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異世界に転生したら村八分にされた 作者:狐谷まどか

第9章 内政の季節が到来です

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297 枯れるまで絡める手 5

「失礼しますご主人さま、徴税官の人選と貢納の準備が整ったかもです。クレメンスさんに手伝ってもらって、アレクサンドロシア奥さまに提出する資料を持参しました」

 ちょうど夕刻の事だった。
 領主館の居間で、タンヌダルクちゃんとお茶を呑みながら国法についてお勉強していたところ、モエキーおねえさんがクレメンスを伴って姿を現したのである。

「急なお願いだったけど、意外に早く仕上がったみたいだね」
「おらがスルーヌの村で出納当番をやった事があるって、旦那さまはよく知っていただすな」
「ベローチュがね、村の幹部だったのならそういう可能性があると言っていたんだ。ふたりともよくやってくれたね」
「そうだすか。ベローチュさまはきっと気が利く奥さまになるはずだべ。おらも一人前の奥さまになるために、これも旦那さまの花嫁修業のひとつだすな」

 仕事の早いふたりに俺がねぎらいの言葉を投げかけると、モジモジした顔のクレメンスがそんな返事をした。
 ふたりに向かって、ニコニコ顔の野牛奥さんは「姉さんに順番を繰り上げる様にお願いしてあげますよう」などと小声で言っているが丸聞こえだ。
 クレメンスは昼間に若い男と出会いがあったはずだから余計なお世話と思ったのだけど、あれは何だったのか……
 モエキーおねえさんに至っては明らかに赤面している。

「ち、徴税の遅れは財政に響くかもです。お母さんにも最優先にする様にと言われていたので、クレメンスさんと養女さまにもご相談させていただいたかもです」
「そ、そうか。きみのお母さんのところには先ほど挨拶をしてきたところなんだよ。さあ入って」
「ありがとうございます。お母さんは相変わらず口うるさかったでしょう……」

 申し訳なさそうな顔をして、ソファの向かいに腰を落ち着けたモエキーおねえさんである。
 さっそく麻紙の書類とやらを受け取って覗き込んでみたけれど、一枚は各領地の去年の税収調査票まとめと、もうひとつは徴税官の人選について書かれている様だ。カサンドラとかタンヌダルクという名前が書かれていたので、その点についてはすぐにピンと来た。
 そして最後の一枚はどうやら徴税対象のリストらしいね。
 俺とタンヌダルクちゃんが肩を寄せて徴税官の人選リストを眺めていたところ、

「あらま、わたしの名前がありますよう旦那さま」
「タンヌダルクちゃんはッヨイさまと一緒に野牛の徴税官か、カサンドラはサルワタで、スルーヌは俺が直接行くんだね」
「ラメエちゃんのところは、ニシカさんが一緒に行くと書いていますよう」

 無駄に横柄なところのある黄色い花嫁は、押しが強いのでお目付け役にはピッタリだ。
 近隣住民に黄色長耳のお仲間もいるし、お貴族さまの仲間入りしてからはますますそれが堂に入っている気がするからね。
 視線を次の麻紙に移すと、

「そちらのご覧になっている書類は領内一円の昨年度税収調査票をまとめたものです。サルワタの村単体がブルカ伯金貨二〇〇〇枚相当、野牛の居留地がブルカ伯金貨七〇〇〇枚相当、スルーヌの村で金貨一三〇〇枚相当、オホオの村が金貨九〇〇枚相当、ゴルゴライが金貨四二〇〇枚相当、クワズの村が金貨一五〇〇枚相当となっているかもです。ただし現在はブルカ伯金貨の貨幣価値が暴落しているかもなので、戦争が始まる前の相場で考えるといいと思います」

 紙片を一緒に見ているわけでもないのに、モエキーおねえさんは朗々と各領地の収入を口にして見せた。
 カレキーさんが文官として人材投資をするんだと言っただけあって、確かに官僚としての才能があるのかもしれないね。

「各領地の収穫も予想の範囲ですし、お母さんが辺境の市場でどう貢納された産品を売りさばくか、というのも関わってくるかもですが……。わたしが各ご領主さまや幹部のみなさんに聞き取り調査をやった限りでは、去年比で見ると税収は二割減になる事が予想されるかもです」
「な、なるほど。戦争があったり色々あったからかな?」
「そうかもです。サルワタの場合、開拓移民を募ったことで総人口は増えたかもですが、移民のみなさんは三年間の免税対象になっているかもです。それから本来は貢納の対象だった材木が、戦争のために使われたので純減かもです。去年比で八割見込みという結論かも、ですねえ」

 あれもかも。これもかも。
 モエキーおねえさんは指折りをしながら税収減の理由を述べていく。

「はあいモエキーちゃん質問です」
「どうぞ、ダルク姉さん」
「野牛の居留地から税金を納める場合は、わたしは何を集めてきたらいいんですかあ? ミノタウロス銅貨で納税してもらうのが一番いいと思うんですけれど、それだと野牛の居留地で流通する硬貨が足りなくなってしまうのですよう」
「収穫された穀物や芋で貢納していただくか、辺境では珍しい品物を納めてくださるのがいいかもです。徴税官はそれを検分して品物選びをするのがお仕事かもです」
「だからッヨイちゃんと一緒に貢納の検分をするんですねえ」
「そうかも、です」

 ミノタウロスの一族は、辺境の村々に比べて貨幣経済が浸透している文化人のみなさんだ。
 けれども貢納によって貨幣が一気に居留地から無くなってしまうと、それはそれでミノタウロス経済が大混乱になってしまうからな。
 そこで目利き役としてッヨイさまが一緒に出向いて、貢納品を売りさばくのに都合がいいものを探すというわけか。

「それから、過去に納税の品目として選ばれた事にある産品のリストがこちらになります。ミノタウロスの方は例外かもですが、それ以外の領地については、この中から資産価値にあわせて貢納してもらうとよいかもです」

 俺も徴税官のひとりとしてスルーヌに行く予定があるのだから、しっかりと見ておかないとな。
 しかし、その貢納の品目選びについてひとつの疑問が浮かぶ……

「ところで最後の徴税対象品目表というのを見たんだけど、穀類や芋などの食料品が並んでいるのはわかる。けど、何で材木と奴隷が最優先項目と書かれているんでしょうねえ……」
「材木を指定したのはお母さんかもです。材木は貨幣との等価交換が成立するので、為替手形の受け取り対象として利用されるかもです」
「な、なるほど。知らなかったぜ……」

 モノの本によれば、明治大正期の地方における最大の豪商たちというのは材木商人だったというような記述を見たことがあった気がする。
 俺の記憶違いかもしれないが、日本の場合は家を建てるにも何にしても材木は必須で、特に質の良いものであれば神社仏閣に使われるわけだ。
 さらに。巨木が貴重になった現代日本では、境内に生えているご神木が地震や台風などで倒木すると、あれらは以前から実は予約されていて、どこか別の場所の建物に利用されるのだと聞いた事もあった。

「オホオの村はリンドル川の沿岸ですし、あの一帯は大きな森が広がっている場所です。戦争には材木は防備を固めるのに必須かもですし、余れば売る事も可能なので便利かもです」
「そ、それで奴隷が徴税対象というのはどういう事かな」

 ちょっと穏やかではない最重要項目の指定だ。
 まさか村人の中から人身御供を出して奴隷堕ちでもさせるという事かな……?

「それをご指定されたのはカラメル姉さんですよ。各地の領内には労働のために奴隷が働いているかもですが、戦争になると領内で賄える余剰人口に限界が来るので、徴税対象として奴隷を差し出すようにご指示されたかもです」
「お、おう……」
「カラメル姉さんはこうも言っていたかもです。人材は価値が下落しないので、世の中で一番堅実で儲かるのは人身売買だと……」

 恐ろしいほどに開けっ広げな解釈に、俺はたまらず絶句した。
 カラメルネーゼさんらしいと言えばそうなのだけど、奴隷という言葉にあまり馴染みの無い俺には刺激が強すぎるぜ。
 だが一方でこのファンタジー世界では、奴隷商売も人材派遣的な使われている事は理解している。
 年季奉公が明ければ奴隷解放されるのが実際のところだし、よほど望んで奴隷になりたがる男装の麗人みたいなのでない限りは、普通の借金奴隷はまだ当たり前の扱いを受けているしな。

「せ、戦争になれば前線で工作をするのにも労働力が必要だし、納得だ」

 中には優秀な人材が奴隷に眠っているかもしれない。蛸足麗人の事だ、面接をして最適な場所に奴隷を派遣する商売を今後も考えているのかもしれない。
 昼間に見た美人の高級娼婦みたいに、今まで通りの仕事をさせながら情報収集みたいなのをやらせるのかも知れない。

「そのカラメルネーゼさんを見かけないのだけれど、まだ当直任務とやらの最中なのかな?」
「ええと。カラメルネーゼ奥さまの本日の勤務予定はだすな、金庫の出納当番という事になっているですだ。夜勤交代でベストレ領の騎士と入れ替わる予定だから、夜には戻ってくるんじゃなかろか」

 つるつるの胸に手を突っ込んだクレメンスは、懐から紙片のメモを確認してそう返事をしてくれた。
 今日はもう入れ違いになって、蛸足麗人とは会えないかもしれないな。
 けれど、徴税官の派遣については目途がついたのはよかった。

「これで懸案のひとつは解決できたことになるかもな、タンヌダルクちゃん」
「そうかもですねえ。それで、いつ頃にそれぞれの領地に徴税官として向かう事になるのですかあ?」
「どうなんだクレメンス?」
「クワズの村のエクセルパークさまに徴税に関するご相談書をしたためたかもだすね。これのお返事が届いたら、すぐに取り掛かるのがいいかもですだ」

 俺たちまでかもかもと、ついついモエキーおねえさんにつられて語尾が訛ってしまったかも。

 もうすぐ十一月だ。
 そうすれば雪がちらつくのも時間の問題という事だから、雪深くなる前に貢納品を運び出さなければならないというわけだね。
 やがて雪が積もりだせば戦争どころではなくなるので、盟主連合軍のみなさんもいったんは各領地へと引き上げていく事になるのかな。

「それからこれは、お貴族対象の税金納付命令書だす。旦那さまにも一通あるだすよ」
「そ、そう言えば奥さんの数だけ税金が増えるとか聞いたことがあったな……」

 油断していると、クレメンスが先ほどの書類とは別のものを差し出した。
 騎士になって収入が増えて、そこからさらに騎士爵さまになったので免税対象にでもなったかと思っていたんだけど……
 恐る恐るその麻紙を受け取ったところ、世間で俺の奥さんとされているハーレム大家族の全員の名前がリストになって記されていた。

 納税額、オルコス五世金貨二〇枚相当。支払いは以下の品目リストを参照し何れかで納付せよ。

 こっこれはアレクサンドロシアちゃんの書付で間違いない。
 しかもハーレム大家族リストにちゃっかり彼女自身の名前も書かれている……
 バジルまで入っているのはどういうわけだ?
 よくよく貢納の受領対象リストを見たら、ひとつだけしかない目録にとんでもない事が書かれていた。

 世継ぎ。

「あかちゃん?!」
「うふふ。姉さんも正妻として、そろそろ欲しいかもですねえ旦那さまあ?」
「おらもその方がいいと思うかもだす。跡目作りはお貴族さまの大事な役目かもだすからな……」
「そうかもです。何事も順番が大事かも、です」

 ひしりと俺の腕に手を回したタンヌダルクちゃんに見上げられた。
 上目遣いに甘い女の吐息、そしてけしからんたわわなお胸がぷにんぷにん。
 たまらず息子はぼくきょうだいが欲しいよ、とばかり反応するのだ。
 違う、今は落ち着くんだ息子よ。
 かもです語尾が伝播した居間で、俺は追い詰められた。
 何れかとか言っておきながら、ひとつしか項目がないんだから選択肢がないじゃないかっ!

「……まだ早いかも?」
「かもじゃないんですよ旦那さまあ! 何事も大事な順番から言って、姉さんの次はわたしかもですよう?!」

 助けてクレメンス!!
 クレメンスは俺の視線に頬を染めて、気恥ずかしそうに視線を逸らした。

「おらは男の子と女の子がひとりずつでいいかもだす」
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