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異世界に転生したら村八分にされた 作者:狐谷まどか

第9章 内政の季節が到来です

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303 オレンジハゲの自白

 王族に子供が産まれればその子供には王位継承権が与えられる。
 特に国王直系の血筋ともなれば王位継承権は全体的に見直されることになり、王の子を宿した母親が誰なのか、これは非常に政治的な意味合が大きくなるのだ。

 ブルカ辺境伯ミゲルシャールは、王侯貴族の常として自身の多数いる子女たちを政略結婚の道具にしてきた人物だ。
 愛人の子に産ませたエミール夫人はリンドル前子爵の第三夫人となったし、そうした娘たちは恐らく多数の貴族たちとの血縁同盟の道具に使われた事だろう。

「それはお貴族さまであるのだから仕方のない事だと思うのですが、ブルカさまの行いには釈然としないものがありますね……」

 教化部屋の片隅でそんな言葉をボソリと漏らしたのは、正妻のカサンドラだった。
 俺自身も政治的目的で多くの婚姻をしてきたのだから、あまり大きなことを言える立場ではない。
 女領主アレクサンドロシアちゃんも、その事を最大限利用して俺に婚姻を方々に迫ったのだから同罪だ。

 しかし、相手が王家ともなれば別問題だ。
 国王陛下の元に妃のひとりとして送り込まれたオレンジハゲの娘の名をテールオン妃と言った。

「妊娠七ヶ月、母子ともに健康な状態とは聞いておる。自らが国王の外戚となって権勢を振るわんと考えを持つとは、恐れ多い行いをしてくれたものだな。ん?」

 自白剤の効果がようやく効きはじめたと雁木マリが判断を下した頃、女領主による尋問が開始された。

「あの者は俺の子女たちの中でも特に健康で、見た目はアレの母親に似て器量はほどほどだったが、愛嬌だけはある娘だったぜ。だから国王の側に仕えさせる事を命じた。テールオンは国王の妃になれるのかと、素直に喜んでくれたものだがな……」
「確実に国王の子を成すとも限らなかったろう。なれば他の娘にも国王の側室をやらせておったのか」
「……残念ながらいくら俺でも、そこまでの力が宮廷に及ぶ事はないんでね。王族の方々には娘を何人かくれてやったが、さすがにこれは大博打だったというわけだ」
「国王の子を得られねば、よもや中央でクーデターでも起こすつもりだったんじゃないだろうな。そこのところはどうなのだ」

 腰に手を当ててオレンジハゲを睨みつけるアレクサンドロシアちゃんである。
 オレンジハゲは口元からよだれを垂らしていたが、朦朧とした眼でも質問にはしっかりと答える。

「さあどうだかな、細けえ事を考えるのはツジンの役割だ。そういう可能性をひとつの方法として残していたのは確かだぜ。あらゆる手を尽くして、どれかひとつでも反応があれば手繰り寄せるってえのは、手前ぇもやっている事だろうがよ……」

 ふむ、なるほどのう。
 アレクアンドロシアちゃんはその返事にある程度納得をしたのか、雁木マリに目配せをしてポーションの投与はこの程度でよい、とでも意思を伝えた。

 暴れるでもなく、叫ぶでもなく。
 股間の息子を切り落とされてしばらくは絶叫とともに体を揺さぶり続けていたが、ようやく落ち着いてきたので取り押さえにかかっていたけもみみと男装の麗人は、その手を緩めて家族たちの元に集合している。

「テールオン妃さまは、きっと子を成す事を至上の命題として送り出されたのですよう。してみると子供が出来なかった時は宮廷でさぞ肩身の狭い思いをしたと思います」
「そうですね。例え政治目的で結婚しても、家族は家族です。良き妻として国王さまを支えなければならないのに、宮廷派閥の争い事に巻き込まれるのは、とても悲しい事です」
「けれども義姉さん。子供が産まれたら、それはそれで争いの火種になるとぼくは思うよ」

 妻たちのひそひそ声が聞こえて、俺は家族とどう向き合っていくかについてつい思い知らされる。
 確かに政治的な結婚をした以上は、それぞれの妻が出身の利益代弁者となっているのは、わがハーレム大家族でも同じだ。
 とは言え、我が家には大正義たる正妻カサンドラがその統制を握っており、その点は誰もが家中で問題を感じていないのは事実だ。

「けれども国王のお立場を考えれば微妙なものね。先年ご結婚されたばかりの正妃さまとの間にお子を成さずに、別のお妃にというのだから」
「正妃さまは内地の侯爵家のご出身だったな。陛下のご結婚から三年、お子を成さなかった事が悔やまれる……」
「だからその点をブルカ伯が突いたというのはわかるが、しかし……」

 マリの漏らした言葉にドラコフ卿やベストレ卿が難しい顔をした。
 それも当然である。

「現在、正妃さまを除いて国王には五人の妃がられるが、国王直系以外のに子を成したというだけではクーデターを起こして国王の王位を挿げ替えるにはちと無理がある。このオレンジハゲめの事であるから他にも何か手段を隠している可能性があるが。ふむ、どうなのだミゲルシャールよ。まだ隠し立てしている事はないのか?」

 ブルカ辺境伯には三〇人を超える妻や側室たちがいる事が世間に知られている。
 けれど実際にオレンジハゲと関係を持った数だけで言えば、それよりも四倍以上の人間がいる事は間違いのない事実だった。
 妻とされたり、側室とされた人間というのは、要は高頻度でオレンジハゲと関係を持った人間に与えられているというだけの事だろう。

 けれどもその認識にはいくつかの違いがあった事を、オレンジハゲ自らの自白によって得る事ができた。
 それがこの言葉だろう。

「……覚えている限り、全部で五六人だったぜ」
「それが、お前の妻あるいは側室としている、高頻度で関係を持っている女の数という事かしら?」
「そうだぜ。ブルカ宮殿に半分足らずと、それからブルカ市街と王都に残りだ。辺境の各地には他にも何人か散っているが、だいたいそんな人数だ」

 世間の噂として妻とされている人間とは、つまりブルカ宮殿で囲っている女性たちの事を指していたわけである。
 今でも気にった女がいれば、ブルカ近郊の丘に軍事拠点と後宮を兼ねて建てられた豪華絢爛なブルカ宮殿に招き入れるか、あるいは誰はばかることなく大都会ブルカの市中を訪ねて逢瀬を重ねているというから驚きだ。

「……その中には一夜の閨を共にしただけの女もいるという事なのかしら?」
「まあ、そういう事になるかな。女は少し良くしてやると、すぐにつけ上がる生き物だからな。そういう女は後々になって面倒事を必ず起こすので、後始末はツジンに任せておくに限るぜ」

 とんだ好色中年だと尋問が行われている教化部屋で、諸侯の誰かが言葉を漏らした。
 酩酊したミゲルシャールはゆっくりと体を揺らしながらも、雁木マリの尋問によってしっかりと返事をする。
 不遜さは自白ポーションの効力下にあっても健在なので、本当に効いているのか疑わしい表情を浮かべている諸卿たちもいたが、マリによれば薬漬け間違いなしの様だった。

「王都にも女がいる様な口ぶりだったけれど、それは諸侯の諸侯の令嬢や富豪の娘たちにも手を出して、という事なのかしら」
「そんなケチな貧乏貴族ばかりに手を出しても、俺の体はひとつしかないからな……もちろん楽しむ女は王侯貴族に決まっている」
「……王侯貴族、つまりは王族にもお前は手を付けたという事かしら?」

 猜疑の視線から憎悪のそれにレベルを一段階上げながら雁木マリの鋭い視線がオレンジハゲを射抜く。
 国王とその一族にまで性の毒牙を伸ばしている事などがあったら、ミゲルシャールの血を引く子女が王家に産まれるという可能性すらあるのだから、捨て置けない。

「先王の妃のひとりを、宮廷で抱いたことはある。その妃に俺の子が産まれれば、王家の血筋に俺の血が流れる事になるな」

「そ、それはまことか!」
「何と言う不敬の行い……許す許さぬの問題を越えて、これは王国の礎に問題が生じる可能性がありますな」
「ブルカ伯の娘が陛下の子を宿したというのだけでも尋常ならざる事態だというのに」

 激情家ぶりを発揮しそうになった俺の領主奥さんはぐっとその怒りを堪えながらも言葉を発した。
 ここで怒りに任せて首でも飛ばしてしまえば、聞き出すこともままならなくなる。
 それに周囲の諸卿たちが口々に驚きを発したおかげで、わずかに冷静を保っていられたのかもしれない。

 だがアレクサンドロシアちゃんの手は教化部屋の薄暗い尋問風景の中で、静かに俺の手を探り、ぐっと握りしめて来る。
 怒りは怒りとしてあり、そして事態の重さを受け止めているのがわかった。

「貴様のやっている事は娼婦を買うの何ら変わりのないものだ。夫婦とは本来その様なものではなく、絆というものが存在しているのだ。金と地位を用意してやることで、一夜限りの逢瀬を楽しむ不貞の行為など許してはならぬものだ」
「よう、おかしな事を口にするじゃねえか。サルワタ売女の情夫はどうなんだ。俺より若けぇから妻の数が少ないだけで、女を十人並べて結婚を政治で取り決めた男じゃねえのかい。俺とそこの情夫の違いに何があるというんだ……」

 酩酊していてもハッキリとモノを言う事が出来るのは、それだけ意志力の強い証なのだろうか。
 ぐいと顔を持ち上げてみせたミゲルシャールは、薄ら笑ってアレクサンドロシアちゃんにそう言うと、次にギロリと俺を見やりながらそんな事を口走りやがった。

 確かに政治を絡めてアレクサンドロシアちゃんやマリアツンデレジアちゃんと関係を持った事、あるいは雁木マリと婚約をしたと思われるのは仕方がない部分である。
 すると、いよいよ激高したアレクサンドロシアちゃんである。

「お兄ちゃんは例え政治であろうとも、気に入った女は何度でも抱く夫だ。貴様の様に妻を売女の如き扱いはいたさぬわっ」
「そうですの、シューターさまは何事にも誠実。貴族の婚姻であれば政略目的は当たり前のことで、だからこそそこには誠意というものが必要なのですのよ! 愛の無い逢瀬など一度たりともなかった……」
「まったく、女を何だと思っているのかしら。政治の道具か飾り物だと思っているから、ソープさんに見限られたという事を理解していない顔だわ。その点シューターと結ばれるあたしは幸せ者だと言えるわね」

 突如憤慨の色を露わにして唾を飛ばしながら激高した内容がアレだったので、諸卿のみなさんは微妙な顔をして俺をみやってくる。どちらかと言えば同情されている様だ。
 今度はそれに便乗する形でマリアツンデレジアまで拳を震わせた後に、オレンジハゲを激しく糾弾する。プライベートをすぐに口にするのがこの世界の人間の悪いところだやめて。
 そして最後に雁木マリまでもが、どんぐり眼をギロリとさせて俺とハゲを交互に見比べつつ、最後にハードルを上げる作業をさり気なく追加してきやがった。ガッカリさせないでよねと、まるで言わんとしている顔だった。

「だがもう安心だぞ各々方。この哀れなハゲ上がった中年男の粗末な息子は本人と切り離された。これで二度とオレンジハゲめが女と遊ぶことはかなわぬであろう」

 突然その場で剣をするりと引き抜いたアレクサンドロシアちゃんである。
 あまりにも流麗にそんな動きをしたものだから、全員が呆気にとられて反応することが出来なかった。
 けれども激高の方向性がオレンジハゲの命までを取ろうとしていないと瞬時に理解した俺と雁木マリは、ひとまずそれを見過ごしておく。
 すると女領主は、文字通り汚らしいものを扱う様に長剣の先で、哀れなハゲの切り離された包茎息子を串刺しにし、部屋脇のテーブルに置かれた燭台で火あぶりにしてしまったではないか。

 血生臭さと男の肝を震撼ならしむ行いに、狭い教化部屋に詰めていた何人かの気の弱い男性諸侯たちは嗚咽の声を漏らした。
 俺も正直、見ていると息子が同罪に処された様な恐ろしさを心底感じるものである。

「ガンギマリーよ、義姉として妹にしかと命ずる。この者の粗末な包茎が再生手術出来ぬ様に、応急手当はあえておざなりにしておいてもらおうか。この者の血筋をこれ以上世の中に広げる事は許されぬでな」
「もちろんの事だわアレクサンドロシア義姉さん。さて焙り包茎はどうしてくれようかしら」
「ブタにはブタの最後らしく、焙り包茎は犬ころの餌にでもしてやれば跡形ものこりませんのよ!」

 妻たちは激しく怒りの色をまき散らしながら、口々にそんな算段を決めていくのであった。
 哀れなオレンジハゲは、自白ポーションによって聞かれた事には反応するけれども、今はまた朦朧としたありさまでぼんやりと教化部屋を視点定まらぬ眼で眺めているだけだ。

 止血された股からはジョビジョバとアンモニア臭漂う液体をまき散らしていた。
 この場にいる男たちの誰もが思った事だろう、こうはなりたくないものだと。

 そして恐ろしい顔をしたサルワタ貴族の中で只一人、俺と似たような顔をしている女の子がいた。
 エルパコである。

「シューターさん、ぼくも尋問されたらああなるのかな。でもぼくはシューターさんのために耐える覚悟はあるよ……!」

 無理しなくていい、俺もあんなことになったら耐えられない。
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