐谷まどか

第9章 内政の季節が到来です

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321 村長はいいぞ! 3

 高貴な身の上ともなると、血縁同盟で繋がりを強固にするのは至極当たり前の事だった。
 何しろ俺自身がその目的で、タンヌダルクちゃんやアレクサンドロシアちゃんに雁木マリ、それからツンデレのマリアちゃんと結婚しているのだから他人事ではない。
 考え方によってはラミア族のソープ嬢やオホオ村のラメエお嬢さまも加わるわけで、サルワタ貴族とは血縁同盟の結果出来上がった辺境の大勢力だとも言えた。

 してみるとクワズ村の領主であるエクセルパークさんは、領主奥さんからすれば義実家の舎弟という立場だから、サルワタ貴族の門閥に属するとも言える。
 アントン爺さんの元に領主奥さんが送った信書は、血縁同盟を更なる強固なものにするための複数の縁談話が記されていたのだ。

「エクセルもクワズの村を継いで立派な青年となり、わらわも大変喜ばしい。今は戦時下であるから、尚更跡目について考える時期に来ていると愚考するに至り、まことに勝手ながら縁談の話を持ってまいった。義父上におかれては十分に吟味した上で、下記の者からこれはと思う女を嫁とするのがよろしかろう……」

 信書にはこういう書き出しで始まっていた。
 いかにも領主奥さんらしい書き出しで、すでにアレクサンドロシアちゃんの中でエクセル卿が結婚するのは確定事項である事がうかがえた。
 これは命令も同然だな……

 しかし問題なのは「下記の者からこれはと思う女を嫁とする」という一文だ。
 神経質な性格を表した文字がここだけは丁寧に書かれているところを見れば、領主奥さんなりに吟味した上で記載された名簿なのだろう。
 けれどもその中に非常に問題のある名前が含まれている事がいただけない。

「閣下のご様子をうかがっていると、このジンターネン嬢というのは閣下のお知り合いだろうかの?」
「じ、ジンターネンさんですか。サルワタの開拓村の酪農家で、村の幹部をしているひとりですね。大変影響力を持った方なので、銃後の守りは完璧です!」

 俺は自分でも何を言っているのかわからなかった。
 嘘は言ってないがほとんど詐欺の口上だ。駄目ですダメー!
 暴力おばさんに尻に敷かれる未来、駄目ですダメー!!

「なるほど、シューター閣下のお知り合いであるというならば安心であるな」
「た、ただしジンターネンさんはエクセルくんに比べると義姉さん女房になるよ。ね、シューターさん?」
「ほう、エクセルは末の子で甘えん坊で育ったし、今でもアレクサンドロシア卿に憧れと未練を持っているところがあるから、義姉さん女房というのは魅力的かも知れない」

 珍しくあわてた口調でエルパコがやんわり会話をかわそうとした。
 だがむしろアントン爺さんには逆効果だった様だ……

「ほ、他の名前にもいくつか見覚えがあるかな?」
「なるほどのう。どれでしょうな」
「この。リンドル貴族のオッパンチョ嬢のは、確かオゲインおじさんのご令嬢だったはずだ。カサンドラが夜会で親しくなった言っていたね」
「ほほう、カサンドラ閣下とご昵懇であれば安心だ。やはり年上といったところだろうかの?」
「いやこの娘は確か、うちの大正義奥さんと歳も近かったはずだ」

 オゲインおじさんダアヌ夫人の兄妹の血筋なので、ふくよかな包容力のあるロリ系令嬢だった記憶がある。
 実際にカサンドラの側でオッパンチョ嬢と接した事があるけもみみも、こくこくと相槌を繰り返す。

「オッパンチョちゃんはかわいらしい女の子だよ。オッパンチョさんにしときなよ」
「確かにリンドル貴族であるという事は、子爵のシェーン卿と親戚関係になる事になる。ふむふむ、オッパンチョ卿もありだな。しかし年齢がなあ……」

 どうやらアントン爺さんはエクセルには姉さん女房推しであるらしい。
 それが本人の趣向なのか息子の趣向を組んだものなのかまではわからないが、そこが引っかかっているのかもしれない。

「あ、アントン卿。ラミア族のわたしは例外であるけれども、世継ぎの事を考えるのであれば若い事はむしろ大事なのではないだろうか?」
「そうだよ。ソープさんの言う通りだともぼくは思うよ」
「オッパンチョ嬢か、わしも名前を覚えておくとするか……」

 若い子という事であれば、他にもオッペンハーゲン領の商人の家系であるとか、セレスタの妖精剣士隊に名前を連ねている女性官吏の名前などもあった。
 この場にクロードニャンコフさんがいたのならばオッペンハーゲン商人の情報について理解することが出来たかもしれないが、残念だ。
 男装の麗人に女性の妖精剣士について聞けば、これもわかるかも知れないね。

 そうして最後に残った名前は、まるで知らないものだった。
 むしろ名前の他には特段の注釈も含まれていなくて、さっぱり想像もつかない。
 アップルスター。ロックの殿堂かな?

「アップルスターというのはどういう方かわかりますかな?」
「いや、面識がないばかりか名前も聞いた事が無いのでさっぱりだ。誰か聞いた事がある人間はいるかな」

 奥さんたちに確認を取ってみるがみな首を横に振る。
 俺の後ろに立って控えていたクレメンスもどうやら知らないらしいので、サルワタ貴族と交流がある人物ではないのかも知れないね。

「このひとについては誰も人物を知らないらしいですね。まあ、たぶん女性で間違いないと思いますよ」
「……ふむ。その他の嫁候補がわかっただけでも幸甚ではありますな。閣下には感謝いたす。ジンターネン嬢か、あるいはオッパンチョ嬢か、ふぬぬ」

 アントン爺さんは悩ましい顔をしながら酒杯をグビリとやると、信書と納税通知命令を大事そうに懐にしまうのだった。

「閣下とアレクサンドロシアどのご夫妻の心配りで、倅にいい縁談の話が来ていると婆さんに報告することが出来るわい。感謝、感謝だな。がっはっは!」

 まあアレだ、ジンターネンさんだけはやめとけ……
 俺たち家族は内心でそう思わずにはいられなかったけどね。

     ◆

 納税の品を運ぶためにアントン爺さんが舟で領地に戻っていったのを見届けると、俺は河岸の周辺の建設現場を視察した。
 ここはサルワタへと至るための喉仏とも言える重要な拠点だ。
 ブルカ街道とサルワタの湖から流れる川が交差する地点のために、現在のサルワタ領邦では往来が盛んになっている場所だった。

「あれから随分と増築したみたいで、橋も立派に再建されたんだな」

 エルパコとクレメンスを引き連れてゆっくりとその中を歩く。
 野牛の居留地にサルワタの湖城、サルワタの開拓村からクワズの村と領主奥さんにとっては本拠地になる領地は、ここから北に広がっているのだ。
 将来的にアレクサンドロシアちゃんがどの場所を居城に定めるかは不明だが、少なくとも当面の間は直接統治するゴルゴライと、湖城との間を往復しながら過ごすことは間違いない。

 そうなればますますこの場所を経由して物流が交易されることは眼に見えていて、利に敏い行商人たちを今も見かけることができた。

「それだけではないだすな。船着き場を整備するために河岸を石組みに造り変えているのだから驚きですだ。片田舎だったスルーヌのむかしを思い返せば、ここはもう立派な宿場になっているだすからなぁ」
「うん。船着き場沿いに倉庫群、宿屋に土産物屋まであるから、これはもう立派な宿場だよな」

 俺が外交使節団からサルワタにとんぼ返りをした時には、この橋は戦争の余波で焼け落ちて仮設のものだったはずだ。
 それが今では新しい橋がかかり、周辺には立派な監視塔が複数配列されている。
 森の一部は刈り込まれて、もし仮に森林方面からブルカ側の工作員が侵入を試みても、ここで発見できる様に工夫が凝らされていた。

 確かこの差配を命じたのはマイサンドラだったはずだ。
 元は村の裏切り者とレッテルを張られた彼女だが、いい仕事をしてくれている。
 戦争が終わればその贖罪も済まされるはずだ、ツジンの野望を挫く日も近いな確信。

「宿屋の数もひとつじゃないんだな。食堂まであるじゃないか、村の中心地より賑やかなんですけど……」
「そうだねシューターさん」

 倉庫の並びには船着き場から荷揚げされている麻袋が、次々と運び込まれている。
 これらは出来たばかりの土壁が眩しい新築で、ゴブリンの労働者たちがせっせと往復を繰り返していた。
 麻袋の布タグを確認してみると、これらは野牛の居留地から運び込まれてきた乾燥豆の袋だった。

「シューターさん、あっちにゴブリン人形が並んでいるよ」

 そんな事をやっていると、けもみみが土産物屋の方に指をさして声をかけて来る。
 見れば確かにゴブリン人形がズラリと並んでいて、お客がそれを手に取って覗き込んでいる姿があった。

 あれ。どこかで見たことがある若者が、ゴブリン人形をいくつも購入しようとしてるじゃないか。

「ここからここまでの人形をくださいッ」
「あいよ、銅貨ならひとつ十五枚、ミノタウロス貨幣なら二枚で結構だ」
「二〇個は買うから少しはオマケしてくださいよ?!」
「そういうのはウチじゃやってないんだよ坊主。気に入らないんだったら他所で買ってくれ、価格設定は領主さまがしたものだからな」
「そ、そんな。これはサルワタ特産の代物でしょう! スルーヌの関所より先はクワズとサルワタの領民以外は通行禁止になっているじゃないですか。こんなアコギな商売が許されるなんて、横暴だ!」

 確かニシカさんが密偵任務中に連れまわしていたという、行商人だったのではないだろうか。
 名前は何だったかな。そうだタマランチさんだ!

「文句があるなら領主さまに直接いうといいぞ。な?」
「そ、そんな事ができるわけないじゃないか!」

 できるんだなあそれが、と売り子をしていたドワーフがヒゲを撫でつけながら俺に視線を向けた。
 するとタマランチさんも釣られて俺に視線を送る。
 こんにちは行商人のタマランチさん。うちの蛮族奥さんがお世話になりましたね……

「ほら領主さまならそこにいるんだから、さっきの不満を言ったらいいんじゃねえか?」
「そんな恐れ多い、相手は領主さ……げっ全裸!」

 全裸じゃねえ!
 失礼極まりない発言を口にしたタマランチさんに、俺はたまらず突っ込みを入れそうになってしまった。

「シューターさん、無礼討ちにする?」
「に、ニシカさんがお世話になったひとだからやめておきなさいっ」
「わかったよ」

 エルパコが俺とお揃いの剣に手をかけたものだから、タマランチさんはひっと身を引く。
 あわてて制止しなければ危なかった。

「ええと、名前はタマランチさんでよかったかな?」
「はい、ええと全裸さま。ゴルゴライでは命をお助けいただきありがとうございました。俺は行商人をやているタマランチと申します。その節は、ニシカ夫人にご懇意にしていただきました」

 行商人らしい愛想笑いを口に浮かべて、タマランチさんはお辞儀をした。
 ついつい俺もこちらこそと、ペコペコ頭を下げて応じる。

「改めましてスルーヌ騎士爵のシューターです。こちらこそ妻がご迷惑をおかけしたかも知れない」
「ぜ、全裸さまがこの村の領主さまだった様ですね。知らぬこととは言え、大変失礼な発言をしてしまいました」
「ところで、そのゴブリン人形をご購入なさろうとしていた様ですが」
「ええそうなんですよ。リンドルの御台さまがこれを大層お気に入りになったという話を、ニシカ夫人から聞いたのです。実際に盟主連合軍の勢力下の村々を訪れますと、これが宿屋のあちこちにあるじゃないですか」

 人形の屋台を振り返ったタマランチさんは、そう言って言葉を続ける。

「もしよろしければ、俺にこのゴブリン人形を買い付けに行くための通行手形を全裸さまが発行してくださる。というわけにはいかないでしょうか?」

 こいつは何を言っているんだ、ゴブリン人形にそんな価値があるはずがない。
 タマランチさんはすっかりニシカさんに騙されているのか、あるいはやっぱりスパイなんじゃないのかね?!
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