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異世界に転生したら村八分にされた 作者:狐谷まどか

第9章 内政の季節が到来です

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閑話 王都への帰還 5

 往来の中を溶け込む様に歩くニシカ夫人を追いかけて、俺たちは衛兵の詰所のある場所を逐一確認して回った。
 鷹匠ゴンザレス、冒険者のホルゴにクナイ、そして俺である。
 残った仲間たちはタークスワッキンガー将軍を奴隷に扮装させたり、実際の移送奴隷を用意したり。あるいはその護衛としてついていくための準備に取り掛かっていたはずだ。
 ビビアンヌは護衛の冒険者というには無理があったので、奴隷商の従者として適当に格好を偽装させているはずだ。

 実際に魔法の伝書鳩が飛び立つ鳩舎の位置と、それが向かう先の方角。
 それを確認するために詰所から少し離れた路地裏に入り込み、つぶさに観察する。

「鳩舎は建物の屋上に設置されているのか」
「だから普段街の中で生活していても、あまりその事に気が付かないのさ。実際には頻繁に魔法の伝書鳩が飛び交っている事が確認できるぜ。ほれ、」

 建物を見て言葉を漏らした俺に、脚を止めたニシカ夫人が振り返って言葉を返す。
 つられて直上に視線を送れば。

「今のは北の方角に飛んで行った。たぶん政庁か北門付近の詰所に飛んだはずだ……」

 首から下げたジャラリとした装飾品をいじりながら、鷹匠ゴンザレスがそう説明してくれた。

 伝書鳩は鳩舎から放たれると、その場所の高空で周回して目的地へと飛んでいく習性がある。
 遠方との連絡手段に鳩を使う場合は、目印となる建物や地形、あるいは山間の飛行に適した場所を探ってジグザグに移動しているらしい。
 だが街中での連絡手段に使われる場合は、手元に市街地図を置いて移動した方角を調べれば、すぐにもその場所を理解することが出来るらしい。

「よっしゃゴンザ、さっそく今のアイツをやってくれ」
「わかった……」
「一通一枚の支払いはその場でやってやる。よろしく頼むぜ」

 鷹匠ゴンザレスに支払われる報酬は、伝令文一通を入手する度にブルカ辺境伯金貨一枚。
 破格の報酬だが、これにはもちろん口止め料と呼ばれるものが含まれている。

 ゴンザレスは頷いて見せると、装飾品とばかり思っていた首飾りのひとつを口にくわえて、吹いて見せた。
 不思議な事に音は飛び出さないところを見ると、何か特別な信号笛にでもなっているのだろうか。
 俺と冒険者たちは顔を見合わせた。

「何をやってるかわからねえって顔だな」
「そうだ、ニシカ夫人にはわかるのか」
「聞こえないか? 上空で待機していたチルチルに、たぶん今飛んだやつを追いかけろって指示したんだろう。んでその後に笛を交換して指示を飛ばしただろう? 人目に付かないところで仕留めろ、とかなんとか。そういう命令を出したんだろうぜ……」

 建物の狭間から見える上空の様子を追いかける様に、空を見上げたニシカ夫人が足を移動させながらそう説明してくれた。

「どうだい違うかゴンザ」
「だいたい合っているが、ひとつ違う。相棒の名前はチルギルだ」

 どうやらゴンザレスが使っているのは音を魔法に変換する特殊な信号笛であるらしい。
 オオイヌワシに魔法の音色を教え込ませて、周囲に気付かれずに指示を飛ばしているらしい事を説明してくれる。
 してみるとこのオオイヌワシは、魔法の伝書鳩と同じ様に魔法のオオイヌワシという事になる。

「ほら捕まえた。やるもんじゃねえか」
「見えるのか?」
「むしろお前たちは見えねえのか……?」

 猟師出身でもあるまいに、上空のゴマ粒を追いかけて目視できるほど視力は優れてはいない。
 そんな事を抗議してやると、ニシカ夫人は不思議そうな顔をして返事をした。

「そうか? オレの旦那は普通に見えていたと思うけどな」
「全裸を貴ぶ男は女神の守護聖人だろう。女神の祝福を受けた特別な男と、特別何もない俺たちを一緒にするのはやめないか!」

 そんな俺の抗議などに聞く長耳を持たないという態度で、ニシカ夫人はゴンザレスに視線を飛ばす。
 すると、すぐにも首飾りから別の笛を吹いて、上空にいるはずのチルギルに指示を追加で飛ばした様だ。
 癪に障るが今はそんな事を言っている場合ではない。

 ニシカ夫人とゴンザレスにばかり手際のよいところを見せられるのも、自分がお荷物の様な気分になって癪に障る。
 ひとまず目立たないところで伝書鳩と文を回収させる様に指示を飛ばす。

「こ、この辺りで伝書鳩の回収をするのはまずいだろう、移動した方がいい。クナイ、近場の繁華裏に案内してくれるか」
「わっわかったよナメルさんっ」

 都合この調子で何度かの伝書鳩狩りを行った俺たちは、複数通の伝令文から次の様なアタリを付ける事になった。

     ◆

 西のブルカ街道で王都から帰還する伝馬が野盗に襲われる出来事があった件。
 市中取締り強化の結果、聖少女派の宗教関係者の摘発はほとんど完了したという報告。
 それに、東の繁華街にある悪所のひとつを徹底的に取締りを行うため、日中に衛兵を送り込む指示である。

 東の繁華街にある悪所には、平時の仕事が無くなって酒浸りになっている労働者たちが集まっている。
 中には冒険者や後方任務専門の傭兵たちもくだを巻いているものだから、恐らくそれが官憲側には目障りに感じたのだろう。
 敗戦に次ぐ敗戦で暴動を起こされる前に、手を打つ事にしたという事だろうか。

「……これだな。この情報を悪所に流して、騒ぎを大きくさせるのはどうか。公明正大に言って、不満を募らせている労働者たちにも抗うチャンスがあるべきだ」

 奴隷の格好が意外にも様になっているタークスワッキンガー将軍は、文字の読めないニシカ夫人が差し出したそれから、少しでも作戦の成功率を上げるためにこんな意見を口にしたのだ。

「なるほど、将軍の考えは理に適っているかもしれないな。東の悪所で一斉検挙に向かったタイミングで、待ち構えていた労働者たちが抵抗をする。当然、それを予想していなかった黄色マント側は、周囲から援軍を集める必要がある」
「ブルカ側はこれまで市中の治安維持にはかなり自信を持っていたはずだ。密偵や工作員の摘発はどれもすべてが上手く行っていたしな。抵抗されることは考えていないだろう」

 ワッキンガー将軍は自分の計画に自信の色を見せて、応接間のテーブルに広げられた市街地図を確認した。
 東門と裏繁華の悪所の位置関係、あるいは詰所などの兵士数の書き込まれた紙片を見比べながら、色々と思案を巡らせてる。

「その騒ぎのうちに、手前ぇらが東門から街の外に出てしまえばいいわけか」
「問題はナメルさんや将軍さまたち積荷はみんな東門にいる事だ。俺やクナイも移送奴隷の護衛役を仰せつかる事になるからな……」

 ニシカ夫人は納得した様だけれど、冒険者たちは不安の顔をする。

「確かに労働者たちに情報をわたしたところで、所詮はただの労働者だ。冒険者や傭兵が多少いるとはいっても鎮圧されるのはあっという間かも知れない……」
「ナメルさん、わたしは悪所で暮らしていた人間だから。顔見知りもいるのに、薄情に自分だけ逃げだすのは負い目を感じるよ……」
「馬鹿を言うなビビアンヌ。襲われるのは悪所に近頃入り浸っている人間であって、悪所の住人というわけではない。それにこれは将軍との約束で、巻き込んだお前だけは何としても外に送り出してやる必要がある」

 このまま残ってどこかで将軍脱走に加担したことがばれれば、ビビアンヌが処断される事は間違いない。
 運が良くて犯罪奴隷堕ちだが、それでも奴隷娼婦として死ぬまで働かされて病気持ちになってやがて死ぬ運命だ。
 運が悪ければその場で処刑、それならある意味で運がいいともいえるが、巻き込んだうえに殺される運命などビビアンヌにさせられるわけがないのだ。
 だからここでビビアンヌを残すという選択肢はないのだとこの女に諭しながら、自分が残って労働者たちを扇動する役を引き受けようかと口にしかけたところ、

「よし、じゃあその騒ぎに火を付けるのはオレ様が引き受けてやるから安心しろ」
「ニシカ卿がそれをなさるのか?! 俺たちとともに、奴隷商人として東門を抜ければ、そのまま俺の預けた情報を持参して、アレクサンドロシア卿と安全に邂逅できるだろう。公明正大に言ってそれがいいはずだ」

「なあに、オレ様だけなら市壁の上を飛び越えるなんて造作もない事だって何度も言ったろ? だから任せておきな。これでも弓の腕は辺境随一の自信があるんだぜ?」

 ベストレ染めのチュニックをまくって見せて、ニシカ夫人が力こぶを作った。
 この女の弓の腕が凄まじい事は俺もこの目で見ている。

「その代わりと言っては何だが、約束の王都一番の酒は忘れないでおくれよ。オレ様宛にだからな?」
「わ、わかった。この事は恩に着る。惚れ惚れする様な気風の良さだが、今はそれに甘える事にしよう……」

 将軍はそれ以上何も言わず。ニシカ夫人に肩を叩かれて奴隷姿で納得の表情をした。
 きっと国王でもなければ口にできない様な上等の酒を、ニシカ夫人に届けるという決意の顔だろう。

 ところでニシカ夫人がカラカラと笑ってみせたところ、チュニックの内側からヒラリと紙片が落ちたのを見た。
 ニシカ夫人はそのまま仲間たちに「誰かオススメの武器屋を教えておくれよ!」などと弓を所望して応接室を飛び出していったけれども。
 俺の側にいたビビアンヌがその紙片を拾い上げたところ、

「困ったときのアドバイスメモ……何でしょうこれは?」
「貸してみろ……」

 街の出入りをする際の偽装方法は、奴隷と奴隷商人に扮する事。人数が十名以上になれば特に検閲が緩くなる傾向ありですわ。
 市中で情報を集める際は、下流と上流の両方で行う事。片方だけの市民層で行うと情報が一方的なものになり冷静な判断が出来ませんわ。
 お酒を呑むときは高価なぶどう酒を選ぶ事。お酒も好き好きがありますが、ぶどう酒はどの地域にもあり、水の代わりに常飲されているので、味の違いが分かりやすいですわ。
 何か問題事が起きた時は、自分が引き受けると言って仲間の信頼を得る事。そうすれば、何れ必ず恩義に感じて、本当に困った時に何かで恩返しをしてもらえるものですわ。

「……スピーディーワンダーはその事をニシカ卿によく言い聞かせておく事。あなたの主人カラメルネーゼ。何だこれは?!」

 ニシカ夫人がブルカで数々の献策を行っていた、その秘中策が小さな紙片にビッシリと書き込まれていた。

「カンペですかねえナメルさん?」
「あの女。(さか)しらな顔をして、こんなものを入れ知恵されていたのか……」

 カラメルネーゼと署名があったから、これは奴隷商会の主のものだろう。
 恐らくはあのスピーディーワンダーという大番頭に見せる様に、ニシカ夫人は言い含められていたに違いない。
 しかし知恵の回る人間がしっかりとした献策をしていたのであれば、ニシカ夫人の思い付きに振り回されていたのではないと理解できる。

「ビビアンヌ。お前の事は必ずこの街から安全な場所に連れて行く。それはヌッギか王都か、俺の故郷になるかはわからない」
「ナメルさんの故郷かい……?」
「そうだ。もはや盟主連合軍にずぶずぶの関係になった以上、安全なのは売女領主の支配下と言えるかもしれないからな。その暁には、」

 きっと今よりはマシな、少しでも幸せな生活が送れるように俺がなんとかしてやる。
 ビビアンヌの手を取って俺がそこまで言いかけたところで、衆目が存在している事をつい思い出してしまった。

「公明正大に言って、プロポーズだな」
「ナメルさんやるなあ。あたしもはやいところ婿を探さないとね……」
「俺じゃだめかなクナイ」

 そんな顔で俺を見るんじゃない!
 真っ赤に頬を染めたビビアンヌが、続きを期待して俺を見上げている。
 たまらなく恥ずかしくなった俺はあわてて握ったその手を放すとそっぽを向いた。
 視線の先には外出の準備をしていたニシカ夫人が、応接間の間から下品な笑いを浮かべてこちらを見ている。

「よお、続けろよなデブ。他人のプロポーズを見るのは楽しいなおい!」
(申ω`)♪
公明正大に言って、ビビアンヌはデブの嫁だぜ。
+注意+
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