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異世界に転生したら村八分にされた 作者:狐谷まどか

第9章 内政の季節が到来です

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314 通せん坊をする倒木とスルーヌの村人たち

 ブルカ街道を北上するにつれて、周囲の景色は少しずつ変わっていく。
 馬車の御者台から見えるのは紅く色づいた広葉樹の樹林だった。

 少し前に追っかけ合流した男装の麗人、ベローチュの騎馬が先頭を駆けぬけ、それに俺たちの乗った野牛の馬車と荷馬車の列が続く。

「この季節になると、ドングリを求めて獣たちが森林の縁までやって来るらしいな」
「サルワタではブタは家畜小屋で飼育されているものだけれど、街にほど近い村や集落では秋になるまで豚は森の中に放し飼いにしているんだ」

 このファンタジー世界では、肉はさほど貴重なものではないらしい。
 豚などは手間のかからない家畜として重宝されていて、春になると半ば放し飼いの状態で近くの林の中に放たれるものなのだ。
 そうして秋を迎えると、豚たちは森林に豊富にあるドングリを食べて肥える。
 最終的には冬の前になると豚たちは家畜小屋に戻ってくるのだが、そこで潰されてしまうのだ。

「ツダの村で食べた腸詰のひき肉は美味かったなあ。ああして冬に備えて保存食を作って、内職の季節がやってくるわけか」
「うん。ぼくは街の近くにあった集落で育ったけれども、お父さんとお母さんも秋の終わりごろになると森に入って、放し飼いの豚を集める人手に加わっていたよ」

 エルパコはブルカ郊外で生まれ育ったハイエナ獣人だからな。
 ご両親は育ての親で、確かゴブリンの猟師だったはずだ。
 してみるとツダの村にほど近いブルカ周辺の集落で狩りをしながら生活をしていたのかも知れない。

「ドングリを食べるためには広葉樹林が多くないといけないからな。サルワタの森は針葉樹と広葉樹が入り混じっているけれど、深い場所に入り込むと針葉樹の比率が多くなっていたはずだ」
「うん。それにこの辺りは狼やリンクス、熊もたくさん棲んでいる場所だからね。豚を放し飼いにしていると食べられてしまうんだ」
「確かにそうだよなあ。この辺りは辺境でもブルカと違って、開拓の歴史も浅いから」

 そんな会話をしながら揺れる馬車の周辺を見回していると、いつの間にか広葉樹の林から針葉樹も混じる景色へと姿が変わっていくのだ。
 ゴルゴライはブルカと同じく、辺境開拓の歴史の中では比較的早い段階で発展した地域だ。
 王都とブルカを繋ぐ街道、それからブルカとゴルゴライを繋ぐ街道。

 整備されたブルカ=ゴルゴライ間の街道の周辺は一面の畑が広がっている平原地帯だ。
 今回のブルカ戦争とも呼ぶべき盟主連合軍とブルカ同盟軍の戦いは、そこが決戦場となった。
 ところがリンドル往還と別れて北に分岐したブルカ街道は、畑もまばらで見えるのはかつてサルワタの森と接続していた大森林の一部だ。

「国法では正規の街道と定められた場所は。街道から二〇丈あまりの視界を確保するように定められているのだす」

 そう言葉を発したのは、天蓋からひょっこりと顔を出したクレメンスだった。

「そうなのクレメンス?」
「んだす。街道を整備しておかないと、ひょっこりと獣が道端に顔を出すこともあるだすし、行商人が往来するのに狼の群れや盗賊が跋扈するのでは困るんだべ」
「確かに視界不明瞭だと旅人が怖がって近づいてこないな。なるほど考えられた法律だ」

 けれど実際のブルカ街道が終着点に向かうこの道筋では、森が街道ギリギリのところまでせり出していて視界不明瞭そのものだ。
 盗賊も景気が悪いこの地域では顔を出さないと見えて、これまでは放置されていたのかも知れない。

「んだども、この近くの村々では雪が降り始める前になると街道沿いの木々を伐採するのだす」
「ほう?」
「寂れた寒村では人材の余力もないだすからな。年に一度だけ薪をとるついでに手入れをするの出す。ほれシューターさま、あれを見るのだす」

 言われてクレメンスの指をさす方角を見ると、確かに十名ばかりの村人たちが街道沿いの林の一角に集まっていた。
 まだ若い木の幹に大きな斧をコンコンと打ち立てて、ガサガサバタンと引き倒しているのが見える。
 上手く考えたもので、太い木の場合は事前にロープを括り付けておいて、半分ほど斧で切れ目を入れたところで人数を頼みに引きずり折るのだ。

「あれはスルーヌの村に属する枝郷の人間だす。おらは見たことがあるから間違いない」

 クレメンスの解説によれば、若木の伐採をしているのは顔見知りの人間であるらしい。
 しかし困ったことが起きた。
 例の太い大木を引きずり倒す作業をやっていたところ、その倒木がおもいきり街道に倒れこんで道を通せん坊していたのである。

 これには先頭を走っていた男装の麗人が素早く反応して、先駆けした様だ。

「お前たち、邪魔立てして何とする!」

 騎士装束に身を包んだ男装の麗人が、アッシュグレーの長い三つ編みを揺らして誰何した。

「そったら事を言ったって、倒れたものはしょうがないだ」
「んだんだ。文句があるなら迂回するなり、この倒れた大木を除ける作業。手伝っておくんな!」
「どこのお貴族さまから知らないが、土地には土地のやり方ってもんがあるんだべ。早く街道沿いの伐採を済ませてしまわないと、新しく来る恐ろしい村長さまにぶち殺されてしまうんだべ!!」

 田舎言葉丸出しの男たちは、馬上からの誰何に食ってかかる。
 良く鍛えられた体をしているところを見ると、日々過酷な作業をしている農民たちか何かなのだろう。
 すると本職の木こりというわけではないのでしくじりをしたのかも知れない。
 まさか彼らの言う「新しく来る恐ろしい村長」というのが俺だとは、みなさん思ってもいなさそうだ。

「お前たちの苦労は同情するが、こちらも公務あっての下向であるから、はいそうですかとはいかない!」
「おい、黒耳おっぱいの姉ちゃんよ。あんたもお貴族さまの端くれならわかるだろ? 道を通るには通行税ってもんが必要だ。なに金は取らねえから手を貸しなって言ってるんだよ」

 ごっついおっさんが馬上から睨みつけている男装の麗人に向かって、悪びれもなくそんな事を言った。
 呆れた顔のベローチュは、どうしますかご主人さまとばかり俺の方にアイコンタクトを送って来た。
 すぐにも御者台のけもみみがそれに反応し、

「ぼくがおじさんごと排除しようか?」
「や、やめなさい。そういう物騒なことを言うのはっ」

 俺の名は吉田修太、三三歳。
 アレクサンドロシアちゃんからスルーヌ騎士爵の称号を分爵されたお貴族さまだ。
 しかもこれから領民になるみなさんと揉めて、いい事などあるはずがない。

「きみは奥さんたちの事を頼むからね。クレメンス、ッジャジャマくん、こっちを手伝ってくれ!」

 あわててエルパコを制止すると、御者台を飛び降りて男装の麗人のところに向かった。
 背後から俺の声に反応してッジャジャマくんが駆けてくる姿が見える。
 とても嫌そうな顔をしているところを見ると、ゴルゴライを出発する時に激白された男装の麗人との出来事で、バツが悪い思いをしたからかもしれない。

「何事ですかみなさん」
「どうもこうもねえ。この通り視界を妨げる樹木を切り倒していたんだが、一本だけ極太のやつがあったんだがよ」

 でかい確信。
 遠くから見ている分にはよくわからなかったのだが、近付けばこの巨木がおっさんが証言する通り、めちゃくちゃ極太の大樹であることがわかったのだ。
 しかも樹の根本はどこにあるのかと視線を向けると……
 森の中まで太い幹が続いていているではないか。

「で、でかくて太くてたくましい。近付いたら三〇メートル級の御神木みたいだな……」
「まるでご主人さまの腕の様ですね」
「俺の腕はこれに比べれば細腕だから……」

 男装の麗人に取って付けたように称賛されても、嬉しくも何ともありゃしない。

「見た通り、こいつはこの人数ではどうにも出来そうもなくて弱り切っていたんだべ……」
「近頃は戦争がおっぱじまったので、商人さまやら役人さまやら往来が増えただろう。だもんで、村にやって来た代官さまが、サルワタの女騎士さまの命令で往来の視界を確保するために、早いところ邪魔になる街道沿いの木々を排除してしまえと命令してきたんだべ」
「人数も集められないのにこんなことを無理して、結果がこれだべ」

 集まって来たッジャジャマくんや野牛の兵士タンスロットさんなんかも、街道を通せん坊している巨木を押したり引いたりしては見るものの、ピクリとも動かない。
 そりゃそうだ。
 人間が仲良く四人手を繋いでも、大樹の幹を抱きかかえるのが難しいんじゃないかと思う。

「ん? そう言えばお前ぇは裏切り者のクレメンス」
「ああ、村の幹部をやっていたクレメンスでねえか。久しく顔を見ないと思った、こんなところにいた」
「元気にしているだべか、裏切り者のクレメンス?」

 裏切り者、裏切り者と、クレメンスを見た田舎言葉まるだしの男衆たちが、口々に挨拶をした。

「裏切り者ではないだす! おらはこれでも新しい村長さまの嫁っ子になるかもしれない、村長夫人候補生さまだすぞ!」
「馬鹿を言っちゃいけねえ。新しい村長さまというのはサルワタの女騎士さまの入り婿だども、すでに六人も嫁さんがいるという男なんでねえのか」
「そりゃ違うだす。少なくとも今は十人で、先々はもっと増える事になる立派な旦那さまだすよ」

 クレメンスが誤りを正す態度でエッヘンと胸を張って見せた。
 当たり前だが無い胸は、いくら偉そうに張って見せても断崖絶壁で、強調される事は無かったのである。
 悲しいね。

「どうされますか。これでは馬車を迂回させるにしても、通せん坊をしている樹木を排除するにしても時間がかかってしまいます」
「困ったな、昼飯はスルーヌの村で取るつもりで野営の準備もしていないんじゃないのか……」

 男装の麗人と顔を近づけて、俺はとても悲しい顔をした。
 予定では昼過ぎにはスルーヌの村に到着する事を、魔法の伝書鳩に託して村に飛ばしてある。
 きっと現在スルーヌを預かっているクワズの村の幹部のひとりが、御飯を用意して待っているところだろう。

「ニシカさんならこれがなんとかできたんじゃないですかね、シューターさん」
「いやいやッジャジャマくん、いくらニシカさんが女性の中では力持ちだからって。これはどうにも出来ないだろう」
「そうじゃないですよシューターさん、例の風の魔法で切断するとか何か手段があったんじゃないかと」
「なるほど、でもニシカさんはこの場にいないからなあ」

 ッジャジャマくんはそんな事を口にしたけれど、あいにくニシカさんはこの場に不在だし魔法使いもいない。
 剣を叩きつけてもこの太さの幹は切断どころか樹皮に傷をつけられれば上等というところだ。

 最後の手段とばかり男装の麗人は軍馬をさしてひとつの提案をする。

「仕方がありません。馬を集めてロープで繋ぎ、引っ張ってどかせる様にするしか……」
「馬とみんなで協力すれば、多少ずらすぐらいの事はできるかも知れないね」
「はい。今は奥さま方をまずはスルーヌの村に案内する事と、これから街道を通る往来の邪魔にならない様にすることが先決です」

 提案を受け入れて、軍馬を集めようとしたところ。

「どうしたのだ愛しいひとよ。荷馬車が止まって久しく動かないみたいだが。困ったことが起きたのか?」

 ふと声がした方向を振り返ると、ソープ嬢が荷馬車の最後尾から奥さんたちとともに姿を見せていたのだ。
 みんな馬車が停止してしばらく動き出さないものだから、困惑して出てきたのだろう。

「何だ、木が倒れて道がふさがれているのか」
「見たまんまの有様ですよ。人間を集めないとこの通せん坊はどうにもなりませんソープさん」

 俺が答えるよりも早くにッジャジャマくんが倒木を指して、とても嫌そうな顔をした。
 するとソープ嬢はニッコリと微笑を浮かべてまず俺を見た後に、不思議そうな顔をしていた大正義カサンドラをはじめとする奥さんを見比べてそんな事を言うのだ。

「どれ、この程度の倒木ならわたしがなんとかしてやろう」
「そ、ソープさん。あのうあまりご無理な事はなさらない方が」
「そうだよ。シューターさんなら何とかしてくれるよ」

 さりげなく護衛役の様にカサンドラやタンヌダルクちゃんの側に控えていたエルパコが、とんでもないことを言ったけれど無視をしておく事にした。
 それにしてもソープ嬢、あなた何をするつもりなのですか?

「義姉さん安心してください。すぐにでも排除してくれるでしょう、わたしの眷属が」

 え?
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