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異世界に転生したら村八分にされた 作者:狐谷まどか

第9章 内政の季節が到来です

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300 枯れるまで絡める手 8

投稿後、一部を加筆修正いたしました。
 深夜の会見の最後に、俺たちは署名を取り交わす事になった。

 必要になる起請文の数は五通分で、それぞれ俺用とカラメルネーゼ商会、オッペンハーゲン公商館、騎士修道会にカレキーウォールズ商会のものだ。

「それでは、起請文の項目を確認していただきましょう。内容は次の通り、カレキーウォールズ商会とオッペンハーゲン公商館は協力し、ブルカ辺境伯金貨の回収作業に当たるものとする。双方で回収した同金貨の運用についてスルーヌ騎士爵シューターの許可の元、実際の運用はオッペンハーゲン公商館が行うものとする」

 俺の許可の元……?
 スラスラと契約内容を口にするクロードニャンコフ氏の隣で、日頃から起請文の作成がお仕事のシルキーさんが書面を書き出していく。
 誰も俺が妙な立場にされている事を気にも留めないのはどういうわけだ。

「オッペンハーゲン公商館は同金貨の販売価格を設定し王家へ輸出義務を負う。これが不可能な場合はオッペンハーゲン男爵の貨幣鋳造権を利用し、騎士修道会ハーナディン修道騎士の協力の元、新たに聖少女金貨を発行する。スルーヌ騎士爵シューターの決断に従い、関係者全員が女神様に誓って誠意ある行動をしなければならない」

 何で俺が一々責任者みたいな形で書類が書かれているんですかねえ?!
 俺がたまらずすまし顔をしたクロード氏を睨みつけたところ、何を勘違いしたのか彼はお貴族さま特有の斜に構えた微笑を浮かべて大きくうなずいた。

「わたしどもは閣下のご決断に従う事を女神様に誓います。ここでの事は身内でも口外いたしません」
「そうですわね、船頭は二人もいりませんもの」

 クロードさんだけでなく、蛸足麗人までもが俺の腕に手を回しながら同意してくる。
 書きあがった起請文の写しを作るために、シルキーさんが羊皮紙を取り換えながらこれもうなずいてみせる。

「ま、まさかドラコフ男爵も今夜の事は存じ上げないのでしょうかね?」
「父からはただ、シューター閣下に全面協力しろとだけ命じられています。貨幣鋳造権を持ち出すことになる可能性についてのみ、報告しておりますね」
「ハーナディンも当然マリには詳細は話していないという事かな?」
「当然ですね。聖少女ガンギマリー金貨とか作りますと言えば、僕は殺されてしまいかねません……」
「もしかして、カレキーおばさんがこの場にいないのも内密に実行したからとか?!」

 ハーナディンの反応は半ば当然だとしても、カレキーウォールズ商会でもそうなのかと長女シルキーさんに質問を飛ばしたところ、

「いえ、わたしはあくまで母の代理人なのでご安心ください。母は年寄りなので夜床に就くのが早くて」
「そうですか……」

 控えめなシルキーさんが申し訳なさそうにそう報告をしてくれたので、安心した。
 商売の話をしているときは妖怪の様な表情になるあのおばさんの事だから、もしかするとシルキーさんを育てるためにわざこの場に彼女を送り出した可能性すらある。
 蛇の道は蛇の子供にこうして受け継がれていくのかもしれない。

 しかし、これはこれで困ったことがある。
 船頭は二人もいらないというのは、要は権力者が複数この件に介在すると方向が右に左にとクルクル変更になって実際運用者のクロードニャンコフさんが困惑するという意味だろう。

「アレクサンドロシアちゃんとようじょに、この件を報告するのはまずいかな」
「作戦参謀のッヨイハディさまには話を通しておくとよいかも知れませんが、アレクサンドロシア卿については……」
「ドロシアさんの性格ですと、黙っていればそれはそれで後日へそを曲げてしまう可能性がありますわ。そのためにシューターさまが説得役として、婿殿の決断の元という一文を加えたのではありませんか」

 騎士見習い時代からの旧友の意見として、カラメルネーゼさんはそう考えたらしい。
 しかしのけ者にされるのは絶対に嫌がる性格の領主奥さんだ。これを説得するためのいけにえとして、あんな条文が書かれたわけか。
 クロードさんもがあんな文章を提案したのは、間違いなく蛸足麗人の入れ知恵だな……

「ご主人さま。全てをアレクサンドロシア奥さまに報告し、ご指示を求めるのでは夫婦が代理人を務めるという慣習が要をなしません。アレクサンドロシア奥さまのご負担を取り除くためにも、この場合はご主人さまの判断でこうする事にしたからと、簡潔に用件だけを伝えるのがよろしいかと思います」
「そうだな、ここは俺の裁量に任せてほしいと言っておけば、アレクサンドロシアちゃんの悩み事も多少は俺たちで楽にしてやれるかもしれないね」
「ただし責任を負うという意味ではご主人さまのご負担も相当なものです。カラメルネーゼ奥さまに限らず、自分たち残りの妻らが一身に支えますので、そこはご期待ください。ね、ニシカ奥さま? エルパコ奥さま?」
「……ふがっ。お? おう」
「もちろんだよベローチュさん」
「おーっほっほっほ、当然期待していただいても結構ですわよ?」

 寝こけていたニシカさんはともかく、ベローチュやけもみみの言葉は心強いね。

 あとはタイミングだ。
 寝起きの不機嫌な時に口走ったものなら癇癪を起すかもしれない。
 そうすると夜の閨で報告するのが一番だが、また寝室を抜け出すとカサンドラに何かを言われそうな気もするので、これはこれで問題だぜ。

 アレクサンドロシアちゃんの事はひとまず後回しにするとして、起請文が人数分完成したところでそれぞれ署名を書き付けた。

「それではみなさん、関係者以外に口外は無用という事で。俺もアレクサンドロシアちゃんの件は慎重に対処するとしよう」
「王都に向かった使節の行動がわかり次第、逐一閣下にご報告申し上げます。ではくれぐれも内密に」
「女神様に誓って……」

 乾いた起請文をそれぞれ懐にしまい、来客のみなさんは貴人に対する礼をもってこの場を退出した。
 ニシカさんとけもみみは、何も知らないし聞かなかったという顔をして寝室に戻り、男装の麗人は玄関口まで客人を送る。

「カラメルネーゼさん、俺の知らないところで色々と手を煩わせてしまいましたね」
「妻として、夫の身を立てるのは当然の事ですわよ。シューターさまが何も案ずる事はなくってよ?」

 そう言って微笑を浮かべた蛸足麗人だったけれど、どこか気恥ずかしそうに視線を泳がせながらすぐにも彼女はそっぽを向いてしまった。
 もちろん俺だけのためではないだろうけれど、こうして支えてくれる奥さんたちに囲まれて俺は幸せです。
 ありがとうございます、ありがとうございます。
 俺はねぎらいの言葉を探してカラメルネーゼさんを抱き寄せる。

「それでもやり手の商人たちを相手にするのは大変だったでしょう」
「し、商人というのはいかに儲けを出すか常々考えているのですわ。クロードニャンコフ卿もカレキーウォールズさんもそこは同じ」
「一番に儲ける事を考えるのだったら、王様に金貨を買ってもらうのではあまり利益にならないでしょう?」

 そこは自分たちでブルカ辺境伯金貨に代わる辺境の決済通貨を発行した方が、将来的には蛸足麗人もクロードさんもカレキーおばさんも、大きな利益に繋がったんじゃないかと思ったのだが。そこでふと思い至ったことがあった。

「婿殿、それはですね、」
「待った、言わせてくれ。何事も腹八分の方がいいという事だな。利益を一人で独占し、俺たちが儲け過ぎてしまえば、悪目立ちして敵を作ってしまうと」
「そういう事ですわね。わたくしたちの敵はブルカ辺境伯だけでなく、本土にも盟主連合軍の中にも存在しているのですから」

 金貨をサルワタ貴族とオッペンハーゲン領とで山分けしてしまうよりは、確かに国王に買い取らせてブルカ経済に打撃を与えた方が、盟主連合軍の諸侯たちにもわかりやすく利益共有がある。
 ブルカ領の脅威がなくなれば彼らも安心だし、領土分配や戦争賠償で旨味があるしな。

「ですからわたくしも、腹八分を心がけております。夫の独占はカサンドラさんのお怒りを買いますものね? うふふ」

 そう言って妖艶な微笑を浮かべた蛸足麗人の絡める触手はなまめかしく。
 ナイトガウンの隙間から入り込んだそれが、ぬらりと俺の肌を舐めるのだった。
 そうして両の腕を俺の背中に回して唇を奪ったところで、サッとカラメルネーゼさんは身を話してこう言ったのだ。

「さて、わたくしは一日働き通しだったので、公衆浴場で汗を流してまいりますわ。身綺麗にして今夜は商館に戻りますので、お暇いたしますわね?」

 ドロシアさんの手綱はよろしくお願いいたしますわ。
 腹八分とは言って、本当は面倒毎は押し付けたかっただけかもしれないね。
 苦笑を浮かべた俺は彼女の背中を見送ると、ふうっと燭台の火を落として起請文を拾い上げる。
 ここまでお膳立てはやってくれたんだから、後の責任は俺が請け負うって事だね。

 あっしまった!
 デルテ夫妻のお願い事について話すのを忘れていた。

「待ってカラメルネーゼさん、最後にちょっとお話が。どうかな一緒にサウナでも入りながらどうかな!」
「まあ婿殿ったら深夜に個室でふたりきりなんて、助兵衛ですわね? うふふ」

 振り返ったカラメルネーゼさんに、違うそうじゃないと全力で否定をした。
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