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異世界に転生したら村八分にされた 作者:狐谷まどか

第9章 内政の季節が到来です

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319 村長はいいぞ! 1

いったん投降後、前半の改稿と後半を大幅に加筆しました。
すでにお読みになっていた方、申し訳ございませんっ!
 男装の麗人ベローチュに率いられる傭兵や野牛の兵士たちに守られて、大正義カサンドラとタンヌダルクちゃんの乗った馬車は北へと旅立っていった。
 最後まで去り際に名残惜しそうに跳ね窓からこちらを見ていたタンヌダルクちゃんはこんなことを言った。

「今度、野牛の居留地(じっか)に戻るときは、旦那さまを街へ案内してさしあげますよう」
「言われてみれば、俺そう言えばまともにミノタウロスの居留地を訪問した事って無かったんだよなぁ……」
「そうですよ! 兄さんのお屋敷や街の商店を見て回りましょう。きっと旦那さまもミノタウロスの事をもっと好きになってくださいますからっ」

 馬車から顔を出しているタンヌダルクちゃんを、遠くに確認できなくなるまで手を振って見送った。
 こうして徴税官に向かった家族を送り出して一同は解散すると俺は暇人になってしまった。
 あまりの居心地の悪さに、俺は息子の位置を調整しながらクレメンスに愚痴をこぼした。

「部下を抱えるというのは、案外何をしていいのかわからないものだな……」
「お貴族さまの言葉とは思えないだすなあ」
「そうかな? 前にも言ったかもしれないけど、俺はバイト戦士だったからあくせく働くのがむかしの日常だったんだよ」

 元いた世界では朝五時過ぎには起床して、バイトを掛け持ちしながら生活したもんんだ。
 正社員になった事がないから、手が空いて暇が出来れば雑用でも何でもやる。
 してみると今の俺は、手足になってくれる人間がたくさんいるのだから、むしろ余計な事をすると出来もしない仕事が滞ってしまうかもしれないのだ。

「ああこら、それは商品として売り出す予定の大切な品なんだから! もっと丁重に扱ってクダサイ!」
「うるせぇ猿人間、お前は文句ばかり垂れやがって自分で手を動かすって事を知らねえのかっ」

 今後しばらくの予定はこうだ。
 隣村クワズに加えて、サルワタや野牛の居留地から送り出されてきた貢納の税金や珍品を回収するまでの十日余りを、しばらく村での生活をする事になる。
 今も俺の目の前ではッジャジャマくんが差配している納品物の仕分け作業を見ているわけだが、一緒になって手伝うべきか、このままにしておくか俺は内心で迷っていた。

「そりゃあお貴族さまが手伝ってしまえば、体面が立たないというものだすよ?」
「しかし体を動かさないとなあ」
「今のシューターさまは村の村長さまだすからな。前の村長のトカイさまもそうだっただども、ゆったり構えて作業を見守る事こそが、支配者のつとめだす」

 わかっただすか? とクレメンスに諭される始末である。
 見れば村人に邪険にされていたッジャジャマくんが、しぶしぶ仕分け作業に参加していた。
 ついでに要領が悪いのか、村人にアゴで使われている。

「おいゴブリンの騎士さま。そっちも運んでくれないだべか?」
「こっちはどこに仕分けるんだべか。倉庫か? お屋敷か? どっちだ!」
「いっぺんにふたつもみっつも言わないでくださいよ! 俺は三つ子だけど今は俺ひとりなんだよっ」

 三つ子だったのか。
 そりゃッワクワクゴロさんの三兄弟は顔の見分けがつかないわけだ!
 野牛の兵士と村人が、ケラケラと苦笑しながら「悪い悪い」と返事をしている姿を見る。

「ミノタウロスが村に溶け込んでいる姿というのも、不思議な感じだな」
「何だすかそれは?」
「いやほら、タンヌダルクちゃんが俺のところに嫁いできた時はサルワタの村人たちは気味悪がっていたものだから」
「肝の小さい連中だすな……」

 俺自身の事を話せばミノタウロスに対する偏見は持ち合わせていないから、先ほど見送り際に口にしていたタンヌダルクちゃんの気持ちは杞憂というものだ。
 けれども野牛の一族は辺境では一般にモンスターの類と認識されているのも事実。
 俺も外交使節団として辺境東部を歴訪したり、諸侯のみなさんたちと接触する中で驚かれたことがあるのは事実だった。

 かたわらに立っているクレメンスへ質問する。

「きみは野牛の一族についてどう思う?」
「ミノタウロスの事だすか?」
「そうだね、きみから見て彼らはどう映っているのかなって事をふと思ったんだけど」
「おらはサルワタ貴族の末端に名を連ねている人間だすから、そりゃもう家中の人間は身内同然だす」

 そばかす顔に微笑を浮かべたクレメンスは、俺に向かって言葉を続ける。

「そもそもだすよ? 旦那さまはタンヌダルク奥さまと結婚なさっているだけでなく、エルパコ奥さまやカラメルネーゼ奥さまに、ソープ奥さまもおられるだす」
「確かにそうだな」
「はじめはそりゃ野牛の軍勢を率いて攻め寄せてきたアレクサンドロシアさまには驚いただども、エレクトラもタンヌダルク奥さまに対して平気な顔をしているし、今更というものだべ。外の世界は広いんだすなぁとエレクトラと言ったぐらいかな?」

 俺はおやっという思いを抱きながらクレメンスを見る。
 知らなかったことだが、どうやらアレクサンドロシアちゃんの側付きの騎士であるエレクトラと、クレメンスは仲がいいみたいだね。

「エレクトラとはよく話をするのか?」
「齢が近いだすからね。あっちは大きな上背で立派な大人の女だけれども、おらはこの通り痩せっぽちの田舎者だす。剣術の稽古を軽く付けてもらったり、たまにはお酒を呑みに新市街へ出かけたり」

 無い胸をカスカスとやってとても残念そうな顔をしたクレメンスである。
 何がおかしいのか、仕分け作業の手を止めたしわくちゃの顔をしたゴブリンが視界に映った。
 ッジャジャマくんである。

「胸を鍛えればエレクトラと同じ様になれるかと思ったんだすが、硬くなってしまっただけだす……」
「クレメンスさんはもう手遅れだと思うよ俺は」
「何だすと?! 悪魔面の猿人間の癖に乙女を何だと思っているだすか。この包茎め!」
「酷いよこれだよ、ゴブリン差別じゃないかっ」

 怒って拳を振り上げたクレメンスを見て、ッジャジャマくんは遁走した。
 本当に余計な事を口走ったよきみは。残された俺はどうフォローしたらいいんだ?!
 スカスカの胸を何度も撫でてガックリうなだれたクレメンスである。

「と、ところでけもみみ奥さんはどこにいったのかな?」
「エルパコ奥さまは橋の側にある監視塔に詰めておられるだす。今夜は泊まり込みの番で戦士に訓練の指導をすると言っていただす」
「そりゃまた大変だ」
「奥さま方が徴税官として向かわれたので、今頃はお見送りをしているはずだすよ」

 上手く誤魔化すことが出来ただろうかと、俺は微妙にゴマすり顔でクレメンスを見たら、とても悲しい顔をした彼女がこちらを見上げているではないか。

「……おらみたいな田舎者の村娘でも、シューターさまは嫁っ娘に貰ってくれるだすか?」
「順番が来たらねっ」
「んだす。何事も順番が大切だという事は、おらもサルワタ貴族の心得として家族のルールを順守するだす」

 結局、いつだかの酒場でいい感じの雰囲気になっていた若い兵士さんは何だったのだろうか。
 てっきり恋人同士の淡い雰囲気を醸し出していたと思ったんだがね……

「そんな事があっただすかね? ああ、アレはアレだす。少しはシューターさまの気を引くために、焼きもちを焼かせる作戦だったのだす。カラメルネーゼ奥さまがおらとエレクトラにだすな」
「な、なるほどカラメルネーゼさんが……」

 そう言ったのだすと開き直ったクレメンスは、他の場所でもせっせと似た様な事をやっていたらしい。
 しかし今のゴルゴライは人口が集中しているので、旧市街も新市街も人間であふれかえっている。
 だから俺の眼に止まる事もなかなかなければ、噂に上る事もまるで無かった。

「エレクトラの方はあれでよその騎士から求婚沙汰になったらしいだすよ。やり方が下手糞なんだべなあ」

 きみもあんまり上手くやったとは言えないけどね。
 てっきり良い仲の異性ができたんだと、勝手に思い込んでいた。
 だがその事は黙っておくことにしよう。

「ソープ奥さまが屋敷の方から手招きしてるだすよ。お茶の用意が出来たんじゃなかろかいな」
「そ、そうか。じゃあ外は冷えるし屋敷に戻るとするか。ッジャジャマくんは平気かな?」
「しばらく寒空の中で頭を冷やして反省するのがいいだす!」

     ◆

「サルワタの開拓村に比べれば規模は小さいのだが、このスルーヌという村も開拓の歴史はそれよりも古い。そのために村を囲う様にして柵が張り巡らされておってな、家々もゴルゴライ同様に密着して立ち並んでいるわけだ」
「なるほどな、つまり村の開拓に着手した時期によって村の姿はまるで違うというわけか」

 テーブルを囲みながら、俺はソープ嬢とともにアントン爺さんとお茶を頂く。
 手ずから淹れたのはソープ嬢で、カサンドラがいつも淹れてくれる様な酸っぱい紫色のハーブティーだった。
 興味深そうにうなずいて返すのは、世俗の生活をまるで知らなかったソープ嬢である。

「さよう、わしはサルワタには十年前に訪れたきりなので現在の様子は知らぬが、聞けば森の西にある湖畔に城が築かれているというではないか」
「むかし俺は、築城現場の作業監督をやっていた事がありましてね、リンドルやセレスタの城館に比べれば豪華絢爛というわけにはいかないけれど、質実剛健な領主奥さんらしい風情のあるいいお城に仕上がっていますよ」
「わたしも何れ、その城の住人となるわけだな。楽しみだ」

 フンフン返事をしながらソープ嬢は舌なめずりをした。
 テーブルの向かいに座った彼女は、下半身の蛇足さえ見えなければちょっと薄着過ぎる普通の麗人である。
 美人が普通にあたりまえの頻度でそこいらにいるのが、このファンタジー世界のいいところだね。
 チロチロ舌を出すところが無ければ、もう普通に露出度の高いおべべを着たお貴族さまと言われれば信じてしまうところだった。

「ソープ夫人はこの村の村長であるシューター閣下の妻であるから、当然この村とサルワタを行き来する事になるでしょうな」
「シューターさん。この村からサルワタまでの移動にはどのくらいの所要時間なのだろうか?」
「船で下ればあっという間、川をさかのぼるのならもう少しかかるかもしれない。街道沿いならば馬を走らせて半日、普通にいけば一泊してという距離ですね」
「近い様で遠いのか、遠い様で近いのか。何れにしてもまだ見ぬサルワタに心躍るな!」
「あの村は多くの開拓民も募っているし難民も受け入れているから、恐らくはかつてわしの見た有様とは大きく姿が変わっているかもしれぬ。何れは辺境の北で一番の街に発展するかもしれない」

 お茶を口元に運びながら、遠くを見上げる様なポーズを取る蛇足麗人である。
 うん、やっぱり美人だなあ。俺の奥さんには美人ぞろいで最高だぜ!

「しかし戦争の趨勢はどうなっておるのですかな、シューター閣下。閣下は盟主連合軍の軍監をなさっておるのだろう。今年は豊作で大収穫が出来たものの、次の年は決まって不作になる傾向がある」
「七分三分でこちらが有利に戦いを進めているところですが、長引けば俺たちが不利になる可能性がある、ってところですかね。旗頭のブルカ伯はこちらの虜囚になっているとは言え、相手は大領主だからあとは政治問題に引き込まれる可能性がある」
「という事はやはりアレクサンドロシアどのの手紙にある通り、どこかで政治決着による落としどころを探るという事になるのですな」
「恐らくは……」

 アントン爺さんの鋭い考察にうなずいてみせた俺は、酸っぱいハーブティーで気分まで酸っぱくなってしまった。

「将来が不透明ならば、閣下が在郷中にこそスルーヌの村を掌握しなければなりませんな。明日は豪農どもの代表者を集めて酒宴を開く他に、幹部を改めて選任する事にしましょうぞ」
「わかりました。それは妻たちも同席で?」
「その方がよろしかろう。閣下の奥方はとにかく数が多いので、覚えてもらう機会も多い方がいい。がっはっは、がっはっはっは! このこのっ」

 バシバシと肩を叩かれて、俺はたまらずの見かけのハーブティーを吹き出しそうになった。

     ◆

 村長屋敷で過ごすその日の夜は、俺とソープ嬢だけになってしまった。
 幸いにして前村長の娘アンギッタの使っていた寝台はとても大きい。
 ソープ嬢がかつて利用していたものと類似した天蓋つきのそれは、彼女が横たわっても十分にスペースに余裕があるぐらいの大きさだった。

「ただし脚がはみ出してしまうけど、ごめんね」
「か、構わない。愛しいひととこうして側にいられるだけでわたしは……」
「晩酌でもするかい?」
「そ、その前にお風呂に入って身ぎれいにしたいものだ。ここにはゴルゴライにあるようなシャッワァというのはないのか?」
「ああええと、シャワーか」

 残念ながらそんな便利な聖少女発明品はないので、俺が体をへちまで洗ってあげる事しかできない。
 急に蛇足奥さんとふたりきりになったせいで、俺たちはとても緊張した。

「わ、わたしはクレメンスとは違って、義姉さんにちゃんと許可はとっているからな。盛りの付いた雌だと思われたら心外だからなっ。では脱ぐぞっ愛しいひと!」

 不思議な言い訳をしながら嫌々をして見せたソープ嬢は、こんなに寒い季節なのに透ける様な薄い衣を脱ぎ捨てる。
 ちょっとだけ冷たく白い胸は、例えるならいわゆるひとつのデカメロンだろうか。
 その後俺はソープ嬢を泡まみれにして、デカメロンを食べた。


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