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異世界に転生したら村八分にされた 作者:狐谷まどか

第8章 ゴルゴライ戦線

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282 アレクサンドロシアの逆襲 1

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 若き日々を国境地帯の戦場で過ごして来たアレクサンドロシアちゃんは、最後まで辛抱強く戦う事の意味をよく理解していた。
 まさか完全な攻勢状態から、あっけなくリンドル兵を率いるマリアツンデレジア隊が突破されて戦線崩壊するとは誰も思っていなかったはずだ。
 それでも事実リンドル弱兵が戦線を抜かれた直後に、アレクサンドロシアちゃんは側面から食い下がる様に攻撃をしつこく繰り返して、それが叶わないとわかれば即座に戦力をいったん集めるという決断を下した。

「このままでは総指揮官マリアツンデレジア卿が孤立してしましますっ」
「構わぬ! 今ここで寡兵でもって突撃を繰り返しても、いたずらに戦力を消費するだけだ。それよりも突破火力を集めて、しかる後に強行突入を図る方が合理的というものであろう」

 後退を指示した女領主に対して、信じられないものを見る様に護衛の騎士エレクトラが言い返したそうだ。
 けれどもまるで動じないアレクサンドロシアちゃんは、即座に野牛の騎兵や残った修道騎士などの突破戦力をいかに有効に活用するかに思考を巡らせたらしい。

「オコネイルと、ドラコフ卿の援軍が側面を突いて、マリア卿の本陣と合流したのであろう? それに御台どのの側にはシューターめが付いておるのだ。夫を信頼し、今は救出する事に全力を注ぐことこそがわらわたちの務めであろう」

 入り乱れる情報の中からも、重要なものをしっかりと聞きつけていたアレクサンドロシアちゃんである。
 軍馬を走らせる中でもその事を判断して、北部森林地帯への再集結を残余の全軍に命じた。
 これが俺たちがシャブリン修道院まで前進した後に、敵の第二梯団によって包囲された時に起きたやり取りであったらしい。

 いったん軍勢が再集結を開始すると、野牛軍団のタンクロード隊やサルワタのギムル隊、それに義弟エクセルパーク隊、最終的にこれへようじょとその護衛たちなど、諸侯の軍勢が続々と集まれば、何とか数千余りからなる一戦交えるには十分な戦力を女領主は掌握したのである。
 そしてまだ敗走した各部隊に所属していた逃亡兵たちも、徐々にではあるがアレクサンドロシアちゃんの元に集まりつつある。
 最終的には四〇〇〇を超える盟主連合軍の戦士たちが再集結する事になった。

     ◆

「マリアツンデレジアさまはシャブリン修道院を盾に籠って、あくまでも抵抗する構えでいるらしいですね。側にはオコネイル卿の他に、ドラコフ卿やベストレ卿、それからシューターくんたちが合流しているらしい。せいぜいシャブリン修道院に籠る軍勢は一〇〇〇余に満たない敗残の兵だと思われますな!」

 森の中の小さな広場に集まった諸卿たちを見回して、現状分析と救援のタイミングを説明するエクセルパークは、慣れない作戦説明で顔を緊張させながらも必死でそれを続けた。

「敵の軍勢は、物見の報告によれば一五〇〇〇にものぼる大軍勢だそうで。けれども全ての軍勢と一度に戦う事になるわけではないとアレクサンドロシアさまはお考えです」

 だからその点は安心なはずですな、と自分に言い聞かせるようにエクセル卿は言った。
 しかし、一敗地まみれて完全にションボリ顔をしていたらしいデルテ騎士爵は、ブルカ同盟軍側の兵数を聞いてますます土色の顔になったらしい。

「確かに包囲している敵を攻撃するのであれば、背後あるいは側面から一撃すればいいので、相手にしなければならない敵は四面の一か所だけという事になります。その理屈は当然ですが、相手は作戦の神様と恐れられているツジン何某という軍師なのでござろう。いかに養女さまがそう申されましてもな、手筈がない」
「さようさよう。これまで散々敵の精鋭だと思っていた敵も、今にして思えばブルカ領軍では当たり前のレベルの部隊だったこともわかってきた。敵の真なる最精鋭は今度こそ現れたフルプレート戦隊ではないのか?」
「だとすれば、同格の数でぶつかり合っても分が悪いという事は明明白白。いかに兵数で局地的に優勢になったとしても、実力で押し返される可能性がありますな」

 完全に腰の引けた軽輩諸侯たちの口ぶりに、アレクサンドロシアちゃんは憤怒の表情のまま黙り込んでいた。
 そこでエクセル卿は作戦の続きを口にしようとしたのだけれど、

「方々、こんな調子では勝てる戦も勝てませんよ! シャブリン修道院には盟主連合軍に名を連ねた友軍の諸侯たちが押しとどめられているのです。これを助けずして戦争の遂行はありえません!」
「そうだぜお貴族さまのみなさん、マリアツンデレジアさまがおっ死んでしまったら、この戦争はもうおしまいだぜ!

 すると女領主に仕えるふたりの騎士、エレクトラとダイソンが強い口調で抗弁した。
 女領主と過ごす時間が長くなるにつれて、この二人は癇癪持ちの主君に影響されたのか血気盛んな発言がよく飛び出してくるようになって来たのだが、あべこべにお家大事の諸侯たちによっては、ここで負ける事がイコール領主家の存亡にかかわるのだから厳しい態度だ。

「お貴族さまと他人事のように言うが、貴公らも揃ってサルワタ領邦の騎士ではないか。騎士と言えば貴族だ、なれば後先の考えなしにモノを言うものではないわ」
「これだから成り上がりの騎士はいかん。少し前までは雇われの護衛にすぎなかったというではないか、そこなタコ入道は」
「な、何だと! 許さねえ決闘だ、武力解決手段(フェーデ)でどちらの言い分が正しいか白黒つけようじゃねえぁ」
「で、でかい。いやそう言うつもりはなかったのだ、謝罪する」

 諸卿とダイソンが口論になって刃傷沙汰一歩手前にまでなったらしい。
 確かにこの日和った態度の軽輩諸卿たちの言い口はいただけないけれど、大貴族である男色男爵もマリアツンデレジアも、ドラコフ卿もベストレ卿も欠いた軍議とあってはしょうがないのかもしれない。

「デルテさま、このまま負け戦のままでいいんですか。あたしはあんたならばシューターさまを救い出してくれると信じているんですがね!」

 そこで、これまで好戦派のデルテ卿に救いを求めようと、エレクトラは話を振ったらしいのだが、これは藪蛇になってしまった。
 その際にまるで私情を挟みまくりの発言だったものだから、あちこちから諸侯の抗議が上がったらしい。

「自分の意中の人間だけ助けるために、我らを巻き込むというのか」
「むしろシューター閣下だけであれば殺しても死ぬことがないというのに。辺境不敗たる全裸の守護聖人だ」
「あっあたしは別にそんなつもりでは……」

 しどろもどろになったエレクトラであるけれど、そこは話題を振られたデルテ騎士爵が言葉を挟んだことで、それ以上の紛糾は回避された。
 土色の顔をしてはいたけれど、体の芯に宿る闘争本能までは失われてなかったらしい。

「戦った俺の感触からすれば、敵の精鋭と称している連中には共通点がある。不退転の決意というのか、基本的には部隊を率いる指揮官の命令なくして、後退はあり得ないという姿勢だ。その点においてブルカ領軍の兵士たちはしぶとく、粘り強さがあるな」
「デルテ卿の意見にはおれも賛同するな。蛮族の大領主どもが直卒する軍勢はとにかくしぶといものがある。だが逆に同盟軍とやらの小領主たちの軍勢は、これは烏合の衆という感じがした」
「おお、野牛のタンクロード将軍もそう思われるか」

 戦場ので得た経験を冷静に分析していたデルテ卿の言葉に、サルワタ領邦でもっとも戦闘的な男であるタンクロードさんから助け船が入った事で、ふたりは手に手を取り合った。
 なるほど。
 すべてのブルカ同盟軍が想像以上に強いわけではないのだ。
 弱点は存在し、そこを突けば確かに有利に事を運ぶ事が出来ると、タンクロードは理解していたのだな。

「さればわが領主に意見具申する。エクセルパークどのの言う、再集結なった友軍による反撃の糸口は、敵の烏合の衆を一撃貫く点に力を置くべきではないだろうか。攻撃の正面は俺の鍛え上げたミノタウロスの騎兵がやってのける。許可をくれ!」
「俺もこのまま負け戦というのでは、恥辱をそそぐことも出来ない。今一度俺にチャンスを下さる事は出来ないだろうか。シューター閣下のご期待に応えられなかったぶん、必ずお救い申し上げたい」

 野牛と熱血が意気投合したおかげで、軍議に参加していた他の諸侯たちは思い切り困惑だった様だ。
 そりゃそうだ。こいつらまだやる気なのかと驚いたのもあるだろう。

「しかしこの戦力が、我らにとって残された最終的な戦士たちですぞ。負ければこのまま壊走する事になる」
「さようさよう、であるならば乾坤一擲の作戦は慎重であるべきだ。アレクサンドロシア卿、もっと何か具体策を持って挑みませんと」
「しょ、諸侯がた落ち着かれよ。ご決済は義姉上が行うものであるからして」
「黙れこわっぱ!」

 これは後になって軽輩諸侯が祝宴の席で漏らしていた事だけれど、この時は実に、戦後処理をどう切り抜けるべきか盟主連合軍の小領主たちは怯えきっていたのだそうだ。
 ブルカ側の勝利に終われば戦争責任を追及されることは間違いないし、本領を離れて従軍した彼らも、逃げ帰る道中で落ち武者狩りにあうわけだからな。
 だから他の軽輩諸侯たちは反論したのである。

 こうして右と左に意見が真っ二つにわかれたものだから、事情説明をしていたエクセル卿もほとほと困り果てた。
 困り果てた上に、肝心の決裁権を持ったアレクサンドロシアちゃんが黙して語らないものだから、全員が不安になっていたのである。
 一同の注目が集まっている事も余所に、ずっと女領主は腕組みをして天を仰いでいた。
 しばらくは考え込んでいるのだろうかとみながその場で押し黙って結論を待ち続けていたところ、

「キュイ?」
「あのう、アレクサンドロシアさま。ご命令通り、バジルちゃんを連れて来ましたけれども……」
「まったくこの赤ちゃんは! 森の中を散策しようと勝手に走り回っていたんですよう。やんちゃなところは旦那さまに似て来たんですかねぇ」

 そこに現れたのは大正義カサンドラとタンヌダルクちゃんだった。
 大規模な平原の決戦という事で特に出番のあるはずがなかった肥えたエリマキトカゲを抱いて、カサンドラが軍議の場に集まったみなさんを見回した。
 そこでようやく伏せていた眼を見開いて、カサンドラからバジルを受け取るとこう口を開いたそうだ。

「そなたらはワイバーンやバジリスクを討伐した事はあるかの。わらわはあるぞ、その咆哮に魔力を宿しているという事を知っている。一度そのバインドボイスを耳にした者は恐怖に心を打ち震わせ、ある者は呆然とその場に立ちすくむしかなく、またあるものは腰を抜かして失禁をするのだ」

 その腰を抜かして失禁をした事があるアレクサンドロシアちゃんが、肥えたエリマキトカゲの首根っこを持ち上げて周囲に見せつける。

「これが何に見えるかの」
「こ、肥えたエリマキトカゲでしょうか」
「キッキッベー」

 おずおずと疑問を投げかけた軽輩諸侯に、女領主は一喝するのだ。

「馬鹿者、これはわらわたちの家で飼っているバジリスクのあかちゃんである!」

 この様なナリをしているが、十年もすれば立派なバジリスクの成獣になるであろうから間違いない。
 もしかしたら何十年先かも知れないが、ひとまずその夜泣きがいかに強烈なものであるか、サルワタの人間ならば誰もが知っている事だった。

「そうか。義母うぇい……アレクサンドロシアさまはバジルを使って敵を混乱させ、突入するとうのだな。なるほど素晴らしい提案です!」
「これならばいかに強力な精鋭であろうとも、強引に突破をする事が出来るな!」

 これまで黙り込んでいたギムルはすぐさまその意図を察知して、賛成の側に回ったらしい。
 同時に、バジルの効力を稲妻作戦で経験しているデルテ騎士爵も同意するものだ。
 こうして森の中で再集結を完了したアレクサンドロシアちゃん率いる逆襲部隊は、バジルのバインドボイスで敵に痛烈な混乱を与えた後に、突破攻撃を行うという作戦をみんなに示したわけだが、

「ところでアレクサンドロシア卿の妹御、ッヨイハディさまはどちらにおられるのですかな?」
「そう言えば軍師どのが見当たらない」
「最後の一戦でケリをつけるともなれば、養女君の魔法火力には大活躍してもらわなければならんのですからなあ」

 諸卿たちは辺りを見渡して口々にそんな事を言った。
 本来ならばこの場を取り仕切って作戦説明するはずのようじょではなく、エクセルパークさんがそれをやっているのもおかしな話した。
 真っ先にその事に気が付いたギムルやデルテ卿も顔を見合わせていたけれど、

「安心せよ。あの小娘はブルカ騎士の甲冑を着こんで、敵中潜伏のために乗り込んでおるわ」
「ギュウ?」

 アレクサンドロシアちゃんはニヤリとした表情で一同にそう言ってのけた。
 これには何も聞かされていないカサンドラやタンヌダルクちゃんも頭に疑問符を浮かべてしまう。当然この時、ようじょは禁断のいにしえの魔法を自らに使い大人のレディになっていたのだが、その事は誰にも秘密であったのだ。
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