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異世界に転生したら村八分にされた 作者:狐谷まどか

第9章 内政の季節が到来です

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309 援軍の選抜をします

 女騎士エレクトラに案内されてゴルゴライの領主館に戻ってみると、果たして女領主はまだハーレム大家族用の寝室に横たわっているところだった。
 気鬱げな表情を浮かべてもぞもぞと体を半分起き上がらせたアレクサンドロシアちゃんは、そうして紙片を俺に差し出しながら、面白くもないという表情でこう口にしたのである。

「エクセルからの伝令がこの様なものを寄越してきた。お兄ちゃんはどう思うか?」
「どれ、拝見させていただきますよ」

 朝の挨拶もそこそこに、麻紙の紙片を受け取って中身を確認する。
 恐らく戦場の幕舎で、あまり平らではないところで書かれたのだろう。紙面をボコボコに凹ませながらも
、荒々しく殴り書きで用件のみが記述されたものだった。
 字はアレクサンドロシアちゃんのモノと比べると、まだ癖に自重のあるものだ。

「まもなくアナホール方面の攻略は完了する見込み、か。ここでいったん休息と再編をした後に、いよいよシャブリン修道院の奪還作戦に入りたいという事だな。援軍要請だ」
「アナホールは両軍の戦力が引いた空白地帯ではあったが、こういう情勢に過敏な盗賊どもが、どこからともなく湧いてきて、一帯の空き家を根城にしはじめていたらしい」
「サルワタとクワズの軍勢は、両部隊あわせてもせいぜいが二〇〇に足らずというものでしたよね?」

 紙片の内容を確認したところで、これまで隣で片膝を付いて貴人に対する礼をしていたエレクトラが立ち上がって、俺からその紙片を受け取った。
 彼女も急ぎ内容を確認しようと眼を走らせたが、そこで即座に提案を口にする。

「アレクサンドロシアさま、現在のゴルゴライから援軍を編成して送り出しますか?」
「いや、それもよいが。お兄ちゃんと先日話し合った内容であれば、騎士修道会にシャブリン修道院の奪還に加わってもらうのがよいと、わらわは思っておる」

 あの場所は今回のブルカ同盟軍との戦争の中でも、俺たちにとっても騎士修道会にとっても象徴的な場所だったからな。
 マリも昨夜の営みの中で、自分たちの手で取り戻したいと考えている意思を伝えていたし、可能であればそれを達成させてやりたいと俺も考えている。

「マリはやる気だアレクサンドロシアちゃん。少なくとも騎士修道会はこの日のために再編を続けて訓練に励んできたし、残留派に対する離脱派の攻勢と言うものを、世間に訴える事もできる」
「お兄ちゃんの意見はもっともだ。今はッヨイのところにもひとをやって呼び出しているので、軍議に入るとしようか」

 ヒラヒラと手をさせながら、納得顔の女領主がそう言った。
 ようやく体の血脈に精気が行き渡ったと見えて、表情がいつものそれになりつつある。

「差し出がましい意見を口にして、申し訳ございませんでした」
「いやそれでよい。念のために騎士修道会の次の援軍は、わらわたちの中から送り出さねばならぬ事もあるだろう。徴税官として派遣される予定のない者の中からこちらも引き続き人選をしておいて損はない」
「ありがとうございます。ありがとうございます」

 俺の隣でエレクトラがペコペコとしていた。
 以前に女領主も言っていたけれど、他の連合軍部隊にばかり任せきりで自軍の出血を躊躇していると思われるのは良くない。
 そのうちにも蛸足麗人か男装の麗人あたりに軍勢を付けて、ギムルの援軍に向かわせる事はありえるだろうね。

「援軍を直ちに向かわせる手配をする故、その旨エクセルの伝令にその様に申せ。その者は今どこにいる」
「かしこまりました。エクセルパーク卿の伝令は司令部の宿屋で休憩を取っております。それではただちに……」

 エレクトラが一礼して進出を退出していくと、

「ではお兄ちゃん、わらわを寝台から起こしてくれるかの?」
「え、いいけどさ……」

 ハーレム大家族用の寝台はがらんどうだ。
 大正義カサンドラはとうに起きて家族の内向きの差配をしていたし、他の何人かは当直任務のために早朝一番からお出かけしていただろう。
 部屋の隅で丸まっているのは女魔法使いだけで、あれはいつもの情景である。

「まだ体がいう事を聞かないのだお兄ちゃん」
「しょうがないな。ほら、抱っこしてあげるから足を出しなさい」
「ふふふ、しょうがないのう。抱っこされてやるとしよう」

 そんな馬鹿みたいな夫婦のじゃれあいをしてアレクサンドロシアちゃんを抱き上げた。
 女領主はそのまま腕を俺の頭の後ろに回しながら、朝の接吻をご所望してきたのだ。応えて軽く唇が触れようとしたところ……
 寝台の向こう端でムクリと起き上がった女魔法使いが、抱き合った俺たちを観察しているではないか。

「どうぞ続けてくださいよ閣下。わたしは別に気にしませんから、どうぞどうぞ」
「は、離せお兄ちゃん。支配者としての体面がないわっ!」

 今さらもう手遅れだと思うけれどね。
 眼であっちへ行けと俺が合図を送ったところ、渋い顔をした女魔法使いが毛布を引きずりながら寝室を退出していったのだった。

「ど、どこまで見られていたと思う?」

 たぶん最初からじゃないかな……

     ◆

 女領主の執務室に集まった俺たちは、ようじょとの合流をして今後の奪還作戦の仔細を詰めた。
 途中からは朝の訓練に出ていた雁木マリもこちらに戻ってきて軍議に参加だ。

「俺たちが今使える軍事力の数は知れている」
「あたしたちは自分たちの手で修道院奪還を行う決意があるわ。いつでもご命令を頂ければ軍勢を送り出すことは可能よ」
「全軍というわけにはいかないから、戦力を抽出する必要が出てくるな」

 騎士修道会の二〇〇〇余の戦力はその最大規模を持っていて、ゴルゴライに在留している傭兵隊も存在する。けれどこの場所の守備のために、その全てを容易に動かすことが出来ない。
 修道騎士隊のいくつかと、傭兵や領軍の混成部隊を送り出す事になるが、

「そうなると、今手札として使えるのは騎士修道会と、スルーヌ隊の少数という事になるのですドロシアねぇさま」

 安楽椅子で揺られている女領主の向かい。
 ソファに腰を下ろした俺の膝の上に乗って、ようじょは意見を口にした。
 近頃は魔力の回復も著しくて、暇そうに横になっている必要性がなくなったのかもしれない。
 雁木マリも同じ様に俺の隣でソファに腰を下ろして、丸まっているバジリスクのあかちゃんを撫でていた。

「ふむ。お兄ちゃんは今後、徴税官としてスルーヌに下向する必要が出てくるので援軍に向かわせる事は出来ないな。領主が入れ替わって直ぐの段階で、その者が貢納の時期にいないのは不味い。広く領民に領主交代を触れだすチャンスであるからな。ガンギマリー卿もこの場に残って、わらわの補佐をお願いしたいところでもある」
「すると代理指揮官を送り出す必要がありますねアレクサンドロシアちゃん」
「出来ればあたしの手でとは思っているけれど、それはスウィンドウもイディオも同じ気持ちだわ。了解よ、修道騎士の人選はこちらで選んでおくわ」
「そうしてくれると助かるマリ」
「キュイ!」

 それぞれの領地から軍勢をかき集めて現在のサルワタ領邦軍が組織されている。
 そのうちスルーヌの担任はさほど大きなものではなかったけれど、農民兵の数十と傭兵一〇〇名ばかりを基幹としたささやかなスルーヌ隊というものが組織されていた。
 編成完結が成ったのは実に秋のゴルゴライ包囲作戦の後という始末で、本格的な攻防には間に合わなかったのだ。

「それ故に無傷の軍勢となればスルーヌ隊を出すしかないが、同時に熟練の指揮官にこれを任せる必要がある。二〇〇にも満たない部隊ともなれば、やはり指揮を誤ればあっさりと全滅する可能性もあり得るからな。ふむむ……」
「ドロシアねえさま。ッヨイはカラメルねえさまか、どれぇのどれぇに指揮を執ってもらうのがよいと思うのです!」

 蛸足麗人は貴族軍人出身でありこの点に何ら疑問はない。
 どれぇのどれぇ、つまり男装の麗人たるベローチュも、妖精剣士隊の分隊長の経験があるから指揮官としては申し分ない様に思うけれど、

「妻たる者が代理人を務めるのは貴族の常識であるならば、それがよい」
「どちらも指揮官は可能だと思うけど、より全軍を率いるという意味ではカラメルネーゼさんの方がいいだろうね。上級指揮の経験があるのは貴族軍人だったカラメルネーゼさんだ」
「まあ、そうなるな。あるいはわらわが出陣という事も考えたが、」

 それでは主要な人間が誰もゴルゴライに残らなくなってしまう事になるから却下だ。
 ついでに蛸足麗人が現場の指揮を執るのであればメリットも存在していた。

「確かネーゼの配下に近頃加わったという、豚面の一族がいたはずであろう。何と言ったか、ナイトオブサラマンダーとか言う称号を持った騎士がいたはずだ」
「イブ=セイマス=ズィさんの事ですね。もともとブルカ伯の家中の騎士で、オークの旧領を代々持ち回りで切り盛りしていた連中のひとりだ。カラメルネーゼさんの商会なんかで何度か顔を合わせましたよ」
「この際であるから、お兄ちゃんはその者らを部下として採用してはどうかの」

 家族の顔ぶれは増えたけれども、領地に対して圧倒的に文武両官が不足しているのがサルワタ貴族の現状である。
 官吏出身者が少ないものだからモエキーおねえさんたちを文官や御用商人として雇い入れたけれど、まだまだ焼け石に水の状態だからね。

「実はイブ=セイマス卿からもそういう話を頂いていたのですよ。これ幸いなのでカラメルネーゼさんにすぐにその事を伝えて、一族揃って召し抱える事にしましょう。俺の配下という事でいいのかな?」
「それがよいのです!」
「まあ、そなたの配下という事はわらわの家臣という事になるから、帳簿の上で誰の部下でも構わない」
「スルーヌ領はサルワタとも縁が薄い土地なので、武闘派のカラメルねえさまやニシカねえさま、サラマンダーおじさんが加われば箔も付くかもしれないのです。ッヨイは賛成です!」

 そんな衆議が一致したところで、シャブリン修道院の奪還作戦の援軍については決定されたのだ。
 第一陣は雪辱に燃える騎士修道会から援軍を送り出す事。
 第二陣はスルーヌ隊を中心にしてナイトオブサラマンダーを加えた軍勢を援軍とする。

「両軍どちらにも与しない野盗というのは、厄介な存在なのですどれぇ。荒廃した土地に流れ着いた以上、ここが最後の楽園だと思っている場合は死に物狂いで反撃をしてくる可能性があるのです!」
「そうだな。俺が聞いた話では前からいた野盗働きする連中は、分水嶺を越えてブルカ領内の南部に移動したって事だったけれどねえ」
「シューター、ゴルゴライ方面に向かうブルカ街道は、これまで盗賊が出ないことで有名だったわ。それがこのタイミングでという事であれば、ブルカ同盟軍側が戦力減退した事を補うために、裏で誘導している可能性もあるわけね」

 恐らくは全ての連中がそこに向かったわけではなく、一部がこちらに流れ込んだという事だろう。
 触滅隊という前科がツジンたちにはあるので、裏社会の連中との手管を使って野盗たちをこのアナホールやシャブリン修道院辺りに誘導した可能性は確かにある。
 雁木マリはその事を指摘しているのだろう。

「限られた冬の間に何が出来るかだぞお兄ちゃん。王都中央の動きも気になるが、敵や中央とどの様な交渉を行うにしても、そのための交渉材料はしっかりと揃えておかねばならぬものだ」
「それに内政もしっかりと力を入れておかなければ、継戦のための体力がたりなくなってしまうのです!」

 同じ様な髪色をした伯母と姪が、同じ様な表情で俺を見返した。
 違いがあるとすれば、吊り上がった眉の有無だろうか。眉のぶんだけアレクサンドロシアちゃんの性格が気分屋さんなのがわかる。先ほどまでは垂れ眉で甘えん坊さんだったのにねえ、デュフフ。
 ようじょは将来、この女領主奥さんみたいな癇癪持ちになったらいけませんからね!

「明日、マリアツンデレジア卿の率いていたリンドル隊の半数が、領地へと引き上げる旨を知らせてきておる。マリア卿本人はゴルゴライに残留兵と共に残るが、増援としてシェーン子爵の率いる軍勢がこちらに向かうそうだ」
「早討ちシェーンがゴルゴライに来るのか?」
「祖父の顔を見たいという申し出があったのだ。自分の母親がどうしているのかも知りたいのかもしれんな。護衛にはダアヌ夫人が付いているらしいので、お兄ちゃんは案内せよ」

 わかりましたと俺がようじょを抱っこして立ち上がったところ。

「ど、どれぇ。何だか不思議な匂いがどれぇの体からしているのです」
「どれ、お兄ちゃんはダルクから香水でもわけてもらったのかな? スンスン……うっこれはッヨイハディのお漏らしの匂いではないか!」
「ッヨイは今日、おねしょをしていないのです!」

 どうやら異世界味噌の匂いにジョビジョバの一族は敏感らしいね。
 俺とマリは顔を見合わせて苦笑すると、ジョビジョバの一族は懐疑の眼をこちらに向けて来るのだ。
 さっそくこの異世界味噌をサルワタ貴族の名産品にすべく売り込みを始めたけれど、異世界人に果たして味噌と醤油は受け入れられるだろうかね?

「これはですね、味噌と言って俺の元いた世界の調味料なのですよ。いや、別にゴブリンの聖水を出汁に使っているわけではなく――」
ゴブリンお嬢さま聖水!
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