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異世界に転生したら村八分にされた 作者:狐谷まどか

第8章 ゴルゴライ戦線

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閑話 ニシカ夫人の恋人 中

 オレ様がブルカの街を訪れるのは、これで二度目の事だ。
 最初はオレと相棒、ギムルの旦那の三人で来たのだが、あんときゃ街に人間がしこたまいる姿を見て驚きを隠せなかったね。
 何しろ湿地で見た鹿の群れよりも多い人間たちが、街へ入るための市壁の門前に集まっていたんだからな。

「国法によれば、領主は自領内であれば検問を実施する権利を有するとされていますけどね」

 おしゃべり野郎のタマランチンは、オレが話し相手になってやるのをいい事に、アレコレとつまんねぇ話を延々と続けていやがる。
 だが蛸足ネーゼの話によれば、商人どもはこれが普通らしいね。
 互いに知っている有益な情報を交換して、危機管理をするものというじゃねえか。
 その辺りは森で得た獲物の情報を互いに交換する猟師だとか、冒険者ギルドの酒場でやる事と違いはねぇ。

 ただし酒は禁止だぜ。
 商人どもはどういうわけか旅中に酒を飲まねぇというからな、オレ様も奴隷商人らしく振る舞うためには酒も道中は我慢の子だ。
 赤鼻をした商人なんて見た事がねえからな!

「一方で辺境では領主間で互いに通告の無い検問をしないことは不文律によって決まっているんですよ。だから慣例として検問が実施されるのは街への入場に際する時だけ行われるんです」

 前回のブルカ行きの旅んときゃ東門から、オーガの部族討伐んときゃ西門から出入りしたんだけど、今回は南門から街に入る事になる。
 してみると、例によって門の前には旅人どもの待機列がぞろぞろと並んでいやがった。
 いやむしろ毎度のこと以上に厳しく検問が行われているらしく、

「どんだけ待たせれば気が住むんだ、待機列はまるで遅々として進まねぇ」
「ただし今は戦時下という事もあって、入場だけでなく退場の際にも厳しくチェックが行われているんでしょうねえ……」

 見れば、出入りの順には優先順位があるらしいな。
 空荷の台車を引く馬車どもは、すいすいと南門から吐き出されていくが、逆に旅荷をもった連中は出てくるのもまばらだ。
 重そうな荷馬車は中身をひとしきり確認すると吸い込まれるが、オレたちみたいな寄合の旅人連中は服から装備までしっかり調べるつもりらしい。

 ただしオレ様は胸元に蛸足ネーゼから預かった信書をしまっているので、こいつは簡単にはバレやしねえ。
 もちろん強引にさわれば大騒ぎしてやるつもりだ。

「通行税は取られる上に、下品な番兵がジロジロ見ながら触って来るからな。しかも税金まで取られるときたもんだ。やめちまえよな」
「それはそれで、領主さまの大切な収入源が無くなってしまうでしょう。本土では橋を渡るにも利用税、船を渡るにも渡税、領地を跨げば関税、商売をするには商人株の発布税。こうしてお貴族さまは税収を得て領地経営をするわけですからね」
「こんな検問は金輪際廃止にしやがればいいんだ。そうすれば人間の行き来が活発になって、街や村に金を落とす商人も増えるとオレは思うんだがよ。違うか、ん?」
「さ、さすがニシカ夫人の見識がありますね。学がある方はやっぱり違います!」
「わかってるじゃねえか、手前ぇは筋がいい」
「あ、ありがとうございます!」

 この調子だと市壁を通過する際は、このまま寄合馬車に紛れ込んでいても問題はなさそうだな。
 だがよ、出る時は厳しくチェックされるって事なら、やっぱりブルカを去る時は市壁を越えた方がよさげだな。
 ちったあ奴隷商人らしく見せるために身軽じゃねえチュニック姿だが、出る時はいつもの格好に着替えたいモンだぜ。ンな事を考えながら羽根窓から外を眺めていると、

「あんま近付くなよ」
「あ、ちょっと失礼します」

 ゴブリン人形を後生大事に握っていたタマランチン野郎もそれに続いて待機列を見やがった。
 オレが酒臭いとでも思ったのか、鼻をヒクつかせやがるんだ。
 馬鹿野郎、これでも極秘任務中は酒なんぞ一滴ものんでねぇんだ。今はまだな!

「何かの情報を持ちだされるとやっかいだからな。街へやって来る途中も、検問はオレたちブルカに向かう人間よりも、ブルカ方面からやって来た人間の方が厳しくチェックされていたぐらいだぜ」
「恐らくそれは、街の情報を外に漏らさないためにという配慮でしょうねえ。情報とは時に金になるものです、特に我々にとっては」

 知った様な口を利く若造の行商人だぜ。

「情報を欲しがっているのは、何も商人どもだけじゃねえだろう」
「と言うと?」
「敵対している盟主連合軍の連中はもちろん、ブルカの寄騎をやってる諸侯連中だって、今はブルカさまに尻尾を振っているがよ。これはブルカ同盟軍がしっかり纏まっている間はそれでいいだろうが、いったん負け戦になれば話は別だ。戦争の趨勢は街の東でやっているんだから、ここから領内に持ち帰る秘密の工作員どもが街に集まってるんじゃねえか?」

 そもそもまずもって、オレ様が秘密の工作員で情報を欲しがっている立場だからな。
 得意満面の笑みでオレがそう言ってやったら、窓の外を見ていたタマランチン野郎がマジマジを顔を見返してくるじゃねえか。
 な、何だよ。オレは結婚して旦那もいる身だからな。
 お前ぇの気持ちはうれしいが、応えてやる事は出来ないぜ。

「リンドルさまとの戦争、上手くいっていないんですかね……?」
「ど、どうだろうな。ここじゃめったな事は言えないぜ」

 あまりに真面目面で見返してくるもんだから、冷や汗が浮かんでしまったね。
 してみると若造の行商人は羽根窓を閉じて居住まいを正しやがった。

「確かに戦争に負ければブルカの物価は一気に高騰する事になるでしょうね。今でも日用品の類は流通が止まっていますし、戦火に巻き込まれれば物資の調達も、金貨の流通も停止してしまいます」
「どういう事だってんだ?」
「こいつの流通禁止命令が行われたことは、ニシカ夫人もご存知ですか?」

 タマランチン野郎はそう言うと、一枚の何の変哲もない騎士修道会銀貨を手に取ってオレに見せてくる。
 銀貨の表には女神様の奇跡とかいうのを示したΠのマークがあった。その裏には見覚えのある顔の女が刻まれている。
 だがこんな銀貨は見た事がない。

「この女性はブルカ聖堂会に降誕した女神様の聖少女をかたどったレリーフで、今年から流通している新しいデザインです。ところがこの聖少女さまがリンドルさまの率いる盟主連合軍とかいうのに参加していまして」
「ほう……」

 まさかその姉ちゃんがオレ様の奥さん仲間だと言えば、こいつはきっと驚いただろうね。
 だがオレだって立場というものをわきまえているからな。秘密の工作員としてそこは黙っておいたぜ。
 するとタマランチン野郎はこんな話を続けた。

「きっとニシカ夫人は南で商流の開拓をなさっていたので知らなかったんでしょう。聖少女さまに続いて騎士修道会の総長さままでリンドルさまにお味方したってので、もうブルカさまはカンカンですよ。噂ではその総長さまが、ブルカに駐留する王国兵団に騎士修道会が攻め寄せたらしいですよ」
「それじゃあこの尋常じゃねえ検問の数も納得だ。高貴な身の上の連中も、きっと情報が欲しくてしょうがないんだろうぜ、その政変のな」

 まさにオレ様が求めていた情報について、こんな若造の行商人から聞かされるとは思わなかったぜ。
 喋り過ぎのタマランチン野郎にオレはこう言ってやる。

「新鮮な情報は金になるんだったな。お前ぇは将来、優秀な商人になる事が出来るだろうぜ。オレ様が保証してやる!」
「あ、ありがとうございます!」
「ところでお前ぇはブルカの宿の予定はどうするんだ? オレは南門の近くにあるカラメルネーゼ奴隷商会という場所に滞在しているんだがよ、今夜あたり情報交換をしねえか? 実はいい酒を飲ませてくれる店にアテがあるんだよな――」

 タマランチン野郎の事を軽く褒めちぎってやると、ヤツは大喜びで顔を上下に振りやがった。
 酒を奢ってやると言えばふたつ返事で情報収集に協力してくれると言ったね。
 オレ様の恋人は誰からも愛されていると知って気分も上々だぜ。しばらく酒は()っていたけれども、

「せっかくだぜ、今夜は逢引きと洒落こもうじゃねえか」
「どこまでもお供します、ニシカ夫人!!!」

 まぁよ、相棒(シューター)の野郎がいないので最高の夜とまではいかねぇが、そいつはタマランチン野郎が持って来る情報を酒のアテにするしかねえな。
 最高の提案をした気分になったオレ様は、何度も若い行商人の肩をバシバシ叩いて上機嫌になった。

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