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異世界に転生したら村八分にされた 作者:狐谷まどか

第9章 内政の季節が到来です

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289 先手必勝の策です

 長く、そして丁寧に書き連ねた文字を読み終える。
 俺は身震いをする他は無かった。
 この戦争がの吹きすさぶ風が、王国本土にも届く可能性があるだって?
 あのオレンジハゲ、どこまで壮大な戦争をけしかけてくれちゃってるんだよ!
 俺に平和を、早く安寧を!

「お、お兄ちゃん。手が、痛い……」
「あっごめんなさい」

 気が付けば力のこもっていた俺であるが、アレクサンドロシアちゃんの手を強く握っていたらしい。
 手紙を読む時に途中から一緒になってのぞき込んでいたからだ。
 読み終えた手紙に見落としがないか確認するため、ツンデレのマリアちゃんやカラメルネーゼさんたちが回し読みを始めていた。

「どうするよアレクサンドロシアちゃん」
「フフン、こんな壮大にして馬鹿げた計画を打ち立てたのはツジンとかいう輩の他にはいないだろう。あのオレンジハゲを尋問して、知っている事を全て吐かせるのがよい。おいクレメンス、ハゲは今どこにいる?!」

 立ち上がったアレクサンドロシアちゃんは、憤怒の表情でこう命じた。

「ひとまず教会堂の教化部屋に軟禁しているだす。んだども飯が不味い酒が悪いと、文句ばかり垂れている有様ですだ。明日にもご領主さまの命令で、サルワタのお城に送り出すという予定になっておりましただ」
「居城への護送は中止だ。拷問にかけて、これまで生きて来た事を後悔させてやるしかないな。ガンギマリーどのが主導せよ」
「わ、わかっているわ。顛末を全て聞き出した後にくびり殺してやるんだから」
「それはならん」

 どうして! と血相を変えて尋問を命じられた雁木マリは抗弁したけれど、当たり前の事だ。

「斬首は全てが終わってからでもできる事だ。政治利用のためにも生かさず殺さずで残しておくのがよいだろう。信仰心とやらがあの男の中に残っているのなら、いつぞや見せてもらった地獄の苦しみを味わうだろうし、ハゲが外道の類であるならば、それはそれでよい。それとギムル卿!」

 ハハっと声を上げて立ち上がったギムルが、剣を抑えて駆け付ける。

「もはや小娘が寝所で安眠から覚めるのを待ってはおれぬ。わらわが差配いたす故に、そなたの叔父御と協力して、直ちに兵を纏めてブルカの領境まで攻め寄せよ。エクセルよいな?」
「アレクサンドロシアさまに従います……」
「義姉上、事を急いでよろしいのでしょうか?」

 ビクリと巨体をさせながら服従の姿勢を見せたギムルと、おずおずと意見具申する。
 すると激情家のアレクサンドロシアちゃんが周囲を見回して、これまでにないほどの怒りをまき散らしたではないか。

「揃いも揃って馬鹿者ども! そなたらもどうしてそう悠長な顔をしておるのだ、あの書簡には何と書かれていたのだ!?」
「ドロシアさん? まさか辺境侯などという叙勲に眼がくらんで、血気にはやっているのではありませんこと……?」
「カラメルネーゼにまでその様に見えるのか。あんな飾りの餌はまやかしだ。なあお兄ちゃん、そう思うだろう。ん?」

 荒々しく鼻を鳴らした女領主は、ドンとテーブルを叩いて俺に同意を求めた。
 俺は、あの書簡に書かれていた内容を改めて思い返す。
 ブルカ辺境伯の一党は、もともと王都中央でも政治工作をしていた節がある。辺境を(わたくし)するために、眼をつむってもらうために有力貴族に金を握らせていたのではないかとすら思ったぐらいだ。

 だがそうではない事は、眼の前のアレクサンドロシアちゃんの反応からもわかる事だ。
 例え大金だろうと、ただ金を掴ませたぐらいで辺境の独立という野心を持ったオレンジハゲの行動を、国王さまとその取り巻きが認めるだろうか。いいや、

「……封建国家の元首さまがそんな事を認めたら、オルヴィアンヌ王国の態勢が維持できなくなるな。てことは、本土でもクーデターか何か、あのオレンジハゲが企んでいる可能性があるって事を言ってるんじゃないのかな、アレクサンドロシアちゃんは」

 もしもそれが本当の事だったら、とんでもない話である。
 冬になれば辺境の交流は閉ざされてしまうから戦争は出来なくなる。
 その間に本来オレンジハゲが計画していたのは、王国本土に何かの働きかけをする、いや軍事行動でも出るつもりだったと言う事か。

「わらわが言いたいのはそういう事だ。マリアツンデレジア卿、カラメルネーゼなどはどう思う」
「アレクサンドロシア卿は、まさか王都中央でも政変が起きる可能性があると思っておいでですの……?」
「例えばクーデターの可能性というのはあり得るとは思いますけれども。さすがにそれは、考えすぎではありませんこと?!」」

 可能性としてはやはり、女領主はそれを危惧しているのだ。

「可能性がある、というだけでそれは十分だ。新たな王位継承者をあのオレンジハゲや他の諸侯らと語らって担ぎ上げるとなれば、その功績でブルカの半独立ぐらいならば認めてやる新王が誕生するやもしれぬ。だがわらわは中央の政治に口出しする気も興味もないからな、やる事はひとつ。連中がそう動くのであれば、少しでも早く、少しでも先に手を打つことを考えるまでだ」
「…………」
「盟主連合軍が朝敵にでもされてはかなわんしな。いや、その方がわらわたち夫婦にとっては都合がいいか、クックック。のうお兄ちゃん!」

 悪い顔をした女領主の、あまりにも突飛な思考だとハーレム大家族のみなさんには映ったのだろう。
 ぽかーんとした表情でカサンドラとタンヌダルクは様子を見ていたし、クレメンスや女魔法使いはおどおどと周囲の空気の悪さに右往左往している。
 けもみみは明後日の方向を見てぼんやりしていた。

「わかればただちに出撃の準備をせよ。どのみち冬になればわらわたち辺境の人間は、やる事は何もなくなってしまうのだからな。それまでのわずかな時間に、何が出来るのか。そこが来年を迎えるための年越しの準備と言える」

 まだふた月ほど余裕があるがな。
 あっはっはと、打って変わって大笑いして見せた女領主は、カサンドラとタンヌダルク、それにけもみみをを従えて食堂を退出していった。けもみみは最後に振り返って俺にコクリと頷いて見せる。
 残された面子も、ギムルやエクセルパークたちはあわただしく玄関口へと駆け出していったし、モエキーおねえさんも女魔法使いと使用人の居室へと退去していった。ガンギマリーは駆け付けた修道騎士に連れられて、肩を落として出ていくではないか。これにはクレメンスが付いていく様だ。

「何か、久しぶりに帰ってきたらとんでもねぇ事になっちまったな……」
「それだけニシカさんがもたらした情報が重要なものだったという事ですよ。ありがとうございます、ありがとうございます」

 ニシカさんの肩に手をやって、俺は心底感謝した。
 黄色い花嫁は俺の自慢だ。トボケたところがある様で、しっかりと任務はこなすところが最高のおっぱいだ。

「よせやい。オレとお前の仲じゃねえか。ところでようじょの姿が見かけないが、お漏らしでもして軟禁されてるのか?」
「ッヨイさまは魔法の使い過ぎでしばらく安静にしているところなのですよ。まあ、アレクサンドロシアちゃんの暴走は今にはじまった事ではないしな、何とかワキガの将軍さまが書いた手紙、ッヨイさまにもお見せして意見をもらったほうがいいだろう」
「そうじゃねえ、ワッキン騎士さまだぜシューター」

 俺が書簡を預かって懐に仕舞って見せると、ツンデレのマリアちゃんも「そうしてください、あなた」と同意してくれた。
 無理難題を押し付けてくる女領主であるけれど、裏を返せばそれだけ焦りが見え隠れしているという事だ。

「ドロシアさんも、政治の事は今ひとつ苦手意識が抜けきらないところがあるのですわ。わたくしはただちに、ドラコフ卿とベストレ卿、それにオコネイルさんにも話の筋を共有しておきませんと。中央の政治に明るい者たちにも意見を聞いておくことは欠かせないですわ」

 そう口にして蛸足をうねらせたカラメルネーゼさんは、愛剣を胸に抱きながら食堂を退出していった。
 確かにアレクサンドロシアちゃんひとりの意見だけを頼りに何かを判断するのは危険だ。
 戦争をするためのセンスという意味で、俺の領主奥さんはずば抜けた感性みたいなのを感じないわけではない。

 けれど、俺たちにはようじょもいれば、宮廷と少なからず繋がりを持っているリンドル御台さまや蛸足の奴隷商人もいる。また有力諸侯たちも自分たちでパイプを持ち合わせているだろう。

「本当に王国全土で、政変の風が吹きすさぶんですかねえ?」
「それをこれから確認するために、様々な手を打つのですの。わたしの父は宮廷伯ですから、その様な事を見過ごすとも思いませんけれども。それに今頃は王都にブルカ伯の弾劾状が届けられているはず……」

 立ち去るマリアツンデレジアの言葉に少しの安堵をもたらしてもらった。
 そうか盟主連合軍で血判した弾劾状、それにタークスワッキンガー将軍の報告、このふたつがあるのならば片方どちらかが握りつぶされるって事も無いかも知れないね。
 心配性なのは性分でもないし、俺は出来る事をやるとするか。

「残りのみんなは俺についてきてくれ。それからニシカさん、お疲れのところ悪いですがッヨイさまのところに同席してもらえないでしょうか?」
「いいぜ、酒は十分胃を満たしてくれたからな。だがその前に便所だ便所」

 男装の麗人やラメエお嬢さまはこくりと了承してくれて、ニシカさんもまた同じだ。
 しかし蛇脚美人のソープ嬢だけは、最後の最後まで浮かない顔をしたまま、食堂の奥でとぐろを巻いていた。

「かえすがえすも、わたしという女は見る眼が無かった。ミゲルはさても恐ろしい野望を抱いていたのだからな。三〇年前にミゲルをわたしが助けさえしなければこの様な事にならなかったのかもしれない……」

 寂しそうにそんなつぶやきを漏らしたソープ嬢は、ふっと俺を見て悲しみの微笑を浮かべていた。

「だけどそのおかげで俺はソープさんと出会えたのだから、すべてを否定する必要はない」
「そうだな。わたしには今や夫となるべき愛しいひとが、目の前にいる。すまない、少し感傷的になった様だ。ダンジョンの外の世界はめまぐるしくて、とても騒々しい」

 だが刺激的でもある。
 そんな言葉を口にして天井を見上げたソープ嬢を残して、俺たちはッヨイさまのもとへ向かった。

     ◆

「やめてください放してください! 俺はただの行商人でスパイなんかじゃありませんからっ」

 領主館の表に出てみると、そこで何やら騒がしい騒動が起きている様だった。
 すぐにも俺はラメエお嬢さまを庇って下がらせる。
 すると前に飛び出して剣に手をかける男装の麗人であるけれど、どうも様子がおかしい。

「何事だ騒々しいぞお前たちッ」
「はっ。怪しい風体の男が政庁前に立っていたので、とっ捕まえて尋問していたところでした」
「本人は行商人と名乗っておりますが、これは我々が情報収集にあたらせる時によくやる変装ですからな」

 モッコリ頭の褐色長耳が、揃ってベローチュに報告をする。
 見れば若く擦れていなさそうな行商人が、羽交い絞めにされながら必死で抵抗を試みているところだった。
 知らない顔だ。

「お前は誰だ、官姓名所属を言えッ」
「タマランチと申します! タマランチと申しますお貴族さまっ。俺は日用品を集落に卸しているしがない行商人ですっ」

 男装の麗人が詰問するけれど、朝市に並んでいる商人のみなさんの中でも見覚えがないし、その場にいた全員が首を横に振ってその事に同意しているのだ。
 してみると戦争で景気が良いゴルゴライに、よそからやって来た商人かもしれない。

「みんな君を知らないと言っている。どこからやって来たんですかねえ?」
「ブルカ領内を横断して、街道を外れてわたってきました! ここに来ればゴブリン人形を買い付けられると聞いたんですよ。そうだ、ニシカ夫人に聞いていてくださいっ」
「ニシカ奥さまがこの場にいないからと言って、適当な事を言えば厳罰に処すぞ。本当のことを言え!」
「ヒッ」

 今ニシカさんは便所の最中だからね。
 いつだったかトイレを邪魔して鱗裂きの逆鱗に触れた事があるので、邪魔する事は許されない。
 ウンコだったら大変なことになる。

「ラメエお嬢さま、ニシカさんと合流した時にこのひとは見たか」
「いいえ旦那さま。こんなおじさんは知らないわ」

 ……おじさん。絶句した若い行商人はそのまま脱力してしまう。
 ついでに俺も完全に脱力仕掛けたところを、男装の麗人に支えられてしまった。
 そうだよね。吉田修太、三十三歳。行商人の青年でおじさんなら、毛の生えた少女から見れば俺も間違いなくおじさんである。

「ゴブリン人形を買い付けに来るという怪しい口上は聞いた事がありません。お前たち、その似非行商人を教会堂に連れていき、しかるべき修道騎士に尋問を依頼しろ。ツジンの放ったブルカの工作員の疑いがある」
「「ははっ、仰せのままに!」」

 男色男爵配下のモッコリ妖精隊は、そのまま旧知のベローチュ元分隊長の命令に従って青年行商人を運び去っていった。
 謀略の芽は未然に防がれたと言う事かな……

「やっぱり戦時下ともなると、怪しいおじさんがいるものね。全裸卿も暴漢に襲われるかもしれないから、味方の領内にいるからといって油断しない方がいいわ」
「う、うん。そうするよ」
「大切な旦那さまが、わたしと結ばれる前に傷モノになっちゃうなんて。そんなの絶対にダメなんだからっ」

 おじさんという単語がイチイチ俺の心に突き刺さるのだけれど、誰か俺を助けてくれ。
 そんな風に思っていると、領主館の中からスッキリした顔のニシカさんが姿を表すじゃないか。

「悪い悪い、オレの便所を待っていてくれたのか?」
「まあそんな所です。ところでニシカさん」
「……ンだよ。ウンコじゃねえぞ?」

 ブスリとした顔で俺が何かを言う前に否定をして見せるニシカさんである。

「いやそうじゃなくて……」
「ニシカ義姉さまには行商人の知り合いなんているかしら。何でも、ゴブリン人形を買い付けに来たとい変なおじさんが、ニシカ義姉さまなら自分を知っていると言って怪しいのよ」
「ああ、タマランチン野郎の事か? ブルカの南を走る街道辺りで塩や砂糖を売り歩いているケチな行商人の事だろう。オレ様と同じで酒が恋人という気のいいヤツでな、一杯奢って遣ったら情報収集に協力してくれたから、ここでゴブリン人形を買い付ける様に言っておいたんだ。オレは急ぎ旅だったから越境してからは別行動だったがよ、ん。どうしたんだ相棒?」

 誰かタマランチン君を釈放してあげて!


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