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異世界に転生したら村八分にされた 作者:狐谷まどか

第9章 内政の季節が到来です

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310 後宮の近衛騎士

更新お待たせしました!
「うえ~寒い寒い。外に出ると一気に体の芯まで冷えるから、酒が欲しくなるな」
「けどここじゃ、サルワタの不味いぶどう酒しか取り扱ってないから困ったもんだぜ。あれで酔える人間なんて、いるわけがないぜ」
「こう寒いと、戦争する気分じゃなくなってしまうな」
「全裸の軍監さまならいつでも全裸だから、この寒さも平気なんじゃねえのか?」
「アッヒャッヒャ」

 俺の名は吉田修太、三三歳。
 異世界食堂で高級ぶどう酒を嗜んでいるセレブである。
 外から入って来た兵士たちが、身を震わせながら一階奥にあるカウンターへと移動していく。

「格好からするとリンドル領所属の兵士ですね、ご主人さま」
「おーっほっほっほ! 主人が目の前にいる事も知らずに、兵士どもは好きな事を言っていますわよ?」
「あらァ。シューター卿、言わせたままでは盟主連合軍の風紀に関わるわよぉ……」
「そうですよ閣下、ギャンと言わせてやってくださいよギャンと!」

 食卓を囲んでいたみんなはその場で兵士たちの視線を見送りながら、口々にそんな事を言った。

「いいんですよ。人間なんてものはガス抜きをしないと、いつ爆発してしまうかもわからない生き物ですからね。こうして俺を笑う事で少しでも日々のささくれた気持ちが癒されるのならば」

 そういう事に幸せを感じるんだ。
 まあ戦争に駆り出された兵士のみなさんだって、命も惜しけりゃ愚痴もあるだろう。

「シューター卿がそう言うのだったら別にいいけれどもねぇ。アタシの部下だったら、ああしこうして、ケツに太い槍をブチ込んでやるんだからぁ」
「まあその話は置いておいて……それでオコネイルさん。あなたが王都で後宮警護をしていたのは、確か三年前までという事でしたね」
「確かにそうよう。後宮と言うけれども、正確には春の宮殿と呼ばれている王都郊外に造営された離宮になっている場所だわあ」

 俺は今、ゴルゴライ新市街にある食堂のひとつで男色男爵と会食をしているところだった。
 食卓を囲むサルワタ貴族は、俺の他にカラメルネーゼさん、男装の麗人ベローチュと女魔法使いマドゥーシャである。
 一方の男色男爵は、いつも彼に付き従っている執事然とした褐色老エルフと、それからモッコリ頭をしていない前領主時代からセレスタに仕える中年騎士がひとりである。

 国王の子供を身籠ったテールオン妃の問題によって、俺たちは早急に王都情勢を手に入れる必要があった。
 すでに王都と深いパイプを有しているオッペンハーゲン男爵のドラコフ卿が、あの手この手で最新情報を集める事にはなっているだろう。
 だが俺たちのいるゴルゴライと王都との連絡網は、最短でも軍馬を飛ばして十日の距離がある。
 同時にその最短距離の間には、敵対するブルカ辺境伯領が横たわっているので、ドラコフ卿は南方の自領を経由してしか、随時情報を集めることが出来ないのだ。

 そこで本土で実家が奴隷商をやっていたカラメルネーゼさんが、後宮警護をやっていた男色男爵ならば後宮事情に限っては誰よりも詳しいのではないかと口にしたのだ。
 王都の政治力学とでも言うか、派閥争いについては最新の情報とドラコフ卿の方が詳しかったろうけれど、事が後宮に至っては、一般の貴族が介入できる場所ではない。

「春の宮殿は基本的に小さな街だと言えるわあ。郊外の丘に位置する城壁に囲まれた閑静な宮殿で、中庭には噴水のある庭園も存在するのよお。女ばかりの兵士と給仕が詰めていて、衣食のすべては王都の商人たちが出向いて売買をするのよお」

 春の宮殿というのが後宮の正式名称らしい。
 複数いるであろう国王の正妃や妃たちが、堅牢な防御力を持つが見た目は贅沢の限りを尽くした宮殿で生活している。
 当然、貴族以下の外部の貴族男性がこの宮殿の内部に入る事は原則として許されず、妃たちの身の回りの世話をするのは当然女性ばかりであった。
 男色男爵は文字通り男色家の男爵なので、この原則には触れず後宮警護の騎士隊長を任されていたという事らしい。

「後宮警護の近衛騎士隊は、全員女性の騎士だけで組織されているわ。ひとりの騎士に十人の従士が付くという点は騎士修道会を倣って編成されていたのだけれども、その全員を女性でそろえるのはなかなか大変で、やっぱりいつも定員割れをしていたモノよお」
「わたくしもドロシアさんも、ブルカの王国兵団で騎士見習いを務め終えた後は、強制的に最初の赴任地を後宮に指定されたぐらいですものね。今でもそういう状況であれば、仕方のない事ですわ」
「そして、そこに後宮騎士のひとりとして赴任したのが、テールオン妃という事だったのですか」

 男色男爵や蛸足麗人の回顧しながらテールオン妃がどうして国王に見初められていったのか、その確信に少しずつ近づけていく。
 テールオン妃は辺境貴族の子弟によくある例にもれず、成人となる十歳を超えた後にブルカの王国兵団へ騎士見習いとして入営した。
 その後数年間の軍事教練期間を経て正規の騎士となった後に、女性の貴族軍人を大量に必要としている後宮に赴任していった。
 世代が違うので、アレクサンドロシアちゃんたち仲良し三人組はこのテールオン妃の人となりについては詳しく知らないらしい。

「テールオン卿はおハゲさんの娘という事で、基本的には後宮警護一筋で国境などの前線勤務は経験した事のない方だったはずですわ」
「そうねえ、アタシも前任の後宮警護の責任者が戦場経験に乏しいひとだと聞いたときは、驚いたわァ」

 どうやら男色男爵が後宮警護の任務に就く以前の先任者が、テールオン妃だったのだ。
 その後、テールオン妃は近衛騎士を経験した後に貴族軍人を退役し、故郷のブルカ辺境伯領へと戻った。

「まともな軍人経験を積ませるために貴族軍人の道を進ませたというよりは、国王陛下に見初められる事を期待して、あのオレンジハゲが送り出したというのが正解だろうな……」
「そうですわね。戦場経験も乏しく、王都の政界とは春の宮殿の窓口役として顔は広くなりますもの。仮にもし国王陛下のご寵愛を受けることが出来なくても、お妃さまたちに付け入って国王への口添えを期待するお馬鹿さんな貴族連中もおりますわ」
「そのどちらに転んでも問題ない様に、手を打っていたというわけだな」

 さすがオレンジハゲ、考える事がせこいぜ。
 しかし結果的にそうしてみると、過去に後宮警護で面識のあったテールオン騎士爵を、何らかの形で王都へ妃として差し出す密約があったという事だろう。
 お貴族さまの政治は血縁同盟ばっかりで困ったものだ……

「しかし国王陛下もサルワタ貴族の家訓である、何事も順番を大切にするというモットーを忘れた結果がこれだ。国王陛下の求心力が一気に落ち込むことは間違いない。いや、みなさんお待たせしてしまった、済まない」

 ふと食卓の背後からそんな言葉が聞こえたので振り返ると、外套を脱ぎながらこちらに近づいてくるオッペンハーゲン領主ドラコフ男爵の姿があった。
 傍らにはご子息のクロードニャンコフさんも控えていて、視線が合うと黙礼してくれた。

「いやあ外はますます寒くなりますな。雨が降るたびに冬の到来を実感できる。全裸卿であらせられるならば、この程度の寒さは何ともないのでしょうが」

 そんなわけがないでしょう。全裸を貴ぶのは夏前提ですよ!
 誰だよ嫌な事を言うナイスミドルを食事会に呼んだヤツは……俺はドラコフ卿がこの会食に参加する事を聞いていなかったので大いにお喜んだ。

「おや、わがオッペンハーゲン産のワインをお呑みでしたか。わたしにも同じものを」

 俺の嫌そうな顔をしたそれは完全に無視されて、食卓に腰を落ち着けたドラコフ閣下は口を開いた。

「さて、テールオン妃の最新情報を取り寄せましたぞ軍監どの。みなさんの酒が回る前にご報告申し上げよう」
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