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異世界に転生したら村八分にされた 作者:狐谷まどか

第9章 内政の季節が到来です

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311 王様のワガママなおちんぎん疑惑

「まず、国王も王妃もテールオン妃のご懐妊の事をすでにご了承されている」

 食卓に腰を落ち着けて片手にガラスの酒杯を持ったドラコフ卿は、円卓のみんなを見回しながらそんな風に口にしたのだ。
 そのままひと口だけ酒杯で喉を潤した後に、言葉を続ける。

「もちろんその事で両陛下の夫婦関係は最悪になっているという情報を耳にした。春の宮殿というのは俺も中に入ったことはないので詳しいことはわからないが、お妃さまそれぞれが宮殿内の城壁の中で邸宅を持っている様な造りになっているそうですな」
「ええ、その通りですわ。後宮の中で正しく春の宮殿と呼ばれているのが、国王と王妃の生活空間となっている宮殿の事。それから複数いるお妃さま方は、それぞれ別個のお屋敷に従者とともに暮らしているわけです。出自の違うお妃さま同士が顔を合わせますと、どうしても派閥を背負っている手前、諍いになってしまう可能性がありますものね」
「なるほどそれも当然でござりますな。それで問題の春の宮殿の本殿に、王妃のお姿が無いことが確認された。これは後宮を出入りする商人から確認した事なので間違いがない。近頃、王都の別の邸宅でお過ごしになっているらしい」

 質問のために視線を向けられたカラメルネーゼさんは、男色男爵と目配せをしながら返事をした。
 それに乗っかる形でドラコフ卿は説明の続きをしたのだが。

「少なくとも王妃とテールオン妃は明らかに敵対関係にあると見ていい。お妃同士の関係まではわからんが、王妃は間違いなくブルカ辺境伯の出過ぎた行動にご不満を漏らしていたという事は、商人どもからの聞き取りからもわかっている」
「けれどもわたくし、テールオン妃の貴族軍人だった時代も、妃のひとりとなってからも悪い噂と言うのをまったく聞いた事が無いんですけれども。むしろ影が薄いのか、過去に話題に上ったことすら記憶しておりませんわ。おーっほっほっほ!」

 影が薄くても王様が見初めた事実だけは存在しているので、きっとそれなりに気立てが優しいのか、実は目立たない様にしていて本当のところ腹黒さんなのか、そのどちらかだろう。
 うちの奥さんの中で言えば見た目は大正義カサンドラ、その実は曲者まるだしのカラメルネーゼさんやツンデレのマリアちゃんあたりに該当するのかも知れない。
 もしも影の薄いお姫様という役割を腹芸でやっていたんだったら、さすがお貴族さまの令嬢として英才教育を施したブルカ伯のオレンジハゲを称賛したいね。

 ついでだから俺はとりあえず思いついた疑問を口にしておく。

「別の場所、と言うと王妃さまのご実家が王都に持っている別邸にでも移動された、とかかな?」
「まさにその通りですなシューター閣下。現在の王妃は宮廷の主流派閥となっている貴族の出なので、王都にも宮殿と見まごうばかりの別邸をご実家は持っている。確か侯爵家だったはずだが、恐らくはテールオン妃のご懐妊を聞いて侯爵が激怒したというのが実情だろう」
「すると王都はしばらく派閥争いが激化して、それこそ国王暗殺なんて事になりかねない政情なのですかね……」
「ご主人さま、今すぐにそういう事に発展する可能性は少ないと思われます。何しろ王国の歴史を紐解けば、臣下の身分で国王を暗殺したという例は存在しないからです。もしも国王暗殺によるクーデターを模索するのであれば、しかるべき王族を暗殺者として仕立て上げて後に、国王を狙うという算段が必要でしょう。またそのためには捨て駒に出来る王族を用意しなければいけません」

 男装の麗人が俺のふと抱いた疑問に応えてくれた。
 何と言うか、むかしの日本の歴史ではないが(みかど)や皇族を直接暗殺する事は臣下の身分ではやってはならない。原則は皇族同士の争いと言う体裁をとる、みたな感じだろうか。

「現在の国王のご兄弟はどうなっているのだ。そちらのベローチュ夫人の言葉を借りるではないが、陛下の兄上たちはすでに何人もご逝去なされている事は理解しているが」

 王侯貴族というのは基本的に子沢山である事が貴ばれるものだ。
 ブルカ辺境伯のミゲルシャールではないが、奥さんが数十人いる事は当たり前で、その子供の数まで合わせればオレンジハゲも五〇人以上いる事は間違いない。
 それはあくまである程度把握しているオレンジハゲの子供と言うだけで、市井にどれだけの愛人と隠し子がるのかまではわからない。
 リンドル前子爵の第三夫人エミール卿も確か愛人に産ませた子供だったしね。

「アタシが後宮警護に在任していた時には国王のひとつ上の兄上がまだご存命だったはずよお。腹違いではあるけれども、若い時にヤンチャが過ぎて王位継承権の順位を落とされたのだと聞いているわァ」
「お兄さんが生きているのか、厄介ですね男色男爵」
「現在存命の陛下の他のお兄さんたちは、ご出自の身分が卑しいという理由で臣籍降下をしているので問題ないわねえ。けれどもその陛下の腹違いのお兄さんは、女神様の枢機卿だった修道女さまの血を引いているから、一応は平民のご出身だけれど、聖なる血筋という扱いを受けているわあ」
「わたくしの聞いたところによりますと王兄殿下は宗教施設の庇護をするとともに、狩り暮らしの毎日を送っていて、政治にもあまり興味がないという感じですわね。まあ取り入るならば一番簡単な様な気もしますけれども、何人かいる息子たちにも猟師の真似事を子供のころからさせていたと言いますし、シューターさまならば同じ猟師出身で気が合うかもしれませんわよ?

 例えていうなら王様と雁木マリとの間に産まれた子供というぐらいのもんだろうか。
 けれど深く聞いてみれば王族にその名前を連ねているものの、宗教関係者の血筋なので王位継承権もあえて低く設定されていて、特に宮廷派閥の中でも重きをなしていないらしい。
 ついでに狩り暮らしの王族というのも変な話だけれど、王侯貴族はだいたい狩り好きだからそういうもんか。政治的に介入できないのならば、それぐらいしかやる事が無いのかも知れない。

「王兄殿下のご一家は確か本土の辺境にほど近い場所に自前の牧場を兼ねた領地お持ちですわ。それゆえ地理的にも中央の政局には介在しないと思われます」
「すると他の王族連中の方が問題か。先王オルコス五世陛下のご兄弟の方が、現在では重きをなしてるという事になるな。それならば俺も宮廷工作の関係で把握している顔ぶれだ」

 蛸足麗人によれば現国王の腹違いブラザーは問題視する必要もないほど王位継承権も低いらしいね。
 そして意外に王位継承権が高い人間が先王の兄弟、つまり王様の叔父さん伯母さん連中という事になるのか。

「まあ現在の王位継承権の第二位は、王弟殿下と王妹殿下であらせられるわぁ。それぞれ秋の宮殿と夏の宮殿でお過ごしになられているけれども、王族って引きこもりのひとが多いからアタシは顔をも見たことが無いのよねえ……」
「ちなみに俺は王妹殿下に王都登城の際は必ず献上品を持って行っている」
「アタシはセレスタの叔父さんが王弟殿下に献上していたけれど、アタシの代で無駄なことは廃止したのよねぇ……」

 こんな調子で互いの宮廷周辺の情報を突き合わせて議論を続けてはみたものの、それによって何か新しい発見がそこから導き出されるという事は特になかった。
 やはりブルカ伯の政治工作員たちが一歩先を行っている事は間違いない。
 今さら王族の皆さんに接待攻撃をしてお近づきになろうとしても遅いかもしれない。
 もしそれをするならばドラコフ卿が熱心に接待をしていたという、王妹殿下のところに行くのが正しいかもね。

「あのう閣下、わたしは女としてちょっと質問があるんですけどね」
「何だマドゥーシャ、おちんぎんの話ならこの場で交渉するのは禁止だからな」
「ち、違いますよ! 王様はそもそも、テールオン妃がご懐妊されて、喜んでいるのですか喜んでないのですか? まだ子供がいなかったという事ならば、やっぱり嬉しいものなんですかね」

 そんな女魔法使いの質問に、俺は絶句してしまった。


「そ、そのですよ。おちんぎんも貰わずに肉体関係を結ぶというのは、やっぱり王様もブルカ伯の姫君が好きだったという事になりますよね」
「ちょ、何でもおちんぎんと結び付けて話をするのをやめなさい!」
「でも事実ですよ事実。好きでもない相手と王様も何度もエッチな事をするはずもないですし、それともブルカ伯が恐ろしくていう事を聞くためにあかちゃんを作ろうとしたんですか? それともやっぱりおちんぎんをもらいたい一心で子作りしたんですかね!」

 食卓に身を乗り出して「おちんぎん! おちんぎん!」を連呼する女魔法使いに、何かおかしな連想をしたのか男色男爵がモジモジしながら「あらやっだァ」とか言っているのは無視だ。
 しかし呆れた顔をしながらも、ベローチュは気になったのか女魔法使いに質問を投げかける。

「おちんぎん貰う相手、その場合は誰なのですかマドゥーシャ」
「もちろんブルカ伯ですよ先輩。王妃さまって、閣下の奥さんで言えば正妻のカサンドラ奥さまの事ですよね。そうしたら子作りだって順番が大切なはずなのに、わざわざそれを無視するなら、何か理由があるってものですよ」

 そりゃそうだよな。
 考えてみれば俺も自分の奥さんの誰かに子供が出来たのなら諸手を上げて大喜びするはずだ。
 だたしわが家のルールにのっとって何事も順番は大切だ。

 まずはカサンドラ、次はアレクサンドロシアちゃんかタンヌダルクちゃんだろう。
 ニシカさんはしばらく子供はいらないと言っていたから、そうなると年齢的にカラメルネーゼさんかマリアツンデレジアという事になるだろう。
 もしかするとクリスティーソープランジェリーナさん略してソープ嬢は一〇〇歳にもなる妙齢すぎるお立場だから、早い方がいいかもしれない。

「これは王様のワガママなおちんぎん疑惑がありますよ! おちんぎんに忠実な可能性ですっ」
「黙りなさいマドゥーシャ、これ以上公衆の面前でおちんぎんを連呼すれば、おちんぎんを下げる様に妻の立場からご主人さまに意見具申しますよ。そうなってしまえばお前は愛人奴隷ではなく、ただの性奴隷です」
「ヒッ……」

 おかしな方向に俺の思考が離れていったところで、男装の麗人のとんでもない発言で引き戻された。
 明らかに男色男爵とドラコフ卿が俺の事を誤解の眼差しで見ているよ。
 俺はマドゥーシャにおちんぎんは払っているけど手は出していないからね!

「確かにそこの女奴隷の言う事はもっともだわぁ」
「女奴隷じゃありません! わたしはおちんぎんに忠実な奴隷ですッ。いえ何でもないですおちんぎんの事は忘れてください……」
「やあんこの奴隷娘ったら助兵衛ねぇ。……でも、陛下とブルカ伯の関係性、それから陛下とテールオン妃との関係性は今後の政治の風向きに大きく影響するわねぇ。やっぱり一度、誰かを中央に派遣する必要があるとアタシは思うわあ。この冬が明けた後に……」

 渋そうにオッペンハーゲン産の高級ぶどう酒を口にした男色男爵の言葉に、俺たちはうな垂れる様に頷くしかなかった。

「これ以上はあまり意味のない想像にしかならないかもしれませんねドラコフ卿。俺たちとしてはブルカ伯を打倒するために王都中央の誰と手を結ぶのが正しいのか、その事だけを忘れないようにしましょう。ウチのツンデレ奥さんのマリアちゃんの実家が宮廷伯だから、その線でひとまず盟主連合軍はそこに組みするという態度でいいのかもね、何もわからないうちは」
「そうですわね。婿殿の仰る様に、誰と手を結ぶのか。特に王族の方と手を取り合うというよりも、それを擁立するどの貴族の派閥と組みするかのほうが重要ですわ」
「引き続き情報収集にはあたらせる事にするが、宮廷政治というのは厄介な事ばかりだ。クロードよ頼むぞ……」

 俺と蛸足麗人、そしてドラコフ卿が口々にそう言いあったところで、命令を受けたクロードニャンコフさんが無言で頭を下げて見せた。
 そうして最後にチラリと俺とカラメルネーゼさんへ視線を送ったところを見ると、回収したブルカ金貨の売り先について、どうこうするか後で意見があるのかも知れない。
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