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異世界に転生したら村八分にされた 作者:狐谷まどか

第8章 ゴルゴライ戦線

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281 いにしえの禁呪魔法の威力を俺はまだ知らない


 半信半疑の気持ちを抱きながら、大人のレディに俺は質問した。

「……あ、あなたはもしかしてッヨイさまですか?」

 敵味方入り乱れる激しい戦いの中で、俺も場違いな質問を口にしたものである。
 先ほどまで苛烈にして圧倒的な、紅蓮の暴力とも言うべき魔法を連発していたアレクサンドロシアちゃんモドキの女性を両の腕に抱きつつも、この場のだれもが一番気になっている事だ。

「そ、そうなのです。いにしえの魔法使いが行った禁呪で、おとなの体を」
「つっつまりこれは、将来こう成長するであろうッヨイさまの大人な姿という事ですか?!」

 アレクサンドロシアちゃんモドキの女性が、困ったさんな顔を浮かべながらイエスと言ったものだから驚きだ。
 すぐにも数名のブルカ兵を斬り伏せた雁木マリが翻って、俺たちの側まで身を寄せる。

「その魔法は、カサンドラさんから禁止されていたんじゃなかったの?! いいえでも、それはこの際どうでもいいわよね。禁呪の方法を使えば強力な魔法を使う事が出来るというのは、本当だったのね」
「おとなの体をしていれば、魔力をたくさん体の中にため込む事ができるのですあいぼー。ただし、おとなの体を維持するのは一時的なのです」

 だからいつまでもこの姿でいられるわけではないから、時間との勝負だったのです。
 大人になったようじょの体を起こしてやりながら、警戒態勢を取った。
 今はけもみみと男装の麗人が大人になったようじょを守るために敵を寄せ付けない体制をとっているが、いつまでもまごついている場合ではない。

「あの強力な魔法はまだ使えるのッヨイ?」
「まだいけます。ただ反動がすごいので、サポートしてくれると嬉しいのですどれぇ」

 雁木マリの肩を借りながら立ち上がった大人になったようじょである。
 その質問にうなずいて見せると、ゆっくりと上目遣いで俺に視線を向けてくるではないか。
 アレクサンドロシアちゃんと同じ顔をしているけれども、その仕草はどこかあどけないものが内包されていた。
 もしもこれが女領主であれば計算づくの、こうすれば俺が喜ぶであろうという意図した確度で完璧な上目遣いで訴えかけてくるのだ。
 してみると、あどけない顔に曇りなき眼で俺を見上げてくる大人になったようじょのそれは、天然素材そのものだった。
 かわいい確信。

「わ、わかりました。森の中に逃げ込んだ友軍が、戦闘態勢を整えて攻勢に出ると言っていましたね」
「そうなのですっ」
「そのタイミングがどこなのか。それと、カラメルネーゼさんが敵の内部に潜んでいるとも」

 混乱の中で状況を把握するために、ひとつひとつの質問を投げかけていく。
 すると大人のレディとなったッヨイさまは、コクリと頷きながら手をかざして、自らも戦いの中に参戦する姿勢を見せた。

「フィジカル・マジカル・いっけー!」

 ようじょのかざした先は、ちょうど男装の麗人とッジャジャマくんが、ブルカ同盟軍の歩兵たちを相手に苦戦を強いられているところだった。
 そこへ大人のレディビームが発射されると、着弾の瞬間に大爆発が起きた。

「ッヨイは敵のブルカ騎士の身ぐるみを剥ぎ取って変装をしたのです」

 その足でブルカ同盟軍側にさり気なく合流しながら、俺たちを包囲していた間の敵陣営をくまなく偵察行してきたというのだ。
 通常であればそんな怪しい偽ブルカ騎士は怪しまれてしかるべき状態だろう。
 けれどブルカ辺境伯そのひとが敵の手中に落ちるという大混乱の中では、援軍として到着した後続の第二梯団に潜り込む事はさほど難しくはなかったらしい。

「それにブルカのせーえー部隊が加わっているのです。隣国との国境紛争で活躍していたせーえーなのです」

 俺たちの眼の前に展開している万余の軍勢は、ッヨイさまによればフレディマンソンというオレンジハゲの嫡男が率いている軍勢らしいのだ。
 第二梯団はそのフレディマンソンを指揮官とする、主に西部辺境地帯の本土により近い有力諸侯たちを率いているらしく、ゴルゴライ攻略の決定打となるべく戦略予備として動員された国境から引き揚げてきた精鋭部隊が控えていたというではないか。


「そこで情報収集中のカラメルネーゼさんと邂逅したのね? 彼女は街でブルカ政変の状況を探る手はずになっていたはずだけれども……」
「カラメルねえさまもそのつもりだったのですが、あのおみ足なのでブルカの城壁を越えて潜伏する事ができなかったのです。だからツダの村の募兵の中に潜り込んで、可能な限り同盟軍の構成を探り出そうとしていたのです、あいぼー」
「そういう事なのね! じゃあニシカさんも?!」

 近付く敵のひとりを斬り伏せながら雁木マリが質問をすると、大人になったようじょは首を横に振った。

「いいえ、おっぱいエルフは別行動なのです!」
「じゃあニシカさんはこの戦場にいないのか、彼女なら潜伏や工作は得意にしていると思ったのだが」
「そうなのです。ただうれしいお知らせも聞いているのです!」
「嬉しいお知らせ?」
「どれぇ、背中を抑えてくださいっ」

 叫びながらそんな風に言った大人になったようじょは、俺の胸板に背中を押し付けるようにすると例の両手をかざした強力な魔法の態勢に入った。
 柔らかな大人の熟した色気ともいうのだろうか、こんな時にも関わらずアレクサンドロシアちゃんの顔をしたようじょに俺は妙な気分を感じてしまった。
 だってこれは奥さんと同じ顔をしているんだからしょうがないのだと、そう思う吉宗であった。

「どれぇが背中を支えてくれれば、さっきよりもっと強力な魔法を使う事が出来るのです。いにしえの魔法使いたちはこの魔法で、ワイバーンもいちころだったのです!」
「わ、わかりました。ッヨイさまは思う存分、爆裂魔法を使ってください!」
「了解なのです! フィジカル・マジカル・ふるばーん!!」

 ようじょがそう叫んだ瞬間の事だ。
 俺たちの眼の前に、見た事とも無い魔法陣の様なものが眼前にあらわれたのだ。

 普通、魔法を使う時はようじょも女魔法使いも、魔法の発動体を利用する。
 領地経営のために魔法発動体は売り払ってしまったというアレクサンドロシアちゃんは、そのために強力な魔法を使用する際にかなりの時間を要して魔力から攻撃魔法を練り上げていたけれど、今の大人の体を手に入れたッヨイさまはそれすらも不必要だった。

「いっけー!!」

 してみると眼前にあらわれた直径一メートルあまりの魔法陣は何なのだ。
 魔法の詠唱と同時にそれが直列でふたつほど並んで魔法陣を形成し、ただのバレーボールほどの火球がそのふたつの魔法陣を通過して、みるみる強大化したのだ。
 はじめがバレーボールほどだったそれが、直列に並んだ魔法陣を飛び出すときには大火球となって飛び出していったのである。

「ぐっ。これが紅蓮の魔法の、古代魔法の威力……」

 射出の瞬間にズンと押し付けられ大人なようじょの背中が俺にぶつかって来る。俺はたまらず足を開いてそれをしっかりと受け止めたが、傍らで剣を構えていた雁木マリもそれを支える様に俺の背中に腕を回した。
 それでも瞬きを許さないほどの発光を帯びた紅蓮の大火球の威力は反動すさまじく、たまらず吹き飛ばされそうになるのだ。

 大火球はそのまま放物線を描く様に上空へといったん打ち上げられると、まるでその攻撃魔法に重量がある様にして敵軍の只中に落下直撃したのである。
 敵は魔法を警戒して少人数単位で出来るだけ固まらない様に散っている。
 だがそんなこのファンタジー世界の戦場における常識など無視する様に、いやそれを上回る大火力と範囲攻撃で、紅蓮がブルカ同盟軍の将兵たちを呑み込んだのである。

 直後、俺たちは落下直撃の衝撃に見舞われた。
 先ほどまでの閃光など比ではないきらめきが発生して、暴風と小石の破片、そして土煙をまき散らして紅蓮の魔法は四散した。
 これは馬上では出来なかった、全力の紅蓮魔法なのだろう。
 確かにこれを馬上でやれば、軍事訓練を受けている軍馬であっても錯乱状態になるし、ようじょもただでは済まないはずなのである。

「…………」
「……すごい、わね。何も残っていない」

 紅蓮で死すべし慈悲はなし。
 ぼっこりと眼の前に広がった巨大なクレーターを見て、俺は絶句しマリはうめきを漏らした。
 当たり前だ。

「これまでで、一番高威力の禁呪魔法を使ったのです。えへへ」
「何という攻撃力なのかしら。いにしえの魔法使いはこれほどまでも、あなたッヨイは大丈夫なの……?」
「ッヨイは平気なのです。ちょっとお股が濡れそうになったけど……でも、どこを見回してもこの先は敵だらけなので、当たれば大被害なのです。大軍がいるせいで被害も甚大なのです」

 ようやく力をすっと抜いてポフリと俺に身をあずけたようじょが笑った。
 だけれど俺はその笑顔に戸惑う。
 あまりの衝撃なもので、まだ言葉がないのだ。

「ご、ご主人さま勝機です!」
「よ、よしわかった。一気に押し返すぞ、敵はかなり動揺している!」

 敵と先ほどまで斬り結んで鍔迫り合っていたエルパコも、その敵と一緒にすぐ側で起きた衝撃に口をあんぐりと開けていた。
 そして次の瞬間に相手の膝接合部を蹴り飛ばしたけもみみがズバリとそいつを斬り殺したところで、ずっとずっと敵の後方で混乱が起きているのを目撃した。

「くそっ裏切りだ、後方で友軍が同士討ちを始めているぞ!」
「裏切りだと?! この様な強力な魔法など、敵の隠し玉が飛び出して来たというのに」
「引け引けっ、いったん後退して戦列を整えろ!!」

 そして敵にとって悪い事は立て続けに起きるものだ。
 ついに森林地帯で再集結をしていた盟主連合軍が、野牛の騎兵と修道騎士の別動隊を押し立てて、混乱する
 当然その先頭に立っているのは本物のアレクサンドロシアちゃんだ。
 満を持しての決定的局面。
 おおよそ平原部でまともにやりあっての決戦では勝ち目がないと敵味方だれもが思っていたそれで、完全に敵を切り崩すためのチャンスが到来したのだ。

「わらわに続け、邪魔立てする者を踏み越えよ! 国王に仇名す不忠の逆賊はここで討ち滅ぼさんッ」

 風に乗って聞こえる馬蹄の響き。
 その中にアレクサンドロシアちゃんの叫びが怒号の中から聞こえて来た。
 もうすぐそこまで突撃した友軍の勢いが迫っているのだ。

 ザマぁみろだぜツジン。
 きっと緻密な作戦計画と総力戦によって絶対勝利を確信していたであろう作戦の神様も、アンタッチャブル魔法とようじょのフルバーン魔法はきっと計算違いだったに違いない。
 近代戦とは違うんだよ、ここはファンタジー世界だ!

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