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異世界に転生したら村八分にされた 作者:狐谷まどか

第9章 内政の季節が到来です

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313 道中でッヨイさまはリタイアしてしまいました

掲載文に不備があったため、取り急ぎ掲載内容を差し替えさせていただきました。
既読の方にはご迷惑をおかけします!
 街道を走る馬車に軍馬を寄せた男装の麗人は、褐色の頬を上気させながら説明した。

「戦争奴隷として囚われた捕虜は、何とブルカ辺境伯のお身内との事です!」
「?!」
「ブルカ伯の姪にあたる人物で、テールオン妃の身代わり役、つまり影武者を務めていた人物だということまでわかっています!」

 徴税官として出発したタイミングで、とんでもない情報がギムルからもたらされたぜ。
 どうすんだよこれ!

「その情報はすでに領主奥さんたちには伝わっているのか?!」
「アレクサンドロシア奥さま、及びマリアツンデレジア奥さまにはその事をお伝えしましたが、まだ情報通のカラメルネーゼ奥さまにはお伝えできていません。それからエレクトラさんやダイソンさんが手分けして、盟主連合軍の諸侯方にはただいま連絡を走らせているところでありますッ」

 馬上からひと息にそう説明して見せたベローチュに、御者台で手綱を握っていたエルパコが水の入った革袋を投げてよこした。
 男装の麗人は黙礼だけをして、水筒の中身を一気に喉へ流し込む。
 プハぁとやったところを見るとけもみみの水筒に入っていたのはお酒だったらしい。

「それでアレクサンドロシアちゃんは何と言っていたんだ!」

 俺たちはこのまま徴税官として派遣されるのか、それとも引き返してその情報について緊急対策会議を開くべきなのか。
 ブルカ伯の身内という人間は過去に何度か戦場で会いまみえている事が、後の戦争奴隷たちの尋問からわかっている。
 出来れば生かしておいて戦後交渉の材料になれば、とはドラコフ卿やベストレ卿の考えていた事だが、ここにきて重要人物の戦争奴隷が手に入ったことになる。

「アレクサンドロシア奥さまはこのまま徴税に向かってくれと伝える様、自分にお命じになられました。資金源が無ければ戦争どころの騒ぎではありません。ただ、ッヨイさまだけは対策のために引き返す様にとご指示をされた次第です!」
「ッヨイさまか。ッヨイさまは盟主連合軍の知恵袋だからな!」

 走り続ける馬車の上で俺は叫んで返したところで、御者台から揺れながら立ち上がってクレメンスの脚をポンポンと叩いた。
 すぐにも大きくうなずいてみせたクレメンスが、行列の全体にわかる様に大きく手を振って全体停止の命令を飛ばす。

「緊急停止! 緊急停止だす! 騎兵隊は周囲警戒をするだすっ」

 馬車は思いのほか重たい乗り物なので、緊急停止をすると馬が驚いて嘶きを上げた。
 次々に護衛の騎兵たちが馬車の周囲で停車して、最後尾をちんたら走っていた荷馬車もゆっくりと止まる。

「ベローチュさまがッヨイさまをお迎えに上がった、緊急事態だす!」

 改めて周囲に叫んで見せたクレメンスは、そのまま馬車の天蓋からふわりと地面着地して、豪華絢爛な馬車の扉を開いて見せるのだ。

「あのう、シューターさん。どうされたのですか?」
「領主奥さんから、ッヨイさまを呼び戻す命令が出た。ッヨイさまこちらへ……」
「ドロシア義姉さまからですか?」

 馬車を走らせている時は風の音と馬車の揺れる激しい音で、外でのやり取りはほとんどまともに聞き取ることが出来ない。
 だから改めて軍馬を降りたベローチュが事の次第を説明しながら、ッヨイさまを自分の軍馬の上に乗せてさしあげる。

「養女の君には大変申し訳ございませんが、アレクサンドロシア奥さまにお知恵を貸してくださりますと助かります。本当はご主人さまのお知恵もお借りしたいところなのですが、お二人も抜けたのではまともに徴税の務めを御一行がなさるのは難しいかと思いますので……」
「そうですねえ。野牛の居留地に向かうわたしや、サルワタ担当の義姉さんの事はともかくとして、新しい領地の村長さまになられた旦那さまは、スルーヌに向かわないと不味いですよう」

 申し訳なさそうな顔をして謝罪したベローチュに、タンヌダルクちゃんもうなずいて同意した。

「それですと、貢納の商品選びをする方がいなくなってしまうのですが。どうなさいますか?」
「自分が、養女の君をアレクサンドロシアさまの元へお連れした後に、随行する事にします。自分も徴税官の役割をセレスタで経験した事がありますので。都会で好まれる商品選びをする事は可能かと存じますが……」

 緊急事態なのでこれはいたしかたないのかも知れないね。
 ッヨイさまも「わかったのです」とこくこくうなづいたところで、ベローチュは俺たち家族に貴人に対する礼をとってみせたところで、軍馬にヒラリと跨った。

「ッヨイさま、後の事はよろしくお願いします」
「わかったのですどれぇ。要件が早く片付けば、すぐに追いかける事もできちゃうかもしれないのです!」

 そんなあわただしい男装の麗人の姿を見送りながら、側らにやってきたけもみみが小さくひと言を口にする。

「シューターさん。これは幸先がいいんじゃないかとぼくは思うよ」
「そうなんだよなぁ。考え方によってはオレンジハゲの一族に連なる有力者を捕虜に出来たんだし」

 俺がけもみみの顔を見返していると、案外あっけらかんとした顔のエルパコが俺を上目遣いで見上げている。
 かわいいね!
 とか思っていたら馬車列の後方からひょっこり顔を出したッジャジャマくんが、不穏な事を言いやがった。

「そんな事を言いますけどねシューターさん、エルパコさん。大事な貢納の吟味役であるッヨイさまがいないと、いい商品を選び損ねるかもしれないですよ。これって損失になるんじゃないですか」
「まあベローチュも都会の生まれ育ちだから、眼力はあるかもしれないからさ」
「確かにそうですけど、スケジュールが狂うと何かやじゃないですか。それにあの黒おっぱいは本当に、よいものを選ぶ眼力があるのかどうか。だってあの黒おっぱいは、趣味も男装ですからね! お貴族が好きそうなものがわかるのか、甚だ疑問ですぜ」

 まあ確かに、計画が出だしからつまづいてしまった様な気分なのは間違いない事だ。
 馬車の中から顔を出しているカサンドラやタンヌダルクちゃんは、とても嫌そうな顔を並べていた。
 やっぱり幸先が不安なのでそんな顔をしたのだろうか。
 などと思っていると、

「ッジャジャマさん!」
「ふぁい?! な、何か……」
「わたしはベローチュさんからちゃんと報告を聞いていますよ。街で見かけた女の子と逢引きをしたいからと、彼女に助言を求めたそうですね?」

 大正義カサンドラが、馬車から降りてきて説教を始めた。
 降りる時は俺がお手伝いしようと思ったのだけど、ちょっと怒った顔をしていたので怖かった。
 腰に手を当ててッジャジャマくんの顔を覗き込んでいる大正義の制裁である。

「せっかくプレゼントをするのは何がいいか助言してくださったのに、あれはダサイだこれは女の子の趣味ではないだと文句を言った挙句、いつもその、ベローチュさんの胸ばかりを見ていたそうです」
「だ、だってベローチュさんは、プレゼントはやっぱり乗馬用のグローブがいいとか剣はどうだとか、下着は清潔で紫色のが欲しいとか、自分の欲求ばかり言いやがったんですよ! パープルの下着とかもらって喜ぶのは、オネエ男爵かうちの兄貴ぐらいのものなんだ!」

 ベローチュは男装の麗人である。
 従って普段のファッション趣味は男性貴族が好んで身に着ける様なスリムな体にフィットする洋服か、あるいは貴族軍人が大好きそうなゴツいブーツとかグローブとかばかり身に着けているのだ。
 おおよそ下町の女の子が好きそうな趣味を理解できる人間ではない。

「せっかくのアドバイスをくださった方を悪く言うなんて、旦那さまがお許しになってもわたしが許しませんよ!」
「ひいい、ごめんなさい」
「未だにその時のお礼をせずにいるのはいただけませんよう蛮族の騎士見習いさん」
「ふぁい………」

 タンヌダルクちゃんにまで呆れた顔をされて、小さくなった猿人間は嗚咽を漏らしながら反省した。

「今度ベローチュさんにお会いした時は、その時の事をちゃんと感謝するのですよ。わたしが一緒に口添えをしますので、いいですね?」
「あっ、ありがとうございます。ありがとうございます」

 まあベローチュも悪気があっておかしなアドバイスをしたわけじゃないだろう。
 その点は許してやってくれないかと俺がッジャジャマくんに声をかけたところ、

「うっうっ、俺だってシューターさんみたいにモテモテになって、奥さんをいっぱい侍らせてみたかったんだ……」
「物事には何でも順番が大切なのですよ。まずはッジャジャマさんが立派な騎士になって、みなさんから尊敬されるような人間になりましょう。そうすれば自然と殿方に、女性は惹かれるものなのです」

 現状では女をドン引きされてるだけだすな。
 いい事を言っているカサンドラの陰で、ボソリとクレメンスが余計な事を口走っていた。
 ッジャジャマくんはッワクワクゴロさんほど耳が良くないのか、同僚の野牛兵士に励まされながら荷馬車の御者台に戻っていった。

「シューターさま。おらは思うんだけれども、あいつはいつも距離感がおかしいのだすよ」
「というと?」
「サルワタ貴族のご家中の女性に気安く話しかけてくるのはいいんだども、よそ行きになると途端におかしな行動をとる。いつだったかゴルゴライの食堂でもよその女兵士を口説いていただすが、緊張して顔が怖いしガッツいてるし、ついでに助兵衛心が丸出しだ」

 なるほど俺も他人(ひと)の事は言えないけれど、助兵衛丸出しだと女性は警戒するもんだろうな。
 むかし俺が沖縄古老の空手道場に居候していた時の事だ、古老の孫娘が学校の友達を連れて来た時に、俺も成長期の女子高生を見て、つい顔に驚きを出してしまったことがあった。
 やっぱり成長期の少女に不釣り合いぐらいの豊かなお胸があると、ついついガン見しちゃうよね!
 大きさは間違いなく、マリアツンデレジア級おっぱいだった。
 サイズはDか、いやEで間違いない。いいね!

 しかしここでボケーっとした顔のけもみみ奥さんが、とんでもない発言をしたのである。

「いつだったか、ぼくがお風呂に入っていると、ぼくのなにもない胸と、股間ばかり見てきたよ。ッジャジャマくんはエッチだね」

 あの野郎、ぶっ殺してやる!
 俺が沈黙の怒りを心に宿していたその頃、家族のみなさんはいそいそと馬車に乗り込んでいる最中だった。

「どうされましたか旦那さま? 今日中にスルーヌの村まで向かう予定ですし、そろそろ出発した方がいいですよう」
「あ、うん」
「ほらシューターさま。おらを天蓋に持ち上げるのを手伝って欲しい出す」

 タンヌダルクちゃんやクレメンスに声を掛けられて、俺の怒りは中断された。
 確かに思わぬ緊急停止をしてしまったので予定が狂ってしまった。
 時間を取り戻すために急がないといけないが……

「大丈夫だよシューターさん。いつかッジャジャマくんにも素敵な奥さんが出来るから」

 いやあいつは一生独身になる呪いをかけてやる。
 後でッワクワクゴロさんに告げ口だ!
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