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異世界に転生したら村八分にされた 作者:狐谷まどか

第9章 内政の季節が到来です

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320 村長はいいぞ! 2

更新遅くなって申し訳ございません!
 スルーヌの村で過ごした数日間は、驚くほどとても穏やかなものだった。
 朝は相変わらず早く目が覚めるのは仕方ないにしても、寝所から出ていの一番に報告をしにくる部下のみなさんもいない。
 軽く体を動かす目的でエルパコ相手に剣術の稽古をやったり、ソープ嬢の淹れてくれたお茶を楽しんだりと、まったりとした時間を過ごしていた。
 今が戦争中であるという事を、ついうっかり忘れてしまいそうになるのだった。

「時が止まったように錯覚するのは、この開拓村に時計が無いというのも理由かもしれない」

 昼の日中から居間のソファに横になりながら、俺はブツブツとそんな事を口にした。
 ソープ嬢の鱗状になった不思議な感覚の太ももに頭を預けた、いわゆる膝枕しながらである。
 そのソープ嬢はというと、スルーヌの村で産出した羊毛を使って編み物にご執心中だった。

「時計と言うのは、この屋敷の庭にある変な金属棒の立ったモニュメントの事であろうか」

 編み物の手を止めたソープ嬢は、俺の頭を撫でながらそんな質問をした。
 すると、けもみみ奥さんと一緒にお茶を持って居間に入って来たクレメンスが、それについて説明をしてくれるのだ。

「ああ、あれは農期を図るための日時計の事だすな。時間を見る事も出来るだすが、太陽の位置が季節によって変わるので、正確なものは測れないだす」
「ほう、そういう時計もあるのかクレメンス。アレクサンドロシアどのがお持ちだったものとは、また別の代物らしいな」
「魔法の砂時計の事だすか。あれはどの季節かに限らず正確な時間を知る事ができるだども、非常に高価なものだす」
「そうだね、あれを持っているのはアレクサンドロシアさまとガンギマリーさまだけだよ」

 エルパコがソファにやって来たので体を起こすと、今度はなぜか俺の膝の上にけもみみが頭を乗せてくる。
 普段は絶対にこんな事をしないのだが、きっと俺が膝枕をしてもらっていたのを見て、自分もやってみようと思ったらしい。
 むしろ自分がする側じゃなくてされる側になりたいと思うところが、いかにも甘えん坊のエルパコらしい。
 よしよし、ペットみたいだね! 

「これはアレクサンドロシアちゃん本人もすっかり忘れてらしいけどね。サルワタの村にも、確か領主奥さんが嫁入り道具に持ち込んだ魔法の砂時計があったみたいだ。何でも貴族軍人時代に出征した際、壊れてしまったものだそうだが」

 クレメンスが言う通り、魔法の砂時計と言うものは恐ろしく高価なものだ。
 例え壊れてしまっても機会があれば修繕して使おうと、サルワタの開拓村に嫁いできた際に持ち込んだのだろう。
 ところが辺境生活の暮らし向きはひとつも良くはならず、ついぞ修繕をする事なく今に至る。

「その砂時計は今はどこにあるの、シューターさん?」
「あれはこの前の村長屋敷に付け火があった時、屋敷と一緒に炎上だよ。書斎の棚で埃をかぶっていたそうだけど、村に時計がある事はギムルも知らなかったらしい」
「高価なものならもったいない事をしたね」
「まったくだ。修理すればまだ使えたのではないか、愛しいひと?」
「そうなんだけどね、アレクサンドロシアちゃんもこれまでは領地経営で大変だったから……」

 俺がけもみみの頭を撫でてやると、その度にピコピコとけもみみが動く。
 この話を領主奥さんから聞いたのは、ゴルゴライから徴税に出かけるほんの数日前の事だった。

 魔法の砂時計は、管の中の砂が四半日毎にクルリと回転して時の経過を教えてくれる魔法道具だった。
 不思議なつくりになっていて、透明のガラス管の中にある砂が六時間ごとに変色する。
 深夜から早朝までが濃い青ならば陽が昇り正午までが水色、午後になると黄色に変色して夕方以後は赤になるという具合だ。
 詳しい構造はわからないが、魔力の供給はサルワタのわが家にあった魔法のランタンと同じ仕組みになっている。

「つまりシューターさんの血で動く道具なんだね」
「いや正確には登録した人間の魔力を吸って動くわけだな。うちのランタンは、どういうわけか壊れてしまって、俺の魔力だけしか吸わなくなったけど……」
「なるほど、世俗の世界には便利なものもあるものだな。一〇〇年の時を地下生活してきたわたしの様なラミア族にとって、時間とは些末なもので人生の余禄だ。けれども外の世界で暮らしている人間にとって、確かに時計はなくてはならないものかも知れない」

 編み物をしながら、時折俺に視線を向けつつソープ嬢は言った。
 本人もすっかり忘れていた時計の話を、領主奥さんが俺にしたのは理由がある。

「今アレクサンドロシアちゃんが持っているアレは、騎士修道会からの借りものだからね。もしこのスルーヌに魔法の砂時計があれば、ぜひ持ち帰ってくれと言われていたんだよ」
「だども、残念ながらこの開拓村にあるのは庭にある日時計だけだす。村人にとって必要なのは、種まきのシーズンと収穫のシーズンが測れる日時計の方だすからなぁ」
「それは仕方がないよ。俺たちもサルワタの村で、時計が必要な生活なんてしていなかったからなあ」

 夜が明ければ野良仕事をし、陽が落ちる前に農民小屋に戻って夜を迎えれば就寝する。
 そんな生活をしていれば正確な時間を測る時計は必要ないからな。

 では何故、俺の領主奥さんが高価な魔法の砂時計を求めていたかと言うと、それは戦争に不可欠なものだからだ。
 作戦の決行について味方同士で連携して、タイミングを見計らうためには有効なものだし、騎士修道会ではその意味で魔法の砂時計を部隊毎に保持していたらしい。
 その他で言えば同じく宗教関係のリンドル聖堂や、あるいは白亜のリンドル宮殿でも見たことがあった。

「時間を正確に知る必要があるのは戦争をやる騎士さまか、そうでなければゴルゴライで見かけた商人たちぐらいだすからなぁ」
「商人たちの言葉に、時は金なりというのがあるねシューターさん」

 クレメンスとエルパコが口々にそう言ったところで、ふと疑問がわいた。
 高価な魔法の砂時計は、商人なら誰でも持っているわけではない。
 儲けて儲けて笑いが止まらない商人ならば別だろうが、村を行き来する様な小さな商いの行商人には手が出せないはずだ。
 けれども商談のための打ち合わせはどうしているのだろうか。
 街の中ならば時を知らせる鐘が鳴るので不必要だが、小さな宿場街や河港での商談や打ち合わせをするならば、時間を教える鐘の音は聞こえないはず。

 するとけもみみが俺の膝の上でモゾモゾしながらこう言う。

「それなら、ぼくはこれを持っているよ」
「ん?」
「ブルカの騎士を生け捕りにしたときに、命乞いをしてきたひとがこれをくれたんだ。ぼくは使い方がよくわからないけれど、ブルカの騎士は時計だと言っていたよ。シューターさんなら何かわかるかな?」

 エルパコは俺の膝からピョンと跳ね起きると、そのまま上衣を脱ぎだすではないか。
 んしょんしょと上衣を脱いだところでソファから立ち上がる。
 上半身をあらわにしたそこには、断崖絶壁がそそり立っていたのだ。ではなく……

 けもみみの首からリングの様な装飾品が吊られている。
 それを首から外して見せると、俺の前にすっと差し出してきたのだ。

「……何だすかこれは?」
「ふむ、アクセサリーの一種だろうか愛しいひと」
「おお、これは携帯式の日時計じゃないかな!」

 モノの本によれば中世頃のヨーロッパでは、この開閉式になったリング式の携帯日時計が、旅人や商人たちの間で使われていたらしいのを覚えている。
 天候が良くなければ使い道がないが、たしかに持ち運びできる時計としては場所を取らない。

「全天候型とはいかないが、魔法仕掛けの高価な時計と違って持ち運べる点は有利だな。しかしメモリの読み方がわからない……」
「日時計は季節が移り替わるとメモリの読み方がかわってしまうですだ。んだもんで、使える人間が限られているのだす」

 軍隊で大半が領民からかき集めた招集兵だから、見れば誰でも理解できる魔法の砂時計が重宝される。
 だが数を揃える事は難しいので、ブルカでは騎士にこれを持たせて携帯日時計を使える様に騎士に教育を施していたのかも知れない。

「ゴルゴライに戻ったら、アレクサンドロシアちゃんに魔法の砂時計の代わりに携帯日時計が使えないか提案してみるか」
「これなら鍛冶屋に発注すれば、簡単に数を揃えられるかもしれないだすな。リンドルや岩窟都市と繋がりがあるのが生きてくるですだ」
「ぼく、シューターさんの役に立った?」
「役に立ったから早く服を着ましょうね奥さん、風邪をひいてはいけません」

 自慢気にフフンと胸を張るけもみみの断崖絶壁に、ツンと先端が隆起しているのを俺は目撃した。
 室内だか寒い季節だからね、そんな隆起を見て俺の息子も隆起した。

「ところでエルパコ奥さま……」
「何だいクレメンス」
「その、命乞いしたブルカ騎士はどうなったのだすか?」

 何となく俺が聞かないでおいた質問を、クレメンスがおずおずと口にした。
 すると俺から上衣を受け取ったけもみみが、袖を通しながらこんな返事をするのだから恐ろしい。

「彼の魂は異世界に旅立ったよ。シューターさんに逆らう事は許されないんだ」
「「「…………」」」

 世の中には聞いてはいけない事があるのだと、身を縮めながら内心に思う吉宗であった。

     ◆

 スルーヌの滞在予定も半数を消化した頃になると、村長屋敷の鳩舎には頻繁に魔法の伝書鳩が飛来するようになった。
 奥さんたちが徴税官として赴いたサルワタや野牛の居留地から確定申告の進捗がもたらされたのだ。

 俺はそれをひとつひとつ確認したところで、今度はスルーヌからゴルゴライのアレクサンドロシアちゃんの元へと報告を飛ばす。
 河川の交通が可能なスルーヌまでは舟を使って徴税の貢納品が運ばれてくるが、そこから先は陸路を使ってブルカ街道を南下する必要があるからだ。

 荷馬車の手配を申請したところ、その伝達は盟主連合軍の主計官を務めているモエキーおねえさんの元へと伝達され、必要な荷馬車がスルーヌに向かっているという返答が送られてきた。

「今のところ、ご夫人方の徴税任務は滞りなく進んでおる様ですな」

 村の代官を務めるアントン爺さんを執務室に迎えたところ、開口一番にそんな言葉を口にしたのだ。
 手にはクワズ特産の芋酒の樽を抱えているから、昼間から一杯俺とやりに来たのかも知れない。
 この村が平和だから許される贅沢だ。

「おかげ様でカサンドラからは、豊作につき荷馬車の増援をお願いしたいと言ってきましたよ。これならば痩せた土地ばかりで食糧問題を抱えていたリンドルに向けて、食料の融通が容易になるというものです」
「ふむ、ならばわしも今のうちにわが領内に戻る事にしようかの。息子が今頃、クワズの村で貢納の金品をまとめているはずじゃろうて」
「息子さんですか?」
「ああ、村長のエクセルが出征して折る間は、三男がクワズの村長屋敷に詰めておりましてな。ちなみにエクセルは末の倅で、どこにも養子にやらずにおったので跡目を継がせる事になったのだ」

 アントンパークさんには子供が四人もいたらしい。
 嫡男のダリエルさんというひとは、重度の性病持ちでアレクサンドロシアちゃんの元夫だ。
 病気を押して戦争に出てそのまま死んでしまったそうだが、後継者を次男坊や三男坊にというわけにはいかなかった様だ。
 ふたりとも地元の分限者の元へ養子に入っていたので、跡目を継いだのは末の倅である当時まだ年端もいかないショタボーイだったエクセルパークさんだったというわけだ。

「しかし誰が跡目を継いでもいい様に、息子たちにはみな領地経営の何たるかを教えこんでおるから安心なされい。まあそれより閣下も奥方も一杯呑むがよろしかろう」
「ど、どうも。エルパコもソープさんもお呼ばれしなさい」

 家族でひとりだけ酒を呑むのも気が引けたので、本棚で巻物の刺さった壺を整理していた奥さんたちを呼びつけて、同罪にする事にした。
 この場にニシカさんがいたならば、呼ばれもしないのに舌なめずりしていたに違いない。

「おっとっと、それではご返杯」
「そういうわけでわしも村に戻り、納税の手配をしなければなりませんからな。ところでシューター閣下のところに来ている領主の納税命令はいかほどであろうかの……」
「お貴族さま対象とかいう税金納付命令ですか?」
「さよう、それだそれ」

 アレクサンドロシアちゃんから俺に命じられた納税額は、オルコス五世金貨二〇枚相当という目玉が飛び出そうな徴税だった。
 とてもじゃないが俺が私腹を肥やしてスルーヌの村人から、過酷な貢納の取り立てをしたところで捻り出せる数字ではなかった。
 ついでに受領対象のリストには世継ぎとだけ書かれていたからたまらない。

「奥さんにも困ったものですよ、欲しいと願ってすぐに手に入るなら苦労はしない。それに今は戦争中ですからね、戦地に向かう奥さんの誰かが身籠ったら大変なことになる」

 受領対象の品目から貢納ができなければ、いつもニコニコ現金払いをする事になるが、そうするとカレキーおばさんのお世話になって、明るい奴隷貴族の未来が脳裏をかすめた。
 俺はいったいどうすればいいのかと頭を抱えていたのだけれど……
 酒杯を両手でにぎにぎしていたけもみみは何故だかニッコリと微笑を浮かべていた。

「それならシューターさんはもう納税を済ませているから大丈夫だよ。きっとアレクサンドロシアさまも満足しているはずだから」
「?」

 わけがわからないよ。
 何か俺はオルコス五世金貨二〇枚ぶんの働きをしただろうか?

「なるほどのう、世継ぎは大切だ。エルパコ夫人もクリスティーソープランジェリーナ夫人も、世継ぎは当然欲しいだろう」
「うん、ぼくは男の子と女の子が欲しいな」
「わたしは愛しいひととラミア族の血脈を受け継いだ子を、後世に残すという大事な使命があるからな。当然子沢山が望ましい」

 いつの間にかけもみみは要求がバージョンアップしている。
 そしてソープ嬢の場合はやっぱり出産も卵だったりするのだろうかね?
 酒をチビチビやっていたアントン爺さんは、懐を探ると麻紙を俺に差し出すのである。

「ちなみに、わしのところにはこの様な税金納付命令が来た……」

 命令書を三人で覗き込むとこの様に書かれていたのである。

「オルコス五世金貨十枚相当。俺より安いじゃないかッ。コホン……受取対象の品目は、エクセルパーク卿を差し出せ?! どういう事ですかねコレは。まさか今更、人質という事もないでしょうが」
「早い話が、アレクサンドロシア卿は倅に縁談の話を持って下さったのだ。いつまで経っても独り身のエクセルを気にかけてくれるのはありがたい事だが、親としてはちと気恥ずかしい」
「相手はだれですか?!」

 血縁同盟を確固たるものにするために、アレクサンドロシアちゃんが縁談話を持ってきたのだろうか。
 貴族の結婚は政治的な趣で決まるものだが、エクセルさんは領主奥さんからすれば義実家の人間だし、ほとんど一族衆の扱いをしているのかも知れないね。

「詳細は、先日アレクサンドロシアどのから届けられた信書に書かれておった。縁談はいくつかあるらしく、選べる立場だという事だ」
「ほう? どれどれ拝見……」
「がっはっは。恥ずかしい話、わしもエクセルの嫁候補が誰になるのか気になるのでな。……この中に閣下の知った名前はあるだろうかのう? 村に戻るついでに婆さんにも縁談の相手に付いて報告しておきたいのだが」

 しかしあれだな。
 俺はけもみみに読み書きを習いだしてしばらく経つが、物覚えが悪い方らしい。
 あるいは目が潰れているのか目が滑るのか、書かれている名前を正確に読み上げることが出来ない。

「エルパコくん。俺はどうも眼が疲れているのか、縁談のひとつは相手がジンターネンさんと書かれている様に見えるんだが……」
「それで合ってるよシューターさん」

 見間違えじゃなかった!!!
村長になれば素敵な縁談もやって来ます。
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