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異世界に転生したら村八分にされた 作者:狐谷まどか

第1章 気が付けばそこは辺境の開拓村だった

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4 ニワトリ小屋からブタ箱にお引越しします 後編


 どうも、中学三年次の県大会で三位になった事もある、空手家の吉田修太です。
 空手初段、ボロボロの黒帯を持つ男。
 さあかかってきなさい。

 俺は青年ギムルと対峙しながら、天秤棒を構えた。
 軽く両手に持ちながら、ぞうきんを絞る要領でぐっと力を込める。

 青年ギムルは無駄に筋肉隆々な体をしていた。
 貫頭衣の親戚みたいな服を着たその上からでもわかるが、それは人種的な特徴に過ぎない。
 俺のいた世界だって、白人や黒人はムキムキ度が高かった。
 だが俺は違う。
 どちらかというと三十路を迎えて肥満体になりかかっていた俺の体は、それでも続けていた空手のおかげで戦うための筋肉をまとっている。
 たぶん、まだ使い物になるはずだろう。

 ちなみに県大会で三位になったのは型の試合だったので、本心では怖い。
 しかし青年ギムルが時々やっていたチャンバラを見た限り、あれは素人剣法だった。
 俺はむかし映画の撮影所で斬られ役のバイトをしていた事があるので、その時に剣術道場にも通っていた事がある。
 あれは間違いなく弱いヤツのイキがった剣の構えだ。

「俺に逆らえばどうなるかわかっているな」

 剣を数度振って見せた青年ギムルは、恐ろしい顔つきでそう言った。

「逆らっても、逆らわなくても殺す気だろう。あんた」

 俺はそう返事をした。
 間違いなくこの男、俺を斬るつもりだった。
 じわり、と距離を縮めようとした様だが、俺はそれを察してスっと足を後ろに運ぶ。
 相手に好きなように間合いを取らせるわけにはいかない。
 俺だってここで反抗するつもりは毛頭ないが、ただしここで殺されるわけにはいかないから、必死で考えている。
 どうしたらいい。
 ひとまず武器を奪って制圧するしかないが、その後どうする。
 制圧するためには転がす必要がある。
 転がしてどうするか。めった撃ちにでもして戦意を喪失されるか。
 あるいは叫んで誰かに助けを求めるか。
 いやそれは悪手だ。もし俺が制圧後に誰かが来たら、俺がこの男を襲っている様に見えるかもしれない。
 青年ギムルはいいヤツではなかったが、それでも恐らく帯剣している事から村の幹部格だろう。
 あ、もしかして俺は詰んだかもしれない。
 こいつの剣と服を奪って村から脱走しようか。

 そんな事を脳で高速演算していると、青年ギムルが剣を肩担ぎに構え直して襲ってきた。
 西洋剣術には詳しくないが、力任せの一撃だった。
 俺はそれを横に避けながら体を接近させる。
 長柄の武器を持っているとアウトレンジで戦うものという印象を持たれがちだが、棒術は違う。
 長い柄の持ち手場所を変える事で縦深の幅をいくらでも変えて戦う事ができるのだ。
 鋭い一撃は、勢いがあったが刃の確度は間違っていた。
 それを証拠にシュっという空を切る音がする。刃の角度がぶれているから、そんな音がするのだ。
 こいつは素人だと確信した俺は、そのまま振り下ろされた剣を持つ手をピシリと天秤棒で叩いてやった。

「キサマぁ!」

 怒り狂う声を上げながら、ギムルは右手を放した。
 残念ながら両手持ちしていたので、今はまだ左手で剣は持ったままだ。
 大きく振りかぶって、今度は水平に薙いでくる。
 やはり素人だ。
 俺の腰巻きをかすめる様に走らせた剣だが、そのまま勢いあまって背中を見せたではないか。
 すかさず俺は天秤棒をギムルの足に差し込んで、転がした。

「うおっ」

 情けない声を上げたギムルが倒れる。
 俺はそのまま天秤棒でギムルの剣を弾き飛ばして、彼の肘をしたたかに叩いた。
 いくら筋肉の鎧をまとっていても、人間の接合部は弱い。
 別に骨折させるつもりはなかったが、しばらく戦意を喪失させるつもりでギムルの利き腕らしい右肘に一撃を加えたのだ。
 そのまま仰向けになって右肘を抑えながらギムルはうめき声をあげた。
 今がチャンスとばかり、俺は天秤棒を喉元に突きつけてやる。

「動くな、動くとこのまま棒のへさきを喉仏に押し込むぞ」
「こんな事をして、ただですむと思うなよ……」
「よく言うぜ、ひとのものに手を付けて、その上俺を殺そうとしたじゃないか」
「証拠はない。お前はよそ者だ。お前は殺される」

 痛みに耐えながら俺を見上げるギムルは明らかに戦意を喪失していなかった。
 これだから田舎者は嫌いなんだ。
 俺はそう思った。
 俺も田舎の育ちで、田舎気質の抜けない人間だが、田舎者はとにかく忍耐強い。
 大学に入る時に都会に出てきたが、同じ空手をやっている人間でも田舎のヤツはとにかく痛みを我慢するのだ。都会のヤツはその点、痛いものは痛いとすぐ根を上げる。
 どちらがいいとか悪いとかではない。
 この場合、厳しい農家で育った人間なんてのは、痛みに耐性があったりするのだ。とんだドMだぜ。

「じゃあ、せめて道連れにしてやろうか。その剣一本あれば、俺は逃げ出せるかもしれない」

 少しだけ天秤棒に力を入れてギムルの首に押し込もうとするが、

「あんた、何て事をやってくれたんだい! みんな、みんな来ておくれ。よそ者がギムルを殺そうとしているよ!」

 突如あらわれたジンターネンおばさんは、案の定というか俺を見て叫び声をあげていた。
 そして指を差しながら俺に非難の言葉を投げかけてくる。

「村でせっかく飯まで食わせてやって、仕事までやったのにどういう仕打ちだい! こういうのを罰当たりって言うんだ! さっさとその棒を放すんだよ!」

 おばさんが叫んでいるうちに、ゴブリンやら中年のおじさんやらが木の鍬やショベル、はたまた剣や何かの農具を持って集まって来たじゃないか。
 当然俺は囲まれた。
 恐らく、上手くいなせばこの人数は倒せない事は無いと思う。
 どう見ても全員素人だ。
 ひとりナタの様なものを構えているヤツが動きがいいが、こいつは一番距離を置いている。
 猟師か何かか?
 だとしてもここで全員を蹴散らして逃げても、俺は土地勘が無い。
 しかも俺だってこんな大立ち回りをやったのは人生ではじめてだ。訓練や稽古でできた事が、実戦でできるとも限らないので、俺は天秤棒を放り投げて両手を頭に持っていった。
 降参である。
 そうした次の瞬間に、立ち上がった青年ギムルにおもいきり顔面を殴られた。
 俺は一撃で意識を失ってしまった。

     ◆

 ようこそ我が家へ。
 今朝まではニワトリ小屋で生活をしていると思ったら、これからはブタ箱暮らしだ。
 なかなか快適だぜ?
 腰巻きは青年ギムルとの戦闘中に斬られてしまってロストした。
 避けたつもりだったがどうやら間一髪だったらしいぜ。まいったな!
 かわりに今は新鮮な干し藁が部屋の中に敷き詰められている。
 これで肌寒い夜も安心だ。しかも賦役は免除ときたもんだ。やったね修太!
 だが嬉しくない。

 俺は今、ブタ箱にいる。
 正確には、この村にある唯一の牢屋にぶち込まれてしまったとても残念な服役囚の立場である。
 しかもトイレ付きを与えられた特別待遇だった。今までと違うのは、部屋が地上にないという事だ。
 じめじめしていて、臭い。
 臭い理由は間違いなくトイレが原因だ。
 トイレとは、そこにある木の桶だ。こんなものは文明人に言わせるとトイレとは言わない。

「あんたも災難だな。こんな太陽もあたらないところに繋がれて、絶望にうちひしがれる御身分だ」

 俺は新たな相棒に声をかけた。
 たぶん年齢は二十歳前といった感じの女だ。
 一張羅の腰巻きをロストした俺よりは少しだけ上等な、麻布の貫頭衣を被っている女だった。

「…………」
「俺の名は修太だ。あんた、名前は?」

 返事が無い。眼を合わせても口を利いてくれない。

「何をしたら若い女のあんたが、こんな地下房に捕まるかね。村長さまも厳しいひとだな」

 俺はへらへらと笑って女を見た。
 よく見ると若い女は美人だった。この異世界の女には美人しかいないのだろうか。
 いやいや、ジンターネンおばさんは美人ではなかった。美人というか怖い。
 柴崎コ○(人気女優)上戸○や(グラビアアイドル)かで比較すると、神取し○ぶ(女子プロレスラー)だ。
 女村長のところで下働きをしていた若い女は、あれは美人ではなかったが気立てのよさそうな女の子だったな。ただし、俺には気立てのいところは一切見せてくれなかったが。

 女は体育座りをしていた。そうしてぼんやり俺を見ている。
 見ているというか警戒しながら俺を観察していた。
 彼女は自由の身だが、俺は両手両足に鎖でつながれた手枷足枷をされている。
 約三〇センチぐらいのそれで繋がれているので、まともに何かをする事すらできない。
 たぶんウンコをするのも不便だろう。まだしていないのでアレだが、少なくともオシッコをするときは不便だった。
 女は俺の前でも平気で用便をしていたが、ジロジロ見たら嫌そうな顔をした。そりゃそうだろう。

 俺はというと、あぐらをかいて天井を見上げていた。
 ここは石でできた塔かなにかだったはずだ。
 村でも一番高いところに位置していて、ビルの三階か四階ぐらいの高さがあったと思う。
 俺は意識を失ったままここに連れてこられたから覚えてないが、家畜小屋と村長の屋敷を行き来している時に見かけた中で石造りの建物はここだけだったはず。
 その地下牢である。
 目の前にはぐるりと螺旋状の階段が上にのびていて、コツコツと誰かの歩く音が響くものだから、間違いなく高さがあるのだろう。
 歩く音?

 そんな風に音に反応しながら螺旋階段を見やると、妙齢の女村長のご登場である。

「派手に暴れてくれたねぇ」

 俺はゴクリとつばを呑んだ。
 女村長の側には、潰れた顔の青年ギムルが付き従っていたのだ。
 あれ、俺そこまでやってませんよね?
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