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異世界に転生したら村八分にされた 作者:狐谷まどか

第9章 内政の季節が到来です

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318 村の確定申告が行われました

更新お待たせいたしました!
 この集落の人間にとって新たな支配者たちは恐怖の対象だ。
 何しろ恭順する事を拒絶した以前の村長トカイは、アレクサンドロシアちゃんの激しい怒りの琴線に触れて戦争を仕掛けられて滅ぼされてしまったのだ。
 トカイは今どこにいるかと言うと、サルワタの湖畔にある城の牢獄に軟禁されているはずだろう。
 そうして背後でトカイを操っていたブルカ辺境伯ミゲルシャール自身も、現在は俺が生け捕りにした事でゴルゴライの牢獄で虜囚生活を送っているのだ。

「あのう。これはいったいどういう事でしょう」
「おおうっ、わけがわからないよ」
「ご主人さまカサンドラ奥さま、集落の民は無抵抗の意志を示しているものだと思われます。まずは領民の心を和らげるために、お顔をお見せするのがよろしいかと」

 当惑した俺と大正義カサンドラに、官憲の出身らしく素早く提案を口にする男装の麗人だ。
 俺たちはあわてて馬を降り、両手を付いて土下座した集落のみなさんの前に歩み寄った。
 最後にッジャジャマくんの運転する荷馬車から降りた蛇足麗人のソープ嬢が姿を現したところで、

「長老。あのお方が俺たちを街道で助けてくださった、全裸を貴ぶラミアさまだべ。森の大蛇どもを自在に操って、巨大な倒木を力尽くで押しのけてしまったんだべさ」
「おおおっ、命ばかりはお助けを。この集落の人間たちは先の戦争で激しく抵抗しましたけれども、おらたちは決してこれから先、新たなる村長さまのご命令に歯向かう事はありませんべさっ」

 見れば屈強なおっさんが、長老と呼ばれたゴブリンの爺さん相手に耳打ちをしているではないか。
 しかも何を勘違いをしたのか平伏する相手は蛇足の麗人であるソープ嬢であった。
 どうやら見覚えのあるムキムキのおっさんは、ブルカ街道沿いで難儀していた木こりの真似事をやっていた領民たちの中にいたひとで間違いない。
 あの時のソープ嬢の力を伝え聞いた集落の長老ゴブリンは、まるで女神様に慈悲を乞う哀れな信者そのものであった。

「シューターさん、みんなはソープさんの事を村長さまだと勘違いしているよ」
「どうやらエルパコ奥さまの仰る通りの様子ですね。新たな村長さまがシューターさまであるという旨、代官や在郷の村の幹部たちから説明はなかったのでしょうか」
「魔法の伝書鳩と、行商人が運んでくる噂だけが情報源みたいな場所だからな。噂だけが先走りして、おかしな尾ひれがついたのかも知れない……」

 エルパコと男装の麗人の言葉に俺たちがヒソヒソやっていると、カサンドラはとても困った顔をしていた。
 あべこべに、隣のタンヌダルクちゃんはこの様子が面白く感じているみたいでニコニコしている。

「……愛しいひと。こ、これは?」

 すぐにも俺たちの隣にやって来たソープ嬢は、当然ながら俺に助けを求める視線を向けてきた。
 もちろん俺たちはこの集落の領民たちにご無体な事をするつもりなんてないからな。
 勘違いしているうちに誤解を解いて、良好な関係を築いておきたいものだ。
 先ごろベローチュは飴と鞭なんて言っていたけれど、さっそく鞭と飴が全自動で用意されたような気分になった。

 軽く手を挙げて「安心していいよ」と意志を伝えつつも、けもみみ奥さんと男装の麗人に素早く目配せをして前に進み出る。
 アイコンタクトの意味が伝わったのか、男装の麗人が土下座するゴブリン老爺の側に立った。

「村長さまはサルワタの領邦を統べるアレクサンドロシア準女爵さまのご命令で、新領土に着任されたばかりだ。先の戦争では不幸な行き違いはあったけれども、ご慈悲深い村長さまは過去の事をすべて水に流したいと考えておられる」
「おおっ、それはまことだべか村長さま。おらたちは新しいブルカとの戦争で、若い男女を差し出しておりますだ。サルワタの売女騎士さまと言えば、あらゆる種族の女どもを家族に迎え入れて侍らせているそうだで、そったらことだと、おらたちの集落からも若い女がさらわれるんじゃないかと。ヤキモキしておった次第ですべさ……」

 ゴブリン老爺は最初、ありがたいお言葉を告げた男装の麗人に視線を向け、その後にどうやら村長と勘違いしているらしい相手のソープ嬢に平伏する。
 そこでようやく、戸惑いながらソープ嬢がこう口にするのだ。

「お前たちの忠義しかと見届けた。けれどもわたしは、残念ながら村長ではないのだ」
「何と! ではどなたさまが村長さまなのですべか?」

 どういう事だとゴブリン老爺とゴツいおっさんが小さく口論をする。
 他にもあの街道で伐採をやっていた連中が顔を見合わせて協議を続けているけれど、何故か俺の方には視線を向けてくれない。

「では、そちらの高貴なお身の上の……」
「そのう、わたくしではないです」

 彼女は俺の大正義な正妻です。
 カサンドラは困った顔をして首を横に振った。

「という事はそちらの野牛のご婦人が村長さま……」
「違いますよう。わたしはミノタウロスの族長の妹ですが、専業主婦ですから!」

 タンヌダルクちゃんはニコニコしなが否定してみせた。
 気の強いところのある野牛奥さんなら怒り出すかと思ったけれど、状況を面白がっているみたいだ。

「ならばそちらの獣人さまが村長さま? それともそちらのお方だべか?!」
「ぼくは騎士だよ」
「自分はご主人さまに仕える奴隷騎士です」

 俺だよ俺。全部違うよ!
 まったく見当違いに奥さんたちを見比べているところを見ると、新しい村長は女性であるという先入観がどうやら働いている様だった。
 呆れた顔のソープ嬢が、ようやく平伏した集落の民に事情を説明する。

「村長さまはこの方だ。女神様の聖使徒にして全裸を貴ぶ部族の戦士のご出身、スルーヌ騎士爵シューターさんだ」
「どうもどうも、新しい村長さんはこの俺です……」
「何と! サルワタの売女騎士さまは女人を集めてハーレムを築いていると聞いていたども、違っただべか?! 噂とは本当に当てにならないもんだべなぁ」

 まったくだよ!
 無駄に最初のご挨拶で時間を過ごしてしまったところで、本日の要件である確定申告に入らなければいけない。

「そういう事だから頭を上げて。うちの奥さんのひとりが言っていた通り、過去の不幸な(いさか)いはあったけれども、これからは同じ村の人間同士仲良くやっていこう。今日は貢納を取り決めるために秋の収穫を検分に来たんだ。困った事があればこの際だから何でも上申してくれるといいよ」
「ははあ。おらたちの勘違いで申し訳ない事をしてしまっただべ。さあさあ、こちらにこの集落の倉庫がありますだで、見てくだされ」

 焦ったゴブリン長老に誘導されながら、俺たちハーレム大家族はゾロゾロと移動を開始した。
 馬の世話を見ている野牛の兵士やモンサンダミーを残して、倉庫の前へやって来る。
 ゴブリン老爺と一緒に付いてきた若い男が倉庫の扉を開けると、麻袋に収まったいくつものトウモロコシの収穫品が山積みにされていた。

「やあ。今年はスルーヌの開拓村も、思いのほか大豊作だと聞いていたよ」
「んだんだ。確かにトウモロコシの収穫高は非常に多かっただす。だども芋の収穫は平年通り、キャベツやケールの収穫は若干の雨でいいものが採れなかったのも事実だす」
「季節によって収穫が間に合ったものと、そうでないものが出てきたんだね。クレメンス、悪いがその資料を確認してくれ」
「了解だすシューターさま」

 ようやく徴税官としてのお仕事が出来るようになったので、気さくにゴブリン老爺に話しかけながら今年の畑の様子を聞き取っていく。
 こうして話している限りでは、やや緊張した面持ちで俺に接してくれる集落の民たちだ。
 男装の麗人も特段の気配りをすることなく、俺の指示に従って若い領民の男から資料のメモを受け取っている様だった。

「奴隷騎士さまに質問だべ。新しい村長さまの連れている高貴な身の上のご婦人さま方は、いったい何モンなんだべか?」
「わたしを含め、こちらにおられる方はすべてご主人さまであるシューター閣下の奥さま方だ。配慮の行き届く様にするのですよ」
「えっ、いったい何人の奥さまをお連れなのだべか?!」

 そんなやり取りが聞こえてくる中で、麻袋の数をッジャジャマくんがせっせと数えていく。
 深刻に漏れがない様に確認するための作業だが、妙に緊張をしているゴブリン老爺の姿を見ると、申し訳ない気分になってくる。
 隠している糧食がある様には見えないのだけれど、これも仕事だ勘弁してくれ。

「シューターさん。小麦の袋が全部で四十、トウモロコシが全部で一〇〇袋、それから豆の入った袋も三二ばかりありましたね。隣の倉庫は干し肉がぶら下がっているや、鹿と猪だな」
「獣の肉はまだ熟成しておらんので、食べてもあまり美味しくはないだども。こいつも持ってお行きなさるか?」
「いやいらないよ。美味しくなったら来年の春の収穫に頂くことにしようか」
「了解だべ。ほんだら後は酒蔵に案内するだども、そっちはどのぐらい持っていきなさるべか?」

 こんな調子で俺とゴブリン老爺が会話をしながら倉庫の中身を点検すると、後ろに付いてまわるカサンドラとタンヌダルクちゃんが真剣そのものの顔でふんふんとうなづいていた。
 これからこのふたりは、それぞれ命じられた領地の徴税官をするので予習に余念がないのだ。

 文字を覚えたカサンドラは、さっそく熱心に麻紙にメモを走らせていた。
 ちょっと見せてもらうと、これまでまわってきた集落での覚書に「隠し倉庫の有無を確認する」という文字が見つかる。
 この集落ではどうやら問題なさそうだけれど、他の集落ではセコい農民たちが「焼酎の材料にする芋」だと偽って、大量のタロイモを隠していたからね。
 しかしこの集落で気になった点は違うらしい。新たに加えられたのは「出来るだけ平和に進める」とか「身分は早めに明かす」なんて走り書きだった。

「長老からの申告と倉庫にあった袋の数は一致しただす。問題はなさげだすな」
「では取り決め通りに収穫量の中から納税ぶんの貢納を荷車に運びなさい。ご主人さまよろしいですね?」
「ああふたりに任せるよ。この焼酎はわりと美味しかったので、売り出せばいい稼ぎになるかもしれないね爺さん」
「ありがとうございますだ。来季の貢納はお手柔らかに……」

 それはアレクサンドロシアちゃん次第なところもあるけど、前向きに意見具申をするよ。
 戦時下だから増税という事もありえるかもしれないけど、戦争が終われば内政に力を入れて減税に取り組む必要があるからね。
 どこの世界にも支配者や権力者というのは、領民の収穫物をすべて自分のモノである様に勘違いしている連中はいる。

 自分がそうならない様に、せこい考えは持たないようにしなくちゃね。

     ◆

 こうして各集落をめぐってのつつがなく貢納の確定申告は終了した。
 だけれども、ひとつだけどうしようかとみんなが困ってしまう貢納の品がひとつあったわけである。

「特産品をゴルゴライに向けて送り出すというわけだけど、この材木をどうやって運ぶかだな……」

 スルーヌの開拓村はトウモロコシの大穀倉地帯である。
 一方でサルワタの森から続くぶつ切りの森林地帯でもあり、その他目立った産品と言えばせいぜいがこの森でいくらでも取れる材木というわけである。

「先日も巨大な樹木で難儀をしましたが、これを加工して運び出すともなればかなりの苦労ですね」
「うん。カサンドラの言う通り、材木は資産の代わりになるとは言うけど、これをどうやってゴルゴライまで運んだらいいんだろうね……」

 まもなくカサンドラやタンヌダルクちゃんは、男装の麗人ベローチュの警護する野牛の馬車に乗って街道を北上する。
 しかし最後に特産品となる物品を貢納してもらう段階で、いったいどうやって運んだらいいのかわからない材木を前にして途方に暮れてしまった。

「川を使って運ぶという方法はどうなんですかねえ旦那さま? スルーヌには河岸の船着き場が整備されましたよう。ほら、リンドルに向かった時に使った。」
「タンヌダルクちゃん、あれは残念ながらサルワタの湖畔から確かにリンドル川の下流まで続いているけどね」

 残念ながら水運として使えるのはスルーヌの開拓村までだろう。
 サルワタの湖から続く川は最終的にリンドル川と合流する事になるが、ゴルゴライの近くで大きな滝による段差がある事は間違いない。
 仮にその滝の近くまで運ぶにしても、スルーヌから森林地帯を抜ける川は、現在ギムルたちが制圧作戦を行っている空白地帯になるために安全性は確保できていないのだ。

「なら逆に、サルワタの湖に遡って運ばせるのはどうですかあ? ねえ義姉さん。サルワタではお城の建設や集落の拡張も続いているのだから、建設資材はいくらあっても足りないんじゃなかったですか?」
「ちょっと待ってくださいダルクちゃん。アレクサンドロシアさまからお預かりした書面に、覚書があった気がします」

 なるほどタンヌダルクちゃんは名案を口にした。
 急いで懐を探ってアレクサンドロシアちゃんからの命令を書きしたためた紙片を確認するカサンドラ。俺も野牛奥さんも紙片を覗き込んで内容を見た。

「確かにモエキーさんからの要望で、不足している材木の数を確認する様に言ってきていますね」
「だったら街道を通って運び出せる大きさの材木は、そのままゴルゴライに。それが不可能なぶっといやつは北に手配するのもありか。代わりにサルワタから別の産品を入れてもらって、それで等価交換した事にすればいい」
「はい、シューターさん」

 俺がそんな事をカサンドラとタンヌダルクに返していたところで、すぐにも状況を理解した男装の麗人が、クレメンスに手紙の用意をさせる様に指示を飛ばしていた。

「今ご主人さまの仰った内容を、ゴルゴライのアレクサンドロシア奥さまの元へ届けるのです。文面を作成したら持ってきなさい。ご主人さまとカサンドラ奥さまのご署名を頂いてから、すぐにも飛ばしましょう」
「んだす。ほいだらおらはいったん村長屋敷に向かうだす!」

 クレメンスは俺たち夫婦に貴人に対する礼をしてみた後、男装の麗人にうなづきかえしてすっ飛んでいった。
 しかしあれだなこの材木も。
 資産になるし必要とされている場所はいくらでもあると言うけれど、これを運ぶ送料もかなりの額になるんじゃないだろうか。

「いざとなれば戦争奴隷を使って運ばせる事を考えていましたが、アレクサンドロシアさまのご許可が得られればよろしいですね」
「そうだな。こちらから供出した材木の代わりにサルワタから運ばれてくる特産品と言えば……」

 ゴブリン人形だ。
 あんなものが貢納の品として徴税官の元に差し出される図を連想して、俺は頭を抱えた。
 最近ではゴルゴライの市場で売られているのを見かけたけれど、一家にひとつあれば十分だ。
 何個も保持していても何かご利益があるわけでもなかろう。

「カサンドラ。来年からはゴブリン人形はやめてッヨイさま人形かアレクサンドロシアちゃん人形を作る様に、内職のみなさんには伝えておいてくれないかな?」

 せめて賢くもようじょであるッヨイさまの人形であれば、騎士修道会の連中が買っていく気がする。
 アレクサンドロシアちゃん人形なら、今を時めく破竹の勢いがある領主さまだから人気もある。あるいは領主さまのお姿だからと無理やり売りつける事もできるかも知れない。

「わかりました。そのう、せっかくなのでシューターさんの人形も作ってもらおうかと思います」
「いいですねえそれは! 一家に一台の旦那さまですよう」

 恥ずかしいからそれはやめなさいっ!
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