挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
異世界に転生したら村八分にされた 作者:狐谷まどか

第8章 ゴルゴライ戦線

363/552

275 シャブリン包囲戦 前

いったん投稿後、内容を大幅に加筆修正したために分割投稿させていただきました。

 宮廷伯の令嬢だったマリアツンデレジア卿は、文字通りの箱入り娘として育った人だ。
 何しろリンドルの前子爵ジョーン卿と婚約するまでは、王都中央にある生家の屋敷から一歩も外に出た事がない人間だと聞いている。
 当然、彼女が最初に両親たちから学ばされたことは、この王国のお貴族さまとしての作法であり、貴婦人とは何であるかという事だった。
 剣術などの武芸に励む事など間違ってもあるはずがなく、代わりに芸術に対する造形がとても深い方にすくすく育ったのだが……

 ここは戦場である。
 ただいまブルカ同盟軍の精鋭だと報告された強力な部隊が、盟主連合軍の総指揮官である彼女の本陣めがけて遮二無二突貫を繰り返している有様だった。

「エルパコ、俺から離れないでついてきているな!」
「もちろんだよシューターさんっ。ベローチュもいるよねっ?」
「当然であります、ご主人さま! エルパコ奥さま!」

 背後を振り返る事すらもまどろっこしいと心に感じながら首だけを振ってそう叫ぶと、普段は何を考えているのかよくわからないけもみみが、顔を高揚させながらも大きく叫び返して来た。
 俺の反対隣りに視線を送ったけもみみに応えて、男装の麗人も鋭く返事を飛ばしてくるので、俺も満足だ。

「ラメエお嬢さまとソープ嬢は、あまり無理をしなくてもいい! 特にソープさんはスタミナに問題があるとご自分でも言っているのだから、後続部隊と着てもらっても構わないからなッ」
「わかっているわ全裸卿! でも家族の、大切な旦那さまの奥さんのひとりがピンチなのだからっ、出来るだけ急いでいるのッ」
「そうだ。わたしの事は気にせず、先々に行くとよい。わたしも、出来るだけ、追いすがる……」

 馬の激しい揺れに合わせてラメエお嬢さまがやや後方から叫び返してくるのがわかった。
 同時にラミア族であるクリスティーソープランジェンリーナさんも、無理をしながらなのか荒い息のままでも追走してくるではないか。

 リンドル川の河岸から一路、足の速い騎兵連中だけをかき集めて、俺たちは危機一髪のマリアツンデレジア隊に向かっている。
 戦力としてはほとんどささやかなものだろう。
 俺を中心に早駆けをしている連中はせいぜい数十騎と言ったところで、ラメエお嬢さまがオホオ村から引き連れて来た少数の騎士と、サルワタ傭兵の中で騎兵をしている人間。
 後は俺がアレクサンドロシア隊の本陣から連れて来た、わずかばかりの俺の護衛連中だけだ。

「全裸卿、アレクサンドロシア準女爵さまの救援部隊と合流されますかな?」

 馬上で思案をしていると、急速に馬足を速めて来たオホオ村の老騎士が、ラメエお嬢さまの向こう側に馬を並べてこちらに視線を送って来る。

「前方に見えているのがアレクサンドロシア隊の救援部隊か?!」
「いえ、あれはベストレ隊の側面援護部隊でしょう。この老いぼれめが見たところ、全軍が並走して進撃していた途中で、われらが連合軍の中央が食い破られたものと思われますぞ」

 さすが生まれた時から騎士をやっている様な騎士の爺さんだけあって、馬術巧みな様は俺などでは到底及ばない器用なものだ。
 最小限の体力消費で、最大限軍馬に馬力を与えているというのだろうか。
 むしろ俺より多少痩せていて、体重も軽いから出来る事なのかもしれない。

「ベローチュ、どうするのがいい?!」
「大きく迂回して敵の側から斬り込むか、あるいは爺さんの言葉通りアレクサンドロシア隊と合流して、後方から突き上げるのが妥当かと! 敵側から斬り込んだ場合は、時間がかかりますが敵の意識をこちらに向ける事になり、時間稼ぎができます。アレクサンドロシア奥さまの救援部隊と合流すれば、逆に連携して協力がでこるものの、敵の集中攻撃を受ける可能性が考えられますね」
「ここでアレクサンドロシアちゃんまでやられるわけにもいかないし、合流するのが妥当な線だな。よしわかった!」
「それは駄目よッ」

 恐らくは軍事教育を受けた軍人として、しごくまっとうな意見具申を男装の麗人はしてくれたのだろう。
 うんとうなずいて見せた褐色お肌のエルフ族が、馬上で暴力的に暴れるおっぱいを見せつけていたところ、それに異を唱える言葉が飛び込んで来たのだ。

「どうしたラメエお嬢さま」
「ガンギマリーさまが、ご自分の部隊と合流されて、何かの合図を送っているわ!!」

 その言葉で一同がすぐに雁木マリの姿を探した。
 リンドル河岸の沿線を緩やかに修道騎士たちの部隊を西進させていたマリは、ブルカ辺境伯オレンジハゲを捕縛した後に、部隊と合流を果たしたはずだ。
 そのガンギマリー隊の中からキュルキュルヒュウンと一本の矢が天空に向かって射ち出されたのだ。
 あの特徴的な笛の様な音を立てるのは、矢笛を使ったからに違いない。

「エルパコ、あれは?!」

 俺はすぐさまけもみみに質問した。
 猟師たちはあれを使って、深い森の中や渓谷などで仲間同士の連携を図っているのだ。
 けもみみならば猟師出身なので、その意味も分かるはず。

「発見したと言っているよ!」
「発見か、何を発見したのかな?!」

 河岸を西進しながらブルカ同盟軍側の無防備な側面を攻撃しようとしていたガンギマリー隊である。
 すると何を発見して、何をしろと雁木マリが意図して信号矢を放ったのか考えなければならない。
 マリたちの軍勢を見ていると、千に届くか届かないかの部隊を率いていたはずの彼女のもとに、それ以上の軍事力が集結しているのを見たのだ。

「ご、ご主人さま。妖精剣士隊ですね!」
「男色男爵の軍勢が到着したという事か? とすると、あのずらりと並んだ歩兵のみなさんは……」
「ドラコフ男爵の機動歩兵隊です! 恐らく渡河をするためにご自慢の荷駄隊を斬り捨てて、歩兵だけでリンドル川を上陸したんでしょうッ」

 つまりはどういう事だ。
 こちらにこの戦場で予定していなかった、想定外の(いい意味で)遊撃部隊が加わったという事か!

「全裸卿に意見具申したしますぞ。突破を図りマリアツンデレジア卿をお救いだしになるのであれば、戦力を集中させる事が肝要だと老いぼれめは愚考いたします所存。ここはガンギマリー隊、男色戦隊、ドラコフ隊と合流の上、力の暴力で敵の精鋭部隊と戦うのがよろしいかと!」

 爺さんがいつになく嬉しそうな表情で、強く意見具申した。
 力を集中させて戦うのは戦争の基本だ。それは俺がこのファンタジー世界にやって来てからいよいよ感じていた事だった。
 数の上で常に勝ち目のないブルカ同盟軍は、少なくとも局地的に敵の戦力の倍に数を揃えて、ようじょ軍師は戦って来たじゃないか。
 そのようじょは、恐らくタンクロード隊と合流して、この決定的局面の終焉を見据えて、最適な場所に軍勢を進めているはずだろう。

「よしわかった、ガンギマリー隊と合流するぞ!」

     ◆

 目まぐるしく変化し続ける戦場の有様に、俺たちは振り回される様に戦っている。
 ほんの少し前まではブルカ辺境伯を最後の最後まで追いつめて取り逃がし、それを追ってどうにか捕縛できたと思えば、今度はマリアちゃんのピンチだ。

 もはや組織だった戦闘などと言っている場合ではないので、急転直下でリンドル川を渡河した男色男爵ご自慢の妖精剣士隊が、急ぎマリアツンデレジア隊包囲網の一部に咬みついたのだ。

「者ども、騎馬突撃(チャージ)騎馬突撃(チャージ)騎馬突撃(チャージ)よおおお!」

 野太い雄叫びがどこからともなく平原に響き渡ったかと思うと、新たな敵の出現をすぐに察知したブルカ同盟軍側が、防御態勢に移行しているのが見えた。

「ご主人さま。オコネイルさまの突撃に合わせて、こちらも斬り込みましょう!」
「マリアちゃんの所在は、ここから見てどのあたりだ?!」
「恐らくですが、敵の動きから察するにあの集落の跡地を盾にして防御態勢を布いているのではと。シャブリン修道院の門前のあった場所です」

 妖精剣士隊の支援突撃にあわせて、修道騎士の一団に機動歩兵までが加わって、少しでも敵に防御態勢をさせまいと咬みついている姿が見える。
 そのずと先に、辺境でお馴染みの石塔がにょきりと平野部に突き出しているのが見えた。
 恐らくどこかのブルカ同盟軍側の村か集落か何かがあった場所に、マリアツンデレジアは逃げ込んでいるのだろう。

「マリアツンデレジアさまの側近にまともな軍事教育を受けた人間が、ひとりでも残っていればのはなしですが……」
「近くまで行けばぼくが両眼と耳でマリアさんの事を探し出して見せるよ」
「わかった。みんなも聞いたな、目指すはあの場所だ!」

 あくまでも推測に過ぎないという風に委縮した男装の麗人である。
 けれども今その事を思案しても意味の無い話だ。
 けもみみは俺の側で、いかにも頼りになる顔をして上目遣いをしてくる。ここは信じる事が大事だ。
 とにかくマリアちゃんに少しでも近づく事の方が肝要で、何でも敵が遊撃部隊として温存していたという精鋭だか主力だかが相手らしい。

「やってやろうじゃねえか。主力だか何だかしらないが、俺も全力で相手してやる!」
「全力というより、全裸だよねシューターさんは」
「うるさいよっ!」

 エルパコの突っ込みに、でもかわいいから許すと思いながらも一応文句を言っておいた。

     ◆

 俺の号令と共に駆け出した家族のみなさんは、次々に敵の軍勢の中に斬り込んでいき、そのまま走り抜けていく突破口めがけて飛び込んだ。
 騎馬突撃は勢いを止めてしまえば、敵の歩兵に周囲から囲まれて袋叩きだ。
 とどまらず、その後に続き、俺たちもゴリゴリと全身を繰り返して、マリアツンデレジアの元に向かう。

「この場にカサンドラが居なくて正解だった。彼女もきっとマリアちゃんの事を心配していたと思うけれど、これだけ激しい抵抗だと、まともに戦う訓練を受けていない俺の奥さんでは、厳しかったな!」
「シューターさんがたくさんいれば、問題ないよ!」

 おかしなことを俺の側で口にしたエルパコは、俺とお揃いの長剣をぶうんと振り回しながら目の前で通せん坊をしていた敵兵を叩き斬った。
 俺がこれまでに見て来た辺境の戦士たち、あるいは王国そのものの軍人というのは軽量化に特に細心の注意を払った鉄皮合板の鎧とか、胴体だけを部分的に守るものが多かった。
 理由は簡単だ。俺のすぐそばで聖少女ビームを発射した雁木マリを見ればわかる事だ。
 重装備などしていると普通はこの魔法攻撃の際に退避出来ないからな。

 だから連中はあまりひと塊になって防御陣形を敷いたり突撃陣形を形成したりはしない。
 一撃で範囲魔法の被害にまみれてしまう事が明確だからだ。
 けれどもブルカ軍の精鋭部隊とかいう連中は、何故か重装備に身を固めた騎士と歩兵ばかりが一部に混じっている。
 一部というか、俺たちが対峙している連中がそうだのだ。

「せめてマドゥーシャを連れてくるべきでしたね! この密集体型ならばあの奴隷もご主人さまのお役に立てたことが間違いないです」
「しょうがないだろ! 魔力も枯渇して自慢の護符もあとわずかだったからなッ」

 俺の横をすり抜けて馬を走らせた男装の麗人が、剣をグルリと回して敵の首を刈り取った。
 防御力ご自慢の歩兵を相手にすると、どうしても顔を攻撃するのか、胴体に打撃ダメージを与えて吹き飛ばすぐらいしかできないのがもどかしい。
 ここで雁木マリみたいに魔法が使えたらとも思ったけれど、俺には出来ないのでしょうがないのだ。

「ええい、シューター卿はいるかしらぁ?! アタシが切り開いた先に進みなさぁい!!」

 どこからともなくそんな声が聞こえて来て、俺たちは混乱の中で先に切り開かれた馬列の中に飛び込んでいく。
 もうすぐだ。もうすぐ、石塔の側にまで到達するはずだ。
 いくつか走り抜ける中で農民小屋の成れの果てみたいなものを目撃した。
 敵の中に混じって弱小すぎる戦士で有名なリンドル領軍たちの、必死の形相による抵抗も眼に飛び込んで来たから間違いない。

「シューター卿、ここは俺たちに任せて先に!」

 今度は別の場所から鋭い怒声めいたものが聞こえた。
 まだ邂逅したわけではないが、オッペンハーゲン男爵のドラコフ卿の言葉に違いない。
 自慢の機動歩兵を連れて、渡河のためにわざわざ馬車隊を放棄して上陸してくれたのだ。ここでその気持ちに応えなければ男じゃないぜ。
 むしろ奥さんを奪われて何が旦那か!

「よし、目標あの修道院だ。確かにリンドル領兵たちがいるのを確認したからなっ!」
「「「応ッ」」」

 もはや息も絶え絶えになりながらも必死で追いついてきたソープ嬢までが、背後から了解の言葉に加わってくれた。
 あと一歩でマリアツンデレジアの元にたどり着けると思ったその時に、信じられないものを俺は目撃した。

 宮廷伯の令嬢の婚約に従ってリンドルにやって来た、マリアちゃんの側近たる武官たちだろうか。豪華な鎧を身にまとった連中が、ひとりのフルプレート騎士を相手に最後の抵抗をしている姿を。
 そしてその先に巨人のレディ、ケイシータチバックさんが給仕の姿の上から胸当てを着こんで、仁王立ちになりながら奮戦する様を!

「ケイシーさん、俺だ!」
「マイロード?! ではありませんでした、マイヌード!」
「すぐに助けに行くぞ、マリアちゃんは何処だ!」


+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ