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異世界に転生したら村八分にされた 作者:狐谷まどか

第9章 内政の季節が到来です

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315 蛇に睨まれた蛙の気持ち

いったん投降後、後半パートを大幅に加筆修正させていただきました。
すでにお読みになった方は申し訳ございませんッ
 自信あり気な顔をしたソープ嬢がいったい何を始めるのかと観察していると。

「安心してくれていいぞ愛しいひと。まだわたしの眷属は冬眠していない様だ、この近くには日向ぼっこに最適な岩場でもあるのかもしれない」

 ニッコリ微笑したソープ嬢は、森の方角をさしてそう説明してくれた。
 しばらくは何が起きているのかわからない村人のみなさんが、互いに顔を見合わせていたけれど。

「どうすんだよあんたたち、どうにかしてくれるんじゃないべか。ええ?」
「んだんだ、早くこいつをどかさないといけないのに。代官さまのところへ応援を呼びに走らせた方がええんじゃないのかね」
「そったら事をしたら、責任者の俺がえらい目にあわされるでないか。駄目だ駄目だ、あんたたちも手伝ってだな。馬がいるのならそいつも……」

 田舎言葉まるだしの村人たちは合唱した。
 最後にごっついおっさんが馬を使おうと言いかけたところで、森の中からバキバキみしみしと、木を押し倒す様な不気味な音響が聞こえてくるではないか。
 ギョっとしたみなさんたちは、あんぐりした口のままで硬直していた。

「げぇ、マダラパイク!」
「ひいふうみいに、全部で六匹か。まあこれだけ数がいればこの大木を移動させることは難しくもないだろう」

 驚いて斧を身構えたおっさんを無視して、ソープ嬢はあっけらかんとした顔で俺に報告をした。
 まあ眷属、眷属って言葉を何度も口にしていたのだから、大蛇の親戚を呼び出したんだろうという事は、俺の中でも見当がついてたけどね……
 しかし、そうとは知らなかった村人や、俺の奥さんたちはやっぱり驚いていたらしい。

「だ、旦那さまぁ。何匹も大蛇が森の中から……」
「落ち着いてくださいダルクちゃん。ソープさんもおられますし、いざとなれば旦那さまが守ってくれるはずですっ」
「ぼく知ってるよ、マダラパイクは燻製にすると美味しいんだ」

 奥さんたちが呆気に取られているうちに、ソープ嬢が特殊な魔法でも使ったのだろうか。
 おりこうさんの大蛇たちは、くねくねの体を押し付ける様にして大樹の幹をズズズンと移動させはじめたのだった。
 全長で二〇メートルはあろうかという大蛇のパワーは圧倒的だ。
 ずりずりと移動していく大樹を見ていると、ソープさんが「そのままあっちに持っていってくれ」と、使用人に軽くお使いを頼む様なノリで指示を飛ばしているじゃないか。

 村人のみなさんは構えていた斧を落として呆然と立ち尽くし、ついでにお股を濡らしていた。
 なるほどスルーヌの村人もまたジョビジョバの一族だったのか!
 そんなわきゃねえ。

「と、ところでご主人さま。この小さな蛇たちはいかがいたしましょう。森の中から今もワサワサとマムシやシマヘビが湧き出てきているのですが……」
「エルパコが蛇は燻製にすると美味しいと言っていたけど、捕まえて村人のみなさんに食べてもらおうか……」
「……おやめになった方がよろしいかと思います。このサイズの蛇は骨が多いので、食べにくい事が知られています」

 洪水が起きて水が迫ってくる様にして集まる蛇を見て……
 俺たちの感覚は何やらおかしくなったのかも知れないね。

     ◆

 どうにか通せん坊をしていた大樹を排除したところで、俺たちは馬車の旅を再開させた。
 ソープ嬢は要件が終わると大小の蛇たちを解散させてくれた。
 聞けば、ここはソープ嬢の縄張りというわけではないので、特定の蛇だけを名指しして使役する様な事は不可能であるらしい。
 当然、無作為に近くにいる蛇を、ラミア族の能力か何かでかき集めているというわけである。

「戦争でアレを実行できれば、わが軍が圧倒的に優位になるかもしれませんねご主人さま。ただし蛇の類が住んでいる地形でなければなりませんので、森の中、林の中に限定されてしまいますが」
「確かに毒蛇を敵の陣地に送り込めば、敵は大混乱に陥ることになるだすな。けれどもコントロールできるのがソープ奥さましかいないだす。ちゃんと言う事を聞いてくれなければ、こっちまで毒蛇に?まれてしまう事になるだすよ」
「クレメンスの言う事はもっともですご主人さま。マダラパイクの様な大蛇だけを上手く誘導できたのならば、これは作戦的に有効かもしれません。はて、どこかで最近、その様な作戦を使った内容を目にしたか、耳にしたような気がしますが……」

 馬車の天蓋から身を乗り出したクレメンスと、馬車に並走する男装の麗人がそんな議論を交わしていた。
 器用に馬上で腕組みをして考え事をする男装の麗人は、小首をかしげながらウーンとうなり声をひとつあげた。

「あれじゃないかな。ブルカにいた王国の将軍さまが、マダラパイクより大きな蛇に襲われたって、手紙に書いてあったと思うよ」
「それだ! すでに敵側がその様な作戦を使って、王国ブルカ兵団を全滅に追い込んだのでしたね」

 するとけもみみが、手綱を握りながらその疑問に応えてくた。
 男装の麗人がポンと手を叩いて見せると、ただでさえ馬の揺れに合わせてばるんばるんしていたお胸が、ひときは激しく暴れまわる。

「つまり敵にもソープ嬢の仲間というか、ラミア族を味方に引き入れているんだろうか。ソープさんはフクランダー寺院に一族で最後に残った人間だと言っていたけれど、辺境のあちこちにはラミア族が移住して生活をしているのか」
「ラミアの一族なんて、おらは村にいた頃は聞いた事がないだすな」
「自分も王都で生活していた頃も、オコネイルさまに従ってセレスタに移住してからも、その様な話を聞いた事がありません」

 するとやはりラミア族というのは、ほとんど生き残っていないという事になるのだろうか。
 ソープ嬢は一〇〇年の間、あの薄暗いダンジョンと化したフクランダー寺院の遺構の中で、外界から隔絶された生活を過ごしていた。
 せめての連絡は、近郊の村を訪れる行商人から生活必需品を買い入れるだけだったか。
 そんな彼女は浦島太郎ではないが、仲間の部族がほとんどいなくなったことを知らずに過ごしてきたというわけだ。しかし、

「もしかすると彼女と同じ様に、ヒッソリとあちこちの遺跡の地下なんかで隠れ住んでいるのかも知れないね、彼女の仲間たちは」
「それはあり得る話でしょうね。いったいブルカ伯がどの様な理由でソープ奥さまに接近したのかはわかりませんが、もしもあの力を利用しようと考えていたのであれば、ラミア族が権力を避けて隠棲しているという事は考えられます」
「悪い事を考える人間はどこにでもいるからな。ラミア族の隠し財宝を狙っていた連中もいたし、ラミアの持つ能力も、悪用されればとんでもない事になる」

 そういう意味では、ソープ嬢が表の世界に連れ出した俺たちも責任がある。
 彼女には幸せになってもらわないといけないと心に誓う吉宗であった。

「シューターさま、あそこに川の検問を監視する物見櫓が見えてきただす。スルーヌはもうすぐ近くですだ!」

 馬車の天蓋から遠くを指さしたクレメンスの声で、俺たちは目的地が近づいたことを知った。
 サルワタに向かう街道には荷馬車を引く商人たちの往来がまばらに見えて、この辺りまでは戦争の影響がまるでない様にのどかな風景が広がっているのだった。

    ◆

「今年は思いの外、畑の収穫が豊作でしてな。トウモロコシの収穫量は例年の一・五倍という有様で、戦争で労働力が不足しておりましたので、わしも代官として難儀したものです。がっはっは!」

 スルーヌの村長屋敷前で俺を迎え入れてくれたのは、隣村のクワズから派遣されてきた騎士のおじいさんだった。
 見るからに武人肌の頑固爺さんの見た目かと思いきや、その筋肉の塊が白い歯を見せて開口一番に大笑いをして俺たちを迎え入れてくれたのだ。

「はじめまして全裸を貴ぶ守護聖人さま。わしはアントンパークですぞ。倅がいつもお世話になっております!」
「?!」
「倅は、エクセルは戦場で役に立っておりますかな?!」

 代官のアントン爺さんは太い腕で俺の両手を握ってブンブンした後も、順番に俺の奥さんたちと握手して回った。
 エクセルが倅という事は、この代官のアントン爺さんはエクセルパークさんのお父さんという事になるじゃないか?! 俺は親子の見た目があまりに違うので驚いた。

「か、彼は学問を修めた秀才だと聞き及んでおります。今もギムルさんの参謀として、冬季作戦の遠征に参加しているぐらいですよ。いやあ、彼がいなかったら前線も後方もまわらないぐらいですねぇ」
「そうかそうか。息子は武門貴族のわが一族の中では、あまり剣術が冴えないところがあったのです。その分、軍学と領地経営についてはみっちりと教育を受けさせておりましてな!」
「それは心強い」
「さあさあ、遠路お疲れでしょう。狭苦しい場所ではございますが、中でゆっくりとくつろがれよ!」

 アントン爺さんは村長屋敷を指し示して、俺たち家族を中に誘った。
 別にいいんだけどね、その狭苦しい領主館はいちおう俺が持ち主って事になってるんだよ。
 元気な爺さんに圧倒された俺たちは、言われるままに村長屋敷の中へと入った。

「アレクサンドロシアどのはお元気ですかの? 再婚をされたと聞いたときは、ひとつ肩の荷が下りたとわしも安堵しておったのです」
「領主奥さんはゴルゴライで今は政務にあたっていますよ。こういうご時世ですから忙しい事は確かですが、元気にしています」
「そうですか。わしにしてみれば、死んだ息子のところにわざわざ王都から嫁いで来てもらい、その息子があっさりと死んでしまいましたからな」
「はあ」
「そこでサルワタのエタル卿との縁談を持ってきたのだが、アレも流行り病で亡くなってしもうた。一度ならず二度までもと、これは責任を感じていた。本来ならば次男か三男と再婚してう事も考えたのですがな、しかしそれでは、わしの勝手な都合ばかりをアレクサンドロシアどのに押し付けてしまう事になる」

 食事の準備が整っているのか、廊下を歩いていると中からいい匂いが鼻に届く。

「エクセルはまだ義姉上、義姉上と未練があったようだが。……そこに全裸を貴ぶ守護聖人さまが降誕めされて結ばれたと聞いたので、女神様はアレクサンドロシアどのをお見捨てにはならなかったのだと、わしは確信したのですぞ! がっはっは、がは、がは、がっはっはっはっは!」
「…………」
「さあ、飯を食べてくだされい。つまらんものばかりを作る使用人たちですが、まあ食えるだけは感謝だ」

 そのまま俺を先頭にして、カサンドラにタンヌダルクちゃん、そしてけもみみにベローチュと続き、最後にソープ嬢とクレメンスが食堂にたどり着くと、家族そろって着席だ。
 一応、俺がこの村の領主さまという事になるから、上座は俺とカサンドラの場所となる。
 アントン爺さんはどこに座るのかと思うと「よっこらせ」と丸椅子を引き寄せて、俺の隣の上座に腰を落ち着けた。

「さてさて、女神様に感謝の祈りを捧げて食事にしましょう。アレクサンドロシアどのも子宝に授かられて、サルワタもこれで安心というもの。守護聖人さま、ありがとうございますぞ。ありがとうございますぞ!」
「…………」

 よしいただきます。
 アントン爺さんは勝手に俺に向かって祈りをささげた後に、スプーンを手に取ってトウモロコシのお粥を食べだした。
 俺はというと顔面蒼白である。
 ほとんど食卓を囲んでいた全員が無言で、アントン爺さんの口から飛び出した内容に固まっていたのだ。

「あのう、シューターさん」
「はい……」
「今のアントンさまの仰ったお話、旦那さまは何か聞いておられますでしょうか?」
「ええと、何の事か俺は何も聞いてないんですけど……」

 それって、アレクサンドロシアちゃんが子宝を授かったって話だよね。
 いや、俺もその話は初耳なんですけれど!
 爺さん適当吹いてるんじゃないだろうな、どうなんだジジイ!!!

「不味い! だが塩をかければ食えるはずだ。おい、塩を持ってこいッ」

 とても恐ろしい顔をした大正義カサンドラが俺を睨みつけていたところを見ると、たぶんカサンドラもその情報は初耳なんだよねっ?
 俺の名は吉田修太、三三歳。
 蛇に睨まれた蛙の気持ちを理解した男である。

 アレクサンドロシアちゃん妊娠してたの?! いつの間に?!!
+注意+
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