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異世界に転生したら村八分にされた 作者:狐谷まどか

第8章 ゴルゴライ戦線

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274 オレンジヘアー・オブ・ザ・デッド 後編

「マリ、あいつだッ」
「ええわかっているわ。お前たち、包囲を敷きなさい!」

 俺は走り滑りながら剣を構え、すぐにも飛び降りる準備をする。
 馬上で戦っても相手が騎士なら不利だ。相手も下馬しているなら、なおさら下馬戦闘の方がいい。
 わずかな時間でそう判断しながら馬を仲間たちの包囲する輪に寄せると、緊張の色を浮かべた農民兵みたいなのと、サルワタ傭兵たちが一瞬だけ俺の顔を見上げていた。
 全裸の旦那とか、君主さまだとか、そんな声を無視しながら前方に意識を集中させたけれど、

「さよならだな、愛しいクリスティーソプランジェリーナ」

 俺は確かにその言葉を聞き取った。
 ほとんど馬を滑り落ちる格好で着地したところ、そのまま剣を逆手に構えながらソープ嬢の側面に走り込んだ。
 視界には、見間違えるはずの無いオレンジハゲの中年顔が飛び込んで来た。
 中年とは言うが、この世界では爺さんと呼んで差支えの無い六〇絡みの老人領主である。
 その男が、白刃を脇に引きつけながら、驚いているのだろうか固まったソープ嬢にめがけて刺し殺そうと接近しているのである。

 ブルカ伯の顔は鬼人の形相だった。
 確実に殺すつもりだ。脇に引きつけた構えも、表情も、動きをとっても。
 かつて恋仲だったはずの女性に向けるべきではない様に思える顔をしたじいさんが抱き着く様にして迫っている。
 そんな事はさせるかあああ!」

「…………爺さん、そういうのは俺を抜きにやってもらっては困るぜ。何しろ大切な家族を独りでも欠いたら、俺が正妻に怒られてしまいますからねえ。オレンジハゲさんよ」
「手前ぇ、どうしてここに?!」

 あわやソープ嬢に体当たり気味に刺さりそうになった白刃の先端を、逆手に構えた剣で受け流しながらソープ嬢を抱き寄せる。
 そうしておいて、俺はとても嫌味たらしい口調でオレンジハゲに言ってやったんだ。

「ソープ嬢はですね、俺の大切な女性なんだなあ。女性を守るのは男の役目ってもんじゃないですかねえ、ブルカ辺境伯ミゲルシャール卿?」
「しゅ、シューターさま。わたしが大切な女性だと……?」
「全裸卿?!」

 驚いているのは眼の前のオレンジハゲだけじゃないぜ。
 抱き寄せて守るソープ嬢も、その側で歓喜の表情を俺に向けているラメエお嬢さまも同じだ。

「手前ぇ、それを俺の愛したクリスティーに向かってよくもずけずけと言うぜ」
「ならどうしてその愛した女を殺そうとしたんだよ? 言え!」

 受け流された剣を引き戻しながら、オレンジハゲが構えなおした。
 確かに数十年にわたって戦場の空気を嗅いできた男だけに、このオレンジハゲは武芸にも心得があったらしい。
 だが美中年カムラに比べれば、どうという事はない。
 構えなおして再び迫ってきた剣をしたたかに跳ね上げてやり、容赦なく足をかけて転がしてやる。

「全裸が出たぞ!」
「辺境伯さまをお守りしろ!」

 お前らの総指揮官だって全裸だろ!
 とは心の中で叫んだ俺の言葉である。敵は俺がブルカ伯を殺すのも捕縛するのも良しとしなかったのか、全滅覚悟で剣を引き上げて、重い甲冑姿でこちらめがけて襲いかかってくるのだ。
 するとラメエお嬢さまもそれに呼応して叫んだ。

「わたしの旦那さまと、ソープ義姉さまをお守りしなさい! オホオ村のラメエここにありと見せつけるのよっ」

 そして敵味方が入り乱れての壮絶な殺し合いが始まった。
 雁木マリの命令で下馬した全裸修道騎士隊に、俺たち、そしてブルカ伯側の最後の抵抗。
 剣の柄で転がしたオレンジハゲを殴りつけておいて、何とか捕縛出来ないかと思案するが、その間も与えられずフルプレート戦隊の攻撃をかわす羽目になる。

 焦る必要はない。
 ここまで追いつめて必ず勝てるのだから、着実に包囲を……

「シューターさん。危ない!」

 だがまたしても邪魔立てだ。
 今度は何だとエルパコの叫ぶ言葉に視線を周囲に振り向けると、ヒュンと音も無く風の魔法で空気の塊が打ち出された瞬間を目撃だ。
 うまく体を捻ったところで、腰に巻き付けた赤マントがボロリした。
 魔法を打ち出した本人は、エルパコが容赦なく刃広の長剣を顔面に叩きつけられてその場に倒れた。

「大人しくしてれば死なずに済むぜ!」
「馬鹿野郎。最後の最後まで諦めなかった人間が世の中生き残るんだぜ」
「そうだな、俺もその言葉には同意だ。最後に立っているのは俺だぜ!」

 荒い息をしたオレンジハゲの首に剣を突き付けてやると、悪い顔にニヤリとしたブルカ伯は無抵抗になった。

 だがオレンジハゲの残り少ない部下たちが、俺にめがけてせめて一太刀あびせようと捨て身の斬り込み態勢に入っていた。それを全裸修道騎士たちがあわてて剣を構え魔法を構えている姿が見える。
 その視線の先に、騎兵が駆けつけている姿を目撃したのだ。

「伝令! 伝令っ! ガンギマリー猊下、全裸将軍閣下さまはおられますか。マリアツンデレジア隊の先鋒が打ち破られましたっ」

 マジかよおい。トレードオフってやつか?
 ブルカ伯を捕縛したと思ったら、お味方が大苦戦というやつか……

「どういう事なの詳しく説明しなさいっ!」
「ただいま総指揮官マリアツンデレジアさまの本隊に、ブルカ伯軍の主力と思われる精鋭部隊っぽいのがですね、次々に押し寄せているんですよっ。ベストレ隊が側面から援護をかけていますが、こちらも苦戦中、デルテ隊に至っては、壊走しました!!」

 マジかよ。マジかよ!

「このままではマリアツンデレジア卿はただいま敵陣の中に孤立してしまいます! アレクサンドロシアさまが決死隊を組織して救援に向かっているところですが、大至急、全裸将軍のご出馬をと!」

 馬上から叫ぶ伝令の男に「わかったわ!」と叫び返した雁木マリが、今度は俺の方に向き直って難しい顔をした。

     ◆

「シューター。直ぐに部隊をまとめて向かうわよ」
「よし、君たち聞いたな? 直ちにこいつらを捕縛して出立の準備だ! その前に、ブルカ伯の身柄はどうする」
「マリアツンデレジア卿にもしも何かあった時は、交換取引かしら。それにしても久しぶりねミゲルシャール卿、相変わらずふてぶてしい顔だわ。ぺっ」

 俺にそう言葉を投げかけた雁木マリは、厳しい表情のまま大股で俺の側までやって来ると、ニヤニヤ顔をしたオレンジハゲの顔を見下ろしながら唾を吐きかけた。
 やるねえ、ついつい忘れがちになるが、この元女子高生はツンデレの気があるのだった。

「おう、聖少女ガンギマリーさまか。聖なる唾の施しとはうれしいねぇ。売女騎士の情夫とよろしく家族ごっこをやっていたみたいじゃねえか」
「お前の顔なんて、一生見たくなかったわ。いいや、その生首ならば喜んでみたかったけれど。いずれにせよお前はもうお終いよ、ミゲルシャール卿」

 聖なる唾の施しとは上手い事を言うなと感心している隣で、こちらも無言で近付いてきたけもみみが俺に許可を求めて来た。
 殴ってもいいかな?
 きっとそう聞きたかったのだろう。
 俺とマリか顔を見合わせた後に「よしやれ」と返事をしたものだから、けもみみは無表情のままで足を引き上げた。

「まあ、戦争の勝ち負けは兵家の常だぜ。最後に勝てばそれでいいんだ。お前ぇたちのお手並み拝見といこうか。がっはっは――」

 最後までふてぶてしい態度を貫いたオレンジハゲの顔めがけて、ズカリと容赦なくけもみみの裸ブーツが踏み抜いたのである。
 こんなものでは許されないが、少しはみんなの腹いせになっただろうかね。

「ソープさん、無事で何よりだった。カサンドラも心配していたし、古い仲もあったので油断が生じるかもしれないと身を案じていたのだ」

 振り返って頬を涙にぬらしたラミア族の最後の後継者を見やった。

 きっとかつての恋人と遭遇して、気が動転した事だろう。
 その中で無理にでも、過去を断ち切るために剣を振るってこの男にとどめを刺そうとしたのだろう。
 殺すつもりだったのか捕縛するつもりだったのか、今はわからないが、いずれにしてもそれだけ本気だったの。
 ソープ嬢の艶やかな頬は未だに引きつっていた。
 そうして無言で俺に抱き着いてくるではないか……

「ありがとうシューターさま。わたしの事を大切な女性だと言ってくれたその言葉、信じるからな?」
「ああうん。もちろん大切な家族だよ。あなたも、ラメエお嬢さまも、エルパコも」

 ひしりと抱き着いたソープ嬢の表情はうかがい知れなかったけれど、俺の言葉に泣いている事だけはわかる。
 そのままラメエお嬢さままで俺に抱き着いて来て、なぜかけもみみまで俺に飛びついてきた。
 呆れた顔をした雁木マリがやってくると、苦言を呈されてしまう。

「何をやっているのよ。マリア卿をお助けしないと、彼女もシューターの奥さんなんでしょ?!」
「そうだな急ごう。戦いは最終段階だ、あとひと踏ん張りマリアちゃんを救出しよう」
「「「はいっ!」」」

 奥さんたちの言葉を受けて、俺たちはマリアツンデレジア隊救援へ急ぎ向かうのだ。
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