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異世界に転生したら村八分にされた 作者:狐谷まどか

第2章 ダンジョン・アンド・スレイブ

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38 ふたたびブルカの街にやって来ました


 お世話になったオーガ討伐隊のベースキャンプを引き払った俺たちは、ブルカの街に引き返した。

「改めて見上げると、この城壁はデカいな。それにあちこち戦った跡が残っているのも面白い」
「ん、ここは辺境諸民族との戦いの最前線だからね。聞いた事無い? ヨーロッパで辺境伯と言えば武門の筆頭貴族が受け持つものなのよ」
「ああ、モノの本で読んだことがあるな。辺境伯はただの伯爵位ではなく侯爵にも匹敵する権限と富を持っていたとか」
「大学中退の割りに詳しいじゃないの」
「へっへっへ。残念でした、俺は文学部史学科だったんだ。各地域の通史はこれでもしっかり勉強してるんだぜ?」
「見直したわ」
「……へ?」

 城門を見上げながら俺が隊列に従って歩いていると、雁木マリが意外そうな顔をして俺を睨んでいた。
 いや、睨んでいる様に見えるマリだが、これがこの女のデフォルトなのだと最近思う様になって来た俺である。
 無感動な顔と言うよりも、単純に誰にも気を許さない様なオーラを纏っているだけなのだ。
 だが、言葉の端々に少しだけ心を開いている事が見えるところがよかった。
 仲間として少しでも認めてくれるのは嬉しい事である。

「ニシカさんはもう街は慣れたんですね。鹿の群れより人間がいる! とか言って驚かない、よしよし」
「ば、馬鹿にするな。ワイバーンも倒す鱗裂きのニシカさまが、いつまでも人間ごときを恐れるわっきゃないだろうが!」
「そうですね。猟師は柔軟性がないとやっていけませんからね、あらゆる獲物を知り学びそして受け入れる」
「へへへ、そういう事だぜっ」

 ニシカさんの扱いをちょっとわかってきた気がする俺である。猟師である事に非常に高いプライドを持っているので、その点を軽く持ち上げると上機嫌になる。
 とはいっても猟師としての腕は超一流だ。女性にしては長身で、肉付きも良く強弓も簡単に引き絞るし、風の魔法は一撃必倒の威力と命中率を矢にもたらしてくれる。
 今もブツクサとバジリスクのあかちゃんをあやしながら「お前の弱点はどこだ、ん?」などと研究熱心だ。
 たわわな胸に挟まれそうになっていやいやをしているあかちゃんだが、かなり羨ましいぜ。

「それで、いったん冒険者ギルドに戻ったら状況経過を報告するんでしたよね、ッヨイさま」
「そうですどれぇ。ギルドの情報では当初、ダンジョン内にバジリスクがいるらしいというお話でした。近くに踏み入った冒険者が咆哮を聞いたという事で」
「なるほど、で討伐依頼の内容はどうだったんですか?」
「簡単ですよどれぇ。ダンジョンの(ぬし)、バジリスク一頭の討伐です。けど実際はつがいで、あかちゃんまでいたのです」
「確かにそうでしたね」
「再討伐をするか、状況を報告だけして辞退するかなんですどれぇ」
「どっちにされるのです?」
「そうですね。どうしましょう?」

 手を繋いでいたッヨイさまが、思案しながら俺を見上げていた。
 新しい戦力か。村で雇い入れた様に、龍種と戦った事のある冒険者の一団をまるまる助っ人にするのがいいだろうか。
 いやあ。確かに彼らは優秀だったと思うが、ニシカさんはそれ以上に優秀だった事を考えると、人数が居ればいいという問題でもなかろう。

「ニシカさん、これからの予定とか決まってるんですかね?」
「ん? ひとしきり街を堪能したらオレは集落に帰るぞ。しばらく街にいられる金もこれでできたしな」
「なるほど。それじゃあ今後の予定は特にないと」
「おう」

 ニシカさんの確認を済ませた俺はッヨイさまに向き直った。

「再討伐をするなら、俺としてはニシカさんを助っ人に誘う事を提案しますよ。何しろ俺のいた村周辺では、鱗裂きのニシカと言えば誰でも知っているほど凄腕の猟師でしてね。しかもワイバーンを数多く倒した経験があるのです。ですよねニシカさん?」
「そうだな。オレ様は猟師になって冬を越した数だけワイバーンを倒したことがある。バジリスクを見た事はねえが、たぶんこいつを観察していれば、弱点も見えてくるだろうよ」

 同意を求めたところ、いつもの自己紹介のフレーズであかちゃんを高い高いしながらニシカさんが答えてくれた。
 頼もしい言葉である。

「どうですかね。冒険者の助っ人を頼むにしても、あまり人数をそろえると取り分が減ってしまうでしょう」
「確かにそうだよね、ニシカさんは大丈夫ですか?」
「いいぜ、オレは別に暇だし」
「あたしも賛成ね」
「うん、じゃあそうしましょうか。どれぇは賢いですね!」
「ありがとうございます、ありがとうございます」

 俺はようじょの頭をなでなでしながらお礼を口にした。
 まあ、リベンジするかここで手を引くかは、冒険者ギルドの対応次第で考えるとの事だった。
 無理をして死んだら何にもならないからな。
 リベンジできないのは多少悔しいが、状況はしっかり掴んでから行動しないとな。

 しばらくすると番兵たちがやってきて、俺たちの荷物を改める番になった。

「お前たちはどから来た。身分を証明するものはあるか」
「あたしたちはダンジョン攻略から帰還した冒険者よ、こっちが仲間のふたり」
「タグを拝見。ふむ、間違いないな」
「帰りにオーガ討伐隊と一緒になったので便乗させてもらったの、装備その他はほとんど戦闘中にロストしたわ。今は着の身着のままの状態ね」

 ノースリーブワンピースの胸元から冒険者タグを引き出した雁木マリは、番兵が顔を近づけてタグを覗き込むととても嫌そうな顔をした。
 そもそも男嫌いなのかもしれないが、さすがに官憲に暴力をふるうわけにもいかないのか大人しい。

「で、お前は奴隷か。ん? お前、前に来た時はどこかの村の出稼ぎじゃなかったか? ハハァ食い詰めて奴隷堕ちしたか。ついてないな」
「ど、どうも。あっ、へそピアス引っ張らないでください痛いから!」
「フン。で、こちらの小さなレディがご主人さまかな?」
「はい! ッヨイはどれぇのご主人さまです。ブルカ伯金貨三〇枚で購入しました!」
「こんな全裸の若造に金貨三〇枚?」

 だいぶ盛ったお値段でッヨイさまが番兵に報告する。
 いくらで奴隷を購入したかを自慢する風習でもあるんだろうかね。番兵は疑わしそうに俺のヘソピアスを引っ張って睨んできた。
 俺は首からかけた冒険者タグを持ち上げて見せたが、番兵は「いらんいらん」と手をひらひらさせる。相変わらず男には仕事熱心ではない。
 だが、ようじょには熱心だった。こいつゴブ専ロリ好きか? とんでもない合併症患者だなっ!

「よ、ッヨイは何か問題でもありましたでしょうか」
「その問題があるかないか、確かめるためにしっかり調べるんだ」
「おい、」

 怯えるようじょが俺の腕にしがみついたところで、ニシカさんが恐ろしい顔をして番兵をひと睨みした。
 ワイバーンも殺しそうな眼光である。

「お前、また性懲りも無くべたべた触ってるのかよ」
「うおほん。本官はこれが職務なのである」
「うるせぇぶち殺すぞ。オレたちゃオーガと一戦交えて気が立ってるんだ。さっさとオレ様の身体チェックをしやがれ」
「ご、ご協力ありがとうございます。問題ありません!」

 番兵はニシカさんがブラウスのボタンを外して胸元から引き出した冒険者タグをチラリと見ると、血相を変えた。
 しかし名残惜しそうにチラ見しつつ次の荷物チェックに移るあたり、とても残念な番兵である。
 とは言え、何しろ討伐隊は長蛇の列だ。
 番兵も次の仕事に取りかからざるを得なかろう。
 オーガ討伐隊が守る荷駄の台車には、ずらりとオーガの首が並べられていたからである。

 巨人族の並べられた首には、どのチームがこの獲物を倒したのか一目瞭然になる様に、額にタグが釘で打ち込まれていた。
 その中に、実は俺たちが倒したオーガのものも含まれている。
 親切にも討伐隊を指揮したリーダーとニシカさんが話し合って、回収できる範囲でタグを付けてくれたのである。

「す、すごい量のオーガの首級だな」
「これでもまだ全部を回収できたわけじゃねえ。夜戦で戦った時のやつは、まだ残ってるだろうよ」

 そう言ってニシカさんがマシェットの鞘をパシリと叩いて笑うと、ビクつきながら番兵が「はあそうですか」と返事をしていた。

 今のニシカさんは、どこからどう見ても荒くれ集団のベテラン冒険者みたいな顔をしていた。
 さすが村界隈で一番の猟師だ。適応能力が違うね。

     ◆

「つまりダンジョン攻略は失敗したという事ですか?」
「お前はいったい何を聞いているのかしら。あたしたちは当初、一頭だけだったと聞いていたバジリスクがつがいだったという報告をしに来たのよ!」
「という事は、その二頭のつがいとも討伐する事ができたという事ですよね?」
「だから、どうしてそういう話になるのよ! 当初のバジリスク一頭の討伐は果たしたわよ。これがその証拠ね」

 冒険者ギルドの相談カウンターにやって来た俺たちは、状況報告をする雁木マリと営業スマイルの受付青年のやりとりを見守っていた。
 絶対に笑顔を崩さない受付青年は、自分たちギルドの情報収集に誤りがあった事を認めなかった。

「なるほど、これが討伐証明部位ですか」

 ドカンと勢いよくカウンターに置かれたのは、バジリスクの嘴から引き抜いてきた巨大な犬歯と、それから尻尾の先端、そして逆鱗だ。
 逆鱗は頸筋の喉仏あたりにある
 ギルドから指定の討伐証明の部位は倒さなければ手に入らない様なところだった。
 牙なんてものはあれだけ巨大なバジリスクがじっとしていなければもぎ取る事はできないし、尻尾の先端も不可能だ。
 とは言え、よしんばひとつだけ手に入れられる可能性も考えて、もっとも入手難易度が高い逆鱗も提出するわけらしい。

「確かに逆鱗と尻尾、それに牙ですね。だが一頭ぶんしかない」
「お前。あたしが騎士修道会の人間だという事を知っていて、なおその様な態度をとっているのかしら」
「滅相もありません。わたくしどもは、どなたさまにも公平ですよ? 騎士修道会の修道騎士さまであっても、ここでは冒険者のひとりです。冒険者であるならば、討伐失敗の場合は規則通り罰金を払うのが決まりになっています」

 という具合で、ふたりは堂々巡りを繰り返していた。
 心配そうに事の成り行きを見守っていたようじょである。膝に乗せたあかちゃんをいい子いい子しながら、俺を見上げて来た。

「やっぱり、ッヨイが説明をしたほうがよかったのですかどれぇ?」
「そんな事はありませんよ。ッヨイさまにはあかちゃんのお世話をする大事なお仕事があるじゃないですか」
「そうですねどれぇ。それにしても頭の固い受付さんなのです」
「やっぱりそうなんですか」
「あのひとだけ特別な感じですどれぇ」

 すると、ようじょの向こう側にいたニシカさんが口を挟んでくる。

「んだよなあ。オレに冒険者登録しろって言ってくれた姉ちゃんは、いいやつだったぜ」
「そうなのですか?」
「そうだぜ。オレが逆鱗の首飾りを売って飯代にしようとしたら、それより儲かるからと紹介してくれたんだぜ」
「情けない話を自慢気に言わないでください。こっちまで村の恥になる」
「うう、シューター手前ぇ、そんな顔をするなよ」

 しかしまた厄介な受付にあたったものである。
 荒くれ者の多い冒険者を相手にしているのだから、ごねる相手には取りつく島も無い態度でかわしてみせるのが受付の正しいやり方なんだろうが、俺たちは予定に無い二匹のバジリスクを相手にしたのだ。
 明らかに間違っていた情報を流したのは冒険者ギルドなのだから、討伐失敗と見なすというよりは、追加褒賞を出して俺たちを送り出すのが正しいんじゃないかね。

 ただまあ誰しも自分の担当領域でミスを受けるのは嫌だろうから、わからんでもないが。
 でも俺たちは命かかってるんで、引き下がるわけにはいかない。

「じゃあ聞くわ。お前たちの情報が間違っていた点について、ギルドはどう思っているの」
「情報が間違っている? わたくしどもは不確定情報としながら、ダンジョンの主であるバジリスクの討伐を依頼したはずです。その際の報奨金はバジリスク一頭ぶん。これで間違っていませんよね?」
「なら、あたしたちも。この一頭分の討伐部位を差し出したのだから、このクエストは成功とみなされないとおかしいはずだわ」
「しかし、二頭いたのですよね? では二頭倒さなければ討伐成功とはみなせません」
「あたしたちは二頭倒す用意があるわ。追加の仲間も加わった。けど、赤字になる様なクエストなら、最初から討伐失敗の違約金を払って引き払ってもいいのよ?」

 雁木マリとようじょはあまり金に困ってはいないのだろうか、ここでマリは強気の態度に出た。
 そうしながら、俺にチラチラと目くばせをしてくる。
 なるほど、ちゃんと仲間と認めている証拠だろう。雁木マリは俺に助けを求めてきたのだ。俺はちょっとどころか嬉しくなって助けに入る事にした。

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