挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
異世界に転生したら村八分にされた 作者:狐谷まどか

第9章 内政の季節が到来です

397/552

閑話 王都への帰還 2

「本当によかった。マリリンマーキュリー隊は先の会戦で全滅なさり、マーキュリー卿も戦闘中行方不明となられたと聞いていたので心配していたのですよ! そういえば少しお痩せになられましたかシューターさま……?」
「…………」

 この冒険者ギルドでは場違いにもほどがある陽気さで、ブルカ兵は俺に歩み寄ってくるのだ。
 たまらず俺は顔をしかめ、周囲の労働者や冒険者たちの視線もこちらへと集まる。
 すぐさま顔見知った兵士の腕を取り、ギルド内の壁側へと引っ張った。

「貴様、ちょっとこちらへ来い」
「なっ何をなさりますかシューターさま……」
「名前は何というのだ。うん?」

 不快感を露わにした俺の態度に、ブルカ兵は言いよどみながらも大人しく従う。

「イックルツです」
「よし。ではイックルツ少々貴様は口が軽いところがある様だ、これはツジンさまに報告せねばなるまい」
「?!」

 声を潜めながらイックルツとやらに凄んでみせると、同僚のブルカ兵たちが胡乱な表情で俺たちを見守っていた。
 恐らくは冒険者風情にしか見えない俺に同僚が親切な態度をしたり、大人しく従ったりするのが不可解なのだろう。いつでも間に割って入れるようになのか、腰につった剣に手を伸ばしてギロリと監視している様だった。

「わが領軍、ならびに同盟軍の戦闘情報についてブルカ市中で口にする事は軍規に違反すると心得ろ」
「はっ、失礼しましたシューターさま!」
「その名前をたびたび口にするのもやめないか。秘密の作戦行動中だぞっ」

 俺の言葉を聞いて納得したイックルツは、すぐにも「大丈夫だ問題ない」という顔を仲間たちにして見せて、改めて俺の顔を見やった。

「いいか、俺がマリリンマーキュリーさまの配下で活動をしている事は口外してはならない極秘事項だ」
「あっさようでしたか」
「そうだ。だからあの晩の事を貴様はすぐに忘れろ。俺はここではただの冒険者として、内偵活動中なのだ。わかるな?」
「わかります。例の周辺諸侯たちの秘密工作員が出入りしているという、物騒な案件ですね?」

 このイックルツという男は、見た目通りどこからどう見ても一般の衛兵だという事だろう。
 詰所の同僚たちも、俺たちが声を押し殺して会話をしている姿を見て、問題がなさそうだとようやく判断したらしい。
 すっと剣に伸ばしていた手を放し、俺の目の前でへこへこと頭を下げるイックルツを見て、極秘任務中の騎士とでも理解した様だった。
 黙礼し、そのまま素知らぬ顔尾で冒険者ギルドの中をゆったりと歩き始める。

「冒険者の姿をしているのは、この方が情報を集めやすいからだな」
「さすがエリート部隊と噂のマリリンマーキュリー隊は違いますね。しかし、肝心のあの方は……」
「ああ。俺はたまたま居残り組にされた事で命を長らえたが、あの方は残念ながら貴様の口にした通りの結果になったらしい。俺が戦場に出ていたのならば、あの様なことにはならなかった」

 ブルカ伯さまの何人もいる息子たちの独りがどうなろうと、俺の心は一切痛まないし、悲しくもない。
 しかしそれではイックルツに見透かされてしまう事になるので、どうにかこうにか顔を持ち上げて、涙を我慢している様なフリをしておいた。
 ついでに肩に力を入れて身を震わせておけば、怒りと悲しみを我慢している様に見えたかもしれない。

「し、心中お察しします」
「もちろん戦いの勝敗は常に女神様のみが知る事だ。だが最後まで手を尽くした者にこそ、女神様は微笑みかけるというぞ」
「わかります。俺も近頃の同盟軍が敗北に次ぐ敗北という話を聞いて、心底疑う気持ちでした。だが戦いはまだ終わっちゃいねえ……」

 どうやら誤魔化しきれたと見えて、俺の言葉に同情と同意を込めた表情で、イックルツも肩を震わせていた。
 安い男と見るべきか、あるいは厄介なブルカ領軍のよく教育の行き届いた兵士と見るべきか。

 同僚たちに視線を送れば、彼ら黄色マントの連中はギルド一階を油断無く睥睨しながら、何か問題がないかを監視している様だ。
 警ら中の一時立ち寄りのために顔を出したのだろう。
 俺たちを探しているという態度でもなかった。

「何か変わった事などがあれば、教えてもらいたい」
「シューターさまの方がその辺りは詳しいかと存じますが、どうやら先ほど王都より侵入をしていた工作員が一斉検挙されたらしいですね」
「ほう?」
「ふたり組を追いかけて泳がせておいたら、連中が使っているアジトがひとつ発見されたとの事ですよ」

 ここに立ち寄ったのは、連中の別の場所に隠れている仲間に連絡を飛ばすことはないかと、調べる様に上から命じられたのです。
 などと、すらすらと実情を語ってくれたものだから安いものだ。

「そうか。俺も仲間たちとそういう連中がここに入ってこないか張っていたところだ。むしろお前たちが来たことでおかしな行動をとる連中が出るかもしれない」
「そうですね……」
「お前たちはそしらぬ顔で外に出て他の場所にまわれ。悪いがここは俺の方で仕事を片付けさせてもらうぞ」

 チラリとサルワタ冒険者たちに俺が視線を送りながら説明をすると、ブルカ兵士のイックルツは、訳知り顔を気取って俺の仲間たちにペコリと頭を下げた。
 俺やあいつらこそが、ブルカにあだなす工作員だと知れば、こいつの将来は台無しだろう。

 だが今そんな事は知ったことではない。

「わかりました。こちらも同僚とあわせて三人です、さすがに捕り物をするにも分が悪いので、内偵中という事でしたら泳がせて場所を探すほうがいいでしょうね」
「もしも必要が出た場合は、詰所に応援を呼びに行かせるから協力しろ」

 成功すれば貴様も昇進間違いなしだ。
 そういう風に言ってイックルツの背中を叩けば、ニッコリ笑って貴人に対する礼を返してくるではないか。

「だからそういう態度をやめろと言っているのだ!」
「しっ失礼しましたッ」

 ひとまず黄色マントたちを追い返すことに成功した時、俺の額には肌寒い季節にもかかわらず大粒の汗が浮かび上がっていた。
 くそっ。ちょうどいいタイミングで鷹匠傭兵に声をかけようとしていたのにとんだ邪魔だ。

 視線の端に先ほど捉えていた黄色長耳のニシカも姿をいつの間にか消していて、それどころか鷹匠傭兵もギルドのパーテーションを見て回ったところでも、いなかった。
 なかなか上手くいかない現実に苛立ちを覚えながらも、しかし今回は上手く切り抜けたという安堵に、俺は大きなため息をつく。

「ナメルさん。あんたブルカではシューターの旦那の名前を騙っていたのかい?」
「しょうがないだろう。咄嗟に名前が出なかったから、ついな」

 女冒険者に呆れた顔をされながら俺は仲間たちに合流する。
 鷹匠を見失ったのだから、ニシカの事は忘れて改めてギルドを後にしようと、脇の出入り口から外に出た時の事だった。

「よう、デブ。ちょいと話があるからこっちに来な」

 女貴族を気取った様な、上等なベストレ柄のチュニックを羽織ったニシカの声がした。
 ふらりと音も気配もなく俺たちの背後に立って、アゴをしゃくって見せれば、その視線の先に鷹匠の傭兵の姿があるではないか。
 鷹匠の傭兵は俺を見て黙礼した。

「貴様、どうして彼を?」
「ちょいとオレ様も話しておきたいことがあったんでよ、少々時間を取ってもらったんだ。お前ぇも酒はイケる口の様だから、場所を変えて一杯やりながら相談事といこうじゃねえか」
「俺は構わない、あんたもそれで問題ないか?」
「……問題ない」

 なるほど。考える事は同じだった様だぜ。
 ニシカという女の出自が何者かは知らないが、あの全裸男がいたく信頼を置いていたほどの女騎士だ。
 鷹匠を使ってブルカ衛兵たちの警備連絡を盗み見する算段を、いち早く思いついていたのかも知れない。
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ