挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
異世界に転生したら村八分にされた 作者:狐谷まどか

第9章 内政の季節が到来です

422/533

317 村人は全裸に平伏した

本日二回目の投稿です!
「家族がなし崩し的増えていく様な事があってはまりません」

 その夜ピシャリとした口調で俺に意見をしたのは、大正義カサンドラだった。
 お説ごもっともです。
 正直な事を言えばクレメンスが俺のところに嫁入りしたと触れ込んだのは彼女自身である。

「スルーヌはシューターさんにとって大切なご領地です。これを狙ってお嫁さんになりたいと近づいてくるひとが、もしかするとこれから後を絶たない可能性だってあるのですよ?」
「も、もちろんカサンドラの許可がない結婚なんて、俺がするはずないじゃないか」
「当然です。旦那さまはもう、シューターさんおひとりだけのものではないのですからね、これからは。領地を守り、家族を守る事も立派なお貴族さまのお務めなのだと、アレクサンドロシアさまも仰っていました」

 前村長であるトカイの娘アンギッタが使っていたという寝室で、俺とカサンドラは久々にふたりきりの夜を過ごすことになったのだが……

「聞いていますかクレメンスさん? 何事も順番を蔑ろにするひとは、次の順番を後回しないといけなくなるのですよっ」
「も、もうしわけないだす。おらが将来、シューターさまの嫁っ子になればスルーヌもこれで安泰だと、ついつい手紙に書いてしまったのだす。お、おらは順番を待たずに、とんだ先走りを飛ばしたもんだべ」
「クレメンスさんの順番は、ソープさんの後に控えているラメエちゃんやマドゥーシャさんの後になります。どうして順番が待てなかったのですか!」
「すまんことだす……」

 シュンとしたクレメンスはそばかす顔に暗い表情を浮かべてうなだれていた。

 どうやらご就寝のお時間の前に、今日村の中であった事の次第についてカサンドラはクレメンスを正しておかなければ気が済まなかった様だ。
 手紙による意思疎通の誤解については、昼間のアントン爺さんの勘違いで懲りたところだったからね。
 クレメンスはカサンドラから内示を得る前に先走ったので、大正義の制裁(正妻)が下ったのである。
 ついでに俺も正座をしてしまっている。
 大正義、怒りの正妻!

「ま、まあ紙は貴重品だから、文章を並べるにしても言葉を省きすぎると誤解に繋がる事もある。あと余計な事を書いて書簡が奪われでもしたら大ごとだ。これからは気を付けるんだよ」
「はいだす。すまんだすシューターさま」
「それでその手紙というのは、いったいいつご両親に送っていたんだ?」

 俺が知る限り、だいたいクレメンスは男装の麗人かエルパコか、この三人はいつも一緒になって俺の周辺に控えている事が多かったはずだ。
 けもみみは俺の護衛役だかを自任している奥さんだけれど、どちらかというと甘えたがり屋のペットみたいなところがある。
 男装の麗人は奴隷親衛隊などと称して配下を使役している腹心の奴隷奥さんだからな。
 ふたりといつも行動を共にしているはずのクレメンスが、ふたりの眼を掻い潜って勝手に手紙を送り出したのは不思議に思えたのだ。

「それはだすな、ゴルゴライの鳩舎からスルーヌに向けて魔法の伝書鳩を飛ばす定期便を運航する時に、もののついでにといつも実家に手紙を付けていたのだす」

 実はスルーヌの村長屋敷というのは、ふたつの棟で出来ていた。
 かつてあった本宅の棟は、アレクサンドロシアちゃんがこの村を蹂躙した際に鳩舎と一緒に炎上してしまった。
 今の村長屋敷は離れの棟で、将来はトカイの娘アンギッタが婿を取った時に与えられるはずだった屋敷の方である。

 クレメンスはどうやら、スルーヌに鳩舎が再建されて新しい魔法の伝書鳩が運び込まれた際に、試験運行にかこつけて手紙を飛ばしていたらしいのである。

「まあ。旦那さま、家族思いなのは良い事です。これ以上クレメンスさんを責めても仕方がありませんね」
「そうだねカサンドラ。大正義さまがそう言っているのだから、海よりも深く反省して感謝しておくと、きっといい事があるよ」
「はいだす」
「あなたの順番は何れ来ますが、今はその時ではありません」

 どうしてもシューターさんが求めてこられたときは、事後でもいいので報告するのですよ。
 はいだす。
 そんな耳打ちを堂々と俺の前でこれ見よがしにするものだから、俺はバツの悪い顔をしてしまった。

「き、きみは夜ももう遅いから下がりなさい。明日は徴税官の補佐役として、ベローチュとともに期待しているからそのつもりで」
「ありがとうございますだ、ありがとうございますだ。おらは全裸のご主人さまに深く感謝しますだ。ごゆっくり、うふふっ」
「うるさいよ!」

     ◆

 狭い村長屋敷の寝室でハーレム大家族みんな揃って一夜を共にする事はできない。
 だからタンヌダルクちゃんとエルパコは屋敷の別室に、男装の麗人とソープ嬢は護衛役のッジャジャマくんとともに教会堂に分宿していた。
 クレメンスは実家があるので、今夜は家族と水入らずだ。

 だからだろうか。
 まったくのふたりきりになった瞬間から、カサンドラの甘えん坊ぶりはそりゃ凄いものがあった。

「今日は色々あったのでとっても疲れてしまいました、旦那さま」
「そうだねえ。アレクサンドロシアちゃんに子供が出来たというから驚いたら、何の事はない。バジルの事だったって言うんだからお笑いだ」
「わたしもバジルちゃんの事を聞いて、アレクサンドロシアさまがご懐妊なさったというお話かとビックリしてしまいました」
「まあ俺たちも家族なんだから、誰に子供ができてもおかしくないんだけど。何事も、」
「何事も順番が大切です。もし家族の誰かにあかちゃんができたとしても……」
「しても?」
「まず名前から決めなければいけません」

 はははこやつめ。
 スルーヌ前村長の娘アンギッタの寝台は、お金持ち領主のお嬢さまと甘やかされて育ったのかとても大きいものだ。
 胡坐をかいた俺に身を預けたカサンドラは、コツリと胸板に頭をのせて俺を見上げながら、ちょっとだけ上気した顔で微笑みを浮かべていた。

「全裸を貴ぶ部族では、いいお名前はありませんでしょうか? シューターさんのあかちゃんだから、強く勇ましく立派なお名前をつけないといけませんね」
「強くて勇ましくて立派なぁ」

 アレクサンドロシアちゃんと似た名前で言えばオリエント世界を征服したアレクサンダー大王なんてひともいたもんだ。
 あるいはシーザーやカイゼルなんて色んな国のそれぞれの言葉で呼ばれた、ローマ皇帝のカエサルなんて名前も勇ましい。

「後はパっと思いつくのは織田信長ぐらいかな……」
「オダノブ・ナーガですか? 以前、シューターさんのお話の中で聞いた事があるかもしれません。全裸を貴ぶお貴族さまでしたっけ」
「彼の性格はアレクサンドロシアちゃんに似ているところがあるかな。慎重かつ大胆で、瞬く間に天下にその名を轟かせたあたりとかね。こっちの世界でもおかしくない名前だと、やっぱりカイザーとかかな」
「どういう意味なのでしょうか?」
「皇帝陛下という意味だよ」

 カサンドラは「まあ」とちょっぴり驚いた顔をして、勇ましいお名前ですと笑った。
 俺の子供だからとファイターくんとかファイターちゃんとか付けられるよりは絶対マシだよね。
 こら、カイザー! 廊下を走っちゃいけません。
 キュッキュッベー。
 俺とカサンドラは妄想上の子供の姿を連想して互いに顔を見合わせると、苦笑した。

 そのまま俺がカサンンドラを優しく抱きしめると……

「寒い季節がやって来たので、一緒に肌を合わせているととても温もりを感じます」
「そうだね。カサンドラには結婚してからこれまで苦労をかけっぱなしだった」
「そんな事はありません。いつもシューターさんは立派でしたし、わたしたち妻の事もいつも気にかけてくださいました。でも、また離れ離れになる今夜はわたしだけのものですっ」

 ちょっと小悪魔的な顔をしたカサンドラが、向き直って俺の唇を求めてきた。
 かわいいやつめ。
 今宵は夫婦で全裸を貴ぶのだと吉宗は心に期待を抱くのであった。

     ◆

 おはようございます。
 昨夜は頑張りすぎたので、とても辛いです。
 馬に揺られる必要がないと油断してたけれど、よくよく考えてみれば馬に乗って確定申告のために巡検しなければならないのでした。
 この村で手配された馬は、何故か俺の言う事をまるで聞かない。
 馬鹿にしやがって……

「シューターさん、こっちだよ!」
「待ってくれエルパコ。きみたちみたいに馬がまともに走ってくれないんだっ!」

 わけのわからない言い訳をしながら、俺は先を駆けている奥さんたちの馬を見やって鞭を入れた。
 あまり馬に慣れていないカサンドラも、こちらに馬首を返して苦笑しているではないか。
 あんなに激しく愛し合ったのに、大正義カサンドラだけ艶々しているのは不公平だ。

「倉庫がある集落はあとひとつだす。それが終われば村に戻って特産品の検分だから、もうひと息の事ですだ」
「わかっているクレメンス。しかしこの村の馬は言う事を聞かないのは何でだよ、さっきから俺を馬鹿にしているみたいに暴れるんですけどっ」
「そりゃシューターさま、この村はもともとサルワタに歯向かった土地だすからな。馬は周りの人間の感情をもろに理解するので、調教師が村長さまを敵だと思っていれば、言う事を聞かないものだすっ」

 カサンドラには懐いているのに不公平だ!
 もたついている俺の側で控えていたクレメンスが、俺を追い抜く様に馬を走らせて行く手の集落に向かう。
  走っていったクレメンスの背中を追いかけていると、

「ところで次の集落は、アレクサンドロシア奥さまが攻め寄せた際に、もっとも激しく抵抗した農民兵たち出身の集落だそうですねご主人さまっ」
「詳しくは聞いていないが、その集落出身の騎士も確か討ち死にしたんだっけ。農民兵もたくさん死んだんだよな……」
「新たな支配者を受け入れるにあたって、抵抗があるやもしれません。奥さま方もおられますので万一に備えて気を付けておく必要があるかもしれませんね」

 爆乳を激しく揺らしながら俺に追走する男装の麗人が、思うところを意見具申してくれた。
 サルワタの開拓村でも、周辺集落のみなさんは俺が騎士に任命された時はえらく不満をぶつけてきたものだ。
 顔も知らないよそ者が村長さまだ領主さまだと言って、簡単に納得しない事も考えられる。

「その場合は武力でもって抑えつけるというわけにもいきません。恒久的にご主人さまの根拠地となる場所ですから、飴と鞭による懐柔が必要です」

 飴と鞭。鞭と言うのはわかるけど、飴はいったいどうやってチラつかせるつもりだ?
 勝手に徴税を融和したら領主奥さんに大目玉を食らうだろうし、俺が全裸になって喜ぶのは味方の軍隊と奥さんたちだけだ。
 さてどうしたものかと思っていたところ、

「シューターさん。集落のみなさんが広場に整列して、お待ちになっていますよ」

 器用に馬を寄せながら、カサンドラがニッコリと俺に微笑みかけてくれたのだ。
 先が思いやられる気分になって広場へと俺たちは馬を連ね、進入する。
 すると、数十の棟を並べたその集落の広場には、大人から子供までずらりと並んだみなさんが平伏している姿があったのだ。

「全裸さまのおなりだべ! 頭が高い控え控え」
「?!」

 俺たちハーレム大家族は顔を見合わせた。
 想像してたのと違うお出迎えで、ちょっとどころか驚きだ!
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ