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異世界に転生したら村八分にされた 作者:狐谷まどか

第9章 内政の季節が到来です

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312 徴税官として取り立てに向かいます

 ギムルの援軍要請に応えて送り出す騎士修道会の選抜が行われていた頃、俺たちは徴税官として領内の各地へと旅立つ準備をしていた。

 俺は領地を与えられたスルーヌの村へ下向する予定だ。
 途中まではカサンドラやタンヌダルクちゃん、ッヨイさまが同行するけれど、その先はサルワタがカサンドラの担当で、野牛の居留地はタンヌダルクちゃんの担当だ。
 ッヨイさまがふたりの奥さんをサポートする事になっているので安心だったけれど、飛び地になっているサルワタ貴族の領地オホオの村については、ラメエお嬢さまが向かうばかりである。
 ここで補佐役として付いていくのが黄色い蛮族ニシカさんである。

「何だよ。お前ぇたちだけ賑やかに北に行列作って向かうのに、オレだけ仲間外れか……」
「にっニシカお義姉さまは、わたしの補佐役というのが気に入らないのですかっ。わっわたしだって全裸卿と一緒に北に行きたかったのだけれど」
「手前ぇは自分の領地に向かわずに何で北の領地に行きたがるんだよ。無責任な領主さまだなおい!」
「だ、だってオホオ村の事はじいが取り仕切っていたのだし、今回だって任せておけばいいのよっ」

 高貴な身の上の役割をまったく理解していないニシカさんと、高貴な身の上のお勤めを放棄しようとしているラメエお嬢さまである。
 旅装束をまとめて馬の側に立ったラメエお嬢さまは、プリプリと憤慨してニシカさんに抗議している姿かわいい。

「そういうわけにもいきませんぞお嬢さま。わがオホオの村は戦争によって大きな被害が出ておりますれば、だからこそお嬢さまが直接村の現状を改めて把握する必要があるのです」
「わ、わかっているけれど、それは……」
「安心いたしました。全裸卿とお離れになるのはほんの半月ばかりの事なので、しばしのご辛抱でございます。冬が来れば人々の往来も難しくなって、ゆったりとした時間を過ごせるはずです。あと少しの頑張りですぞ」
「ふんっ」

 老騎士ジイに諭されたラメエお嬢さまは、俺に向き直って悲しそうな顔で上目遣いをした。

「わ、わたしがいないからって、若い子に手を出したりするのはらめよっ。そんなの絶対に許さないんだから!」
「もっもちろんだよ」

 毛の生えた少女は奥さんらしい言葉を残して、馬にまたがった。
 いつか俺もこのオレンジ髪のお嬢さまにまたがられる日が来るかもしれないが、まだ手も出していないうちから浮気を心配されるとはとんでもないね!
 しかも俺の隣で他の奥さんたちが「すっかりお嫁さんぶりが身に付いてきましたね」とか「まあ早く素敵な一夜を過ごさせてあげたいですねえ」とか言っているからとんでもない。

 十一歳という年齢はこのファンタジー世界では大人の仲間入りだが、ちょろ毛の生えた女の子と一夜を共にするのはとても犯罪を犯した気分になってしまいます。

「しゃあねえな。コイツのお守りはオレがしっかり果たしてやるから、お前たちも触滅隊みたいな連中には気を付けるんだぜ。負けが込んでくると敵は正攻法以外で何かを仕出かす可能性があるからな」
「おっぱいエルフの言う事はもっともなのです。ブルカ辺境伯とツジンには前例があるので、ッヨイたちも身の回りの危険には気を使った方がいいのです。まだまいふくの毒があるかもしれないのです」
「埋伏の毒か。遅効性の毒を使って獣を仕留めるという事は確かにオレたち猟師もやるからな。囮にする一匹に毒餌を食わせて、そいつを狙う捕食獣をおびき寄せるんだ」

 ニシカさんとッヨイさまはそんな風に語りながら、俺たちの守りに付いて意見交換をしていた。
 賢くもようじょであらせられるッヨイさまは小さな知恵者であるけれど、それとは若干ピントの外れた回答でも、何となくようじょと会話が成立しているところが何とも鱗裂きらしい。
 蓄積した知識を武器にするようじょと、蓄積した経験を頼りにする黄色い蛮族。

「でもシューターさん、どっちかと言うとニシカさんはこれまでおっぱいに蓄積をしてきたんじゃないかな」
「おいけもみみ、聞こえているぞ……」

 毎朝頑張っているおっぱい体操の効果が表れないのが悔しいのか、俺の服の袖を引っ張ってけもみみが耳打ちをした。
 ニシカさんは恐ろしい顔で俺とけもみみを睨みつけてきたけれども、俺は完全に被害に巻き込まれただけである!

「では全裸卿閣下、じいめはこれよりラメエお嬢さま、いえラメエ奥さまをお守りして徴税の旅に出ます」
「よろしくたのむぜじいさん。ニシカさんは頼りになる護衛役だが、船に乗り込んでからとリンドル川西岸流域に到着してからは特に気を付ける様に」
「心得ております」

 フクランダー寺院の周辺は、前にも地下に潜った抵抗勢力の思わぬ伏撃があったからな。
 気を付けるに越したことはない。
 こうしてニシカさんを先頭にしてラメエお嬢さまと護衛の騎士たちが駆けだした最後に、じいさんが軍馬に乗り込んで後を追う姿を見送った。

「さて、おらたちもそろそろ出発する事にするだす。野牛の馬車の用意はできているだすよ」
「わかりましたクレメンスさん」

 北に向かうみなさんは軍馬による移動ではなく、野牛の馬車を使った街道まったり旅である。
 こちらは馬に乗り慣れていないッヨイさまやカサンドラを連れての移動なので、野牛の兵士たちに守られてスルーヌをまず目指すことになる。
 サルワタや野牛の居留地で補佐役をするのはッヨイさまだけれど、スルーヌで俺を補佐するのはクレメンスのお仕事だった。
 ぞろぞろとみんなで揃って馬車の前に移動し、ッヨイさまを持ち上げて車内に誘導していたところ、

「君たちは今日からしばらくぼくの指揮下に入る事になったよ。ぼくの命令はシューターさんの命令だと思って言う事を聞く様に。悪い盗賊が出てきたら自分の命を盾にして家族を守るんだよ」
「おう、騎士エルパコさまに忠誠を誓います!」

 騎士装束に身を包んだエルパコが、俺の見ていないところで騎士の真似事をしていた。
 まわりに膝を付いて忠誠を誓っているのは見た目のガラが悪い傭兵のみなさんや、野牛の兵士たちである。中にはモンサンダミーやタンスロットさんまでが似たような姿勢をとっているので、思わず俺は吹き出した。

「いやいや、タンスロットさんはどっちかというとサルワタの騎士に相当する役割だったんじゃないかな、タンヌダルクちゃん?」
「そうですねえ。外交使節団でも正規の騎士格という扱いをしていたと思いますよう。野牛の軍隊では幹部兵ですからねぇ」
「じゃあ何でうちのけもみみ奥さんに平伏しているんだよ……」
「誇り高いミノタウロスは、強き者にのみ平伏するのですよう。エルパコちゃんは強いですから当然ですね!」

 いやいや。
 けもみみが強く気高くたくましく、ついでに容赦がないのは敵に対してだけだろう。
 あと夜になると積極的な行動に出るのは、エルパコがハイエナ獣人だからかな。夜襲作戦や黎明の奇襲作戦なんかをする時は前のめりの気がする。

 こうして馬車にカサンドラとタンヌダルクちゃんが俺のサポートで乗り込んだ後に、野牛の兵士たちに出発準備OKだと合図を送った。
 俺自身は御者台に乗り込むことが出来るのでとても安心だ。
 苦手な軍馬にのらなくていい。いいね!

 こうしてゴルゴライの広場から徴税官を一行が出発するところで、新市街地の兵士たちの宿営を通過する途中。
 ブルカ街道に出征する騎士修道会の援軍部隊と顔を合わせる事になった。

「シューターさん。遠くに見えるのは修道騎士のスウィンドウさんみたいだね」
「なるほど今回の援軍を指揮するのはスウィンドウ卿か。イディオさんも行きたがってたらしいからクジでも引いて担当を割り振ったのかな?」

 御者台で手綱を握るけもみみが、俺にそんな事を教えてくれる。
 すると馬車の上で監視の役割についていたクレメンスが身を乗り出して、整列した修道騎士隊を観察しているではないか。

「エルパコ奥さまもシューターさまも、よくあんな遠くの顔が区別できるだすな。おらにはあれが灰色の法衣を着た修道騎士にしか見えないだす」
「毎日遠くを見ていたら、そのうち見えるようになるよクレメンス」
「そったら事が出来れば、みんな視力がよくなるだす!」

 まあけもみみの言い分はニシカさんの適当なアドバイスや回答と同じでおざなりすぎる。
 しかしまあ、俺も気が付けば猟師の娘であるカサンドラみたいに遠くのゴマ粒が見えるようになってたからね。

「確かに俺もだんだん視力がよくなってきたからなあ」
「だそうだよクレメンス、頑張れクレメンス」
「…………」

 クレメンスは無い胸をよりしおれさせて、馬車の天板の向こう側に消えた。
 きっと悲しい気持ちになって拗ねてしまったのだろう。

「シューターさん。ぼく知ってるよ」
「ん、何をだ?」
「出来ないというのは嘘つきの言葉なんだよ」

 そんなクレメンスの態度に、珍しく感情の乏しい顔に気色を浮かべてけもみみが言うのだ。
 しかも、どこかのブラック企業のオーナーが口にしそうなセリフだからびっくりした。
 するとニコニコ顔のけもみみが、俺の肩に頭を預けながら唐突にこんなことを言うではないか。

「ぼくは男の子だと思っていたからシューターさんとは結婚できないと思っていたんだ」
「う、うん。それで?」
「でもぼくは、義姉さんの言葉を信じる事にしたんだ。そんな事では旦那さまの立派なお嫁さんになれませんよって。だから男の子でも結婚できるんだって信じ続けたんだよ」

 ところがエルパコはハイエナ獣人だったので、ついているから男子かと思えば女子でした。
 それなら問題なく結婚できるよねってのはこの話のオチなのだが、

「だから。クレメンスも義姉さんが結婚していいって言うのなら、きっと結婚できるとぼくは思うんだ」
「いやクレメンスはこの前、新市街の食堂で若い兵士といい感じの雰囲気になってたぞ?」
「大丈夫だよ、シューターさんも信じればクレメンスと結婚できるから。でもそれは義姉さんの許可が出てからだね。シューターさん?」

 何かだいぶ話がズレてしまっている気がするが、普段からボケーっとした顔をしているけもみみの考えている事は俺にはよくわからない。

「それと一緒で、遠くをずっと見ていれば見えるようになるんだ。ようは慣れの問題だからねっ」
「ホントかよ……」
「本当だよ。猟師になったばかりの時は、遠くまで見る事は出来ても、識別まではできないからね。あれが獲物か岩か草肌か」

 あれ、もしかしてけもみみは普通の事を言っているのかな?
 むかしモノの本で読んだ内容に、戦時中のエースパイロットは、昼間から星を見る訓練をしていたというけれど、あれの事だろうかね。
 しかし会話と発想が飛びまくるので、一瞬何を言っているのかわからなかったぜ。

 そんな事を考えながら移動する馬車に揺られて、整列した騎士修道会の援軍とすれ違う。
 修道騎士隊をいくつかまとめた軍勢は、このまま装備確認と補給物資を護送して、ギムルのところに向かうはずだ。
 遠くで修道騎士たちの何人かが、俺たち徴税に向かう人間の姿に気付いたらしい。
 手を振ったり騎士の礼をしてみせる人間がいたので、こちらも手を振って挨拶を返す。

 そうして土壁の城壁を潜り抜けて外に出た後に、サルワタ方面に分岐するブルカ街道を北上する。
 と、そこで軍馬がこちらに勢い駆けてくる姿があった。
 見れば男装の麗人ベローチュが、完全武装で追いかけてくる姿があった。
 くじ引きで居留守役を命じられていたはずの男装の麗人が、どうしたんだろうね?
 俺とけもみみが顔を見合わせていると、馬車の天蓋から顔を出したクレメンスが、ベローチュを観察しながらこう言った。

「あれはベローチュ奥さまだす。おらも訓練して遠くを見るだす」
「見ればわかるよクレメンス……」

 そうして追いすがった男装の麗人は、険しい表情で大きく叫んだのである。

「ご主人さま、ご主人さま! ただいまご子息のギムル卿より、伝令が参りましたっ。新たな重要参考人となる敵の貴族を戦争奴隷として捕虜にしたそうです!!」

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