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異世界に転生したら村八分にされた 作者:狐谷まどか

第8章 ゴルゴライ戦線

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276 シャブリン包囲戦 中

いったん投稿後、大幅に加筆修正を加えたので分割投稿とさせていただきました。
すでに275を既読の方には、ご迷惑をおかけします!

 俺たちの駆け込むさまを見て軍馬のままで体当たりをかましてくるブルカの騎兵連中とぶつかり合って、その先への行く手を阻まれる。
 だがこれが厄介で、重装騎士とぶつかれば全裸の俺などは吹けば飛ぶような存在だ。
 あえてここは落馬するフリをしながら地面に転がり、すかさず受け身を取りながらさらに駆け出した。

 後続では俺よりはるかに馬術に巧みなけもみみと、そして男装の麗人がこれを避けたのがわかった。
 ついでに荒い息を繰り返しながら薙刀みたいな槍をしたグレイブという武器を振り回して、騎兵連中を受け止めてくれるソープ嬢である。

「マイヌード! 御台さまはその向こう側に退避してございます。相当にお疲れなので、是非お側に寄ってお声かけをしてくださいませ」
「今あんたマイヌードって言い直しただろう?! ロードでいいんだよロードでっ」
「イエス・マイ・ヌード!」

 俺を見下ろした巨人族の美人メイドさんが、両腕で重装備ブルカ兵を抱え上げながらそう返事をした。
 付き合ってられないよ!
 急いでケイシーさんのアゴで示された方角に駆け出した。

 藁束の積まれた陰に倒れ込みながらも、そこには剣を引き上げて今にも捕縛されそうになっていたマリアツンデレジアを目撃する。
 ここでも腰を抜かした御台さまを守る様に、いかにも弱そうな兵士たちが体を張って盾になっていたのだ。

「マリアちゃん、俺だ!」
「あなたっ!」
「直ぐに助けるからな、ベローチュ、ハーナディン、やっておしまいなさい!」

 俺自らマリアちゃんを助け起こしながら、斬り込んで来たブルカ兵のひとりを蹴り飛ばしてやった。
 喧嘩キックというやつで、前蹴りに勢いが載っていたものだから重装備のブルカ兵は簡単に吹き飛ばされてずっこける。
 そこを男装の麗人と、いつの間にか前線まで合流していたハーナディンが加わって次々に敵にトドメを刺したり斬り飛ばしたりしてくれるのだ。

「あなた、あなた。シューターさま、わたしはもう駄目かと思って諦めておりましたの……」
「よかったねマリアちゃん。みんなが助けに来たよ。もう大丈夫だからねッ」

 ひしりと抱き着いてくれたツンデレのマリアちゃんの肩を、俺はそっと抱きしめてやるのだった。
 視界の向こう側に、物欲しそうな表情をしたけもみみがチラチラとこちらに視線を送りつつ「敵将を討ち取れ!」と叫んでいるブルカ兵を容赦なくバッサリやっている姿が見えた。
 エルパコも後で抱きしめてあげるからね。

     ◆

「妖精騎士隊整列、騎馬突撃敢行まで現状維持で待機よぉ!」
「整列完了しました、敵の包囲網に対していつでもチャージできます!」
「よおし、者ども、騎馬突撃(チャージ)騎馬突撃(チャージ)騎馬突撃(チャージ)よおおお!」

 野太い雄叫びが平原に響き渡ったかと思うと、重装騎士たちの集団が見える方角に向かって、アフロヘアの妖精剣士たちが兵馬一体となって雪崩を打って進撃開始した。
 まさに平原を耕す地鳴りと馬蹄にまみれながら、土煙を立てながらつむじ風となって進む男色男爵ご自慢の妖精剣士隊は強力だった。

「軽騎兵対重騎兵の戦いだな」
「ご主人さま、自分らもうかうかしてはいられません。マリアツンデレジア奥さまの様子を見次第、すぐにも後に続きましょう」
「わかっている。敵の包囲網が一番薄い場所から離脱しないとな。」

 平野の一部でモッコリと盛り上がった小さな丘から戦場を眺めていた俺である。
 背後には半分倒壊しかけている、かつての荘厳たる佇まいをみせていたシャブリン修道院の施設があった。
 その横をすり抜けていく妖精騎士隊と修道騎士集団、そして従士隊と機動歩兵のみなさんだった。
 俺たちの方は息も絶え絶えになったソープ嬢と、いくら爺さんの英才騎士教育を受けて来たと言っても毛の生えたばかりの少女であるラメエ嬢に、少しでも呼吸を整えさせるだけの時間を作っていた。
 ツンデレのマリアちゃんはすっかりデレてしまったのか、俺の側から離れようとせずに、とうとう俺の馬の前に乗るという有様だ。

「どうなさいますの? あなた」

 ついでに俺に対する呼称が「シューターさま」から「あなた」にクラスチェンジしてしまった。
 カサンドラがこれを見たらどう反応するだろうね。戦場とは恐ろしいものだ。

「敵の総指揮官のオレンジハゲは俺たちが捕縛したわけだが、逆にマリアちゃん救出のために俺たちが完全に包囲されてしまう立場になっちゃったからね。逃げ出してアレクサンドロシアちゃんと合流しなくちゃいけないわけだが」

 救援隊を組織して突破を試みていたアレクサンドロシア隊のみなさんだったが、残念ながらマリアちゃんと合流する事は叶わなかった。
 どうやら敵のブルカ同盟軍第二梯団が、王国本土の西部国境線から引き抜いてきたという歴戦の精鋭部隊をついに戦場へ導入した事が分かったからだ。

「戦争経験でまるで俺たちとは比べ物にならないあいつらは、簡単に混乱から回復するし、気安く挑発にも乗って来ないのが癪に障るな」
「こんな小さな消し炭になった村を盾にしていても、いつまでも守りきれるものではありませんもの。嗚呼、わたしたちはどうなってしまうのでしょう?!」

 肩を預けながらマリアちゃんがそう言うと、みなさんからとてもひんしゅくを買ってしまった。
 ぶすりとした顔の雁木マリは、元々ツンデレのマリアちゃんよりツンデレの素養があるので、隣に入れば蹴りのひとつでも飛ばしてきそうである。
 男装の麗人までも微妙に嫌そうな顔をして、チラチラと視線を送って来るではないか。

 しかし、へこたれないけもみみは、さり気なく俺の横に馬を並べて、さり気なく俺の服の袖を引っ張ろうとしていた。
 お互いに振れていれば心もつながっているんだよ作戦である。
 してみると残念ながら俺は全裸で戦場にて包囲されている立場なので、つまめるものがない。
 ここに来てエルパコは不満顔を浮かべると、俺の腕をつねるのである。
 いでで……

「シューター卿、やたらめったと突撃の後続に加わっても意味がありませんぞ。ご覧なさい、オコネイル男爵の騎兵隊は確かに優秀な機動力を持った軍勢ではあるが、フルプレートで身を固めたブルカの精鋭には、なかなか押しの弱いものがある」

 俺の側でそう解説してくれたのは、戦場で邂逅したベストレ領主のベストレ男爵である。
 ベストレ男爵はベストレ領主だからベストレとは領地の名前であって、別に何か本名があるのかと思っていたけれど、違うらしい。
 俺たちの元いた世界風に言えば、ベストレ・ベストレさん。ベストレを一代で大領地に築き上げた際に、その功績を子々孫々に伝えるために、初代ベストレ男爵として自分の名前をベストレにしという事だ。
 戦場でそんなややこしい事を解説されても困るので、そのあたりは綺麗に流して本筋に戻って説明を受ける。

「じゃあどうすればいいんですかねえ」
「気を見て突入するにしても、オコネイル騎兵隊は機動力で何度も敵の一点に突貫を繰り返し、分隊を入れ替えながら陣形崩壊を狙っているのがわかるであろう」
「なるほど、キツツキ戦法とでも言うのかな」
「言い得て妙だな、キツツキ戦法か。しかし逆にブルカ同盟軍側は、防御陣を組んで同じブルカ騎士たちがその足場を守る様にしている。あれは小回りが利かないために、そうするしかないのだが……」

 同時に疲弊が起きるのだと言葉を添えてくれた。
 キツツキ戦法という言葉は、確か俺の元いた世界じゃ武田信玄と上杉謙信が川中島の戦いで使った戦術だった事を記憶しているが、もしかすると記憶違いかもしれない。
 いずれにしても細かい作戦仔細は思い出せないので、名称として男色男爵がやっている事が正しいのかはわからない。

「ガンギマリー夫人の誇る修道騎士どもも妖精剣士隊に比べれば重装備だが、あれも魔法と剣術を巧みに使い分ける手前、あまり重装備すぎても戦いには不利になる」
「確かにそうね。あたしたちの育て上げた修道騎士は、万能に戦場を駆け巡られる様に、バランスを重視しているから。あの重装のブルカ騎士とぶつかった場合は、さっきもかなり不利だったわ」

 ベストレ卿のその言葉に、雁木マリも素直に指摘を認める姿勢だった。

「じゃあどうしてブルカ領軍は重装備のフルプレートを採用しているんですかねえ」
「ご主人さま、それは本来の王国の軍装の常識からはかけ離れた装備の基準なのですが、どうやら情報収集によれば、ツジンという男の発案だとか」

 こんなところでもツジンが出てくるのか。
 作戦の神様というわりに総大将のブルカ伯を俺たちに捕縛されているので、もしかすると作戦の神様もたいした人間じゃないのかもしれなくね? などと密かに思っていたのだけれど、

「あれは重装備の騎士たちを貼り付けにして、その場所を死守させるために採用したものですぞシューター卿。隣国との戦いの中で発揮した戦法だ。玉砕とも言ったかな」
「…………」

 死守に玉砕という言葉がいかにも日本的なので、なるほどツジンと嫌な顔をしながら納得してしまった。
 そうしているうちに、ラメエお嬢さまもソープ嬢も息を整える事が出来たのだろう、軍馬の首を返してかしこまった表情の男装の麗人が、馬上から貴人の礼を示しておごそかに行ったのである。

「ご覧くださいご主人さま、ガンギマリーさま配下の修道騎士隊と、オコネイルさまの妖精剣士隊で、攻勢で敵の守備体系に乱れが生じています。恐らく敵の重装騎兵にも体力の限界があるのでしょう。ご主人さま、ご出馬を!」
「いや、待ってシューターさん。あれは……」

 ブルカ同盟軍の側に新たな動きが見られたのだ。
 いったんは切り崩したかのように見えた敵の側に、新たなる重装騎士の集団が黄色い旗を打ち立てながらやって来るのが見える。
 エルパコがつぶやくように口にしたその意味を理解した。
 明らかに豪華さでこれまでと違う軍隊が、この戦場に到着したという事だろう。

「あれ、ブルカ同盟軍の主力だったりしますかねえ。だとすると、これまで戦ってた連中は何なんだというはなしだけれど……」

 押し寄せるブルカの新たなる軍勢にしびれを切らしたのだろうか、いったん体制を立て直すべく妖精剣士隊やドラコフ隊が、撤退行動に映っているのが小高い丘から見えた。

「ご、ご主人さま、オコネイルさまの撤退支援を……いや、敵が逆襲に出ない?!」
「おい、何か白い旗を槍に結び付けたへんなハゲ坊主が出て来たぞ」

 あえてそうしなかったのかも知れない、新たなる軍勢の先頭を法衣に甲冑姿という修道騎士みたいな姿をした中年のハゲ頭が、ゆるゆると配下の数名を従えながらこちらに向かってくるのが見えた。
 そうしてボソリと、俺たちの家族の中から呟く声が漏れる。

「お、お嬢さまあれは」
「ツジン卿よ、全裸卿……」

 そう漏らしたのは、正体を知っているらしいラメエお嬢さまとじいの、オホオ領主主従のものだった……
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