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異世界に転生したら村八分にされた 作者:狐谷まどか

第9章 内政の季節が到来です

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閑話 王都への帰還 6

更新遅くなりましてすいません!
 奴隷商会の屋内で不揃いに整列した全裸の奴隷たちは、寒村から余剰労働力として売り払われた若い男女だった。
 いずれも農作業の経験があり、街でも人足仕事の従事していたらしくガッシリとした体格をしている。
 そこに王国から派遣された全裸の将軍さまが並んだところで、意外にも労働奴隷たちの中にしっくり馴染んでいると思ったのは秘中の秘である。

「よし、健康状態も良好な様だし問題なさそうだ。お前たちはゴルゴライ戦線に派遣される事になるが、戦争の趨勢が大きく動かない限りは、危険に晒されることはない」

 商会の大番頭を務めるゴブリンのスピーディーワンダーは、麻紙の人選リストと派遣奴隷を見比べながら、これから向かう先について説明を続けている。

「とは言え、誰もが戦闘地帯になる可能性のある場所に派遣されるのは嫌がるものだ。よってこの作業に志願したお前たちは、年季奉公の短縮について一定の考慮を行うものであるから安心してもらいたい。新たな雇用先として優良なご主人さまを優先的に紹介する事も約束する」

 その隣で、護衛任務に就くという設定のサルワタ冒険者たちが、何やら将軍と話し込んでいる。

「まさか将軍を全裸にさせてへそピアスをキめていただく事になるとは。すんません」
「それは一向に構わない。女神様の聖使徒は全裸でこの大地に降誕するという事を考えれば、この産まれたままの姿は女神様の祝福を受けているという事だろう」
「それならいいんですがね。きっとシューターの旦那も仲間が出来たと大喜びしますよ」
「いずれニシカ夫人のご主人とも、ゆっくりと話す機会を得たいものだ。女神様のおわす世界について、そして女神様の教えと導きを解いていただける。そんな平和な未来を作らなければならない。全裸で」
「ぜ、全裸でですか……?」

 女神信仰の習慣を持たない俺からすれば、意味不明の理屈で納得しているらしい将軍だが、俺と同じく謝罪の言葉を口にしていたボルゴも不思議そうな顔をしていた。
 大番頭の説明はなおも続いているらしく、従業員たちがごわついた麻布の外套を配り、派遣奴隷たちがそれを受け取っていた。

「風の冷たい季節に野外での活動となる。お前たちには外套を支給するので、風邪など引かぬ様に注意しろ」
「あんの、ゴブリンの商人さま。この外套は年季奉公の働き分から天引きされちまうんですかね……」
「その様な事はないので安心いたせ。働きが終わり、痛みが少ない様であればそのまま自由に使ってよいものとする」

 ワッキンガー将軍も当然、派遣奴隷とお揃いのボロい外套を身に着けるのだが、やはり冒険者たちと将軍の顔を見ていると、どこかに高貴な身の上である気風が漂っているのがいけない。

「おい誰か将軍のお顔をどうにかしろ。お顔が綺麗すぎる……」
「ふむ、俺のヒゲはおかしかったか」
「公明正大に言って、奴隷なのに偉そうに見えるんですよ」
「そうなんですよねえ公明正大に言って」
「お、おい、貴公らは俺のモットーを何度も口にするが、間違ってた使い方をしているぞ」

 将軍をはじめて駐屯地で保護した時には彼も顔のヒゲを剃り落としていたものだ。
 悪所で隠匿生活の際は無精ひげ、ここ最近になってヒゲを整えていたが、どうやらそれが妙な威厳を醸し出していけない。
 気の付く性格のビビアンヌがそれを見て申し出をしてくれる。

「ナメルさん、わたしがお剃りしましょうか?」
「駄目だな。綺麗に剃ったのでは奴隷に見えないので、ハサミを入れろ。ザクザクに切ればある意味で無精に逆戻りだ」

 すると背後で長い弓を背負ったニシカ夫人が、壁に背もたれながらそんな言葉を口にした。
 そのまますっと近づいてきてビビアンヌにハサミを用意させると、そいつを奪って将軍に近づいて座らせる。

「ちょいとジっとしていろよな。貫禄があるのは悪かねえが、公明正大に言ってそれにしては長さが半端だ。タワシみたいな不揃いの方が奴隷に見えるぜ」
「す、すまない。お願いできるか……?」
「まあ見てな、センスが無い方がそれっぽく見えるんじゃねえか。ん? あ、コラじっとしてろよ」

 ニシカ夫人は将軍のアゴをクイとやりながら、遠慮なしに頬にハサミを充ててサクサクとヒゲを切り落としていく。顔が近づきすぎたのか将軍は居心地悪そうにソワソワしているのが見えた。
 将軍はもしかするとあまり女性に免疫のあるたちではないのかもしれない。
 田舎貴族とは違い、王都中央のエリート貴族ともなると、無暗に若い女と女遊びをするモノでもないからな……

「ついでにその長い髪も適当に切っちまったほうがいいぜ、これじゃあお貴族さまとまるわかりだ。オレに任せな、ついでにハサミを入れてやる」

 尚も将軍は「むっむふっ」などと妙な鼻息を漏らしながら、顔に押し付けられる巨乳に喘ぎ苦しんでいる様子だった。

「おし、これで男前が台無しだぜ。ちったあワイルドになったんじゃねえか?」

 出来上がった顔は意外にも野趣味溢れる労働者の青年というものだ。
 長髪はわざとザクザクに切られていたが、無精の髪もヒゲも程よい感じに整っている。

「イケメンですね」
「確かにワイルド系イケメンだわ。あたしは好きだね」
「…………」

 もしかすると余計な事をして、悪目立ちさせてしまうほど男前になってしまったかもしれない。
 冒険者たちは顔を見合わせて口々にそう言っていたところで、ニシカ夫人が不穏な言葉を吐き出す。

「しょうがねえ、一発殴って顔を凹ませておくか?」
「それはやめてくれ!」

 将軍は即座に否定した。

     ◆

 東の繁華街裏にある悪所に向かうニシカ夫人と商会の店前で別れる。

「後の事は任せておきな。一応先ぶれにタマランチン野郎を行かせているが、オレが行って説明すればちょっとした大騒動になるだろうぜ」

 ニシカ夫人の手足となっている若い行商人と手分けして、今日の日中に官憲の出入りが行われる事が悪所中に広がる手はずらしい。
 この女は足しげく悪所の安酒場のいくつもを梯子して顔見知りの労働者もたくさん作っている。
 情報収集のためにした事だが、連中から信頼を得るという意味ではその行いは正解だったはずだ。

「将軍の身柄は必ずヌッギまで送り届けるつもりだ。その先については未定だが、舟に乗ってさえしまえば流れに任せてリンドル川を下るだけ」
「ああ、オレ様は船酔いが酷いのでどのみち付いていく気はねえし、そろそろ相棒のところに情報とこの信書を届けなければいけねえからな。そっちは頼むぜ」
「逃げる算段はあるのか。その、騒ぎを起こして抵抗するのはわかるが、捕まればその場で処断という生ぬるいものでは済まないと思うぞ……」

 大番頭スピーディーワンダーとビビアンヌたちを先頭に、往来を離れていく派遣奴隷の背中を見ながら俺とニシカ夫人は会話していた。
 冒険者たちも「姐さんお気をつけて」とひと声をかけながら去ってゆく。
 ニシカ夫人はそれにイチイチおうと返事を返しながらも、途中で俺のかをを見返してきた。

「街も森の中も、隠れるものがあるのならば連中を撒く事は難しくねえ。そのための弓もあるし、多少角度を変えて放った後で、改めて狙いをつける事も出来るぜ」
「魔法か……」
「そういうこった。ただ馬鹿正直に矢を放てば、飛んできた方向でこちらの隠れた場所がバレちまうからな」

 獲物相手ならそんな事はしなくていいんだが、人間はそういうところを見やがるからよ。
 ニシカ夫人はニヤリとして俺の肩を叩いて見せると、景気よく大きすぎる胸を激しく揺さぶって背を向けた。
 そのまま昼間の往来の中に溶け込む様にして、静かに音もなく歩みだす。

「いずれゴルゴライはこの俺の手で取り戻して見せる」
「そういう日が来ればいいな。だがそん時はオレ様の矢が手前ぇの脳天にズブリだ」

 背中に向けて俺の発した言葉に、チラリと振り返ってそんな悪態を漏らす。
 確かにもう俺がゴルゴライの領主として返り咲く未来は無くなったかもしれないが、これぐらいの悪態は許してもらいたいものだ。
 未来の見えぬ不安は確かにあるが、その前に東門を無事に抜けて、ヌッギを経由して王都に帰還する事が可能かどうかの方が今は知恵を絞らなければならない。

 やがて街道の向こう側に消えたニシカ夫人から視線を外すと、俺は派遣奴隷の護衛に付く最後尾の冒険者という役割を果たすべく駆けだした。
 タイミング良く騒ぎに便乗するためにも、東門を通過するのはシビアな調整が必要だ。

     ◆

 時刻はちょうど昼を迎える直前だ。
 ブルカ市壁の東門前には、戦地やその後方補給地へ向かう長蛇の列が出来ている。
 補給部隊や援軍の将兵の姿もあり、他の奴隷商会から集められた労働のための派遣奴隷たちもいる。
 カラメルネーゼ商会の用意した労働奴隷たちも、他の派遣奴隷と大差のない見栄えであることにひとまずの安堵を覚えながら、俺たちは振り返って街中のブルカ聖堂の塔に視線を向けた。

 ゴーンゴーンと、正午を知らせる鐘の音が鳴り響く。

 魔法の伝書鳩でやりとりされていた伝文には、昼間の一斉摘発の指示が書き込まれていた。
 昼間と文書に書き込まれた場合は、この土地の慣例から考えれば正午を意味するだろう。
 その事を理解している将軍やサルワタ冒険者たち、それから大番頭らはその時間を気にしてつい聖堂の塔を振り返ってしまったのだ。
 鐘の音を合図にして、ブルカの官吏たちが取締りに踏み込む可能性が高いと考えての事。

「時間が気になるか。まあノンビリすぎるところがあるが、これも俺たちのお役目だから許してくれ」
「わかってはいるが待っているだけというのはどうにも暇なものでな。どうだ、一杯やるか?」

 すぐ側に立っていた門の番兵のひとりが、所在なげにしてしまった俺へ言葉を投げかけてくれた。
 懐を探って皮の水筒を差し出すと、わかっているじゃないかという顔をしてその番兵はニヤリとして受け取った。
 中身はもちろん芋酒だ。

「悪いな。喉が渇いてしょうがなかったんだ。だがそれで順番を変えてやるというわけにはいかないぜ?」
「そういう期待は無いではないが、まあ大人しく待つのも仕事だ」
「あすこに並んでいる軍勢は、西の何とかという男爵家の領軍らしくて気性が荒い事で有名だ。順番なんてす飛ばしたら、責任者の首も一緒にポーンと飛ばされる」

 物理的にね。
 などと首に手刀を当てておどけた顔をした後に、番兵は有難そうに水筒の中身を口に運んだ。

 長蛇の列の一角が誘導されて、門を通過する。
 焦れる気持ちはあるが、その次は件の何とかという西の男爵家の領軍が通過する番であるらしく、手持無沙汰な派遣奴隷たちは、門の端に固まってしゃがみこんでいた。

 魔法の伝書鳩を襲撃した事は、果たして黄色マントたちにバレたのだろうか。
 仮に伝書鳩が届かなかったとしても、伝書鳩は確実な連絡手段ではないという事は、その利用者なら誰もが理解している事だ。

 村と村を行き来する伝書鳩は、よほど猛禽に捉まってしまわない限りは比較的に精度の高い連絡手段ではあったが、逆に街中でこれを使う場合は、いくら魔法学習を施した伝書鳩であっても鳩舎を間違える事もしばしばだと聞いた。
 ゴルゴライでは力を入れて鳩を育成していた事もあって、調教師からその点のレクチャーを受けていたからだ。

 だから数羽ばかり狙って情報を奪い取ったとしても、数が多くなければ怪しまれる可能性はないはずだ。
 問題ないはずだと俺自身に言い聞かせる。
 傍らのビビアンヌも心中は俺と同じであるに違いない。

「ナメルさん。大丈夫でしょうかね……」
「何も心配する必要はない」
「そうですか。わたしったらつい心配性でね……」

 やはり落ち着かない顔をしたビビアンヌの小さな呟きに、落ち着かせる様に声を潜めて投げかけてやった。
 すると何度か口にぶどう酒の入った水筒を運んでいた番兵が、おやという顔をしてこちらに近づく。
 特に会話の内容を聞かれたはずもない。
 仮に聞かれても、内容を理解するはずがない。

「商人さんがたも大変だ、戦場の近くまで出かけるのは心配でしょう」
「冒険者の俺たちはそれも仕事の内だから気にするほどでもないが、奴隷商人というのは確かに厄介だ」
「女ともならばなおさらだね。あんたもしっかり女商人さんをお守りして、いいところを見せておけば玉の輿だな」
「まったくだ。この女はまだ商会に雇われて日が浅く、古参の俺が面倒を見なければ何にもできないからな。世話が焼けるというものだ」

 わっはっは、などと適当に番兵に話を合わせて笑っておき、ビビアンヌの尻を叩いて喜ぶふりをした。
 困った顔をしたビビアンヌが俺を見返したところで、突如それは起きた。

 リゴーン、リゴーンと鐘の音に不規則なものが混じって激しく鳴らされる。

 俺や黄色マントの番兵、それから周囲の奴隷などの待機列もにわかにざわつき始めた。

「おい、あれは何だ」
「わからんが、あれは緊急を知らせる鐘の音だ。ちょっと待ってろ聞いてくる!」

 ついに悪所の労働者たちの取締りが始まったのか、あるいはそれに激しい抵抗を受けたのだろうか。
 俺に水筒を押し返した番兵は、血相を変えて詰所の方に駆け出していく。
 そのまま飛び出してきた同僚が軍馬を引っ張り出しにいったり、近くにある鳩舎に向かって転がるように飛び出して行ったり。
 かなりの混乱の中で、街の大通りの方を軍馬が連なって駆ける姿を遠くに見た。

「二頭、三頭、四頭……」
「ナメルさんあれは、」
「間違いないな、援軍のために向かった軍馬だろう」

 軍馬が往来を駆けるのは緊急の時だけであるのは間違いなく、悪所の労働者取締りは恐らく暴動へと発展したのだろう。
 ニシカ夫人が突入する黄色マントを狙撃して、上手く煽り立てたのだと確信する。
 奴隷の輪の中で将軍が伏目がちにこちらに視線を送り、冒険者たちも目配せをしあう。

「いったいいつまで俺たちを待たせれば気が済むんだ! 説明しろ、それにあの騒ぎは何だっ」

 そうこうしているうちに西の男爵とやらの癇癪が爆発したらしい。
 詰所から戻ってこようとした例の番兵を捕まえて、家中の騎士と思われる男が憤慨気味に番兵へと食って掛かる姿が見えた。

「何が起きているかまではわからないが、この時間は丁度市中で、不穏分子の取締りが予定されていたはずだが……」
「そんな要件と我々の通過は関係のない事だ。こんな事なら郊外に野営すればよかったものを、貴様の主君とやらの命令で市中に逗留したのだぞ! ブルカ辺境伯の求めに応じて援軍に来たわれわれに対して、この態度は何事だ?!」
「いやしかし、規則というものがある」
「ルールはブルカの領民を取り締まるもの、われら同格の男爵さまに当てはめるものではないわ」

 金を与えて抱き込んだわけでもないと言うのに、西の男爵に使える騎士はいい演技をしてくれたものだ。
 困った番兵は必死に落ち着かせようと焦りの色を強くしていくが、そうこうしているうちに駆け出していた伝令の馬が戻ってくる姿が見える。

「緊急事態だ! 東の悪所で暴動が起きた、こうしてはいられないぞ敵は武装した労働者や冒険者どもだ。凄腕の魔法使いが街の中で大暴れしているらしいっ」

 見ていろビビアンヌ。
 わずかな城門の守備兵だけを残して番兵どもは次々に街の繁華へと飛んでいくではないか。
 怒り狂った騎士をなだめていた番兵も折れて、人数だけを書類に記入させたところで西の男爵軍を門から追い出しにかかる。

「上手く、いったな……」
「はいナメルさん」

 側にいるビビアンヌが「次の番はあなたたちですよ」と、声を詰まらせながらいかにも不慣れな新米商人の様な態度をしつつ、派遣奴隷たちを纏めて移動させる。
 冒険者たちも緊張の顔を浮かべて奴隷の誘導を手伝うが、緊張した顔なのは上手く門を抜けれるのか焦れる思いを心中に抱いているからである。

「安心しろよ用心棒の旦那。ブルカはちょっとやそっとの騒ぎでどうにかなるほどちっぽけな街じゃねえ」
「当然だ、俺たちが帰って来たら不穏分子に街が焼かれていたでは困るぜ」
「おい、そこのゴブリンの商人は奴隷の奴隷の書類を出してくれねえか。時間がねえ、待機列をすべて街の外に送り出せば、門を一時閉鎖させるらしいからな!」

 こうして俺たちが予測していた通りに、あまり奴隷たちの確認をする事もなく。
 派遣奴隷とその護送役たちはアッサリと門を通過することが出来たのである。
 その最後に番兵に声をかけられたときは肝を冷やした。

「あんたも、世の中何があるかもわからない。街の外で死ぬんじゃねえぞ!」

 閉じられつつある巨大な市壁の城門の隙間から、何も知らない世話焼きの番兵が手を振って。
 俺たちも振り返りそれに応じると、城門は音を立てて完全に閉じられてしまった。

 世の中何があるかもわからない、か。
 ほんのひと月前までは、俺も復讐を誓ったサルワタの売女騎士の仲間と馴れ合う事になるとは思いもしなかった。
 きっと世話焼きの番兵も今日、むざむざ敵となった俺に親切をしているとも知らなかったろう。

 この先に何があるかはわからないが、こうしてひとまずブルカの街からの脱出劇は成功した。
 さあ。王都に向けて将軍を、安全な場所までビビアンヌを送り届けてやる。
+注意+
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