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異世界に転生したら村八分にされた 作者:狐谷まどか

第8章 ゴルゴライ戦線

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283 アレクサンドロシアの逆襲 2

連続更新です!

 ブルカ騎士のフリをして敵陣の再集結にさり気なく加わったアレクサンドロシアちゃんモドキのッヨイさまは、出来るだけ言葉で幼い口ぶりがバレない様にと苦慮したそうだ。
 なにしろ中身が未成年であるから、これはしょうがない。
 ついでに軍馬にまともに乗った事が無かったので、ほとんどはじめてひとりで乗った馬にえらく苦労したらしいね。

「本当に大丈夫なのかいッヨイさん。わたしの背中に乗っていた方が安全だと思うんだけどね」

 馬上で必死にしがみ付いている大人ッヨイさまをサポートしていたのは、カサンドラの従姉マイサンドラだった。

「世の中を見回しても、軍馬に二人乗りする騎士はいないのです。笑いものにされてしまうので……であるのだ、です!」
「いや、わたしの前では別に口調は気にしなくていいから。それで本当にツジンさまに合わせてくれるんだろうね……」
「わかったのです。ありがとうなのです……」

 霧の奇襲作戦において初期の配置で森の中で待機していたのは、マイサンドラやッワクワクゴロさんたちサルワタの猟師連中を中心にしたハンターチームだった。
 数にすれば戦力としては期待できないものだったが、いざ森の中で作戦をする際は猟師出身の戦力は有効活用出来る。
 本来はサルワタ領邦の広域から集めた猟師連中で、森を通過してサルワタ側に侵入しようとする敵の工作員や斥候を仕留める事を目的としていた彼女らだが、その最中に遭遇した敵の偵察兵たちを何人も仕留めていたのだ。

 ッヨイさまはそこから敵兵の装備を奪い、少ない護衛を連れて敵の中に紛れ込んだのである。

「バレていないわよね。血だらけの装備しかなかったけれど……」
「かえってこの方が臨場感があっていいんじゃねえかマイサンドラ、それよりッヨイさまだ。お嬢ちゃんがブルカ騎士然としていない事には俺たちがいくらうまく偽装していても、バレてしまうからな」
「わかっているよ。ああほら、あんまりキョロキョロしちゃいけない……」

 この敵中侵入に参加したのは復讐に燃えるマイサンドラと、そしてゴブリンの猟師リーダーであるッワクワクゴロさん、そしてその妻のシオンだった。
 シオンはニシカさんの妹で、絶賛猟師修行中の注目株だ。ニシカさんの様に強力な風魔法を使いこなすまでは出来ないけれど、それでも強弓を使いこなせるだけの体力はある。
 それに猟師だからなのか黄色い蛮族の娘だからか、敵に紛れて工作をする上で非常に身体能力が優れているという事で、マイサンドラが意見具申したらしい。

「まずは敵の後方を調べるのです。ブルカ領兵の集まりに混じるとバレてしまう可能性があるので、諸侯の寄騎の中に混じっている方がいいのです」

 そんな風にッヨイさまは考えながら、度重なる戦闘で離合集散を繰り返していたブルカ同盟軍の後方にしれっと紛れ込んだのである。
 問題は万を超える軍勢となっていたブルカ側の、戦力について完全に把握しきっていなかった事だ。

 これは敵方もッヨイさまも同じ事である。
 第一梯団の集団は八〇〇〇からなる軍勢で、そのうちの大半は初撃の霧の戦いで離散している者だったから、ッヨイさまはツジンの率いていた軍勢に合流するべく再集結する小部隊、という体裁で接近を試みた。
 逆を言えばブルカ同盟軍側の第二梯団は、寄騎部隊を加えた大軍団だった事もあって、ッヨイさまたちの偽装工作部隊が紛れ込んでいても、何も気付かれなかったのである。

「それで、わたしたちは何をするんだいッヨイさん」
「ッヨイたちは敵がどれぇたちの立てこもっている、シャブリン修道院に対して総攻撃を開始した瞬間に、後方で攪乱任務を実施するのです」
「攪乱任務って、要は付け火や同士討ちを演出すればいいって事かしらね」
「簡単に言えばそうなのです」

 けれどもこの時のようじょは、いにしえの魔法使いの禁呪に手を出して強力な魔力を有するに至っている。
 時間にして半刻ほどしかそれが維持できなかった最初の古代魔法の使用時点より、わずかだが継続時間が長くなっているのだと後日教えてくれた。

「それでも、せいぜい半日ぐらいしかその大人の体を維持できないんだろう」
「そうなのです。だから成功するかどうかは本当に時間との勝負なのですが、それよりもこれを、敵陣のあちこちに仕込んでおくことが大事なのです」

 豊かになったようじょのお胸は便利なものだ。
 本人曰くアレクサンドロシアちゃんより若干小ぶりな胸ポケットに仕舞い込んでいた護符を引っ張り出して、これを護衛の兵士に扮したッワクワクゴロさんやシオさんに渡す。
 護符は当然、女魔法使いマドゥーシャがせっせと内職していたものだが、これを集結中の敵の中に埋没させるというのである。

「どういうんだい。わたしは魔法が使えないけれど。取り扱いに注意が必要なものなの?」
「大丈夫なのです、これはただの護符なので、魔法を詠唱しなければ発動しないのです。どれぇのどれぇに、その様に魔法陣を書いてもらったのです」
「え、それって、誰が詠唱しても勝手に発動するんじゃ」
「そういう事なのです」

 つまりこれを敵陣のあちこちに仕込んでおいて、誰かブルカ側の魔法使いなり魔法が使える人間が使用すると、勝手に連鎖発動するという恐ろしいものだった。
 勝手に攻撃命令の電波を受信してドカンするわけである。恐ろしいね!

「これを敵に気付かれない様に、出来るだけ同盟軍に参加している諸侯の軍勢に配りましょう」

 そんな説明を、集まりつつあるブルカ側の軍勢の側でしていたところ、

「おお、まだ生きている軍勢がいたか! こっちだ、こっちに来てくれ。諸卿らはどこの所属部隊であるか」
「わたしたちはツジンさまの指揮下で活動していた、アンクルハーゲン騎士爵の部隊です」

 まだ戦場で土埃に汚れてもいない真新しい騎士装束を身に着けたブルカ騎士がひとり、部下を伴って手を振りながら近づいてくるではないか。

「アンクルハーゲン卿か、名前は知っているぞ! アンクルさんは此度の戦でも大活躍であらせられたか」
「見ればわかるでしょうが、アンクル卿は戦闘中行方不明、この通りわたしたちは、一矢報いるために敵中突破してこの有様なのよ」

 言葉つたないッヨイさまを制して、ツジンのところで工作員経験のあったマイサンドラがつらつらと現状説明をしたのだ。
 アンクルハーゲンというのはツジンの婿養子という男で、俺がバジル大作戦で捕まえたブルカ騎士だ。
 すると絶対アンクルの事を知らないだろうという感じのブルカ騎士は「それは残念だった」などと言いながら、ッヨイさま主従を味方に引き入れるのだった。

「ただちにツジンさまにご報告しなければならないが、それよりも使命があるわ。第二陣の幕中にアンクルハーゲン騎士爵のお身内がいるので、ご報告しなければならないの」
「そうかそうか。ではツジンさまには俺の方から報告をしておこうか」
「馬鹿なことを言わないでちょうだい! 命令無く後退する事をツジンさまがお知りになれば、わたしたちは皆殺しじゃないの。アンクルさまの仇を討つために、泣く泣く恥を晒し生き延びたのよ。その償いはこの戦に勝利してからでなければならないの」
「う、うむ。それであれば、しばらく俺は貴公らを見なかったことにしなければならない。アンクル卿がせめて異世界にすこやかに魂を旅立たせるよう、その方らの志が成就する様に女神様に祈りを捧げよう……」
「そうしてちょうだいな」

 ッヨイさまを制止したままで、つらつらと大法螺を並びたてたマイサンドラである。
 その辺りはさすが工作員としてスルーヌや別の場所で活動していただけあって、言い訳の常套句というものを知っていたのだろう。
 上手く丸め込まれてしまったブルカ騎士はそう言って黄色マントを翻して離脱した。
 あまり言葉を語っているとボロが出ると判断したッヨイさまは、そのまま他の面子を見回してすぐにも女魔法使いの護符を埋設する様に目配せした。

「ッヨイはこのまま、敵の情勢を探っておこうと思うのです。この先は諸侯の領軍の集まっている場所なので、コソコソやっていてもバレないはずなのです!」
「わ、わかった。シオを付けておかなくても大丈夫かな」
「大丈夫なのです。それよりも、埋設作業が終われば、出来るだけ早く離脱してくださいなのです」
「それでッヨイのお嬢ちゃんはどうされるんだ」

 女領主を気持ち若くしたような顔を見上げながら、ブルカ兵士の格好をしたッワクワクゴロさんがそう質問すると、無言で首を左右に振って見せる大人になったようじょである。

「ッヨイの事は心配しないでください。強力な魔法を使う事が出来るので、敵が包囲を狭めて攻勢をはじめれば、ひと暴れするのです」
「わ、わかったわ。あまり無理はしない様にして頂戴よね、あなたに何かあれば確実にシューターにわたしが折檻されるんだから。もうこれ以上の拷問を受けるのはたくさんだわ」
「ふふっ、大丈夫なのです。ききいっぱつの時はどれぇと合流すれば、守ってくれるのです」

 ま、シューターは物理的に一騎打ちさせれば最強らしいからな。
 そう言ってマイサンドラの背中をポンと叩いてみせたッワクワクゴロさんは、すぐにも示し合わせて護符の埋設に散っていった。

 血の滲んだボロボロのブルカ兵の格好は、かえって戦場の臨場感を偽装工作チームに凄みを与えて、結果的に誰も声をかける事が無かった。
 さすがに敗戦から這う這うの体で合流した味方と見て、誰も声をかけずに気を使ったからだろう。
 けれどもそれが功を奏したと見えて、ツジンが俺たちに即時武装解除を要求していたその頃、上手い具合に護符の埋設に従事する事が出来たのだ。

 そうして、ブルカ同盟軍の戦闘部隊がどの様な構成になっているのか、不慣れで乗っている事を諦めた軍馬の手綱を引きながらつぶさに見て回っていたところ、

「うわぁ! もごっ……」
「シイッ、ドロシアさん。こんなところで何をしておりますの?!」

 豚面の猿人間たるオークたちの兵士ばかりで固まってる軍勢の中で不意に背後を取られたのだ。
 いきなり伸びて来た触手で軍馬から引き離されたかと思うと、そのまま口をふさがれたのだ。
 すわ敵に自分の正体がばれたのかと大人になったようじょは抵抗しようとしたけれど、すぐにも触手がいくつも体に絡みついて、そのまま幌馬車の中に引きずり込まれたのだ。

「こっちへ、幌馬車の中へ。モンサンダミーさんは軍馬を」
「おう、了解ですぜ。いったいなんだってアレクサンドロシアさまが敵の陣中に……」
「ふごふごっ……」
「まったく、もしや万策尽きて血気にはやったのではありませんこと? さあ、落ち着いて話してくださいましな」

 幌馬車の中でようじょが見たものは、叔母の貴族軍人時代からの戦友であるカラメルネーゼさんと、そしてかつての副官モンサンダミーだったのだ。

「ど、どうしてカラメルねえさまと、モンサンダミーさんが?!」
「わたくしたちは敵軍の中に忍び込んで情報収集をしておりましたのよ。それよりもドロシアさん、どういう事ですの、これでは婿殿が包囲されて、絶体絶命のピンチではないですか。さあご説明くださいましなアレクサンドロシア!」
「うぐ、ぐるぢいのです。ッヨイは、ドロシアねぇさまではないのです……」

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