挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
異世界に転生したら村八分にされた 作者:狐谷まどか

第9章 内政の季節が到来です

しおりの位置情報を変更しました
エラーが発生しました

ブックマークしました。

設定

更新通知 0/400

設定を保存しました
エラーが発生しました

カテゴリ

ブックマークへ

以下のブックマークを解除します。
よろしければ[解除]を押してください。

ブックマークを解除しました。

413/564

閑話 アナホール攻め 末

 もし俺が鷹の眼をもって集落を見下ろす立場であれば、その初動はこんな感じだったはずだ。

 時刻は昼過ぎだ。
 広場では数人の男が家屋の外に設けられた土窯で煮炊きをしており、仲間たちに向けて叫び声を上げられた。

「おい野郎ども、飯時だ!」

 薪を割っていたひとりの男はそれに反応して手を止めて返事をしたところだった。
 すると、その背中に矢が刺さり仲間たちは驚いたのだ。
 目の前で男は手斧を落として膝をつき倒れてしまい、たまらず仲間たちは怒声を上げようとする。
 けれども叫ぶよりも前に次々と矢が飛来して、そのどれもが首根を貫通したり頭に刺さったりしたのだから声も出せるはずがなかった。
 全部で四本の矢を放ったのは猟師出身の人間たちで、特にッワクワクゴロの嫁シオの狙ったそれは首根を貫通して血を噴出させるという凄腕だった。

 マイサンドラが居なくても十分に戦力となる事に驚いたが、速射は苦手の様で他の猟師たちよりも時間をかけて狙いを定めているらしい。

 そうこうしている内に飯の合図で出てきた傭兵どもが異変に気付いた。
 その時には遮蔽物を利用して接近を試みていた俺やシエル、エクセル叔父の手勢が、茂みの中からわっと飛び出したのである。

「どういう事だこれわんギャー!」
「ほげぇ敵だ、反乱軍が攻めてきたぞこれは!」
「どこだ、どこにいるんばぎゃー!!」

 白刃きらめかせながら家屋から飛び出した傭兵数名に飛びかかる俺たちは、有無を言わさずそいつらを斬り伏せる。
 屋内に入れば不利となるので、警戒しながら重装備の修道騎士を盾役にしながら突入だ。
 中でくつろいでいた人間も慌てて剣を持ち上げて抵抗しようとするが、そこに火炎の弾丸が撃ち込まれて制圧である。

 あちこちで似たような風景が繰り広げられていたはずだ。
 家屋に突入する怒号と、抵抗する絶叫が入り混じって、戦場の空気は血生臭いものだった。

 けれども傭兵団を束ねている隊長格の中年ヒゲ面は、どうやら狡猾な人間だったらしい。
 一番まともで立派な家屋だった場所に潜んでいた中年隊長のところには、シエルが野牛の兵士数人を連れて接近していた。
 出入り口が二か所ある事に気が付いたのは戦闘直後であり、この時シエルはそこまで判断が出来ずに入り口を固めたのである。
 俺は急いでシエルのもとに合流して、部下たちにうなずいて見せた。
 それを確認したところで、野牛の兵士たちと揃ってハルバートを勢いよく戸板に叩きつけたかと思うと、即座に突入した。

「突入、突入、突入!」
「土間にはいない、他にも部屋があるぞ!!」
「部屋を全部しらみ潰しに探せっ」

 ひとつの広い部屋があるだけの一般的な農民の家屋とは違い、その家は分限者の屋敷であった様だ。
 突入してまず土間に人影が居ないのを確認したところで、他にいくつか部屋がある事に気づいてふた手にわかれた。
 そうして片っ端から部屋に踏み入れた瞬間の事。
 静かに突入する俺たちの様子を、息を殺しながらうかがっていた中年ヒゲ面は、

「……こんな場所で捕まってたまるか。おい急げ、何をもたついているんだっ」

 小声でそんなやり取りがあったのは屋敷の裏側だ。
 中年ヒゲ面は慰み者にしていた若い女の手を引っ張って、そこから小さな芋畑を抜けて茂みの中に逃げようとしていたのだ。

 そうとは知らない俺やシエルは、どうやらこの屋敷に敵が見当たらないので次の農民小屋に踏み込もうと算段をしていた。
 静かに抜け出した中年ヒゲ面は、ご丁寧に音を立てない様に裏口を閉めて逃げ出したのだ。
 そこは便所になっていて出口がふたつあり、たまたま一見して倉庫の様に荷物がトイレの入り口に積まれていたので、野牛の兵士も一瞬見落としたのだろう。

 シエルの指図で屋敷に踏み込んだ半数が外に飛び出して、次の小屋に移動した時。
 ふと鼻の良いミノタウロスのひとりが便所の存在に気が付いた。
 汚いものを触れる様にハルバートの先でバリバリとやったところ、床にはめ込まれた大きな糞壺を目撃したついでに、別の出入り口を発見したのだ。

「若大将、この便所の構造はおかしい。この便所を設計した蛮族は、用を足している時に別の人間が入って来た時にどうするつもりだったのだ」
「馬鹿な事を言っている場合ではないぞ、ここから逃げた可能性がある!」
「マジかよこういう時のために作っていたのかっ」

 野牛の一兵士は妙に関心をしたところで、鼻を引くつかせながら外へと続く扉を蹴り飛ばした。
 そうしてあわてて俺とシエルが飛び出したところで、茂みの向こう側に逃げようとした中年ヒゲ面と女の背中を目撃したのだ。

「糞ッ見つかったか!」
「いたぞ、ヒゲ面だ。恐らく傭兵団の指揮官だ!!」
「おい、ついてこい逃げるぞ」
「もごご、ふぐっ」

 俺たちが畑の向こうに駆け出そうとしたところで、叫んだ中年ヒゲ面はこちらに手をかざす。
 明らかに魔法攻撃を狙ったその姿勢にいち早く気が付いたのはシエルだ。
 女性の腕とは思えない様なミノタウロスの力強い腕っぷしで、俺は強引に頭を下げさせられる。

「若大将、伏せてッ」
「どういうこ……うわっ!」

 次の瞬間には中年ヒゲ面のかざした手から水の弾丸が弾き出されたのだ。
 すぐにもそれは家屋の壁にぶちあたり、粘土質の壁をえぐりながら炸裂した。
 あわててその場にいた全員が姿勢を低くしたが、続けざまに中年ヒゲ面は魔法攻撃を仕掛けてくるではないか。

「次が来るぞ、全員姿勢を低くしろ!」
「ええい怯むなっ」
「水魔法だ、水の魔法攻撃は厄介だぞ!!」
「弓を持っている者は応射しろ」

 混乱の中で短弓を背中に担いでいた傭兵のひとりがそれをつがえたが、敵の攻撃が思ったよりも短い間隔で打ち出されるので、上手く狙いが付けられないらしい。
 矢のひとつはアッサリと敵の手前に射ちかけられ、次の矢は狙おうにも女が邪魔をして上手く狙いが付けられないのだ。
 俺は隙を突いて一瞬だけ放置された畑の雑草から顔を出した。
 そしてそこで目撃したものは、

「シエル、あの女は高貴な身の上の人間だ。簡易のドレスは戦場で騎士の女が身に着けるもので間違いないぞ!」

 俺は猟師どもの様に視力が特段優れているわけではなかったし、盟主連合軍の騎士たち全ての顔を把握しているわけではない。
 この場に外交使節に出ていたッヨイハディやシューターがいたのならその確認もできたかもしれないが、若い女の出自を理解することまではできなかった。
 もう一度頭を上げたところに、また水の弾丸が撃ち込まれたので急いで姿勢を低くする。

「それではあのお方は、盟主連合軍の有力領主さまに連なるご家中の騎士さまですか?!」
「可能性はある。だが現状ではそれ以上のことはわからん!」

 だが確認できたことがある。
 女の姿をチラリと確認した限り、ッワクワクゴロの嫁の報告にあった様に若い年齢だと判断できた。
 年頃は恐らくカサンドラやタンヌダルクと同年齢だろうか、ラメエお義母さまよりは間違いなく年上で間違いない。
 それに長いオレンジの髪を編み込んでいて、ただしそれは中年ヒゲ面の虜となった時間経過を表すように酷く乱れたものだった。
 ドレスは先ほど確認した様に戦場に出る際の簡易のもので、その上に本来は甲冑を纏っていたのだろう。

「聞きましたかお前たち、お貴族の令嬢さまを何としてもこの場で救出するのです。男を逃がしてはいけません!」
「応ッ、誇り高きミノタウロスの兵士よ。命を惜しむな!!」

 どこにそんな余力を残しているのか、威力はひとを吹き飛ばす程度しかないものの断続的に中年ヒゲ面は水魔法を連射していた。
 それが出来るという事は、この男は義母上には叶わぬものの、聖騎士並みに戦場で魔法を使いこなす程度には熟練しているらしい。

「突撃、突撃、突撃!」
「ぎゃあ、肩の骨が外れたちくしょうっ」
「怯むな前進です!!」

 誰かが俺の隣で視界から吹き飛ばされて消えた。
 だがいったん全員で突撃を開始した以上は立ち止まる事も出来ず、シエルは部下たちを叱咤してハルバートを振りかぶるのだ。
 また別の誰かが荒れ放題の畑に脚を囚われてこけたが、中年ヒゲ面を目前にして勢いは止まらない。

 中年ヒゲ面も観念したのか、数射の魔法を撃ち出した後に虜にしている女を殴り蹴りして背後に放り、そして剣を引き抜くではないか。
 先頭を駆ける野牛の兵士ふたりとすれ違い中年ヒゲ面が飛び出した時には、男の持った剣の先が血塗られているのが目撃できた。
 そのまま先頭の野牛兵が倒れたところを見ると、胸甲の隙間から器用に一撃を入れてすれ違ったのだろう。

 やがてシエルがハルバートを大きく回しながら中年ヒゲ面に急接近した。
 力では女と言えど俺に勝るシエルの事だ。
 叩き付ける様に降り出したどの斧状の先端が、ズガンと畑を耕したその勢いだけを見れば、勝負を決まったと俺たちは錯覚したものだが。

 しかし体を変えながらぐるりと剣を回した中年男は、その一撃をすり抜けてあべこべにシエルの背中を斬り伏せようとしていた。
 あわてたシエルがハルバートの柄で突き上げたものの、ギリギリで剣を受け太刀したというのが実情だろう。
 重いハルバートは近接の戦闘では不利なのか、明らかに押され気味のシエルが、仲間の傭兵や野牛兵士たちと囲みながらも中年ヒゲ面に圧倒されていた。
 まずいと俺が思った時には、騒ぎを聞きつけた援軍も分限者の屋敷の周辺に集まって来たのだが……

「ぬうん!」

 男が力いっぱいの斬りつけをしたところで、また野牛の兵士が胸甲ごと斬り飛ばされた。
 斬られたのではなく長剣の腹で叩き飛ばされたという方がいいだろう。
 そうして出来た隙間から針孔に糸を通す様な具合で、スルリと味方の包囲を抜けてこちらに斬りかかるではないか。

「シエル」
「お下がりください!」
「邪魔をするなッ」

 三者の声が錯綜したところで、相互の攻撃もまた交錯した。
 俺への撃剣は辛うじて剣の刃で受け止めることができたのだが、追いすがっていたシエルは後ろ蹴りに飛ばされていて、そのまま畑の雑草に転がる。
 そうして俺への追撃が来るかと思ったが、ふたたび針孔に糸を通すようなスルリとした動きで、味方兵士たちの合間を縫って逃げ出したのである。

「ギムルくん、タンシエルさん! 敵兵を逃がすな、騎兵で追っ手をかけるんだっ」

 あれは明らかに対人戦闘に特化した剣技で間違いがない。
 以前にシューターが口にしていた、エレクトラの使っている剣技に似たものだった。
 それを魔法攻撃と巧みに併せる事で敵を寄せ付けないのだろう。

     ◆

 けれどもこの戦いを静かに見守っている人間がいたのだ。
 鷹の目線とはいかなかったが、大樹の枝に隠れて眼下をずっと睥睨していた人間がいたのだ。
 マイサンドラである。
 彼女は逃げ口に使われるであろう可能性のある背後の林の中で待機していて、実際に散発的に逃げ出していた残党兵を数名、すでに長弓で射殺していたのである。

 足場の悪い畑から奥の林へと、散り散りになった兵士たちが中年ヒゲ男を追いかけようとしたところでそれは起きた。
 弓を引き絞って狙い定めていたマイサンドラが、その矢を放って中年ヒゲ面の足を射抜いたのである。

「急げ、来い!」

 女のオレンジ色の髪を引っ張りながら逃げ出そうとした男は、太ももを射撃されて転がった。
 しかし欲深い男は女を手放そうとはせずにそのまま一緒に転がり倒れる。
 当然、若い女は中年ヒゲ面から逃げ出そうとしたのだから、男は追いすがった。
 そこをまた正鵠に男の掌を射抜いてみせて、中年ヒゲ面は絶叫したのである。

「うぎゃあああ!」

 傭兵隊長の中年ヒゲ面の絶叫が林の駆け抜ける中、追撃してきた兵士たちは急ぐ足を緩めながら状況に驚いた。
 俺もその時はシエルを抱き起した後にそれを追っていたが、その場で目撃したのは高い巨木の樹上からドサリと飛び降りて来る、女猟師の姿だった。
 そのまま落葉の絨毯を巻き上げながら着地から一連の動作で駆けたマイサンドラは、流れる様な動きでナタを抜き、中年ヒゲ面の傭兵隊長を殺害した。

「…………」
「遅いじゃないか、この先の集落はわたしがひとりでカタをつけたよ。全部で八人だから後で立ち寄って確認してちょうだい」
「わ、わかった。ずっとこの場で見ていたのか……」
「何か勘違いをしている様だけど、わたしはそもそもシューターの配下よ? たまたまッワクワクゴロに協力してサルワタの猟師どもの世話をしているだけなんだから、村長さんに指図される云われはないわ」
「そう言えば貴様はシューターの奴隷という扱いだったか……」
「まあ別に、意地悪をしようとしたわけじゃないんだよ。たまたまこの林の辺りは包囲が緩かったからね、襲撃地点に近いから兵員を配置していなかったのでしょう?」

 何かがビッシリと詰まった革袋を投げてよこしたマイサンドラである。

「中身を確認しておくといいわ。これはシューター卿に対する貸しにしておくから。それよりも、」
「はい、マイサンドラさま……」

 俺の疑問にそう答えると、俺などは無視してオレンジ髪を振り乱した若い女性のところに駆け寄って、シエルに目配せをしていた。

「司祭さまをお前たちで呼んできなさい!」
「大丈夫だ安心して。わたしはスルーヌ騎士爵配下のマイサンドラだよ、あなたの名前、言えるかしら?」
「う、うぐもご……」
「腫れの酷い顔です。かなり殴られた跡があります。司祭さま、こちらです!」

 俺の側で呆然としていたミノタウロス兵と傭兵が顔を見合わせ、中身の詰まった革袋を拾って覗き込む。
 そこでたまらずふたりが絶叫を上げたのだ。

「おげぇ、手首が詰まってる!」
「ぜ、全部で八人分の右手だから、出して確認しなければならないぞ蛮族」
「え、遠慮します……」

 その日の陽が暮れる頃、俺たちはようやくアナホールの村へと到着した。
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ